2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第192話 限界を迎えた胃

 

 どんちゃんどんちゃんと宴の音が空へと続く。

 ガープ中将来訪から2日程、日は傾き空はオレンジに染まっていた。

 

 ウォーターセブンの名物である水水肉が焼ける音はもう私には届かない。風に乗って運ばれる匂いだけが確かに存在していた。

 

 船大工達は早速船を造りに、メリー号もそれに着いて行った。

 麦わらの一味やフランキー一家は宴の最中だ。

 

「どうするの、大将」

 

 宴の会場から離れ、軍艦の停泊する港の近くで建物にもたれ掛かる。隣で聞いたのは元BW。

 

 宴が始まるまでじじを警戒したルフィが私を離してくれなかったのでようやく海軍と合流出来たと言った所だ。

 

「麦わらの一味を強くする、ですか」

 

 今の麦わらの一味は依存に近い。

 ルフィに救われた者、浴びせられる無限の光に目がくらんでそれ無しじゃ生きていけない依存。

 

 全員まとめて、という選択肢は無い。

 

 だからどうするのかと言われても『海賊の敵を使う』といった曖昧な案しか浮かんでこない。

 

「はァ……。女狐はしばらく使う不可ですかね」

「どうしてだ?」

「一味の注目を集める過ぎてボロぞ出そう」

 

 非常に疲れた。

 まさか女狐という者に成るのがこんなにも疲れるとは。

 

 肉体的な疲労ではない。立場だとか視点だとかに頭を使い過ぎて頭痛がしてくる。

 

「それにしても大将、そのケガどうしたんだ?」

「ん? あぁ、敵です。昔、潰し損ねるした尻拭いですかね」

 

 別件だけど思い出した、グラッジの事をじじに聞いておかなきゃ。

 

「ナイン、じじを連れるて来てくれませんか?あとついでにアルスさん」

「アルスって月組のだろ?待ってろ」

 

 そう言って駆け出した。

 

 慌ただしく過ぎていた時間はようやく落ち着きを取り戻したのかゆっくり歩いている気分だ。

 

「ねぇオカン」

「ん?」

「私、あなた達を逃がす気微塵も無いぞ」

「そりゃまた、光栄な話だね」

 

 くすりと笑ってオカンは私の耳元に口を寄せ1つの名前を呟いた。

 

「その名前、大将が捨てておいてくれない?」

「……マンデー=ツキは安直、そっちの方がまだセンスがあるぞ」

「いいじゃない、分かりやすいんだから」

「…………じゃあ、遠慮なく捨てるです」

 

 海風を思いっきり受けて体温が冷える。時々自分が何をしているんだろうと思う時がある、大事な物が一人分の手じゃ届かなくて、手の数を無理やり増やしている。

 自分はなんて欲張りなんだろう。

 少なくとも言えることは海軍を捨てられない。

 

 めんどくさい事、多いと思う。

 でもセンゴクさんが麦わらの一味を悪として利用するなら、今海軍を捨てる事は出来ない。

 

「じゃあオカン、これをベンサム……ド派手なオカマに渡すしておいて下さい。中にメモが入るしてる故に見るして、と。あ、女狐の機密です」

「あァ、ベンサムね」

 

 良かった、ちゃんと知り合ってたか。

 ともかく袋にメモととある一式を入れ、ついでに音貝(トーンダイヤル)も入れた。中に音声は吹き込んである、多分大丈夫だろう。

 

「リィン、どうしたんじゃ?」

 

 ナインがお使いを終え、2人を連れて来た。

 

「ねぇじじ、グラッジって何者ぞ?」

 

 単刀直入にアバウトな質問をぶつけるとじじは頭を捻り思い出した。

 

「グラッジ、と言うと昔七武海に居た……」

「この怪我はグラッジの娘──ミズミズの実の能力者にやられるした」

「……なんじゃと」

 

 じじが驚いたのは怪我をしたことじゃない。

 娘もミズミズの実の能力者だったということだろう。

 

「1人で実を入手は、ほぼ不可能。他にも理由は存在するが協力者は居ると思うぞ」

 

 真剣な表情で私はじじに問いかけ続ける。

 

「彼女はディグティターと言うした、それは一体何ぞ? 海兵に罵るされるような家、って」

「……そうか、お前は知らなんだか」

 

 しかーーし、私と相反してじじはキョトンとした顔だ!

 ……ちょっとイラッと来た。

 

「お前はロックスの時代は詳しく無いからのぉ」

「ロックスぞ、時代の名前?」

「ま、大体は、じゃがな」

 

 あまり喋りやすい話題では無いのか堂々と口を濁した。ごほん、と改まって咳払いをするとディグティター家について説明してくれた。

 

「ディグティター家は王族じゃ」

「はぃ!?」

「と言っても辛うじて現存している名ばかりの王族じゃがな。豊かな土地も国民も、もう無い」

 

 なるほど、と勝手に納得する。

 七武海の茶汲み雑用であり世界会議(レヴェリー)にも行く私が知らなかったという事は本当に名前だけの存在なのか。

 

「あそこは4人兄妹。長男を除く全員がマーロン海賊団……つまり次男のグラッジを船長として七武海入りしとったんじゃ」

「やばいぞ、当のグラッジ以外知らぬ。殺すされる可能性高きぞ」

 

 こいつはやべぇ。娘並の殺意を向けられる事間違いなしだ。もちろん生きていたら、だけど。

 グラッジ討伐の際は張本人以外全部クザンさん任せだったから詳細分からない。本部に戻って調べないと。

 

 焦っているのか頬にたらりと汗が垂れる。

 じじは変わらず奇妙な物を見る目をしていた。

 

「何ぞ?」

「あぁ、そうか。それも知らんのか」

「ん、ッん?」

 

 リィン分からんでござる。

 首を傾げて話の続きを催促した。

 

「グラッジと長男のグラッタは双子。弟のグラッサと妹のグーリアはニコイチで行動しよったが」

「が?」

「グラッタがとある海賊と協力して自分の国を滅ぼす1歩手前まで持っていったんじゃ」

「なにそれこわい」

 

 えっ、怖。1番の要注意人物がグラッタね、覚えておこう。

 

「あー……奴らは悪魔の栗色4兄妹と言われておってな。晴れて全員賞金首になった時は『眷属』『片腕』『足』『尻尾』などとお茶目に悪魔シリーズなどと……」

「じじ、そこからの豆知識は多分要らぬ。お茶目部分要らぬ。まぁ通り名は助かるですけど」

 

 視線をウロウロと(せわ)しなく動かしている。

 

「ん? 眷族……?」

 

 アルスさんが聞き覚えがあるのか分からないが小さな声で復唱した。

 

「言いづらいんじゃがなぁ……」

「うん?」

「そのグラッタという4兄妹の中で頭1つ所じゃなく飛び抜けて強い奴はじゃな、名前を変えて今もなお生きておる」

「げぇ」

 

 とにかく、そのグラッタはグラッジと双子だったんでしょう?

 年齢的に海賊王と同世代……やばいじゃん。

 

 大きく息を吸い込んで覚悟を決めた顔をしたじじが一言呟いた。

 

 

 

「フェヒター」

 

 

 

 

 

 

 今 こ の 人 な ん て 言 っ た ?

 

「ディグティター・グラッタはカトラス・フェヒターと名を変えた。お前も知っとる〝剣帝〟じゃ」

 

 

 脳裏に浮かぶ少ない交流があったグラッジ。

 

 『……………テメェは…っ!』

 

 怒気を含ませた声が聞こえて視線を向ければ濃い茶色の髪色が目に入っていた。

 

 『どうだ女狐…!能力者に水は効くだろぅ?』

 

 血のように赤い視線。

 

 『腹立つんだよォ…テメェも…、()()もォォッ!』

 

 鬼徹を取り出し、トドメを刺そうとした瞬間グラッジはハッとして懐かしそうに目を細めた。でもすぐに目は怒りや憎悪に変わって。

 

 

 

「あんっっっの片想い拗らせじじいいいいッ!」

 

 空に向かって吠えた。

 腑に落ちた、腑に落ちましたとも!

 

 道理で何もしてないのにグラッジ自身に睨まれるわけだ! だって鬼徹はフェヒ爺から譲り受けた妖刀だもんね!

 マジで妖刀の威力怖い! というかフェヒ爺が心底憎い! いまなら私グラッジと一緒にグラッタぶっ殺同盟組める気がする!

 

「リ、リィン!?」

 

 じじの声を無視して宴の会場へ足を進める。

 ズキズキと体の色んなところが痛むけどそれより優先すべきはルフィ!

 

「っ〜〜〜い、って」

 

 足がじくじくと痛む。

 それの元凶がなんなのか考えたら……いや討伐自体はセンゴクさんか。

 

 とにかく、とにかく!

 

「ルフィッ!」

「ほーひは?」

 

 どうした、と肉を精一杯頬に詰めて首を傾げるルフィの肩をがしりと掴んだ。

 

「シャボンディ諸島、次ですたよね! 絶対生きるして辿り着くしようぞ! 絶対に!」

「おう?」

「願うなら殴る可能な右手は完璧無事で!」

「誰か殴るのか?」

「もちろんッ!」

 

 私はフェヒ爺をもうそろそろ本気で殴っても許されると思う!

 

 おーよしよし、と言った感じでルフィが頭を撫でてくるのがなんだか不服。役得だけど。

 

「ルフィ、ルフィ〜〜〜っ」

「何だ、甘えただなぁ」

「私はなにゆえこんなに悪縁ばかりぞ……」

 

 もうこの世の全てを嘆いた。

 どうか、誰か、私に降り掛かる理不尽を全て殺してください。

 

「おーい、リィンちゃん!」

「アルスさん……?」

 

 苦笑いを浮かべた月組のアルスさんが紙袋を手渡した。

 

「呼んだのに忘れないでくれよ、ほい、土産。俺以外来てないから競争率高かったんだぜ?」

「くじ引き?」

「あみだの方の、だな」

 

 チラリと紙袋の中身を見てみる。

 そこにあったのは細々としたものがいくつか入っていたが何かしらの書物。そして服や靴などの衣類だった。

 

「後で確認するです」

「それがいい。でもある意味好みに合うと思う」

「でも、恐らくこの中に存在するであろう武器の説明だけ宜しきです?」

「もっちろんだ!」

 

 アルスさん、代表作が改造海水鉄砲というように武器を開発改造するのが好きなので多種多様に取り揃えてる。

 時々将校からも依頼が来るらしくて本当に月組って使えるんだなぁ、と思うよ。

 

「なぁリィン、そいつもしかして月組っての?」

「そうですぞ! 海軍時代一緒の雑用ですた!」

「10年は一緒だもんなぁ、今更海賊になるとか言われても敵対心出てこなくて困ってるんだよ」

 

 困ったもんだと笑うアルスさんに軽い調子で謝り仲の良さをアピールする。

 私達の表情に反してウソップさん達は曇り顔だった。ルフィ以外の麦わらの一味、そして名前も知らない連合軍だった船大工。

 

 来るであろう質問を私は覚悟した。

 

「カク、って知ってるか?」

 

 覚悟をしたのかウソップさんが口を開く。

 アルスさんは嬉しそうに笑い私と顔を見合わせたので、私もその笑顔を真似した。

 

「なんだなんだ、カクを知ってるのか!」

「何故ウソップさんカクさんご存知で? は、まさかその鼻……──生き別るした兄弟的な?」

「なわけあるかい!」

 

 ビシッとツッコミが飛ぶ。

 

「……? アイツなぁ、全く連絡寄越しゃしないんだよ。連絡先とか知らないか?」

 

 アルスさんが訝しげにこちらの顔を見る。しかしすぐにパッと表情を戻して質問をした。

 

「いや……全然……」

「あのガキ、会ったら絶対ぶん殴る!」

「全くですぞ、生死不明ろくにならずぞ!」

 

 腕を組んで頷く。

 するとウソップさんとバトンタッチしたのか船大工の1人が話しかけた。

 

「カクは結構最近うちを辞めてったんだ、海軍ではどんな感じだったんだ?」

「どう?」

「どうって、なぁ?」

 

 作り笑いが下手くそだな、なんて思いながらお手本の作り笑いを浮かべる。

 

「……私と1番歳が近くて」

「だからガキ扱いだったよな」

「で、優しいぞ?」

「気遣いが出来る奴だったから雑用仕事は将校付きだったな」

「あ、あと高いところ好きです」

「屋根の上の修繕得意だよな」

「あー、でもビビりぞ」

「襲撃事件の時に辞めちまったくらいだからな」

 

 やっぱり、カクさんといるの楽しかった。皆揃った第1雑用部屋は心地良かった。

 

──グイッ

 

 アルスさんと話していると腕を引っ張られ気付けばルフィの腕の中にいた。

 

「あー、はいはい。流石に2億の首から妹ちゃんを取ろうとは思わないから」

「ルフィ、息、息苦しき」

 

 無駄に力強いので切実に全力で抱き締めるの止めてください。

 

「いいかリー」

 

 やっと開放されたかと思えばほっぺたを引っ張られた。

 

「兄ちゃんはずっとリーの味方だからな!」

「ふひぃ、わひゃっひゃはらぁ」

 

 なるほど、月組は私の味方という認識だから嫉妬したって訳か?

 

「リィンガチ勢が本腰上げてきたな……」

「あら、でもナミは?」

「声も出せずに悶えてる」

「……可愛いもの、仕方ないわ」

「おっと、まさかロビンまで?」

「いいえ、可愛いは正義派ね。リィンとメリーとチョッパーって組み合わせとっても可愛くて」

「あーちょっと分かるわ」

「──泣かせて見たくなるのよね」

「分からねェ! 俺ぜーーんぜん分からねェ!」

 

 ウソップさんとニコ・ロビンの掛け合いが笑えない。メリー号、戻って来てくれ。今すぐ。私の代わりに生け贄となってくれ。

 そうか、ニコ・ロビンは迷惑な事にドSを覚醒させちゃったのかぁ。

 

 

 泣きた──……いや泣いたらダメだな。

 

 

「武器の説明していいか?」

「あ、はい、アルスさん」

 

 お願いしますと紙袋を渡そうと……。

 

「場所移動可、ですか? 不特定多数が存在する場で閲覧は流石に苦手で」

「じゃあリィンちゃん、10分くらいしたら俺がそっち迎えに行くよ」

「サンジさんありがとうですぞ!」

 

 私は紙袋を手元に戻すとアルスさんに着いて行った。聞こえないほど十分に距離を離した途端アルスさんは呟く。

 

「……聞いてもいいやつ?」

「後で判明可能ぞ」

「ならいいや」

 

 彼は、『カクさん』について私が何か知っていると悟った。10年の経験凄い。

 

 麦わらの一味はこれから個人で強くする方針に操る。その時、私に個人の時間が出来る。

 それが女狐として活動を始める合図だ。

 つまり、私が本部に戻ることになり、約束したCP9は自然と月組に出会う事になるんだ。その時真実を知ればいい。

 

「じゃ、武器なんだけど」

「これです?」

 

 ガサゴソと紙袋から取り出したのは綺麗な装飾が連なるブレスレット、に見える何かだろう。

 

「リィンちゃんはアクセサリーを身に付けないからプレゼントついでに武器にしようと思って」

「天才ですか?」

「リックが案を出したんだけど」

「なるほど、馬鹿と天才を両立しますたか」

 

 試作品らしくまだひとつしか無い。便利だったら量産するのも手だな。

 

「ふむ……」

 

 デザインはシンプル。

 カジュアルでもフォーマルでも、はたまたドレスを着た時だって違和感なく身に付けられる。

 

 よく見たら装飾の石は取り外しが出来るみたいだ。色味が微妙に違っているが微々たる差。

 

「使用方法は?」

「投げる」

 

 発言撤回、やっぱりリックさん馬鹿かも。

 

「正確に言うと装飾の石を箒並の速度で投げて欲しいんだ。何かにぶつかれば発動!」

「防御では無く攻撃ですね?」

「リィンちゃんって、防御力というか攻撃回避力高いだろ?」

「えっ、嘘!?」

 

 私こんなにボロボロです! 回避出来てないんですけど!

 

 アピールする為に両手を広げて包帯を見せるも彼は気にした様子を全く見せてくれなかった。

 げ、解せぬ。

 

「ちなみに注意点は、敵しか居ない所で」

「…………拡散式?」

「あながち間違ってない」

「…………………毒ですかぁ」

 

 味方にも被害が及ぶから私だけが平気な広範囲の武器、もう毒物しか出てこない。

 

「すぐに答えを確定して出せる所が素敵だと思うよ、流石俺らのリィンちゃん」

「私が確実に無事かつ便利な物を持つして来る貴方達も流石私の月組ですね」

 

 困った様に笑いながらお互い見合わせる。

 依存じゃないが心地良いのは確か。

 

「時に、これどこで入手を?」

「……企業秘密で」

 

 視線を逸らしながら言われてもやばいことしてるとしか思えない。

 どこで手に入れたんだこの毒。

 

「いやほんと……! 説明が難しくて!」

「聞きませぬから落ち着きて」

「ごめんありがとう」

 

 頭を抱えだしたから慌てて止める。説明が難しいって状況は経験した事あるから分かるよ、その頭抱えたくなる気持ち。

 

「にしても、カクなぁ」

 

 約束の時間が来てしまうので他愛も無い話を持ち出した。

 

「懐かしいですねぇ」

「船大工してたのか……。なんか意外だよな」

「はい。とっても」

 

 カクの立ち位置をどうしていこうか。

 私は『カクさん』に月組と同じ感情を抱いている設定だから、麦わらの一味の前でカクと会った時懐かしがったり駆け寄ったりする必要がある。

 

 我ながら芸が細かいな、無駄に。

 

 その時カクはどんな反応をするのが正解なのか考えておかなければ……。

 

 ま、最初から嫌悪感を滲み出して居てくれれば面倒な事にはならないだろう。いい人の面して寄ってくれば後ろからざっくりやられかねない。

 

 

 ……うん、カクの持ってる憎悪を麦わらの一味は知っているんだし、彼らからさり気なく誘導して聞き出して覚悟をする、ってシナリオに引きずり込もう。 

 

「カクさんはとってもいい人()()()ね」

「正義感溢れ過ぎて厨二引き摺ってた感じあったけどな」

「年齢的に仕方なきぞ?」

「それを年下に言われるアイツの不憫さよ……」

 

 はぁ、とため息を吐きながらアルスさんが呟いた時だ。ヒョコリとサンジ様が顔を出した。

 

「終わった?」

「はい! 距離を離すしてなんですが、知るされても無問題ですた!」

「海軍に居るヤツらからこの子に合同プレゼントってやつ。これでもファンクラブ出来る程人気だったんだぜ?」

 

 ブレスレットを付けてドヤ顔するとアルスさんが入手経路、の様な説明を足す。

 

「ふぅん、それが武器か。なんだったんだ?」

「毒です」

「…………毒か」

 

 そっかー、と遠い目をしながらサンジ様が復唱した。分かる、その気持ち。

 

「いくらガープ中将の孫だろうとこれ以上一緒に居るのは他の将校に悪いから俺もう行くな」

「はいです、また、また会えるしたならお話ぞ」

「うん、約束」

 

 海賊と海軍にという立場上、無理だろうけど。

 それを分かっているのか誰も余計な事を言わなかった。

 

 アルスさんの背中を見送る。

 さて、戻ろうかとサンジ様に顔を向けると、彼はじっと私の顔を見ていた。ギョッとした。

 

 い、いつから見てたんやサンジ様。

 

「リィンちゃん、ちょっと時間貰えるか?」

「え、は、はい」

 

 サンジ様はその場で一息吸い込んだ。その真剣な表情に体は思わず固くなる。

 

「実は、2人きりで話したいって思ってたんだ」

 

 ま、まさかこれはーーー?

 男女が二人きりで話って……。もしかしてもしかすると、こ、告──。

 

 

 

「俺が元王族だって知ってるよな?」

 

 

 あ、これあかんタイプの告白やん。

 

「何を言うしてるです? サンジさんが王族?」

「……はぐらかさないで欲しい。って、言っても女の子にあんまりこうやって尋問したくないんだけどさ」

 

 あ、尋問なんですね。

 しかも誤魔化しも効かないと。

 

 ……。

 …………。

 

「ッ、申し訳ありませんです知ってますた!」

 

 土下座した。もう何もかも投げ捨てて土下座した。だが、私はサンジ様の真意に背くことを表立ってはしてないぞ!

 

「あ、うん、だろうなぁ。世界会議にビビちゃんと行ってたから実家の人間に会った事あるだろうし、俺の事ポロッと様付けしてたから」

「ビェッ! サンジ様の事言うしてません!」

「ボロは出てたけどね」

 

 隠そうと思っていても心は隠せないし実際誤魔化せずボロっと心の中で呼んでる呼び方で呼んでしまっていたらしい、それに王族だとしてもリィンには関係ないけど女狐には未だに関係があって私が女狐だとバレたら無礼千万。それに私はレイジュ様方にもうサンジ様が麦わらの一味に居るという事を話しているし。

 

「……ぅ」

「リィンちゃん……?」

 

 首を傾げるサンジ様の心配そうな表情。

 

 

 

 ──胃がもう無理だって言ってる。

 

 じわじわと胃から溢れ出す何かを堪えきれずに私はトマト色をした嫌な液体を吐き出した。

 

 これだからトマトは嫌いでござる。




胃「むりぽ」

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