第179話 隠していた本音
サンジ様とその他を海に突き落として荒っぽい脱出をさせた。胃が死んだ。
まぁ胃が死んでいるのは普段通りなので置いておき、問題はこれからの事。
イメージして靴を浮かせるという偽月歩を使ってニコ・ロビンを捕獲したはいいんだけどエニエス・ロビーでどう逃がせばいいのか検討ついてないんだ。
結構行き当たりばったり人任せというか。
「久しぶりに戻ってきたな、感慨深い」
「……………死にやがれクソが」
海列車が止まりロブ・ルッチが声を漏らす。
のうのうと楽してるCP9に思わず苛立ちと共に本音が漏れた。いっけなーい!女狐ったらドジっ子なんだから!ドジっ子ってこんな感じだったっけ!?
「いい加減機嫌を直さんか」
「……………」
隣で独り言を聞いていたカクさんに背中を叩かれるが返事はせずにつま先を踏む。「い゛ッ」と声がしたが気にしない。
実はエニエス・ロビーに着くまでにアクア・ラグナがやって来てしまった。予定より早く来た高潮の規模に正直びびった。
CP9、こいつら何をしたと思う?
『どうする気じゃい女狐?』
カクさんは黙って欲しかった。人の警戒心を解く爽やかな笑みが今は憎い!
ほんっっっと、頭痛い。ジンさんの魚人の技を再現してみたんだが思ったより上手くいかなくて蒸発っていう状況になったんだけどな。
全部後ろでガヤガヤと殺したいほどうるさいこいつらが悪い。
集中出来るものも出来ないんだよ。
「ほれ、さっさと塔に行くぞ」
舌打ちを返事がわりに司法の塔へ向かう。
これからすることは残りのCP9との顔合わせとフランキーさんの口を割る事。そしてめんどくさいけどこいつらの長官に合わないといけない。
護送船が出るまで要は暇だと言うこと。それなりの手続きや準備や指示があるから軍部って面倒臭いよねぇ〜。
まぁ?別に?手間を増やして時間稼ぎしてるとかァ?海軍側として言わせてもらうけどォ?そんな事一切無いんですけどねぇ?
「正門を開けェーーーーッ!」
海兵の令でエニエス・ロビーの正門が重々しい音を立てて開く。右手に海兵、左手に役人。そして目の前に巨大な正義の門。
夜の無い島、通称不夜島のエニエス・ロビーは明るく奇襲には向かない。挙句の果てに滝つぼの様な位置に両側から生えるような島をエニエス・ロビーという。島の周りと中央はくり抜かれた闇。空さえ飛べなければ為す術もないだろうな。
最終作戦は正面突破にしておいて良かった、下手に混乱を招くよりは考えなしでも突っ込んで貰う方がいい。
「女狐大将…!」
将校であろう男に呼び止められ立ち止まる。
CP9とは距離を離して話を促した。
「海軍元帥より連絡を承りました」
「……!」
「司法の塔より護送船の置かれている橋へ行くには地下を通る必要があり、CP9は長官を含め全部で8人。内4人が塔に居るそうです」
センゴクさんやばいありがとう!超助かる!
にしても地下か……なるほどなァ。空から行くことはほとんど無理だと言うことか。
「……………了解した。ご苦労」
「は、はい!」
敬礼を尻目にCP9の元へ戻る。
「なんの用じゃった?」
カクさんの事は確実に無視をする。
さて、時間を計算すると恐らく麦わらの一味含む連合軍が来るのは約30分後。CP9が早期に発見しないように、その間にルフィ達が雑魚共を潰す必要があるのか。
要するに、女狐を目くらましに使えばいいわけだ。
本島正門をくぐり裁判所を通り抜ける。ニコ・ロビンとフランキーさんは大人しくしてこちらを警戒し切っている。
そして。
「やァ女狐、会えて嬉しいよ」
「……………あァ」
遂に他のCP9や、その長官と挨拶を交わすことになった。
長官スパンダム。
CP9メンバーは
ロブ・ルッチ
カク
カリファ
ブルーノ
クマドリ
ジャブラ
フクロウ
以上合計8名。
私の敵だ。
なんかいきなりこいつら道力とか言うパワー数値測りだしてビックリしたけど。
「女狐ぇ、お前もやってみんか?」
「……………意味が」
「いいからやってみんかぁ!」
背中を押されてフクロウという男の前に立つ。
「武器を持った衛兵が10道力とするチャパ!」
ということはロブ・ルッチが4000だったから400人力………。ん、でも衛兵ってどれくらいの強さだ?衛兵は警備兵でしょ?雑魚じゃない?
「……………衛兵、とは」
「あぁ、聞き慣れんか。海軍で言う准尉辺りじゃなぁ」
ならそこまで強くない?あれ?基準が分からなくなってきたぞ?
微妙な地位を出されても分からないな。ガープ何分の一とかセンゴク何十分の一とかなら分かりやすい!……いや分からねーや。あの人たちの本気知らないもん。
「………………ッ!」
とりあえず何も考えずに思いっきりぶっ叩いてみた。勿論フクロウは簡単に吹き飛ばされない。
「チャパパ!300道力」
おお!30人分!私にしては鍛えた方か!30人か!そっかそっか!かなり嬉しい気がする!戦闘民族では無い私が刀振り回して避けてるだけでそれだけ育ったのか!
衛兵って事は多分大人だろうし子供にしてはよくやった方か!
「手を抜くなや!」
「本気出せ」
カクさんとロブ・ルッチが詰め寄って来る。
いや、これ本気なんですけど。
「もう1回!もう1回!」
「……………チッ」
もう1回殴ってみる。
「20道力チャパ……」
「女狐ぇえええ!」
カクさんうるさい。
「……………殴り方を知らん馬鹿共は実践で勝てるのか?」
「おい……それは俺たちのことを言ってんのか昆虫食い」
長い髭を垂らしたジャブラが凄い形相をして詰め寄って来る。
「さてな」
鼻で笑って椅子に座る。全員の視線が注目しているうちに不思議色でこっそり電伝虫の受話器を外しておくのも忘れない。
本命はそっちだ、でなければこんな茶番に付き合わない。
これで連絡は来ませんね!
「クソが…女の癖に」
「……………はァ」
まぁ弱いのは認める。
「……………では聞くが、ロブ・ルッチが衛兵400人程度の実力か?」
「……それ、は」
「お前は衛兵何人分の働きが出来る?」
「何千人であろうと出来るに決まってるだろ!」
そういう事だ、と言う代わりに腕を組んで座り直す。ジャブラはそういう事じゃないと言いたげに睨んでくる。
そんな中口を開いたのはカクさんだった。
「なんじゃ、今日のジャブラはやけにつっかかるのぅ。どっかの狐と同じよう…──おお、視線だけでも怖いわい」
「今衛兵達の間ではジャブラが昨日キャサリンにフラレたという話で持ち切りだー」
「それでか」
「ちょ!ちょっとまて!何故その話を皆が知っているんだ!」
「俺が喋ってしまったーチャパパパ」
「てめぇかぁ!」
CP9はやかましい。それだけは分かったから黙ってくれ。お願いします。
これひょっとして女狐を目くらましに使わなくても平気なんじゃない?こいつら自体が目くらましじゃない?
「ともあれ5年間の任務ご苦労だったお前ら。カクはろくな休暇も無かったので10年か」
「長官」
「……ん、おお、すまんすまん」
カクさんが注意しスパンダムは口を閉ざす。
……私は彼が13の時に出会った。そこから5年騙され続けていたわけか。
これは確定かな。
「………ッ」
たった1人、されど1人。1番歳が近くて1番距離があった。
……やっぱり辛い。
月組は私が唯一信頼しているのだから。
「渡したい物もあるが、あの二人を呼んできてくれ……!」
海兵の私が居るからかスパンダムは発言に気を付けている。実際記録しているわけでは無いからどうしようも出来ないんだけど。
ロブ・ルッチが扉の外に置いていたニコ・ロビンやフランキーさんを連れてくる最中、スパンダムは私に質問をした。
「女狐、アンタは古代兵器をどう思う?」
「……………興味無い」
「ワハハ!無関心か!それもまたいい!」
機嫌が良いのかスパンダムは大笑いをする。
この人は正義の方向性が違うのと平和を維持する事を義務感と思っているから横暴なんだろう。
悪い人では無い。決して出世欲に塗れている訳では無いし、狡猾だから上にひたすら使われる事も無いだろう。自分が悪人でなければ害はない。
武を持って武を制す。
手っ取り早く確実な方法。否定するつもりは無いけれど、その武を正しく使える大人だったら私は反抗しない。
今の政府は赤子同然。
古代兵器という武器を渡すには不信感が勝る。
三大勢力の『海軍本部』『七武海』『四皇』とタライ海流で繋がる『海軍本部』『エニエス・ロビー』『インペルダウン』は全く別物。
基本武力を持たない政府が力を欲するのは分からなくもないが……。
そんな考え事をしている間にロブ・ルッチが目当ての2人を連れてきた。
「8年ぶりだな、カティ・フラム。まさか生きているとは思わなかった……!お前が生きて設計図をもっている事を知ってさえいれば!過去の罪でしょっぴく事も出来たというのにッ!」
スパンダムは過去に因縁があるのかフランキーさんを睨み付ける。
「それに引き替えお前の兄弟子のアイスバーグは厄介だった……。恨みがあるはずの世界政府に自ら近付き我々も下手に手を出せなくなった!」
──グイッ
なんの因縁があるのか暇潰しに予想しているとカクさんに腕を引き上げられた。
「お前が聞いて気分の良い話じゃ無いじゃろ」
心配そうに顔を歪めている。
「……………関係な──」
「外で話をせんか?長官はこうなると長い」
「……………必要ない。聞かれたらマズいと?」
「いや、そうでは無い。ニコ・ロビンについても話したい事がある」
「カク?」
「なぁに、気にせんでくれ。ちょいと逢い引きさせて欲しいだけじゃ」
「ぶち殺されたいか」
自分でもビックリするくらい低い声が出た。
スパンダム達はビクリとしたのに、カクさんは一切気にせず飄々とした態度を崩さない。
その心配した顔だけはやめてくれないかな。
そこまでしてない抵抗も虚しくあっさり外へと連れ出される。見張りは中にいるせいか廊下はがらんとしており思わず眉を顰めた。
「女狐」
「……。」
「あの男は海賊王の船を作った男の弟子じゃ、もちろんその兄弟子のアイスバーグも、な」
「……………で?」
「……そんな事はただの言い訳じゃな。女狐、お前大丈夫か?この作戦に思う所もあるじゃろう」
海軍に居た経歴があるからか、海軍の方針を知っている。
「正直政府はニコ・ロビンを使おうとしておるわい。けど海軍は違う。ただ捕縛する事を、罪人であろうと最低限の尊厳という物を守っておる」
インペルダウンの内容は尊厳もへったくれも無いから飴と鞭の様な気がするけど、海軍は罪人を利用しない。
騙して捕縛する事はあるけど。
「お前がいつから海軍に居るのかわしには分からんが…──」
心配そうに眉を下げてカクさんは手を。
──ダァンッ!
手を伸ばして私の腕を壁に押さえ付けた。
「ッ、何を!」
「──わしが海列車でお前に会った時お前の腕を掴んで挨拶をして質問したのは覚えとるな」
カクさんの足は1本で自分の体を支え、残る1本で私を押さえつける為に足の間に入れていた。
やばい、動けない……。
反抗の為に彼と視線を合わせると思わずゾッとした。
さっきまで心配そうな様子を見せていた表情はストンと抜け落ちていた。
ハニートラップの1種だったかと今更ながら悟る。やばい、カクさんだからかより一層効く。
「『わしを知っとるのか』と聞いた。甘いのォ女狐、脈が知っとると言っておったわい」
脈拍……!?
は!?そんなもので判断したの!?
「震えておるぞ女狐」
やばい、やばい。かなりやばい。
知ってるに決まっている。詰めの甘さが招いた事は分かるけど動揺するなという方がおかしい。
だって、カクさんは月組だったんだ。
何も持たない平凡な雑用で、好きも嫌いもある普通の人間。
力、能力、そこら辺にとことん関わりのない極一般的な雑用。
「剥ぐぞ」
口で仮面を咥えられたと、混乱する頭で認識した瞬間後ろで結んでいた紐をぶち切る様に外された。
目が合った。
ギリリと手首を掴む力が強まる。
カランと陶器の仮面が廊下に落ちる。
バレた。バレた。
カクさんに、よりにもよってこの人に。
「ふッ、ざけるなぁぁあ!」
カクさんが振りかぶった拳を間一髪で避けると石造りの壁にヒビが入り崩れた。その勢いを殺せず私は部屋の中に転がり込む事となった。
部屋の中にはニコ・ロビンが居る。
それだけは頭に入っていたので、フードを引っ張って顔や髪色が見えないようにするだけで精一杯だった。
受身も何もかも取れず吹き飛ばされた壁と共に地面をゴロゴロと転がる。
普通に痛い。
でもあの拳を喰らわなくて良かった。
「カク!?」
「おいお前ら一体どうし…ッ」
起き上がろうと地面に手を着いたがそれより速く、まるで風の様な速さでカクさんが胸ぐらを掴みあげた。
地面に背を付けて居ては力が入りづらい。
そもそも2000オーバーの道力持っている人が正面から押さえつけて居て、私が起き上がれる筈ないか!
ちくしょう!ふざけている時間も余裕もない!
「なんで、お前なんじゃい!」
「……………どけ!」
「なんでお前が大将などという馬鹿げた地位に就いた!恵まれた環境に、人間!何故お前のような腑抜けた人間が!」
乗られてるせいで腹が絞まる上に、手は胸ぐらじゃなくて首に移動している。
その目に映るのは明確な殺意。
怖い。この人に殺意を向けられる事が怖い。
そうだよ私は腑抜けてるよ!それがなんだ!
「う、るさい!」
渾身の一撃、とまでは行かなかったが風の力も使って体勢を逆にする。今度は私が上だ。
「お前にとって恵まれた環境かもしれない!知るかそんなもの!私は必要なかった!譲れる物なら譲りたかった!他人が心から必要と欲しても私は心から必要無かった!」
口調、声色。私は女狐だ。キープしろ。
でも溢れる感情は制御出来ない。
「なんでお前がここに居る!なんでお前だ!」
第1雑用部屋の人間じゃなければ良かった!
耐えきれない!
私にとって月組は他の言葉に表せないほど大切な存在なのに!どうしてカクさんが海軍に居たんだ!別の人間ならどれだけ良かったか!
センゴクさんや親友や家族ですら信頼していないのに!唯一信頼したのは月組なのに!
「お前がそれを言うかッ!」
ゴロゴロと横に転がり次に上を取ったのはカクさんだ。
「そうじゃ欲したわい!他人に認められても業績などとんと持たんお前が死ぬほど羨ましい!その気運をどれだけ羨ましいと思ったか!」
「お門違いも甚だしいッ!」
「あの時お前さえ殺していたら……!面倒な事にもアイツから話を聞き続けることも無かった!」
誰が死ぬか馬鹿野郎がッ!
「何発殴っても気が済まない!」
「お互い様じゃな!」
「貴方達いい加減に…」
「「──黙ってろ/おれ!」」
カリファの言葉に噛み付く。それよりカクさんの方が今は頭にきてる。
13のガキじゃ無いのに人にどうしようも出来ない感情ばっかりぶつけてきやがって!私がどれだけ災厄の出会いと出来事を要らないと思ったか知らないくせに!
「私だって人間だ!」
「その態度が気に食わんッ!血を吐く思いでどれ程の修行に耐えてきたと思っておる!それなのに手に入れた力はお前より──媚び売って腑抜けたお前より下じゃ!なんでお前なんじゃい!」
上になり下になりとどっちつかずの攻防。
「屁理屈ばかりでどうしようもない八つ当たりをされては腹が立つ!お前は何故CP9だ!」
カクさんがCP9でなければ良かったのに。海軍に入らなければこんなに苦しい思いをする事なんて無かったのに。
「元帥に大将!七武海!どうしてお前ばかりが選ばれる!正義の為にお前が何をした!世界の為に一体お前が何をした昆虫食い!」
私は常に私の安全の為に動いている。世界なんて知らない、正義なんて関係ない。『守りの海兵』なんて言われてるけど私は『護りの海兵』で自分を護る事を最優先とする。
「残った者達が連絡の取れないお前をどれだけ心配したと思っている!お前は!信頼を!踏みにじった!それが答えだ!」
殴っても止められ、殴られたら避ける。
頭に血だけが登る無駄な口論。
「お前の正義は世界で不要!」
「お前の時間は私の無駄を生んだ!」
「──お前など、死ねばいいッ」
その理不尽な怒りは私にとってどうしようもない程正論すぎて、猫の皮被っていたとしても5年共に過ごした知り合いからの明確な殺意に泣きそうになった。
カクさんを思いっきり突き飛ばし予備の仮面を取り出して着ける。
私が自己中心的な人間なのは、幼い頃から知っている。開き直ってるしそれが私だと認めてる。
自分本位で何もかもの嫌な事を堕天使のせいにして、根性無いから逃げてばかり。
それなりの力はあるのに上手く使えなくて、むしろ使ってなくて。チートじゃないとか言いながらその可能性を自覚して。
知ってるんだよそんなこと!
親の実績引き継いで七光りな事!ずっと私の純粋な能力だけでここまで生きてきたわけじゃないって事!友を、協力者を、手に入れたわけじゃないって事!
何より誰より私が1番知ってる。
罪悪感は抱かないのに虚しさは感じるなんて自分本位だからこそじゃないか。
「………知ってるぞ、ずっと」
仮面とフードが零れる涙を隠してくれた。
ここまで続けているシリアス展開。
ビックリするほど落ちる感想数。作者の体調不良を疑い出す読者。それでも変わらないテンションの『リィン〇〇(挨拶)シリーズ』読者。
素直だなおい。
私は!!!超元気!!
シリアルじゃなくても最近嬉々として書いてるよ!というわけで原作ワンピース『海賊の海兵』も見てみてね!同じ作者が書いてるよ!
というかシリアスまだまだ続くんでシリアルはお預けです。
リバウンドって言葉を知っているかい?つまり、後は分かるな?
ちなみに今回の話はこの作品を始めて最初の方にあったご指摘的な感想を反映させていただいています。
昔の鉄槌は二度と踏むまいて……ッ!(ツッコミ待ち)