2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第178話 使えるものは全て使う精神の代役

 

 

「……………接近戦闘兵と狙撃兵を同一視するなど馬鹿げた話だ」

 

 そう言って女狐は再び眠りにつこうとした。

 いや、先程からずっと寝ていたのだ。言ったのでは無く寝言、動いたのは寝相。

 

 ウソップは言葉の意味を考えようとしたが、来襲した危機にそうもいかなくなった。

 

「鼠が紛れ込んでいた様だな」

 

 ロブ・ルッチ。

 ウソップが造船所で出会った男が扉を蹴り飛ばしながら入り込んだ。

 

「女狐、相手は貰うぞ」

「……………。」

 

 女狐は何も反応せずに席に着く。それは『どうぞご自由に』と行動で示しているも同然だった。

 

 海列車の屋根の上に居た男を倒したはいいが正直この男に敵うとは思えない。

 ウソップとサンジはリィンに言われた『敵に見つかった場合』の事を思い出していた。

 

『いいですか、敵はロビンさんの知識とフランキーさんの設計図狙いです』

『CP9以外の誰かの目がある場合にのみ、命を屠る事では無きです』

『まぁむしろ人の目が無いなれば海難事故などと称して殺す事もあるですが……』

『ロビンさんが政府に非協力的で抵抗が見るした場合誰かしらの監視が付くと思いますが、まぁ1人くらいでしょう。軽く意識を落とすのも手ですが喋らぬ様に口を塞ぐなどがいいです』

 

 ここまでは理解出来た。理由はとてもよく分かる。運に恵まれていたのか監視の目は自分達の行動を黙認した女狐で都合が良かった。

 

『もしも逃げる為に海に落ちる途中、敵に見つかるした場合』

『視界を奪うし人に紛れるがいいでしょう』

 

『中には絶対海兵が屯する場所ぞある。そこまで逃げ込むするか最後尾に行くするかして……外へ飛ぶしろ。そして泳ぐ』

 

 リィン本人は見つかった場合の作戦なんて適当に考え、女狐がロビン以外の人間を取り逃がせばいいやとしか考えて無かった。

 しかし本音を知らない面々は違う。その言葉を信じて作戦を実行した。

 

「〝煙星〟!」

 

 ウソップの放った煙に紛れ、4人は最後尾にまで急いだ。

 車両一つ一つに煙星を放ち視界を奪う。

 CP9に捕まる前に人が多い所へ…!

 

「……………馬鹿が」

 

 海兵が屯する車両に踏み込んだ時、煙を放つよりも早く、低い中性的な声が聞こえた。

 

──ドガァンッ!

 

 空気の塊に殴られたと錯覚する。

 横からの強い不可思議な衝撃に4人は車両の壁を突き破って海へと叩き付けられた。

 

 突然の出来事で海水を飲み込む。

 荒れた冷たい海で自分の位置を確認しようとするがもがくだけ。

 脳が鋭い痛みを訴え、ようやく海面に出た。

 

「な、んで……!」

 

 女狐はもがき苦しむ自分達を空中から見下ろしていた。

 まるで足元に透明な床がある様子だが、荒れた波が何も無いと教えてくれた。

 

「……………フン」

 

 女狐がウソップとサンジの顔を見るが即座に視線を外し右手を持ち上げた。すると海水に包まれ気を失ったロビンとフランキーがゆっくりと浮上していく。

 

「……………足掻け」

 

 小さく聞こえた声に聞き返そうとした2人だったが女狐は目的の2人を連れ空中を走る様にして海列車に戻って行った。

 

 月歩などと違い何度も足を動かしているわけでは無いのに。その不思議な現象にサンジはぞわりと背筋を凍らせた。

 

「………クソ、作戦失敗か」

「とりあえず路線まで泳ごう」

 

 幸いな事にこの荒れた海でも泳いで海列車の路線に戻れる距離だ。

 

「なぁウソップ」

「ん?」

「ひょっとしたら、女狐を使えるかもしれねェ」

「……は!?」

 

 サンジは嫌な記憶を通じてある確信を得た。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「はーー…やべーやつが居たんだな…」

「女狐かァ。嫌だなァ……アイツ相手すんの」

「うっ、なんで大将が……」

 

 線路から引き上げられた2人が『敵に女狐がいる』と伝えた列車内は鬱々とした空気になった。

 

 後方発、海列車〝ロケットマン〟

 元々試作品として造られていた海列車をアイスバーグが1日かけて修繕改造し、操作している暴走海列車だ。

 爆発的なスピードを生み出すが止まれないと言う不良品だったが、そこは流石7つの造船会社をまとめあげた腕を持つアイスバーグ。操縦が難しいと言う欠点があるが見事海を走っていた。

 

「ちょっと教えて欲しい事がある」

 

 濡れた服の着替えが終わりタバコの煙を吐きながらサンジが連合軍に視線を送った。

 ここに居るのは麦わらの一味だけでは無い。

 連合軍なのだ。自分達が知っている事以外の情報を持ち合わせている可能性がある。

 

「女狐について、確証のない噂でもどんな些細な事でもいいから知っている事を教えて欲しい」

 

 面々は顔を見合わせたがポツリポツリと噂話を口に出す。

 

「守りの大将だったよな」

「七武海の宿敵だとか………」

「『昆虫食い』だって言われてる」

 

 確証のない噂の中でパウリーが確定された言葉を使う。聞き覚えのない呼び方に首を傾げた。

 

「ウチの職員のカクと役人が話してた」

 

 ニュアンスとしては馬鹿にしている感じだったと言う。そのカクは後々苦笑いをしながら教えてくれた。

 

 『昆虫食いっちゅーのはじゃな、特別功績も上げず雑魚ばかり狙っておるってことじゃ』

 

 女狐に対する評価が少し下がった気がした。

 もちろん畏怖や嫌悪、どちらかの感情を込めて言ったのであろうが政府の役人には好かれていない様子だ。

 

「ンマー、話は聞いたぜ」

 

 汗を拭いながらアイスバーグが出てきた。

 

「おっさん、海列車の操縦大丈夫なのか?」

「おう、フランキー所の奴に教えたから数分は持つだろ」

 

 疲れたのかドカッと座席に座り腕を組む。

 ウソップの疑問を返すと先程まで話題の中心にあった女狐についての話をし始めた。

 

「アイツはなぁ……島の頂点に立つと関わってくるぜ」

「頂点つーと国王とか?」

「おう。俺ァ関わらない方針を取ったんだけど」

 

 サンジが表情を固くする。

 

「アイツは『守りの大将』って言われてんのは知ってるか?……現時点で存在する4人の大将にはそれぞれ特徴があってな。女狐が現れてから明確になって来た」

「特徴って?」

 

「過激派の赤犬は『海賊』、青キジは『民』、黄猿は『世界貴族』、そんで女狐は『王族』だ」

「っ、やっぱりか」

 

 条件反射の様に顔を上げたサンジに全員の視線が集まる。

 話をしていたアイスバーグでさえ口を閉じサンジを見ていた。

 

「話、中断して悪い」

「おお…別にいいんだけどよ…アンタが話を切り出したんだし……」

「いや、うん、これなら多分女狐を使える…」

「さっきから思ってたんだけどよ、それってどういう事だ?」

 

 確認する様に呟くサンジにウソップが首を傾げて言葉の意味を聞く。

 

 サンジはある言葉を思い出していた。

 

 『王族は守れ』

 

 仲間の為だ。なんでも利用してやろう。

 リィンという参謀が居ない以上、現地で頭が回るのは王族として教養を積み、その上戦えるサンジしか代役は居ない。

 

「船長」

「おう」

 

 サンジは海列車の揺れる車内でルフィに対し土下座をした。

 

「仲間にも言えない秘密を、俺は持っている」

 

 リィンが聞いたら盛大な巻き添えを喰らう言葉をサンジが放った。ルフィはその言葉に何も反応せずに見ている。

 

「でも、仲間を騙してるつもりは無い」

 

 リィンが聞いたら盛大に罪悪感を刺激される言葉を放つ。

 周囲は息を呑むが口は挟まなかった。

 

「女狐の相手、俺に任せちゃくれねェか」

 

 ルフィは確認する様に口を開く。

 

「アイツ、多分かなり強いぞ」

「あァ」

「俺達が敵う相手じゃないぞ」

「分かってる」

「………死なない、って言えるか」

「死なねェ」

 

 俺が倒したい。

 俺が相手をしたい。

 海兵(ガープ)海賊王(ロジャー)の様に、女狐は海賊王(じぶん)のライバル。

 俺が……。

 

「任せた」

 

 ルフィはせめぎ合う葛藤を押さえ込んで自信のあるサンジに強敵との対立的な立場を託す。

 知ってか知らずか、その信頼に答えるようにサンジは屈託のない笑みを浮かべた。

 

「おい」

 

 海列車の上に居たゾロが雨に濡れた体で車内に入り込む。くいっ、と顎で進行方向を示すと、海の変化に強いナミがまさかと顔を青くする。

 

「アクア・ラグナが来たのね」

「まてまてっ、このタイミングって事は同じ路線の先を走ってたロビン達はどうなったんだ!?」

「そこはあれだろ、六式使いのCP9と女狐がいるから……」

「お、おお、そうだな……」

 

 慌てるウソップに六式の知識があるサンジが呆れた目で言った。そしてトントンと革靴を足に合わせながらゾロに視線を送る。

 

「たかが海水に船長が動くまでもねェな」

「どっしり構えてろ」

「けどなぁ、俺も体動かしてぇんだ」

 

 リィンが時々人間やめてるわと思う3人のやり取りにパウリーが口を挟む。

 

「そうは言ってもあの高潮をどうするつもりだよお前ら……」

 

 窓から前方を見ながらの声は近年稀に見る高潮の規模にやや強ばった声だ。

 

「斬る」

「蹴る」

「殴る」

「まぁお前らってそうだよな」

 

 どこかデジャブ感を感じながらウソップはその力量差と発想に恐れ慄いた。

 

「(コイツらと俺は役割が違うんだ……焦るな)」

 

 しかしその目に劣等感は写って無い。

 女狐の寝言で違いというものを認識した。

 

 狙撃手は援護が花道。本来であれば敵を倒す為の立場では無いのだ。

 

「まぁ仲間を信じろ船長」

「俺とクソコックだけでも十分過ぎる」

 

 最終作戦S:正面突破 開始──!

 

 

 

 

 

 

「………………皆、スゲェよ」

 

 誰にも聞こえない程小さな声で誰かが呟いた。

 


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