2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第197話 特技は気絶です

 

 おっす、オラリィン!

 ついさっき、誰とは言わないけど会議の出席率ワースト一位の引きこもり君の策略により島のような船のようななんかよくわかんねぇ場所に招かれた所だ!

 

 初めての友人であるブルックさん率いる、と言っても1人だが、まぁルフィは同盟を結んだってわけだ。ぶっちゃけ同盟の意味を履き違えてる気がするけど。

 

 そしてこれからどうするか、という時巨大な波が!

 ……酔い潰れた。うん。

 

 するとどうだろう、揺れが収まったと思えば船は蜘蛛の巣に絡み付いてるではありませんか!なんてこったい!

 もちろん、私にかかればたかが蜘蛛の糸。簡単に解けるぜ、と不思議色を使おうとした時。

 

 『よーし待ってろよ七武海!』

 

 意気揚々と船を降りた船長。そして王族。

 つまり何が言いたいかと言うと──

 

「嫌です無理ですごめんなさい許してください本当にごめんなさいお巡りさん助けて!」

「すっげー標準語」

 

 左にビビ様、右にサンジ様。

 がっちりと両手を王族に固められて、私は見るからに出そうな雰囲気を醸し出す七武海滞在の島〝スリラーバーク〟に上陸した。

 

 何が出そうとかは敢えて言わない、でも名前からして怪しいとは思わんのかね。

 

 ……冷静を装ってみた。諦めた。

 もぉぉおやだぁぁあかえりたいいー!!

 

「嫌ですごめんなさい何でもしますから!」

「ん?今なんでもって言っ……」

「ナミさん怖いっ!」

 

 嫌がる私を誰も助けてくれない! これは過去最大級にやばい事は確かだ! ほかの所では上陸したくないって、行きたくないって言えば無理矢理行かせようとしなかったのに!

 

「じゃあよォ、リー。『1人で船番』と『皆で上陸』が嫌だったらさ」

 

 鬱蒼とした森を進む中、ケルベロス─襲ってきたのを三強が撃退して脅してる─に乗ったルフィが天使の様な提案をしてくれた。

 

「1人でこの海域出てるか?」

「それぞ! それぞお願いするです!」

「ただし! 条件が一個ある」

 

 ルフィは天使の笑顔で言った。

 

「──俺と1日100戦」

「鬼! 悪魔! 上昇のち落下など最低ぞ!」

 

 悪魔のセリフだった。どう考えても悪魔だ。

 どこで覚えたこんちくしょうッ!

 

「……アイツ、普段自分がアレやってるって自覚ねェのかな」

「ないと思うよ?」

「人の振り見て我が振り直す事が出来ない奴だ」

 

 ウソップさん、メリー号、ゾロさん。聞こえてるからな。後で覚えとけ。

 

「そんなに怖がんなって。ケルベロス乗るか?」

「無理です腐るした臭うぞ存在するぞりッ!」

 

 ザクザクと歩くは彼らに渋々歩かされる。王族コンビに引き摺られるとかそういう失態は絶対出来ないってことだけは分かってるんだけど、足が震えて上手く歩けない。どう見ても引っ張られてる。

 あかん、二重の意味であかん。

 

 

「生まれ変わったらノミになりたい……」

 

 突然ゾロさんがネガティブ発言をかました。

 分かる、分かる。

 人間に生まれたくない。

 

「生まれてきてすいません……」

 

 分かる、分かる。

 無駄に世界中引っ掻き回してごめんなさい。

 

 ……ん? ゾロさんが言った?

 

「ゾロあんた突然何を…──」

 

 ナミさんがゾロさんの変化に眉を顰める。やだなぁ、リィン、すっごい嫌な予感。

 

「あっ」

「え……?」

「うわぁ……」

 

 皆様の視界の先にあるのは半透明で、甲高い声でブツブツ呪文の様な言葉を唱える……。

 

 

 お化けなんてない、お化けなんて居ない。認めてたまるか畜生!

 

「悪霊退散ッ!」

 

 保存してある岩塩の中で1番大きなものをアイテムボックスからぶつけた。想像してたよりも呆気なくそいつは消えた。えー、マジで? こんな簡単に?

 

「マジか……お化け塩効くのですね……」

「リィン気を付けて! 1匹だけじゃな」

 

 そう忠告したナミさんの体をお化けが通り抜けた。マジでホラー。

 もう無理。

 

「……生まれ変わったら……リィンに食べられたい……それで体になりたい……」

「ゾロさんと別ベクトルでネガティブ……なのですかコレ、なんか欲望を感じるですぞ?」

「はい! じゃあ私は生まれ変わったら壁になりたい!」

「おいこれ転生暴露大会じゃねーんだぞ!?」

 

 そんなウソップさんにもお化けは遠慮なく通り抜ける。私? 第六感がフル発揮してくれてるのかめちゃくちゃ避けてる。

 

 王族両手に。

 

 キツイ、視界にも精神にも肉体にもこんなハードな任務初めて!

 

「生まれ変わったら……弱虫になりたい……」

「安心しろウソップ! 既に弱虫だ!」

 

 サンジ様の辛辣なセリフを聞き流しながら1つ言いたいことは地味にポジティブなの腹が立つだった。自分は弱虫じゃなくて勇敢だと言いたいんですねどう考えても女狐(わたし)のせいです。

 

「リ、リィンちゃん囲まれたっぽいけど、どうしよう……」

「ルフィ助けて!」

「実害ないしリーの転生がんぼー聞いてみたいからやだ!」

「害大有りぞ私限定隠れドSモンキー末代!」

 

 ウソップさんやゾロさんのツッコミが無いって苦しい!

 

 迫り来るお化け。なかなかにファンシーな見た目をしてるけど正直物理が効かなくって浮かんでてもうホントに。

 

「ド畜生ーーーッ!」

 

 ストックの海水全部使って数打ちゃ当たる作戦を実行する。流石塩分、お化けは消滅した。

 私今から塩分ラブになる!

 

 胃薬ごめん! 私塩分に嫁ぐわ! ソルティー・リィンでよろしく!

 

「……はっ! なんだあれ、世に生きる全ての人間がネガティブになりそうな」

「私ゴースト本当に無理なんです! こんな見た目ですけどね! ヨホホホホ!」

「の割には元気だな」

「あれすっげーな! 俺欲しい!」

 

 正直帰りたいし意識飛ばしたいしここで生き延びるくらいなら潔く死んでやりたい。

 

「海水でベタベタになっちまった」

「おーいリィンさぁーん、もっと他に方法なかったのかよぉ……?」

 

 海水の余波でびしょ濡れになったネガティブ3人……の内、男2人が不満をぶつける。

 悪霊退散浄化じゃ文句を言うな!

 

「じゃあ逆にどうするが正解ぞ。岩塩でもぶつけるしろと──……?」

 

 背筋を撫でられる様な悪寒に、何を思ったのか私は後ろを振り返った。

 何も、居ない。

 

「……どうした? リィン、カルー」

 

 ウソップさんが声を掛ける。振り返ったのは私だけじゃなく、そのカルーは鳴き声を上げた。

 

「クエー…ッ」

「視線を感じたんだってさ、リィンもか?」

「……カンジテマセン」

「2人とも感じたってさ」

 

 チョッパー君がご丁寧に翻訳してくれる。

 今はとても嬉しくない。

 

 ナミさんに上着をかけていたサンジ様と服を絞っていたゾロさんも辺りに気を配り出す。

 

「……気配なんて、感じないけどな」

「あァ」

 

 見聞色コンビが何も感じない?

 え、なにそれ怖。動物的勘? でも獣人スタイルのチョッパー君は何も感じてないし……って誰が動物やねーーーんっ!

 どうしよ脳内でふざけてても普通に怖い!

 

 何も感じないというのに一味はジリジリと警戒心を上げていく。

 

 何もいないのに視線を感じる。

 見聞色すら通用しないというのに。

 

 なんで、悪寒が止まらないのか。

 

 月の光がぼやけて拡散される中、湿気た地面は冷気を発する。

 ぞわり、ぞわりと背筋を這うこの感か…──。

 

「こんにち」

「ぴぎゃああああああああッッ!」

 

 背中の更に上方面から声が聞こえた! と思ったらウソップさんに叩かれた。

 

「お前の悲鳴にビビるんだよ! いつもの事だとしても! ちょっと黙ってろよ!」

「圧倒的に理不尽ッ!」

 

「……これ、どうしまし?」

「ウチの阿呆は無視してくれ」

「…………左様でございまし……」

 

 ゴホンと咳払いしたコウモリ男はおどろおどろしい雰囲気を醸し出しながら話をし始めた。

 

「夜も深けてまいりますと、この森はこの世のものとは思えない場所へと変化致しまし……」

「深けずとも変貌なしぞばぁぁあか!」

「パニくると罵倒の語彙力無くなるのか」

「ウソップさんの長っ鼻ぁあああ!」

「おいお前のソレは悪口か!?」

 

 ゴホンゴホンと更に咳払いの音が耳に入る。

 

「もしよろしければ私の馬車で屋敷にいらっしゃいまし……。ドクトル・ホグバック様の屋敷へ」

「ホグバックッ!?」

 

 チョッパー君が驚き、私も聞き覚えのある名に目を見開く。

 

「えっ、天才外科医が何故こんな辺境に!?」

「おやリィンさん、その名に聞き覚えが?」

「……まぁ、一般常識程度でわひゃあああ!?」

 

 視界に! 視界にブルックさんが入った!

 怖い無理雰囲気と乗算されて限界!

 

「泣いてませんよ、ヨホホホホ……!ぐすん」

 

 私の中の良心は全く痛まないので私の視界から消えて欲しいです。

 

「ドクトル・ホグバックは偉大なる航路(グランドライン)では確実に有名よ。その腕で数多の手術オペをこなし、地位も名誉も医者の憧れさえ手に入れたって」

 

 ビビ様が興奮した様子のチョッパー君を見ながら説明をする。

 

「結局は、内科に敵わぬ、後手に回る医者ぞ。怪我を防ぐ事ぞ不可能」

 

 悪態ついた私に反応したのはチョッパー君だ。

 

「お前医者、というか外科医嫌いなのか」

「大っ嫌いですね」

 

 私は堂々と胸を張って物申した。

 

 

「過去10年、毎年医務室使用数最高値をぶっ叩き出すした私がむしろ逆に外科医を好きになるとでも!?」

 

 

「……予防接種嫌がる動物かな?」

「動物は獣医が嫌いだよな」

 

 切れ味抜群コンビは黙ってろ!

 事実だとしても! 真実だとしてもだ!

 

 私にだって分かってるんだよただの八つ当たりだってぇぇ……。でも嫌じゃん、治療が欲しいというより治療を不要としたかった。

 七武海に目をつけられるということはな、こういう事なんだよ。

 

「故に帰るぞ!」

「はい強制連行」

「サンジさん私も手伝うわ」

「弱点属性ぞ攻撃は禁止いいいい!」

 

 王族サンドは本当に反則だと思う。

 馬車に乗った。辛い。

 

 霧で見えにくかったけど、この馬車の馬って変じゃかった? 気の所為? 気の所為でいい?

 

 

 

 馬車は2つ。

 1. 私、サンジ様、ビビ様、ニコ・ロビン、ナミさん、カルー(5人+1匹)

 2. ルフィ、ゾロさん、ウソップさん、フランキーさん、メリー号、チョッパー君、ブルックさん(5人+1匹+1体)

 

 この、精神に来る感じ辛い。

 ブルックさんという視界の暴力が居ない事は本当に安堵なんだけど、こう、精神的に来る。

 

 

 

「うわぁぁぁあ……うえ……うう……うぷっ」

「スリルもだけど、可愛い子の泣き顔って大好きなの」

「あっちの馬車は楽しい事に……って、見てオールサンデー! 外に珍しい動物がいるわ!」

「リィン! リィンこっちおいで! さぁ、お姉ちゃんの膝の上に!」

「レディばっかで嬉しいはずなんだけどなんか微妙に嬉しく無いんだよな、どう思う?カルー」

「クエ……。クエー」

 

 外からボコボコって地面から何か生える様な音がするの本当にやだ! 木々が動いている様にガサガサと音がするの本当に無理!

 まぁ実際、そんなことありえてたまるものかって感じだけどぉ!

 

「乗り物酔いも七武海もこの島もついでに一味も私どちらぞ選択するしても地獄しかなくて無理ぞ助けて」

 

 起こりそうで起こらない、そんな密室空間に私のSAN値は余裕で削れた。

 

 りあるくとぅるふのーせんきゅー。あのゲームに手を出した七武海の形容し難いピンクの物体は絶対に私たち青い鳥(ブルーバード)が殺す。

 お前に対しての殺意はガン盛りだぞ畜生。

 

 

 あぁ、今は別の七武海かぁ……。(遠い目)

 

 

 

 ==========

 

 

 

「やっどぉうどゔつぎだぁぁぁア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

「喜びながら絶望するとか、お前随分器用なことするんだな」

 

 乗り物から降りられた! 七武海に近付いた!

 どうしようどれも辛い! もはや生きることが辛い!

 

 来世は! 権力者の元に生まれて家督争いなんてせずに人と関わることなく動物に囲まれながらのんびり引きこもりたい! 下っ端反対! 裏切ることの無い従者が欲しい! あわよくば姫君とか言われて可愛がられたいけど人と関わりたくなかった!

 

 さよなら今世また来て来世……。

 いやいやいやいや! まだ死んでたまるか!

 

「あっ、お前実は発狂してるな?」

「うぇぇえんるふぃぃいっ!」

「おー、兄ちゃんここにいるぞー」

 

 生きる希望を捨てないだけ素晴らしいと自画自賛して遠慮無くルフィにしがみつく。赤子を諌めるような対応に不服はあるがナミさんにしがみつくよりは何倍もマシだろう。

 帰りたい。本部でいいから帰りたい。

 

 仕事に悩殺されても構わないし、なんならクザンさんの探索してもいいから帰りたい!

 

 途中で置いてかれるとか不吉な事は起こらないし起こらせない。コウモリ男はブルックさんに捕獲されており、何故か冷や汗をダラダラ流していた。

 予想は簡単。ブルックさんの影を抜いた一味だから、でしょうに。

 

「にしても、トンネルみたいな屋敷だな」

 

 屋敷の真ん中には大きな通り道が造られており正面には中庭が見える。その途中にはいくつかの扉が存在している。

 

 ──カッ!

 

「わひゃあ!?」

 

 古井戸にスポットライトが当たった。

 あっ、もう嫌だ。

 

 古井戸の中から出てきたのは継ぎ接ぎの皮膚を持つショートカットの女性。顔色は悪く人形のようにも見えた。彼女はゆっくり視線を合わせる。

 無表情で、皿を片手に。

 

 はい、無理です。

 

「1枚、2枚、3枚、4枚……」

 

 何故か皿を男性陣へと投げ続けている。これ幸いと現役王女を優先的に保護という形で距離を取った。

 

 ……いやもうだから無理なんですって!

 

「あんた達は屋敷に招待出来ない! そこの彼女達は入っていいわ」

 

 丁重にお断りさせていただきます。

 

「あんた達は行っておしまい! 8枚! 9枚!」

「うぎゃーーッ!」

 

 皿を投げられてウソップさんが悲鳴をあげる。

 何故か見た目男(ただしメリー号は除く)だけ狙われるので私はナミさんの後ろに隠れた。

 

「リィン見てよ、あのお姉さん修繕した乗り物みたい」

「やめるしてメリー号!」

「怯えてるリィンがとっても可愛くて幸せ……」

「涙目ってところがミソね」

 

 トドメを無意識に刺そうとしてくるメリー号に泣きそうになると変態さん2人が喜ぶ。四面楚歌かよ。なんだこれしんどい。

 

「もういい! それくらい特例で許せ!」

 

 バン!と屋敷の扉を開いて外へ出たのは体のバランスがおかしい、男。長い鼻、長い牙、長い爪に長い足、さらに裂けた口と額にある縫い跡。

 

「んぎゅだああああッ! おばけぇえええッ!」

「ええぇええぇえ!? なんでぇえ!?」

 

 男は近寄って私の肩を掴んだ。

 

「なんで? なんで!? え、俺人間だよな!?」

「怖い! やだ! 離すして! ふぎゃぁぁあぁ!」

「それはかなりショックッッ!」

 

 お願いですから人間ならもっと人間らしい容姿をしてください! 身長なら誤差の範囲なのに!

 バランスだけは! どうにもならないから!

 

「……ウソップさん、こちらをお願いします」

「お、おう?」

 

 パニックに陥る場を収めたのはたった一つの刃だった。

 

「えっ」

「……え?」

 

 男と私の間に突かれた細身の剣。あまりの速さに一瞬黄泉の国の冷気が流れたんじゃないかと思った。有り得そうで怖い。

 だってその見覚えのない刃の持ち主はブルックさんだったから。

 

 ……ぶっちゃけちびるかと思った。

 

「お久しぶりですねェ、ホグバックッ!」

 

 あーはいはい、うんうん、私これ、この展開先が読めたよ。ウンウン。

 そりゃね、私も長いことこの世界でリィンとして生きてきましたから。

 

 島はスリラーバーク。敵は七武海。超至近距離に骸骨。目の前に刃物と七武海の手下であろう外見ホラー男。移動手段の箒は消え、船酔い止めの薬は船医に捨てられ。

 

 うんうん。やっぱり私展開察したよ。

 

 

 

 

 ……気絶します。

 

「リィーーーーンッ!?」

 

 遠くでウソップさんの遠吠えが聞こえた気がする。




普段よりリィン視点の地の文はめちゃくちゃ。ちゃんと考えれてませんね。

ここで調子乗ってる恋音より宣伝。
そう言えばこの作品でしてなかったなー、とか今更な事を知った。

リィンがこの作品の世界(通称2度目)の人生を全う()した後、の物語を連載してます。この2度目の世界での記憶は一切無いんですけどね。
作者ページから是非飛んで見てください。
タイトルは『3度目の人生は魔法世界で』です。

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