ある日の昼下がり、赤髪の海賊団が長らく拠点にしていたフーシャ村の港で慌ただしく人が動いていた。
「なぁシャンクス…ほんとに行くのか?」
「あぁ…ここも長いこと拠点にしてきたが…もうそろそろ先へ進もうと思う」
別れは唐突にやってくる。シャンクス達海賊がついに出航する。戻ってくるにはかなりの年月が伴うようだ。
ルフィは不服そうに顔を顰めた。
「変な顔をするなよルフィ……そう言えば、一緒に行きたいとは言わないんだな」
「あぁ!いいんだ!俺は、この海賊よりずっと強い仲間を手に入れて海賊王になってやるんだ!シャンクスなんかギッタンギッタンに倒してやるからな!」
「そうか、それは楽しみだ……」
シャンクスはそう呟くと下を向いてしまったルフィに自身の麦わら帽子を深く被せた。ルフィは男、そしてプライドだってある。男の涙を見ないようにしたんだろう。
その証拠にルフィの足元に黒い影がポツリポツリと増えていっている。
「その麦わら帽子はな、俺の恩人から受け取った大切な帽子だ…来いよルフィ…海賊の高みへ!!」
「ゔん!!!」
嗚咽混じりだが、力強く返事をした。
「ところで───そこの物影に隠れてる死霊使い!出てこい!」
「っ!死霊使い否定ぞ!!」
リィンだ。思わずツッコミを入れてしまったのが運の尽き、ヤソップは自分のお気に入りの玩具を見つけニヤリと笑った。
「よぉリィン!なんだぁ?寂しくて来ちゃったのか?そりゃそーだよなぁーだってわざと出発の日にち俺がポロッと口から滑べらしちまったからよ〜」
「寂しい否定喜んで!」
「……この可愛げのねぇ糞ガキめが!」
「いだだだだだだだだ」
ヤソップの頭グリグリ攻撃はリィンに確実にきいた。
「(やはり
ヤソップはこう見えても策士家である。調子乗りな所がたまに傷だが一味の安全を一番大切にしてる仲間想いの男だ。
リィンの力を気にしないわけがない。
本人は静かに暮らすと言っていたが何故かトラブルに巻き込まれる彼女の事だ、何らかの原因で海へ出るだろうと予想がつく。
「リィンさんよぉ…お前俺ん所の娘になんねぇか〜?丁度ルフィと同じくらいのガキがいてよ〜…」
「耳タコじょりり。却下ぞ」
「チッ」
「リィン、一つ剣を合わせたい。構わないか?」
舌打ちをしたヤソップと入れ替わる様にシャンクスが近寄ると真剣な顔で言った。リィンはやる気が起きないが空気は読める。いやいや頷いた。
「………初心のみぞ」
「あぁ構わない。誰か、リィンに刀を…──」
「所持済みぞ?」
「!!……そうか、もう愛剣があるんだな……」
シャンクスは笑った。リィンが少しその場を離れ、死角に入るとアイテムボックスから業物〝3代鬼徹〟を取り出した。
「(真剣での戦いか…やった事ないな……。はっ!まさかこれは「お前に懸賞金を知られたからには殺すしかない」とか思われて試合と見せかけ殺されるパターン!?なんてベタな!?)」
シャンクスはただ単にリィンの腕が気になるだけだがこの
「お待たせ致すとぞ!」
「お待たせしました、な」
不服そうにベッ、と舌を出してヤソップに反抗した。
「そう肩に力を入れるな…怪我はさせん──多分」
「多分!?」
そうしてシャンクスは向かい合いリィンの持つ愛剣──本人は愛もへったくれもない──に目を向け思わず叫んだ。
「き、鬼徹!?!?」
「え?ご存知?」
「知ってるも何もそれはフェ……っ!!」
そこまで言えばシャンクスはふと気付いた。そして笑った。
「なるほどな!!っく、くくくっ!!そりゃ剣を合わせる迄も無い…っ!!はははっ、リィン、お前その鬼徹は師に貰ったのか?」
「肯定ぞ…」
「その師の教え、大事にしろよ?」
そう言えば最早剣を合わせる気が無いのか刀身を鞘に納めた。
「(フェヒターさんに教えてもらっているのか…それならば安心か)」
「(ん?なんか知らんがラッキー)」
シャンクスはリィンが持つ鬼徹の元の持ち主をよく知っていた。
自分にも人にも厳しいとても優しい尊敬する彼を。
「(そうか、やはりあの時見聞色にひっかかった強い声は貴方だったんですね…。どうしてこの島にいるのか知りませんがこのガキ共よろしくお願いします)───さぁ!野郎共!!出航だ!!」
「「「「「おおおぉぉぉおおお!!」」」」」
大きな雄叫びのような声が船から聞こえた。
シャンクス率いる赤髪の海賊団は麦わら帽子を少年に託し 今 大海原に消えていった。
「シャンクス……俺、絶対行くからな…
別に海軍でもいいんじゃないかと思ったリィンはどうでもいいとばかりに欠伸をした。マイペースも考えものである。
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シャンクスさん達を送り届けて山道をやっっっっと抜けた。
疲れた……マキノさんのご飯はそれだけ価値があるということで。
ただいまーー!!
「あ、リーおかえり」
「よぉ小娘邪魔してるぞ」
「フェ、フェヒ爺!?な、何故にこちらにおいでませー!?!?」
噂をすればなんとやら。いや、来て欲しくなかったです。
「小僧は出たのか?」
「こぞー?」
「シャンクスの事だよ……」
「!!フェヒ爺……ご存知?」
「俺がこの島に入った声を判別できないとでも思ったか」
「…声?」
「ったく、テメェはホントに厄介事持ってくる塊だな」
それはどうもありがとうフェヒ爺も私の中で厄介事の一つです。
それもそうだが声ってなんだ?耳がいいのか?
「…俺の決意を不意にしやがって…」
「私ぞご存知皆無な。で、御用は何ぞり」
「この野郎…っ───まあいい、俺は心が寛大だからな」
「ミジンコ如き心の広さぞ。広さ?否、狭さ。ミジンコ如き心の狭さぞ」
「絶対ケンカ売ってるだろ………小娘」
そんなそんなHAHAHA
勘の鋭い爺さんだなこの野郎。
「一つ、どんな手を使ってでも生き延びろ」
「?」
「一つ、知識と経験は力」
「フェヒ爺?」
「一つ、使えるものはなんでも使え」
「はぁ…」
「───よって、明日からの稽古を厳しくする事とする」
「ひょ!?なななななななっ!?」
地獄の通達どころか閻魔大王様がやって来た。
「剣を失った時、人質を取られた時、手を封じられた時、足を封じられた時、そして様々な敵のタイプの見極め、対処法………俺が学んだもの全てをそのちっこい脳みそに詰め込んでやる」
「不要ぞ」
「諦めろ」
「ひどい!」
酷い!酷すぎる!私が貴方に何をしたと!?
「リー、嫌だとは思うけど必要な事なんだ…」
「不要ぞ!」
「どうしてだ?お前は将来俺の船に乗るんだろ?」
エ ー ス 今 な ん と 言 っ た 。
「拒否!拒否ぞ!」
「はぁ!?何でだよ!!」
「危険故に!!」
「安心しろ、俺は強い。お前くらい守ってやるさ」
「私如き人物に背負い投げ食らわれている様子なればゆるゆるぞ」
「うっ……」
図星をつかれたのか思わずエースが唸った。甘いな、考えが。
いいか私はニートになるんだ!引きこもり万歳!
「ま、どうやろうが厳しくするのに変わりがあるわけじゃねぇから安心しろ」
「不可能ぞりーーー!」
絶対に逃げ出してやる。
って、こんな人師なんて認めない!!!