2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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スリラーバーク編
第196話 災厄は完全にドS


 

 麦わらの一味新海賊船サウザンドサニー号は順調に航海を進めていた。

 

 例え生簀にサメしかいなくても、海神御宝前の樽を不用意に開け閃光弾が爆ぜても、大嵐(おおしけ)から逃げた先が魔の三角地帯(フロリアントライアングル)でも。

 

「ばっっっっっかでは無きですかァ!」

 

 船酔いで死にかけている私を叩き起した一味に怒りをぶつける。

 波は荒れているがゆったりとした大波なのでまだ比較的大丈夫。もちろん平常時より気持ち悪いのに変わりはないが。でも自分でも分かる、今絶対顔色は青いのだと。

 

「ばか、ばかぁ、ばーーーか!」

 

 なんで怪しげな物をわざわざ拾うかな! 警戒心持とうよ! まずそこが1番重要だよ!

 

「で、リー。ここどこだ?」

「……」

 

 悪びれた様子が全く無いルフィ。

 そうだよな、悪い事したなんて思ってないだろうしなぁ。

 

 他の一味はルフィに『何言ってんだ!』という感じの視線を浴びせていた。仮にも説教中の態度じゃない事は確かだ。

 

「はぁ、ここは魔の三角海域(フロリアントライアングル)、後半の海へ行くには必ず通るしなければならない海域。ですが、問題は誰かに狙われるした状況で突入ぞ事が1番拙き事ですぞ!」

 

 ガンガンと地団駄踏む。大多数が賞金首になったというのに狙われる者だという自覚がこれっぽっちもない危機管理能力の乖離(かいり)! 海賊として大問題だ!

 

「ま、有名な海域だな。毎年100隻以上が遭難して、中にはゴースト(シップ)が出るって噂だ」

「知りませぬぞりんびょぉおおお!」

 

 聞こえない! 私は聞こえない! 聞こえてたまるかそんなガセネタ!

 第一会ったら遭難するという船なのに何故噂が流れているのかすら疑問だな! あっはっは!

 

「……リー、昔からお化けダメだもんな」

「ルフィその目やめるして」

 

 哀れみを込めた視線からそっと目を逸らす。

 

「だいたいこういうのはウソップさんやチョッパー君もダメですよね!?」

「いや、俺よりビビってる奴がいると何故か落ち着くんだよな。それが今回リィンだから尚更」

「俺、お化けより人間が怖ぇ」

「…………左様ですか」

 

 なお同じくビビるであろうナミさんには敢えて聞かない。気分的な問題で。

 

 

──…ギィ……ギギ……

 

 途端、古びた木材の軋む音。新しいサニー号にそんな音がするわけない。

 

「…ホホホ〜〜……ヨホホ〜……」

 

 歌う様な歪な声。

 身の毛もよだつ、空気に反響するブレた音。

 

 嘘だ嘘だ嘘だ!

 ありえない! あってたまるか!

 

 薄ら寒い湿気た空気が背筋を否応が無しに凍らせる。不気味な音楽が、崩れる木の音が、波の気配が、背からどんどん近付いてくる……!

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ、無理だ!

 

「で、っ」

 

 視界の端で、ウソップさんが後ずさる。

 込み上げてくる訳の分からない不快感と吐き気が相乗効果を生み出し、足は震えていた。

 

「出た〜〜〜ッ! ゴースト(シップ)!」

 

 ──ぎゃああああ!

 

 叫ぶ声が遠くに聞こえる。耳がぼんやりと膜を張ったのかまるで私は他人事。

 

 他人事に、したかったのかもしれない。

 

「ヨホホ〜……ヨホホホー……」

 

 ずっと続けられる音楽に気が狂いそうだ。

 フレーズは()()の唄。

 

 魔の三角海域(フロリアントライアングル)は毎年100隻以上もの船が遭難して、失踪をしている。特に通る船は、()()

 

「ビンクスの酒を……届けに行くよ……」

 

 嫌だ、ヤダ、私は。私は無理だ、これ以上この空間に居たら私は絶対狂う。

 

「ッ、うあ……」

 

 ハグ、と喉を潰された様な吐き気が訪れる。

 なぜなら私の視界の先には、湯気のたつティーカップを片手にこちらを呪うかの様に見る、動けるはずの無い、物。

 

 骸骨だ。

 人が死に肉体が腐敗した後に出来上がる骸骨。

 

「ル、フィ。ルフィ、ルフィいい、ルフィ、にぃにヤダ助けて、にぃに……っ!」

「リィン見て見て骸骨人間だよ! 凄いね! 僕おしゃべりしたいなぁ!」

「私も聞いてみたいわ、あれ、どうなってるのかしら……!」

「俺も俺も! 悪いなリー!」

 

 メリー号、ビビ様、ルフィは言葉で絶望を確かに伝えてくれた様です。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「私分かるした気ぞ」

 

 足が震えてまともに動けない私を背負うルフィはゴースト(シップ)の縄をギシギシ鳴らしながら登っている。苔の付いた縄は時代を感じる。

 くじ引きで選ばれたのは3人。冒険心溢れるルフィのお伴に選ばれた。

 

 1人はもちろん災厄持ちの私。そして残る2人はビビ様とサンジ様……。

 

 あかん! 私が正気を失えば絶対あかんやつ!

 王族蔑ろ良くない!

 

「う、うっ。私もう嫌ぞ……おうちかえる……」

「これ終わったらな」

「サニー号では無くて……」

 

 高所から目をそらす為に仕方なく上を向く。

 

 その時だ。

 

 私は骸骨と目が合った。

 眼球など無い、筋肉などない。それでもギョロりとこちらを見る2つの眼光に身をすくませた。

 

 

 SANチェック、失敗です。

 

 発狂、入ります。

 

「ぴ、ぴぎゃぁああああああッッッッ!おばけぇぇぇえええ!」

「えっ、うそ、お化け!? ぎぃやぁあああ!」

 

 無理無理無理無理! 本当に無理ですごめんなさい殺さないで! 七武海ぶち殺せと言われたらすぐ殺しに行くので来ないでください!

 

「いや、お前だよッ!」

 

 ワンテンポ送れたサンジ様のツッコミで正気を取り戻した。

 

 そんな中ビビ様はキラキラと目を輝かせルフィは大爆笑している。呑気だなぁ。

 現実逃避していた私を無視して、お化けにビビるお化けが居る船に乗り込んだ。

 

「よっ、とぉ。大丈夫か?」

「無理です」

「よっこいしょ。その、大丈夫?」

「無理です」

「よっ。あー、大丈夫か?」

「だからっ、無理だと……っ!」

 

 似たりよったりな心配してくれるけど言葉だけなのか3名の興味は喋る骸骨という異形の物に注目している! リィン知ってる、これ警戒じゃなくて興味だって……!

 

「御機嫌ようヨホホホ! 先程はどうも失礼! 目が合ったのに挨拶も出来なくて!」

 

 王族に頼るのは立場上ダメ、仕方なく対象と1番近いルフィの背中にへばりつく。

 

「…ところでお嬢さん」

 

 骸骨はあろう事かビビ様に目を付けた。

 

「──パンツ見せていただいても宜しいでしょうか」

「却下っ!!」

 

 何を言っておるんだこの変態は!

 

「ジョークですジョーク。ヨホホホ〜」

 

 呆然とするビビ様の代わりに拒否反応を示すが骸骨は飄々(ひょうひょう)とした態度でめげなかった。

 私はジョークだと思えないんですがねぇ!

 

 無理です言えません怖いです。

 いやでも待て、センゴクさんの方が怖いな。

 

「お前面白ぇな!」

 

 骨格(リアル)が自分の背丈の2倍くらいあって怖くないわけが無いんだけどどうしても心身ともに嬉嬉として抉って来たセンゴクさんの方がタチ悪い。この骸骨、背を向けた瞬間に……とかってならない限り会話は出来るみたいだし。

 

「ゆうれいこわい」

 

 結局それだ。

 幽霊は居る、それは昔聞いた覚えがあ…──。

 

「るぅ?」

 

 首を傾げる。3人と骸骨は様子を変えた私に気付いた。

 

「どうした?」

 

 既視感が私の中に根付いている。

 目を閉じて、視覚を塞ぐ。頼るのは聴覚だ。

 

「おや? お嬢さんはどうしたんですか?」

 

 似た、声を。というか同じ声を知っている。

 なんで内臓が無いのに声が出るのか、とか科学的根拠はドブに捨てたような存在。

 

 科学を撲殺するクソ不味い果物がこの世界には存在している。

 

 幽霊は存在すると聞いた時、私の他にももう1人居た。海を知らなかった私が手に入れた初めての、友人が。

 

 

「──ブルックさん?」

 

 

 私の口は名前を発した。

 

「私をご存知でしたか? いやー、こんな骸骨になっても昔の海賊だと分かる方がいるのですね」

「いやっ、いやいやいや! 否定プリーズ!」

「リー、コイツ知ってんのか?」

 

 ルフィの微かな疑問を今は置いておき私は骸骨を睨み付ける。

 

「何故、何故骸骨!? 何故アフロ!?」

「毛根、強かったんです」

 

 訳が分からないけど私このノリで察した。そしてアフロだという事で確信した。

 

 確信したく、無かったぁ!

 

「ブルックさんってヨミヨミの実のブルックさんですよね!? ラブーンの! ビンクスの酒の!」

 

 ぱちくりとした視線が私と絡み合う。

 見た目、無理です。

 

「何故、ラブーンの事までご存知で?」

「「「ラブーン!?」」」

 

 聞き覚えがある鯨の名前に3人も驚きを隠せない様子だ。

 場は混乱を呼ぶ。

 

「っ、会いたくござりませぬぞですた!」

 

 膝から崩れ落ちて顔を覆う。

 昔死にかけて時空の狭間に堕ちた時、蘇り中のブルックさんに出会った。私、ラブーンの時はギリギリ思い出せなかったんだけどちゃんと覚えてた! ちくしょう!

 

 幽霊じゃないけど! 幽霊だった!

 

「……もしかして、リィンさん?」

 

 名前を呼ばれた事で私が知り合いなのだということが3人も分かった。

 

 驚きの声は幾重にもなり、船の上でウソップさんが成仏してくれと拝んでいた事を知ってぶん殴ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「で? 船の上での惨状は分かったのだけど、私達まだこれっぽっちも貴女達の事を理解出来てないわ。包み隠さず、話してもらうわね?」

 

 現在、ダイニングで正座中の私。お客様であるブルックさんは骸骨の姿でソファにオロオロと座っていた。

 見下ろすのは最近ドSに目覚めた厄介極まりない頭脳の持ち主、闇世界の住民ニコ・ロビン。

 

 

 あ、胃が痛い。精神に来る。ブルックさんを見る度に視覚でも死ぬけど。

 

「はい! む、むかし死に目に遭うした時ちょっと会いますた!」

「より一層分からなくなったわ……説明する気あるのかしら……?」

「ヒッ」

 

 ニッコリと笑う笑顔にヒヤリとしたものが背筋を這う。あかん、この笑顔何円? 何円注ぎ込んだらこんな笑顔になるの?

 

「えっと、まず時間軸的にブルックさんの説明から、ですよね」

「そうなの?」

 

 私も細かい時間軸が分からないので、ブルックさんにバトンタッチ……というかぶん投げる。

 私の話は彼が死んでからだ。一応彼の人生の1部を話として聞いたのだが、私が彼の人生を語るには力不足だ。

 

「……私はルンバー海賊団という船で副船長でした。そしてヨミヨミの実という悪魔の実を食べて能力者になったのです」

 

 どうしたらいいのだろうか、と悩んでいた様子だったが私にしてくれた様な説明をお願いすると口を開いてくれた。

 

 

 ラブーンを双子岬に残したこと。そしてこの海で同業者に襲われ死んだこと。

 死に際に残した音楽をラブーンに渡したいと思っていること。

 そしてヨミヨミの実で黄泉の国に行ったこと。

 

「まぁそこは黄泉の国では無く時空の狭間という場所だったらしいですけどね! 教えて頂かなければ私ずっと勘違いしてました!」

 

 愉快そうに笑う骸骨。正直くっっそ怖いです。

 

 

 ……そこまで話せば私の番だ。

 ラブーンを知っている一味は何かしら言いたそうにしていたがまだ全ての話を終えてないので口を噤んだ。

 

「私は故郷で一度死に目に遭うしますた。えっと詳細は省く」

 

 本音を言うと細かく覚えてない、だ。

 それが背中の傷だったというのも覚えてるしルフィを庇って出来たというのも覚えているけど。

 

「で、私は時空の狭間という場所でブルックさんに会うしました。ま、簡単な経緯ですね」

「あぁ、確かお話ではお兄さんを庇っ──」

 

 骨の折れる音。

 原因は私が全力で岩塩をぶつけたからだ。

 

「……そんなものいつの間に手に入れた?」

「元々所持済み」

 

 お化けには塩が効くと聞いた。持ってないわけが無かろう。

 

「ヨホ、ヨホホ……。骨身に染みます……骨だけに! スカルジョークッ!」

 

 自称紳士なだけあって触れたらいけない話題なのだと気付いたのだろう。空気を変えるために空元気を出しているように思える。

 見た目さえ、まともならなぁ。

 

「時空の狭間ではお互いの話をして何やかんやと終わるしますた。後はブルックさんが何故骸骨として蘇るしたのか……ですけど」

「おい待て。俺は肝心の時空の狭間とやらの話を聞いてみたいんだけど」

「……生きるか死ぬかの大博打を将来するつもりです? 第一、関わる可能性など悪魔の実程非常識でなければ有り得ませぬぞ」

「だっておかしいだろ。時間軸が」

 

「「あっ」」

 

 2人して時間の概念という説明を省いていた事に気付いた。

 

「向こうに『時間』という物はありませぬ」

「えぇ、よく良く考えれば『時空』というのは時間と空間を両立する言葉。『狭間』という言葉から見て取れますが、本当に狭間なのですね」

 

 うんうんと納得し合っていると頭を悩ませたウソップさんが唸りながら視線を向けた。

 頭固いんだな、思ったより。

 

「よく分かんないんだけど、簡単に言うとどうなんだ?」

「……不思議空間?」

「分かってたまるか! そんな投げやりな説明に納得出来るのはルフィだけだ!」

 

 否定はしない、でも飲み込んでくれるとありがたいです。ルフィなんか思考を放棄しているのか目を閉じて何も言わないぞ! 見習え! 嘘ですちょっと不気味です!

 

「私も説明が難しいので時空の狭間についてはパスでお願いします!」

 

 それ以前に細かい事を知らないブルックさんは流れに便乗して話題を終わらせる方向へ動く。

 そして彼が話し出したのはなぜ骸骨になったのかという話だった。

 

 

 ……死体放棄で白骨死体になった身体に蘇ったらしい。なぜそれで甦ろうと思ったんだよ。

 

「ようやく誰かと会えましたし、リィンさんと現実で会えたんですけど。目が合わないんですよね! 私、合う目ないんですけど! ヨホホ!」

 

 無理です。見れません。

 目どころか顔すら見れません。

 

 だって、目がないのにどう合わせろと! 眼球の無い虚空がどれほど怖い事か!

 

「よぉーしブルック! お前俺の仲間になれ!」

「あ、いいですよ」

「ぎゃぁあああああああっ!」

 

 ルフィの言葉に思わず叫び声をあげる。

 これ以上SANチェックは要らないんです朝から晩までSANチェックって私発狂死する気しかしない!

 

「……と、言いたい所ですが。私は太陽の下に出ることが出来ないんです」

「え?」

 

 予想外の言葉に思わずブルックさんを見る。

 

 あっ、怖い無理。

 

 そっと視線を外した。視線の先にはウソップさんが冷たい目で私を見ていた、解せぬ。

 

「お前なぁ……」

「私肉が付いてないと無理です」

「さらっと標準語で喋るなよ」

 

 奇怪な現象も嫌いだけど物体の方が嫌い、と言うより無理です。

 ……早く船から去ってくれないかな、なんて初めての友人に対しあるまじき思考を抱く。

 

 口に出さないだけ私とっても優しい。

 

 

──ガゴォンッ

 

 私は衝撃の展開に忘れていたのだ。

 

 この船が何者かに狙われている可能性大だという絶望的な現実を。

 

「わ、わぁっ、うぷっ……うえっ」

 

 突如襲ってきた大きな揺れ。

 感覚的には何か大きな物が海に落ちたとかせり上がって来た時の波。

 

 そこの波さん大人しくして。あんたもナミさんと同じで大人しくしてる事出来ないの?

 

 

 すると突然ブルックさんは外に顔を向けた。

 絶望の交じった、希望を滲ませる雰囲気。

 

「なんて事! まさかこの船はもう監視下にあったのか!?」

 

 キッチンの扉をバン! と開けたブルックさんは驚愕の声を発する。

 

 監視下、その言葉で既にアウトです。

 

「どういう事ぞブルックさん」

「……実は私影をある男に盗られておりまして太陽の下にいる事が出来ないのです」

 

 呆然とした様子で口の様な物を見たブルックさんに声を掛けると何か聞き覚えのある能力を聞かされた。

 それよりも気になるのは目の前に広がる霧がかった寒気すら感じる小さな島。

 

「この島は奴の本拠地、西の海(ウエストブルー)からやってきた海を彷徨う〝ゴースト(アイランド) スリラーバーク〟!」

 

 影を奪う、影、影の不気味な力。

 ゴースト。あ、ここでもう既にアウト。

 

「なんだよそれ! おいブルック! そいつの名前教えろ! 俺が取り返す!」

「いいえ……! いいえ! 私は貴方達に死んでくれと言うつもりは欠けらも無いのです」

 

 影を奪う強者。拠点を持つ、引きこもって影を操る悪魔の実の持ち主。

 

 …………。

 

「肉があるからって調子に乗るなぞ七武海ッ!」

 

 よりにもよって! 七武海唯一の完全未知(ダークホース)

 

「何だ、七武海か。よし、リー行くぞ」

「なにゆえーーッ!?」

「だって七武海って言えばリーだろ?」

「私知らぬ、知らぬ故! 私この七武海は未知の無知の未開の地!」

 

 言うんじゃ! なかったァ! アウトです! アウトは3つ目なのでチェンジでお願いします!

 がしっと腕を掴まれて、慌てて首を横に振る。

 

「待ちなさいルフィ、リィンの嫌がる事はやめなさい」

「セリフは立派ですけども握り拳固めるしてナイスガッツ的なのぞ禁止ナミさぁん!」

 

 それ口だけじゃん!

 

「ヤダー! 俺絶対七武海倒すー!」

「馬鹿野郎、ガキかよオメーはッ! 舐めてかかって上手く行くとでも思ってんのか!?」

 

 フランキーさんが七武海というワードに微かな怯えを見せる。

 

「だって! …………リーが嫌がってるし」

「ルフィ……──貴方よく分かってるわね」

 

 ニコ・ロビンあんたちょっと黙れ。

 分かってない、分かってないんだよォ! 人の嫌がることをしてはいけません! 子供でもわかる道徳のお話から始めようかな! 覇気じゃなくて人格形成の話からやろっかぁー!

 

「ルフィさん、相手はリィンさんの言う通り七武海です。危険な真似はやめてください」

「だって七武海ってアレだろ?」

「まぁ、アレだけど」

「アレだけどよォ」

「……何言ってんだお前ら」

 

 ルフィ、ナミさん、ウソップさんが『アレ』と形容し難い存在を苦い顔で告げる。それに嫌そうな顔をして疑問を投げかけたのはゾロさんだ。

 

 あー、そう言えば一味は全員じゃなくてこの3人しか七武海と会話してないのか。

 コミュ障(ミホさん)は除いて考えさせてもらう。

 

「お願いですアレを七武海の常と思うなかれ殆どですけど!」

「殆どそうなのかよ!」

「だからアレってなんだよッ!」

 

 お願いこれ以上ツッコミスキルを上げないで。

 何その複合技、凄いな。ある意味ボケにも変化出来るツッコミだぞ。

 

「いいですか、モリアは、この七武海は会議にも出ぬ本物の七武海! 悪影響無し!」

「……それ、お前が悪影響を及ぼす存在だってこと認めてるの分かってるか?」

「そうでもしなければ止まらぬでしょう!?」

「そうだな!」

 

 そんな私の嘆きを無視してる兄はブルックさんに向いていた。

 

「ブルック、俺達はどうしてもここから出なくちゃならねェ。その為には七武海に用がある」

「無いです嫌ですルフィ私の頑張るをやるぞりゅんペぼっ!」

 

 あれれー? おにーさまー。可愛い妹の声、聞こえてる?

 

「そう、なのかもしれませんが。……あの、リィンさんが凄い鳴いてますけど」

「俺はこの時間だけリーが聞こえない仕様だ」

「随分便利な仕様でごじりますぞねーー!?」

 

 普通に無視される。辛い。

 

「んで、お前も影を取り戻す為に七武海に用がある。だろ?」

「え、えぇ、そうなりますが。……あの、リィンさんが凄い首振ってますけど」

「俺はこの時間だけリーが見えない仕様だ」

 

 サンジ様聞いて、私透明人間になれたみたい。

 認識もされないなんて凄いよね。

 

「それに俺は偉大なる航路(グランドライン)を1周してラブーンに会う約束があるんだ」

「え……っ?」

「にっしっし! アイツ、でっけーぞ! 山かと思うくらいだ!」

 

 ラブーン……? とブルックさんが小さな声でその名を復唱する。

 

「何より俺は海賊王になる男だ! 七武海だろうと四皇だろうと、大将だろうと俺は越える!」

 

 おう、不正バッチリの勝利をくれてやるよド畜生。卑怯不平等は弱者の戯言ってなァ。

 ……だから! 不正の機会を! 裏工作する準備とかください! 正面衝突反対!

 

「目的が一緒の海賊団は手を組むんだって聞いた事ある……」

 

 ルフィは天使のようなとってもいい笑顔でブルックさんに言い放った。

 

「俺と同盟を組め! ルンバー海賊団! そんでちゃんとブルックが影を取り戻した時、俺の仲間になれ!」

「ッ、死なないと、約束してくださるなら!」

 

 

 私にとってそれはただの悪魔の囁きです。

 

 私の懇親の嘆きは便利で都合のいい仕様により変わらず無視され続けた。

 




さぁ楽しい宴の始まりだ! 泣き叫べリィン!

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