2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第138話 渡り鳥は…とりあえず焼き鳥食べたい

 

 

 ドフラミンゴは、正直言って暇をしていた。

 

「よし、クロちゃん所遊びに行ってくる」

「まって若様のクソ野郎!私も取り引きの島に行きたいから連れていって!」

「おーおー怖ぇ反抗期だな」

「当たり前だろっ!あんたは私の婚約者をっ、町ごとっ!」

「ベビー5は頼まれると断れないのがわるいだすやん。借金いくらだ?」

「うるさい!私の人生に4千800万ベリー!」

「あ、200万ベリー貸して」

「──私っ、必要とされてる…!」

 

 男の家はいつも賑やかだ。

 

 

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「遊びに来たぜ!この俺がな!」

「忙しいって言ってただろうが鳥野郎っ!」

 

 投げつけられた酒瓶を避け、友人と言えない微妙な関係の男の椅子に勝手に座る。

 

「ったく、これからが国盗りの本番だってのに…!」

「本当にやるつもりなのか」

「まぁな。引っ込みつかねぇだろ」

「…………手伝ってやろうか?」

「………信じられねぇ」

 

 ──計画が失敗する様に、な。

 

 本音を酒と共に飲み干して。

 

「ドフラミンゴ」

「あァ?」

「………楽しかった」

「おう…──って、え!?クロちゃん!?今なんて言った!?もしもし!?クロコちゃん!?」

「だァ!ウルセェ!」

 

 

 

 

 

 ドフラミンゴはクロコダイルを懐にこっそり入れていた。家族の他に、もう一つ。

 

「同じ道を歩けば…逃げられねェんだよ…鰐」

 

 

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「待って、クロさん!クロさん言うした、昔!『計画さえ無ければセンゴクを潰したい』と!そんな頃からずっと計画していた!何故、私を外交カードに使うしなかった!?」

「…………。」

 

 なぁクロコダイル。俺達の玩具は鋭いよなぁ。

  

「ビビ様と幼馴染みの私と知っていながら、どうして引き込もうとすた!?」

「……黙れ」

 

 何年お前らを観察して、何年つるんで来たと思ってるんだ。気付かない訳ないだろ。

 

「もしもそれがカードなれば、何故脅すしなかった!私が弱いのは、よくご存知!」

「黙れ」

 

 こいつは愚かな程賢く、痛い程優しい。

 

「ねぇクロさん!クロさんはッ、本当は何を企むしてる!?只の国盗りでは無いことくらい分かるぞ!」

「黙れ!!!!」

 

「説明くらい、するしろ!私の力がどうして必要ですた!!??」

 

 お前ら、泣きそうな顔をすんじゃねぇよ。

 こっちから丸見えだ。馬鹿共。

 

 

「俺は、テメェの力なんざ必要無い!」

 

 俺の望みを教えてやろうか?

 

 …──ずっと、友になりたかった。

 

 

 お前らは、どういうだろうな。

 気持ち悪いと言うか?それとも同じだと言うか?

 

 それとも、もう…───

 

 

 

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 雨の降る夜中。リィンが船から飛び出した姿を確認したドフラミンゴは、カツカツと音を鳴らし船内へと入っていく。

 

「…! ドフラミンゴ」

「よォスモーカー君。クロコダイルと話しても構わねぇか?」

「………お前もか」

 

 スモーカーは七武海のワガママに振り回されるが為か、頭を押さえた。

 

「月組を供に付ける事を妥協してくれるならな」

「フフフ…構わねぇぜ」

「グレン!」

「俺ですか…」

 

 指名を受けたグレンはため息を吐く。

 

「お? 会員No.0君」

「やめろ下さい!頼むから俺を巻き込むな自称キチガイ!」

「おい、なんだそれは」

「リィン情報だ!意訳するけど『ドフィさんってキチガイのフリしてるだけで()()大人しいよね』ってな!ちなみに俺も今猛烈に痛感してる!ウチのリックの方がキチガイだ!」

「そんな力説する事か…」

 

 ──やはり、良く分かってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロコダイルは牢獄の前に現れたドフラミンゴを見やった。

 

「お似合いだぜぇ?」

「近々お前も入る事になるさドフラミンゴ君」

「おーおー。元気そうだな」

 

 ヒラヒラと手を振りながら能天気に笑うドフラミンゴに殺意を抱きながら、クロコダイルは掻き消すようにため息を吐いた。

 

「……何かあったのか?」

「お前、は……ッ!」

 

 どこか鋭い疑問に再び殺意が生まれた。

 

「クロコダイル?」

 

 おかしな様子のクロコダイルにドフラミンゴは首を傾げる。隣で月組の2人がヒィヒィ言ってるのが印象的だ。

 こいつら何があった。

 

「…………絶対言うか」

 

 クロコダイルが視線を逸らすので、仕方ないとドフラミンゴは牢番2人を見る。

 

「ちなみに、俺ァここにリィンが来たことを知っている。海賊がここに来ちゃならねぇ事を知っている。クロコダイルの様子からして来ただろうと予想している」

「お、なら立場知ってるパターンだな」

「はァ!?おい鳥野郎!まさかお前知ってた…のか!?」

 

 『堕天使』ではなく『女狐』が来たこと。

 それを察したクロコダイルの殺気があっという間に膨れ上がった。

 

「……し、七武海就任したてから?」

「テメェ絶対腹の中で笑ってやがったな」

 

 図星なのか、ドフラミンゴの視線は月組に向く。話題を変えるのと同時に、生まれた疑問に答えてもらおうと。

 

「お前ら何があった…これ?」

「グレンに聞かれたんなら答えにゃならんな」

「なぁ〜?」

「気ィくらい使いやがれ雑用共ッ!」

 

 代わりにグレンが聞く。当たり前だがクロコダイルが阻止しようと睨んだ。

 

「実はなァ」

「おい!雑用!」

「あー、クロちゃんちょっと黙ってような」

 

 糸でクロコダイルの動きを封じ第三者の意見を聞くことにする。恨みがましい視線で見られても海楼石によって封じられてる彼は怖くなどない。

 なんだかんだと初対面である七武海に恐怖を抱かず話せる月組は、リィンの影響によるものが強いだろう。

 

「それが……イル君は哀れにも振られてしまったんだ」

「「ゲボフッ!」」

「おかしな音がしたけど大丈夫か2人とも…」

 

 恐ろしや月組…七武海に一撃加える事が出来るとは。

 …色んな意味で。

 ドフラミンゴは『イル君』の名に少し聞き覚えがあったが、とりあえず頭の端に置いておきクロコダイルに向き直った。

 

「……どうする鰐、月組に面白おかしく語られるくらいなら自分で説明するか?」

 

 自由になった頭がコクリと頷いた。

 げっそりしている、ような気がするだけだが。

 

「…『愛してた』と、言った」

「……え、誰が?」

「…俺が」

「……鰐、お前ガチだった?」

「…ちょっと黙っててくれませんかねェ鳥野郎」

 

 語られた言葉は衝撃以外何物でも無い。あのドフラミンゴでさえ引き気味なのだから。

 ギリギリと歯軋りの音に冷や汗をかく。

 

 あ、これガチだ。

 

「そ、それでどうなった」

 

 ドフラミンゴは引き攣りそうな頬を動かし、敢えて月組2人に視線を向けると逸らされた。

 

「どうなった…」

「ガッと立ち上がって全力でスモーカーさんの所に向かって走っていき…」

「それで息切らして報告してたのか、納得」

 

 まさかの逃げ。

 ドフラミンゴは天を仰いだ。

 

「空が綺麗だな…」

「アラバスタは全土に渡り土砂降りだ」

 

 やけに冷静なグレンのツッコミは要らないと心から思った。

 

 

 

 

 

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「遅れたぁぁあ!」

 

 マリージョアの会議室、窓からいつもの様に単独行動の多いドフラミンゴが現れる。昔は船で来てたというのに、この気楽さはどうにかならないかとセンゴクが悩んでいる要因の一つだ。

 

「遅い!」

「ごめんな!センゴクおじいちゃん!」

「……殺されたいか海の屑野郎」

「うおっ、いつも以上に辛辣…。何、娘に裏切られる勢いで騙されてたから怒ってんの?フフフ…とっくに親離れしてるガキに執着してるようだったらいけねぇぜェ?」

 

 『どうせ何も相談連絡してもらってなかったんだろ?事後報告だけだったんだろ?ざまぁ』と煽るが、大参謀つるが止める。

 

「ドフラミンゴ、いい子だからおやめ」

「ごめんおばあちゃん!」

「……………ドフラミンゴ?」

「…申し訳ございません」

 

 その様子を見守っていた他の七武海は笑った。

 

『ドフラミンゴ、下らぬことを続けるで無い』

「おぉ、蛇姫。今日はリアルタイム中継か」

『フン、クロコダイルが敗れたと聞いて今回だけじゃ。ところでお主何故遅れた』

 

 蛇姫、ボア・ハンコックが電伝虫を通して首を傾げる仕草をすると、ドフラミンゴの口から衝撃的な言葉が漏れた。

 

「アラバスタで色々見てた」

「「「『詳しく』」」」

「勿論、その為に俺がいる!フフフ…良い仕事するだろう?」

 

「──では、私もお教え願いたい」

 

「何者だ!貴様!」

「願わくば、この集会、参加させて頂きたく……参上いたしました。クロコダイル氏称号剥奪に受けて、後継者をお探しでは無いかと」

 

 小刻みなステップをしながら、ラフィットと名乗る男が乱入してきた。青白く長い手足やスティックでコツコツと地面を叩く。

 

 彼曰く、ある男を推薦したいのだ、と。

 

「名は黒ひげ海賊団、ご記憶にございますよう」

「すまないがとっくに知っている」

 

 センゴクが首を傾げる中、ミホークが口を出した。

 

「おぉ、俺も知ってるぜ」

「同じくだ」

 

 他の海兵も、聞いたこと無いのか疑問符が浮かぶ。海賊特有の情報なのか、と誰かが呟いた。

 

「ドフラミンゴ、それがどういう事か教えてくれるかい?」

「おつるさんに言われたんじゃ教えるしかねェ」

『妾も知っておる、クロコダイル経由でな』

「知らないのは七武海では恐らくモリアくらいだろう。あの男は好かん、ノリが悪過ぎる」

「七武海にノリを求められても困ると思うんじゃがのぉ…」

 

 バッサリ切るミホークの辛辣な判断にジンベエが頭をかいた。ラフィットはと言うと噂と少々違う七武海の様子に混乱している。

 

「俺たちの玩ち…お姫様から情報あればくれと言われたんだ」

「七武海を手足に使う姫とか嫌だな、察した」

 

 ラフテルよりずっと遠い所を見ながらオニグモ中将が思わず言葉を漏らす。

 

「まぁ。誰にも何も言わず去ったし、敵前逃亡かました上に陥れる事に全力を出した小娘にゃ、教えねぇがな!」

「ガキか!連絡手段持ってるならせめて教えてやらんか!」

「フフフ…!フフフ!!」

 

 脳みその処理能力を超えてしまったラフィットは思わず元帥という立場の人間に聞いてしまった。

 

「仲が…良さそうですね……?」

「ギスギスしている方がありがたい」

 

 別名苦労人。本音を漏らす元帥も元帥だ。

 

『ラフィットとやら、お主黒ひげの写真などは持っているか? わらわに見せよ』

「えぇ持っていますが──…」

 

 

「…──あぁ、こいつはダメだな。もう顔面から信頼度のなさが見え隠れしてる」

「顔面から!?」

「これじゃゲームも暇つぶしも出来ん」

「ゲーム!?暇つぶし!?」

「誕生会も、の」

「誕生会!?」

『わらわもそれに参加してみたいが…そなたらが女装して、場所をマリージョアから離してくれれば、行くのじゃ』

「難易度高い!?」

「だが最近嘘つきは誰だゲームのネタが切れてきている。何かいい案が欲しい」

「待ってください、会議とは何でしょう!?」

 

 マイペースで仲の良い七武海に混乱させられるラフィットは、海兵から少々同情された。

 海軍の代わりにツッコミをしてくれてありがとう、と。

 

『女装が似合いそうに無いので却下じゃ』

「そこですか!」

『クロコダイルは随分似合っておったの…。はぁ、こんなムサイ男など七武海に入れるわけにはいかぬ』

「船長のムサさは何十年も前から変わらないので勘弁して頂きたく思います!……って、似合う!?似合うとは!?」

「大体、髭のある人間は信用ならない」

「そこにいる鷹の目は髭でしょう!七武海のツッコミ役はどこですか!」

「「「「『基本クロコダイル』」」」」

「何故クロコダイル氏は!愚かにも称号剥奪してしまったんでしょうかッ!」

 

 怒号のツッコミ祭りに肩で息をするラフィットに海兵は拍手する。呆れるしか無かった我々には新鮮な反応だ、と。

 当の本人、ラフィットはと言うと。……クロコダイルという人間を心から尊敬していた。

 

「おっしゃ〜、鬼ごっこする人この指止まれ!」

「参加する」

「わしも」

「同意しよう」

『妾もしたい』

「待って!待って!ここ一応聖地ですよね!?」

 

「乱入しとるお前さんが良く言えるな…」

 

 指を組んで顎を置いたセンゴクがボソリと呟く。七武海のツッコミを放棄し切れない男の微かな抵抗だった。

 

「ところで、アラバスタで何をしていたんだい」

 

 つるの一声とはまさにこの事、そこで意識が元の道に修正される。

 

「鰐がロリコンにされた…」

「「「『元々』」」」

「まぁ、ネタがな。うん、ネタが」

 

 ごフッ、とセンゴクが思わず血を吐く。電伝虫で放送を聞いていたが為、ストレスの限界だ。ラフィットが心配してくるので本気で黒ひげを七武海にしようかと迷う程だ。

 

「いやぁ、実に愉快。国盗り合戦を傍観して鰐と合体技して、俺ツエーしてたけど途中で飽きてよ…。そしたら鰐が麦わらに敗れちまってよぉ」

『麦わら…? リィンが居る麦わらの一味か!妾、知っておるぞ!』

「あぁ、俺も本人らに会った」

「マジかよ」

「剣士がなかなかに興味深い。弟子に欲しい」

「ミポリン今日饒舌だな」

「暇つぶし対象の海賊団の話題だ、仕方ない。センゴク、潰すなよ、頼んだ」

「海兵にそれを頼むか!」

 

「まぁた脱線しているよ、お前達。ほら、続きをお話し」

「腹筋覚悟しろよ…お前ら…──」

 

 数分後、そこには机や足を叩きながらヒィヒィ言う屍が幾つも作られていた。

 

 恐らく謎の作家がこの現状を知ったらガッツポーズをするだろう。予期せぬ所で美談が広がるのだから。

 クロコダイルの名誉の為に牢獄での話は避けたのだが、結論として変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、黒ひげ海賊団の件はどうする」

 

 ラフィットが去った後、センゴクが真剣な顔で七武海らに聞いた。

 

「却下」

「加入は認められない」

「遠慮願おう」

「同じ意見だな」

『わらわは先に言った通りじゃ』

 

 先ほどのふざけた様子とは違い、馴れ合う様子は無い。

 出された結論は厳しいものだった。

 

「俺たちは黒ひげの『情報を受け取った』んだ。誰も、この中で誰も知らない情報をな。それはかなり貴重な物だと思わねぇか?」

「……奴は『情報を俺たちに教えてもらう様にした』だけでは無く、言外に『その情報に誰も知りえない危険性がある』と伝えた。自ら危険を招く行為はしない方が的を射ている」

「元々名が無い。未知数の敵をわざわざ懐に放り込む獣は居ないだろう」

「概ね同意じゃが、ティーチは親父さんの所に居った名じゃ。細かい事が分かるまで近付きとうも無い」

『全体的に胡散臭いから嫌なのじゃ!』

 

 それぞれの理由を告げるとセンゴクは頷いた。

 

「分かった、七武海5人は却下だな。ところで他に候補はあるか?」

「……ハートの海賊団」

「いや、ここは麦わらだろう」

「そう言えば最近超新星(ルーキー)が凄い勢いで力を付けておるなぁ」

 

「面倒な…。女狐に担当させるか」

 

 その言葉に思わず反応した、正体を知るミホークとドフラミンゴは動きを止めてゆっくり告げた。

 

「センゴク、お前…。〝仏〟の名が泣くぞ?」

「その前に胃が悲鳴を上げている、弔い合戦だ」

「まぁ、少しは灸を据えた方がいいけどよ…」

 

 くまは心の中で『名を捨てて実を取る』とはこの事か、と思いながら茶柱の立ったお茶を啜っていた。

 ついでに、とドフラミンゴも啜る。

 

 

 ──茶が不味い。

 

 

 ドフラミンゴは道化の仮面を被る。ニタリと笑う仮面の下に真実を隠して。

 




裏側のお話。
ドフラミンゴの楽しい日常。正しい意味で美談が七武海と海兵+αに伝わるというオプション付きで。

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