2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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ヴェズネ編
第131話 挫けそうになった時は追い討ちが来る


 

 

「は〜〜〜〜〜っ!ここは何なんだ!冒険のにおいがプンプンすんぞ!!」

「んん〜っ!気持ち良いぞ!」

「ここなら海軍も追って来ないし羽を伸ばせる!ビーチなんて久しぶりっ」

 

 白い白い海の上。

 麦わらの一味は空島観光へとやって来ていた。

 

「リィンちゃん…何で来なかったのかしら」

「高い所が苦手だって言ってたし、それでじゃない?一緒に遊べないのは残念だけど…、やっぱり紐で括りつけて連れて来た方が良かったのかしら…悩みどころね」

「ナミさん……」

 

 グッ、と背伸びをし、大きく息をすう。

 ナミの安定した変態具合にやや呆れつつもビビは初めての冒険に心踊らせていた。

 

「入国料、ベリーが大丈夫で良かったな」

「えぇ。ここで『払ってなかった!この犯罪者め!』ってでっち上げられたら怖いもの」

「でっち上げって怖いよな」

「………本当にね」

 

ㅤ入国の際、ナミはかつて餓死しかけのクリーク海賊団から無情に盗み出した金で払った。持つべきものはツテと金とはよく言ったものだ。一味の金髪残念美少女の言葉だったが。

 ナミとウソップは遠い目をする。その、空には来なかったもう1人の仲間を思い浮かべながら。

 

「ミス・オールサンデー!これを見て!とても変わった植物!地上の図鑑では見たことないわ!」

「ふふ、お姫様ったら元気ね」

「細かい事で悩んでても進まないもの!」

 

 かつての敵とは一体なんだったのか、ビビの思い切りの良さに呆れれば良いのか笑えばいいのか分からないロビン。船から降りると自分の中にも冒険に心踊らされている事に気付いて口角を少し上げた。

 

──ポロン…ポロン……

 

 風に紛れる音。

 どこからか心地よい弦の音が聞こえてきた。

 恐らくハープだろう、ぼんやりとした優しい音色だ。

 

「へそ」

 

 にこりと笑った空島、スカイピアの住人が海賊に知識を与える事となる。

 

「な、なんだァ?」

 

 それが未来にどんな影響を及ぼすのか、誰も知らない。それは例え神であっても。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ヴェズネ王国。

 偉大なる航路(グランドライン)に存在する王国の中で気候の安定さは上位を争う秋島だ。

 豊かだが国土の小さい国は戦争などで狙われやすい、しかしアラバスタという大きな国と友好国同盟を結んでおり、現在戦争は起きてない。

 国王エルネスト・リオ様は先代の早死という事でまだ30代という異例の若さで王位に就くことになった。国の背景にある問題とその若さでも戦争を起こすことのないその手腕は流石というべきだが、古くから国に席を置いてる古参の貴族は国王を牛耳ろうとしており味方が少ないらしい。

 

 つまり『狙われやすいから頑張ってるんだけど国の貴族が面倒臭い、ちょっとアラバスタさん助けてくれない?』って事ですか。

 

 そしてそのアラバスタから派遣されたのは『国に属していない』表海賊裏兵士である私、そして足のつかない革命軍。

 実行犯はあくまでその二つという事になった。例え後々露見しても『海賊や革命軍がやった事だから』と言う言い訳になる。両国共。

 

 

 この国の現状は『麻薬中毒の国民』と『ブローカーと取り引きをする貴族』

 それを何とかしてするきっかけを作って欲しい、という要望だが………。何とか出来るのだろうか、国が動く事に変わりは無い。

 

 

「さぁて…どちらに行くすたらよろしきか」

 

 ジャヤの突き上げる海流(ノックアップストリーム)から逃げ出してヴェズネ王国に来たはいいが、先にこちらに来ている革命軍とどう合流すれば良いのか分からず立ち往生する。

 

「うーん…」

 

 秋の過ごしやすい気候、一見すると治安の良い町中をブラブラと歩く。

 勝手に王宮に入っちゃダメだよな。まぁ、サボが見聞色使えるから見つけてくれるだろうとは思ってるけど。

 

──ガッ!

 

「……っ!?」

 

 後ろから現れた人間に口を押さえられる。

 気付かなかった…、人攫いか!?

 

 強い力でどこかの民家へと引き摺られる。

 

「シッ!……俺だ」

「ニョ!?」

 

 民家の中に入ると羽交い締めにしてた人がフードを取ると見慣れたサボの顔がそこにあった。

 

「サボかぁぁ……」

「悪いな、無理矢理引き摺って」

「いや、大丈夫ぞ」

 

 まさかこんな方法で合流するとは思わなかったが一安心した。人攫いにしては身のこなしレベルが高いなとか思ってたけどサボなら納得。

 

「それでこちらは?」

「王宮からの抜け道になってる隠れ家だ」

 

 サボが床板を外しながら教えてくれる。

 抜け道を知ってるって事は確実に国王とは合流したってわけね。にしても、抜け道を早々教えてもいいものなのか。

 

 抜け道は暗めの穴が続く。ライトを取り出してサボが行く道を照らした。

 サボに続いて抜け道に入ると土っぽさで少し噎せた。心配されたけどこの道は通るの辛い。

 仕方ないからマント被るけどね。

 

 

「──それで、()()()()()()()?」

「もちろん、完璧」

 

 歩きながらサボの質問に答える。

 ジャヤの酒場であれだけ暴れてきたんだ、目立たない方がおかしい。しかも裏に繋がるのはドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 

「俺たちアラバスタ御一行は『数日前からヴェズネ王国に滞在している』。そして『社交界デビューするお前は体調不良で部屋に引きこもっている』だ」

「分かるすてますぞ〜」

 

 細かな作戦の確認は後で協力者:国王リオ様とするらしいが、その為の大前提としてこれだ。

 

 もしも国が裏で堕天使(かいぞく)と繋がってると知られた時の為の予防線として指摘されない様に理由を作った。

 『堕天使はジャヤで目撃証言がある』『時間を考えても間に合わない』という点を。

 

 もちろんバレてしまわない事が1番良いし、それでもバレてしまった場合は勝手に海賊がやらかした事だと言い訳する事になる。結局国は無事だ、国は。

 

 

 目立つのは嫌だったけど仕方ない、目立ちやすい場所だったから良しとしようじゃないか。

 イザとなったら仲間割れやら乱闘やら街行く人に喧嘩売るつもりでいたからまぁいいさ。

 

「国王、どの様な方ですた?」

「あぁ…まともだ。雰囲気はコブラ王に似ている」

「へぇ!」

 

 その言葉に少し嬉しく思う。

 ジェルマやドラムの王様みたいじゃなくて良かった。

 

「ただ……」

「ただ?」

 

「──庶民的思想の持ち主だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回は迷惑を掛けて本当にすまない!!!!」

 

 

 抜け道は宮殿にある一室の暖炉に繋がっていたので煤を払いながら部屋に入ると土下座している男の人がいた。

 

「うんんんん???」

「その気持ち、よく分かる」

 

 頭をこれ以上無いくらい傾げるとサボが遠い目をした。

 え、待ってください。

 

 これ、国王のリオ様?

 

「リ、リオン様ァ〜、もうやめてくださいって…」

「王が庶民に頭を下げるなよ…」

 

 コアラさんとサボの疲れた声。

 あ、まじで国王ッスか。

 にしてリオン様?リオ様じゃなくて?

 

「えっと……話が進まぬので頭あげるて貰うしても宜しいですか…?」

 

 標準語など殴り捨てて不思議語で喋ってしまった私は悪くないと思うんだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「まず大前提としてキミらの正体には首を出さない。聞かない、察しても黙っているという事を約束しよう」

「それ、よろしきですか?」

「『知りませんでした』で済ませれるなら済ましておきたいだろう。一番楽だ」

 

 サボの庶民的思想というのが一目見た瞬間に分かった。この人ポンポン頭下げすぎ。

 これが公の場で無くて本当に良かった。

 

 しかしこの提案自体に頭の良さは見え隠れする。面倒くさがりなのか豪快なのか知らないが『知らない』という言葉により今から私は『兵士』ではなく『協力者』、つまりは対等な関係だ。

 上下関係はもちろん存在するけどね、多少の無礼は許されるって事になる。

 

「全員揃ったところで改めて自己紹介をしよう。俺の名前はエルネスト・リオ。公の場以外では面倒なので『リオン』と呼んでくれ」

「私達は変わらず『チャカ』と『ペル』で構いません」

 

 リオ様がリオン。アラバスタコンビはそのまま、と。

 

「私は『アラ』!一応キミ達の侍女だよ!」

「私が『ハク』になる。表立って出ることはまず無いと思っていてくれ」

「んで、俺が『サン』。つっても兄妹貴族設定だから『兄様』とかそんなのでいいと思う、適当に誤魔化せ」

 

 コアラさんが『アラ』でハックさんが『ハク』でサボが『サン』ね。簡単な名前で嬉しいよ、呼びやすい。

 

「えっと〜、私が『リアスティーン』……長い故に頑張って練習すたぞ。愛称は『リー』か『リア』でお願いするです」

 

 あくまでもこの場で本名は洩らさない。

 リオ様の言う『知りませんでした』を通用させる為にも。

 

 ここにいるのは少し記憶が曖昧なアラバスタの新米貴族リアスティーンだ。コアラさんが貴族でも良かったんだがアラバスタで肩に傷を作っているので外傷がほとんど無い私が選ばれた。

 

 あー、胃が痛い。

 勿論、ちゃちな雑魚に負ける気は1ベリーたりともありませんけど?W王族─しかも国王─からの頼み事だぞ?負けられるわけないよね?

 

 

 ちなみにコアラさんが付けたこの偽名には理由があるらしい。

 『リアス』とは複雑な海岸線、だと言う話。『ティーン』は私くらいの年齢層をある国で言うらしく、それらを組み合わせたとか。

 

 複雑な海岸線、ねェ。

 一体何を指しているのやら。

 

「あの、まずなんですけど。抜け道を教えるしても宜しかったのですか?」

「問題無い。この部屋の鍵は外からだけだ」

 

 それなら一安心だ。外から宮殿に侵入しても鍵がかかってるから廊下にも出られない。もしもこの部屋に押し込まれたとしても外には逃げられる。

 まぁ、客として居る以上不安だけど整備体制と警戒心の深さには安心。

 

 部外者にポンポン抜け道教えてたら信用出来ないもの。

 

「リーちゃん。最後に作戦確認しよっか」

「お願いします、アラさん」

 

 コアラさんの提案に頭を下げる。

 題して『ヴェズネ王国の黒幕を探せ〜アラバスタの貴族様は一体何を狙っている?〜』作戦。

 これに紙など存在しない。全て頭に叩き込む。

 

「この国に麻薬中毒が多発してるのは分かってるよね?」

 

 どこかの貴族が手を出している。

 それは近衛が調べあげたらしい。この国の内政が分かっておきながら交易がある一定間隔の間に起こっている、そんな事が出来るのは貴族以外居ないだろう。

 

「私達が求めるのは主に三つ。『黒幕の特定と捕縛』『顧客リストを手に入れる事』『ブローカーの特定又は捕縛』」

「ブローカーについては深くまで求めぬのですね?」

「とりあえずこの取り引きをぶち壊せれば文句無しだから把握だけはしておきたいかな」

 

 コアラさんの言うことに納得する。

 この少人数では求める物がデカすぎる。

 

「麻薬を売ってる売人(バイヤー)、コイツらは黒いマントに加え頬に逆三角の刺青をしている」

「夜会の間に売られるだろうからソイツを追跡して黒幕を突き止めるよ!」

 

 大体のやり方は改めて把握出来た。

 頭の中にメモしていくとリオ様が唸り声を上げると腕を組みながら問題点を口にする。

 

「しかもだな……厄介な事に麻薬は俺が流しているという噂まで流してやがるんだ。勝手に情報を作り上げられて、他の貴族からの信用はほぼ無い。お互いな」

 

 やられる立場だと捏造って大変。アラバスタで同じような事やらかしてる私には耳が痛い話だ。

 

「じゃあ次は役割確認だ」

 

 サボが次の話題に変える。

 

「リーと俺がアラバスタの『貴族兄妹』で、夜会担当になるのは覚えてるな?」

「もちろんぞ」

 

 そこで『目立って』『怪しい貴族に目をつけられる事』が大事。『被害者になる』のが手っ取り早いけど簡単に進まないだろうと予想している。

 

「お前は『デビュタント』で俺は『パートナー』だからな。本来はアラバスタ国王が参加すべきだが、とても忙しく代わりにと仰せつかった」

「はいさ」

 

 って言う設定だね。

 

 デビュタントとは社交界デビューの事。

 本来の年齢は18辺りからなんだがそこはコアラさんが化粧で何とかしてくれるらしい。

 

「いいか、お前が標的になりやすい。特にアラバスタは内乱後だ。金持ちでカモになりやすそうと思わせつつ決定的な言質を取られないように気を配りながら上流階級の貴族として標準語とマナーを守り優雅に目立て」

「かなりのハードモードぉ……」

 

 この国で麻薬を売ってる黒幕がヴェズネ貴族だと目星が付けられてるからこそ他人の目がある夜会で行われる。

 分かっていた事だけど負担大きいなぁ。

 

「私は主にストーカーを担当するよ。売人を泳がして今晩の夜会の間に黒幕、突き止めてみせるから」

 

 コアラさんが意気込む。

 その場で手を出さずに黒幕まで突き止めて証拠探しと顧客リストの盗み出しまで担当するとか。この人もかなりのハードだった。

 

「私はブローカーの方だな。船での交易、しかも取り引きが行われてるであろう場所辺りは水路が多い。魚人ならではの盗聴術というものが使えるさ」

「ハクさんすごぉい…」

 

 ハックさんみたいな魚人がウチの部隊にも麦わらの一味にも居たら楽なんだろうなぁ、絶対。

 

「それで無能貴族がリアスティーンに喧嘩を売ってくれれば背後の家ごと潰せるんだがなぁ」

「……まぁ、うん、まぁそうなのですが」

「潰せるんだがなぁ!!」

 

 それは、言外に潰せと?

 確かに設定としては『国の代表』として来てる貴族だから喧嘩を売れば『アラバスタという国に喧嘩を売る』事になり、国家問題。そして、それを謝るためにリオ様が家を潰せば解決だ。

 

 む、無茶をさせる。

 この国王、さては外見で人を判断しないタイプだな。

 

 普通はこんな雑魚っぽい子供に無茶な事を頼みません。それに関しては私が『コブラ様から派遣された身元不明の子供』だからそういう判断になったんだろう。『コブラ様への信頼』は『コブラ様が信じて寄越した私達』に繋がり『私達の能力を信頼する』事と同じ意味になる。

 ……正直気が重い。

 

「さっ、リーちゃんはお着替え、しよっか」

「へ?夜会までは時間が豊富ぞ存在するですが」

「甘ぁい!キミは一応顔が出てるんだよ!?コルセットして服着せて髪型を大人っぽくさせて化粧で化かしてキミをキミじゃないようにしなきゃならなんだから!」

「か、髪色変える?」

「折角兄妹設定で揃ってる髪色を変えるなんて勿体無いし手間だよ!水に濡れたらすぐに落ちちゃうんだって!」

 

 『海賊として顔が割れてるからなんとかする為に時間がいる』『サボ(あに)と一緒の色を変えたくないでしょリィンちゃん』って言う副音声がビシビシ伝わるんですけど。

 

「うえっ…もう逃げ出す事ぞ希望」

「「「「「ダメだ/よ/です!」」」」」

 

 お洒落は嫌いじゃない、むしろ好きな方だ。

 化粧も嫌いじゃない、油断させる事が出来るから。

 

 でも長時間誰かに監視されながら拘束されるのは苦手なんだ、海賊の血筋だね。

 

「本当に頼んだぞリアスティーン」

 

 事情があるのも分かったし第三者を巻き込まざるを得なかったのも分かったけど個人の感情は別のもの。

 私は藁で片手サイズの可愛い()お人形さんを作って五寸釘を打ち付けたい気分になった。主に全ての元凶に向けて。

 

 

 

 リィンちゃん心折れそうです。

 

 




オリジナルストーリー開始。

ヴェズネ王国(オリジナル)
国王エルネスト・リオ
秋島で豊かな小国だが狙われやすい。現在麻薬問題発生。

リオ「やべぇ!麻薬売ってる国の恥さらしがいやがる!どうしたらいい畜生!」
コブラ「任せろ友好国よ!いいのがいるから送るな!」
リィン「マジかよ私かよ」
サボ「神は死んだ」
コアラ「うわ、ハード」
ハック「怖がるな、私はそなたの味方だ」
チャカペル「(とりあえず貴族歴の偽造工作か)」

麦わらの一味「わぁ、空島楽しい!」

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