そこにはいくつかの血痕と焦げた臭いが船に漂っていた。
「空の騎士ィ!」
ウソップの叫ぶ声。燃える槍と炎を吐く鳥に苦戦していたサンジを助けるために、ナミの吹いた笛でやって来た空の騎士も又傷を負っている。
彼らは窮地に立たされていたのだ。
「フン、この程度かガン・フォール!」
船の上は紐の試練。〝スカイライダー・シュラ〟の手によって。
「相変わらず生ぬるい男だ」
1度は空の騎士が優位に立ったものも、体力の消耗に加え、細い紐のような雲で身動きがとれなくなっていた。
「ウソップ!ナミさんだけでも連れて逃げろ!」
「でも…お前ら!」
「ここで全滅すれば結果は同じだ!」
サンジが2人を逃がそうとする。しかしシュラが見逃すはずも無くギロリと睨みつけた。
「あぁ…腹立たしき愚か者。神の土地に無断で入るからこうなる。死して詫びろ」
「燃える槍…ッ!」
原理のわからない、しかし高熱により触れたものを全て燃やす槍がメリー号へと突き刺さる。
「やめろ!メリー号を燃やすなぁ!」
その時ポツリと雨が降った。
空島には珍しい雨が。それは船についた火を消し去るまるで神のような雨だ。
「間に合った……改良型〝レイン=テンポ〟」
「お前…!レイン=テンポは宴会に使うただの水芸じゃ無かったのか!?」
「アホかぁ!使えるわけないでしょあんなの!」
ナミが
「棒の仕組みさえ理解すれば天候を自由に生み出せる!悔しいほどいい武器作ったもんね、あんた」
「お、おう!そりゃ俺はキャプテンウソ…」
「時間がかかるのは難点だけど、私の雲さえ作れば私の勝ち。どうやら空島の気候って私に向いてるみたい」
「俺の話を無視しないでくださいー…」
汗ばむ手をギュッと握りしめナミはシュラを見た。
「ここで死ぬわけには行かないの!地上に仲間を残して来てるから!〝サンダーボルト=テンポ〟!」
雷雲が大きいほど嵐を呼び雷を降らす。
それは神と同じ力を。
「ぐぁあぁあッ!」
「……私、天候と美貌に関しては天才だから」
ドヤ顔である。
助かったであろうウソップは一瞬殴りたくなったが、そうなるとフェミニストのサンジによって手痛い返しが飛んでくるので自重した。
「ゲボ…ッ、貴様…何故
「まだ生きてるの!?」
「殺してやるな…敵だけど」
「必ず貴様らは全能なる神の前に…死ぬ…ッ!」
「負け犬は、要らんのでな」
バリバリッと光線が走る。
先程のナミの攻撃と全く違う威力。まさに桁外れと言ったところだ。
シュラはその
「ヤハハハ。随分面白い力を持っているなぁ」
「だ、誰……」
味方か、とほんの少しの期待を込めて呟くように聞いた。しかし相手の口から零れたのは全く望んでない答え。
「我は神なり」
==========
快く晴れ渡る小春日和の朝。
実りの秋、運動の秋とはよく言ったものだ。まるで美酒のように芳醇な朝の日差し、アラバスタとは違い緩やかで優しい風がサラリと優しく肌を撫でるように吹く中、私は走り出したい気持ちに駆られる。
まだだ、まだ早い。
そう我慢しヴェズネ王国の北に位置する山を眺める。
北故に、か。木という木が色鮮やかに染まり、まるで木々の社交界。華やかな衣装を身に纏った山は紅葉の盛り時の様で、燃えるような美しさを演出している。
太陽の光と合わさった山の様子は、手を替え品を替え観客を喜ばせるステージの様。
そんな秋島の気候に心踊りそうだ、なのに私の心はどうして沈みこんで埋まっているのか。
外へ飛び出したい、あの山を駆けてみたい、大空を堪能したい、今まで抱いたことの無い感情が渦巻く。
秋の日は短い。刹那の時間だ。
何故、何故私は。
──電伝虫の前で心構えをしているのか。
答え、これからセンゴクさんに報告をするからです。
嫌だよぉおおおー!電伝虫かけたくないよぉおお!ふぇえんっ、センゴクさんに絶対怒られるに決まってるじゃないですかー!絶対報告を待ってるに決まってるじゃないですかー!
うっうっうっ…。昨夜、徹夜で『王族と楽しいお話(意訳)』をした所レイジュ様に痛い所を突かれましてねぇ!
『所でリィンちゃん』
『はい?』
『報告、しなくていいの…?』
『明日…しま、しゅ…。うっ、胃が…頭が…』
しなくちゃいけないに決まってるよねッ!!
覚悟を決めるんだリィン、大丈夫、彼は私の唯一の上司。可愛い娘みたいなもんだと信じてる。そんな、決して、酷いことなんて、言うわけない。
大丈夫。とりあえずジェルマには出版したら絵本をプレゼントする約束したから大丈夫。
──ぷるぷるぷるぷる…
覚悟して電伝虫をかけると数コールで電伝虫が鳴いた。
──ガチャ…
優しい上司よ!いざ、参らん!
『おかき』
「あられ…です」
『あぁ、お前か──外道』
「上司が酷い!」
思ったよりも極悪非道な扱いに頭を地面にぶつける。しまいにゃ頭かち割るわ。
『アラバスタでの放送は、スモーカーが気を利かせてくれて最初から聞いていた』
わーぉ、最初からクライマックスぅ〜…。
電伝虫の目が据わっているのが印象に残るよ。間違いない、夢に見る。もちろん悪夢。どうしよう、土下座する?軽率に頭を下げちゃう?
『頼むから、海の屑に同情させないでくれ』
「ごめんなさい」
『……分かりましたと言え分かりましたと!』
「申し訳ございません、です!」
分かりました(=同情させない事を理解しました)という言質は取らせない。もしかしたらまだ続くかもしれないし。
電伝虫の向こうで深〜〜いため息が聞こえた。
『それではまず報告から聞こうか。時間はどれほど取れる予定なんだ?』
「午前中は確実に自由です。お昼からの準備も存在するです故に1時間程度ですが」
『分かった。ではあの放送以降の話を聞こう』
ふむ、それじゃあまずは出航だが…包囲網脱出に手を回していたことを知られると拙いのでビビ様か。
「お礼に、と招かれるすた宮殿。出航にはビビ様が付いてきますたとさ。私の人生ほぼおしまい。めでたくなしめでたくなし」
『何故だ、何故なんだ…!』
「曰く、強くなりたい(物理)ですね」
私の事はかっ飛ばします。報告書回ってくるだろうが私の発言の方が事実として記録に残る。
決して、私のせいじゃない。
『扱いはどうする。一応アラバスタからは誘拐という扱いとして軍に報告を受けているが』
「表向きは手配書通りで宜しきと思いますよ。下手に王女だとバラすと人質にされかねぬ、です。そして上には誘拐でもいいかと」
『お前が居ながら、という事になるがいいのか?』
「関係ありませぬ。評価よりも最終的なる結果優先思考故に個人的には気にせぬですよ」
私の評価は大将以上が知ってればいい。
それだけで首チョンパの可能性がグッと下がるんだから。
「ま、もしも女狐の評価が軍や他国の王や五老星に必要なれば。そうですねー…『女狐はクロコダイルをおとした。その評価を得て、ビビ様の社会勉強の一貫。守り抜く、と信じて王女を預けた』みたいな感じで誤魔化して下され」
『そういう捉え方もあるか…。なるほど、『危険な目に遭わせた』ではなく『女狐が居るから危険でないと判断し預けた』という王の潔い判断と海軍への信頼を見せつける方法があったか』
「実際そちらの意味合いが強い模様ですよー、守護者コンビは納得すていた様ですたし」
『そうか。一応聞いておくがその〝おとした〟というのは〝陥れた〟の間違いじゃないのか?』
「…………間違いであり正解だと思われる」
『はぁ…?』
一言で片付けよう。
めんどくさい事にこだわるな。
次が胃を痛める原因になるんだ、心して聞け。
「次。アラバスタ出航後、ニコ・ロビンの仲間入りに空から200年ほど前の船ぞ落下。一行は空島を目指すし情報を得る為にジャヤに向か…──」
『──まてまてまてまてまて、まて』
「待つます。しかし質問は受け付けませぬ」
『受け付けろ!』
「解せぬ…」
『解せ!』
あれだけ感動した美しき紅葉が、火をつけられて絶望していく様に見えてしまう。見方によって180度様子が変わってくる…。まるで私みたい。
『…今誰が入ったと言った』
「ニコ・ロビン」
『ニコ……ロビン…だと…?』
「革命軍を勧めたのですが入らず。出航済みでしたので海賊として引き返すことも不可能で」
『なんという…厄介者を……。いいか、全力で見張れ!今この世界に古代兵器を復活させる危険性があるのはその女だけだ!』
「本人やる気皆無ですが」
どちらかと言うと歴史目当てなので恐れるべきは海軍ではなく世界政府の様な気がするけど、巻き込まれること間違いなしなので黙っておこう。
『…お前が口を割らせる立場としたらどうする』
「交渉。恩人の命を盾にする。脅す。拷問する。薬。絆す。他人にボロボロにされた状態で命からがら助け出し恩を捏造する。催眠や洗脳。記憶操作&捏造…──浅はかですたごめんなさい」
考えれば考えるだけ方法がボロボロ出てくる。
見張る必要大ありだわ。どこの手にも渡しちゃならない。古代兵器復活可能、なんて野心がない所に押しとどめて置くかインペルダウンに運ばれる方が危険性少ない。
クロさんだってそれを理由に利用してたもんねー。アラバスタの
……──本当に?
「あれ?」
ちょっとした疑問に襲われる。
コブラ様は恐らく
ならばなぜ、確認をする様に口に出したのか。
独り言にしては大きい。もしかしてそれは『私に偽物の情報を聞かせる為』だったりするのか…?
『どうした、何があったか』
「……。センゴクさん、ニコ・ロビンは七武海より恐れても良いかも知れませぬね。私が口で負けますた、そこまでの逃げ道を防ぐされました。そして…信じ込ませるした。私に」
『……ふむ』
「恐れはするが世界の脅威とはならぬ。と確信しますが」
私に、『海賊』に、『元雑用』に。古代兵器の情報を渡さない様嘘をついた可能性。それは何故か、興味無いから?
いいや、もしかしたら『世界が滅ぶ危険のある可能性を排除したかった』のかもしれない。
………流石に楽観視し過ぎか。
ニコ・ロビンはきっと『自己保身の為に動く』タイプの人間。つまり私と同じような性質だろう。だからこそ、同族嫌悪。自分の狙うものが相手を害しても構わないという信念だからこそ私も嫌だし相手も嫌。
あぁ、闇に染まった世界で生きた先輩を相手にするのは気が重い。
『王女ビビに悪魔の子ニコ・ロビンか…』
「厄介者の多き一味ですよ」
英雄の孫であり革命軍の頂点の息子、赤髪のお気に入りで剣帝の弟子である船長。
あっという間に覇気を習得した才能溢れる鷹の目に強き者と認められた剣士。
母親を海兵に持ち。測量士としての腕は勿論、常識外れの海の天候を詠める稀有な航海士。
四皇赤髪の幹部であり腹心の男の息子、鷹の目に目をつけられた狙撃手。
一味の中で隠された危険性が一番高く戦争を縄張りとして根を張るヴィンスモーク家の王子な料理人。
王女の賞金首という過去に見ない記録を叩き出した異端児であり愛された姫とそのお供。
見た目で騙され、しかも変装にも向いてる七段変形可能。その上優秀な医師。
オハラの生き残りで古代兵器復活の可能性があり危険性ダントツの考古学者。
そしてそれに加え、冥王と戦神の娘であり世界の中枢を担う者達のツテを持つ最高戦力の私、と。
「は、はは…。私、麦わらの一味が怖い」
文字の羅列が恐ろしい。
これは、見たくないレベルだ。
何故だろう、目眩がして来たよ。
「胃痛が痛き…!」
『胃が痛い、が正解だ』
「胃が大爆発っ!」
『分かった、それほど痛いのは分かった』
私、もうそろそろ胃薬と結婚出来る気がする。
嫁入りしてきます。
「私改名…イグス・リィンになりまする」
『胃薬と結婚したいのも分かった。だが言わせろ…───私だってしたい!!』
大の大人がはしゃぐんじゃないよ…。
胃薬さんはあげないから。語呂的にも私と相性抜群だからあげません。
「とりあえずですなぁー…。ジャヤにて色々情報を集めるした後、
『また随分古典的な方法で行ったな…。死んでくれれば悩みなど一気に消えるというのに』
「ハハハ…」
今回だけは干渉したくなかったからしなかったけどルフィを死なせない為に潜入してるんだ。
……頑張れ私。
『報告を聞く限りそれだけで終わらない様な気がしてならないんだがな、モンキー一家は』
……前言撤回、やっぱりくたばってていいよ。
「今の私の状況ですが、なんとヴェズネ王国にて貴族の成りすましをし、麻薬売人をとっちめちまおうぜ大作戦を行うしております〜!足のつかぬツテをレッツ有効活用!」
『何をしとるんだお前は…っ!』
「流石にリオ様…おっと間違えるした、リオンさんのお願いは聞かねばならぬと思うますてねー」
『エルネスト・リオか…またお前は面倒な…!』
私ったらうっかり言い間違えたけどこれは国王のお願いじゃないですよー。リオンさんという謎の人からのお願いですよー。私に責任問題は生じないことにしてくださーい。
『はぁ…。分かった。もし解決した場合近くの支部に適当に書いたのでいいから書類提出と屑の搬送を頼んだ』
「わかるますたー!」
『ついでに念のため赤い封筒を手に入れておけ。言えば分かる、言えば』
「赤い封筒…。エース出生の書類を運ぶした時の封筒と同じですね」
確か意味は『世界を揺るがす可能性のある封筒』だったはず。……私がその現状に立ち会う可能性が高いって事ですかね、よく分かってるな私の災厄吸収能力の威力を。
「ま、私からは以上ですね!」
ニッコリ笑顔で告げる。
捲し立てた報告と衝撃のおかげで、どうして『アラバスタ乗っ取り』や『ビビ様麦わらの一味に加入』が起こったのかという真実が
『ではこちらからの報告だ』
「七武海など、ですか?」
『そうだ』
質問をして見ると案の定の答えが帰ってきた。クロコダイルという七武海の一角を無くしてしまった以上、新たな七武海候補を探し出さないといけない。
『会議に来たのは海侠、鷹の目、暴君、そして少し遅れて天夜叉。どうやらアラバスタに居たようだな』
「はい、居ますたよ。七武海同士の共闘は認めるされてますから特に問題ではありませんですたし、国盗り自体には……チッ、関わるすて無き故に」
『舌打ちをするな舌打ちを』
「それでどうなりますた?」
私がそう聞くとセンゴクさんは電伝虫の奥で深くため息を吐いた。
『乱入者が出た』
「者共であえ〜ぞ」
『なんだそれは』
マリージョアに乱入者って面倒な。
『名前はラフィット。そいつの細かいことは置いておき、推薦したい者がいるとか』
「名は?」
『無名だ、が。算段を立てているらしい』
「ヘェ…算段を、ねぇ」
余程自信がおありらしい。
そう言えば大参謀と呼ばれるおつるさんに敵うものなどいるのだろうか。私でも難しいのに。
『推薦者はティーチ。黒ひげ海賊団だそ──』
「却下」
『……早いな』
予想もしてなかった人から恨み募った名前を聞いた。
へぇ、黒ひげが。そうかそうか私は絶対許可などしない。
七海決定は、海軍の上から数えた7人と七武海の人数、全員で13人の内半数以上の許可制だろう?
その上五老星に許可も貰うんだろう?任せろ、半数なら抑え込める事が可能だ。中将枠からはおつるさんと
「白ひげ海賊団で仲間殺しの禁を犯しかけ、只今白ひげから睨まれるしてる海賊団が政府に入るなればどうするとでも?」
『………。』
「それに、アレはダメです」
『理由を聞いても?』
「その前に、戦神の予知の話はご存知です?」
『………知っている』
「警戒を促せ、とです」
そこまで話せばセンゴクさんは静かになった。
よし、あと一押し。
「アレを七武海に入れるなれば…大きな野望ぞ果たすでしょうし。悪魔の実は、恐らく大きな力ぞ発せる。それも海軍を貶める原因になるような…」
『そうか、だがとりあえず言わせてくれ』
はい?
『──来ていた七武海4人と女帝は却下、そして私とお前の却下で7票。半数以上が却下した事になるんだが』
「良かったけど良くなきこの無駄なる心情!」
『中将2人も却下という判断になっているから正直に言うと聞くまでもなかったのだが』
「ジーザス!」
『そう言えばクザンがまた脱走した』
「私暇ない忙しき」
『麦わらの一味は空の上……さて女狐よ』
「さようなられた!!!!」
──ガチャ…
逃げるから後で怒られるって分かってても、逃げる癖が付いてるから困るんだよね。
──ぷるぷるぷるぷる!
もう1回かかってきたァァ!?
「ぅはい!?ごめんなさい!」
手に取って反射的に謝るけど特に反応が無い。
……あれ?
『あー…リィンか』
「サ、サカズキさん!?」
センゴクさんじゃなかった!
でも嬉しく無いよ過激派筆頭!
『本当についさっきヴェズネ王国に居ると聞いた。そこの近くの支部はナバロン、通称ハリネズミと呼ばれる島だ……そこのジョナサン中将はわしの子飼いじゃけぇそこに行け』
「なにそれこわい」
『文句でもあるっちゅうんかのォ…?』
「ヒェッ、ごめんなさい!」
とりあえず私は穏健派も過激派もどっちも怖いな、と思いました。
女性は強い。が保護者には弱い。
次回、事態が動く時(流石におじいちゃん引いてると思います、リィンさんよ)