2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第13話 歯車

 

 ギギッと木の古い音が響く。部屋に入るとこのゴミ山であるグレイ・ターミナルに似合わない。和服に似た白がベースの上着に薄茶色のズボン、そして下駄という『普通』の格好をした男の人が椅子に座って刀を研いでいた。

 

「なんだお前らか……」

 

ㅤ栗色の髪の間から除く紺碧の瞳がエースを捉える。

 

「爺さんなぁ…折角兎取っ捕まえて来てやったのにその物言いはあんまりじゃ無いのか?」

「ほら、そこら辺に転がしてあるのが今回の収穫だ。役に立つもんがあれば持ってけ」

 

 エースが手に持った兎を渡すと爺さんは部屋の片隅にあるガラクタを指差して言った。

 よく分からんが刀あるくらいなら自分で狩った方が早くないですか?

 

 そんなことを考えながら私はそろーっとそのガラクタの山に近寄って眺める。色々あるんだな…──楽器にナイフに食器?

 汚れもあるけど洗えば使えない事も無い。前世の道具と比べてボロボロだけれども。

 

 

「サボ……これ」

 

 私は目に入った今1番欲しい物を手に取る。

 少し汚れが目立つが趣のある物だ。

 

「リーこれ欲しいのか?でもこれくらいならダダンに言えば貰えるんじゃ…」

「こりぇがいい」

 

 間髪入れずに返事をするとサボは「仕方ないな」と言いながら兎を受け取っているフェヒ爺に視線を向けた。

 

「………分かったよ、……フェヒ爺!これいいか?」

「なんだそんなゴミか?」

「ふぇふぃじー………」

「どうした小娘」

 

「ふぇひぃじー、ちょーだい?」

「…分かったから、さっさと持っていけ」

 

 随分と若い爺さんなんだな。見た目的にお父さんで通してもいける気がするけど…何歳なんだ。

 

「本当に…〝箒〟なんか何の役に立つのやら…」

 

 箒でする事はただ一つ。空を飛べる様になるためさ!

 思い込みで干渉できるこの能力。集中力も必要だが私の中で『空を飛べる箒』と『掃除をする箒』は全く別の物だ、そのせいで想像力が欠けてしまってるのかもしれない。ならばより想像しやすい箒を。やらずに後悔するよりやって後悔しろ、だ。何事も色々なパターンを想像し無ければ。

 

「きびゅんのもんだぃ、だから」

「きぶん、だろ?」

「きびゅん」

「ぶ」

「ぶ」

「はい復唱」

「きびゅん!」

 

「だめだコイツ……」

「なぬぃをいましゃらな!」

「開き直るな!」

「あ、フェヒ爺、いつもこんな感じだから気にすんなよ」

 

「お前らも苦労してんだな…」

 

「もぉ?」

 

 ふと気になって聞き返すとフェヒ爺はフッと頬に皺を作って笑う。

 

「なぁに、少々昔の事だ。俺も海賊やっててな…エースとサボは知ってるが」

 

 コクリと2人が私の両側で傾いた。

 

「そこにいた変な女が時々意味不明な行動と言動を起こして、まぁ一緒に騒いでたけどよ。とりあえず面倒な女には気をつけるこったな」

 

「フェヒ爺、俺らその話知らないぞ?」

「そりゃ言ってないからな」

 

 フェヒ爺が歯を見せて笑うとエースは知らなかった事実に不機嫌そうに頬を膨らませた。

 

「今頃何をしてるのか知らないがどーせ馬鹿やってんだろうよ」

「………………しゅき?」

「…………は?」

 

 唐突に声を掛けると間の抜けた声がけ帰ってきた。

 不自然な間があったぞ爺さん。

 

「おいおい何を言ってんだ小娘。誰が、あの、馬鹿を、好き、だって?」

「ふぇひぃじーが、へんに、おんにゃを、しゅき?」

「変に、じゃなくて変な。だからなリー」

 

 相変わらずエースの訂正が飛んでくる。

 わ、わざとだもん!わざと間違えたんだもん!

 

「ガキが色気づいてんじゃねーよっ!ほらさっさとどっか行け!」

「ひきとめちゃのはふぇひぃじー!」

 

 会話を持ち出して来たのはそちらなので私は悪くありません。

 

「こ…っの、クソガキ…」

 

 額に青筋立てて見て取れる様な怒りを背中に背負っている。

 おお怖い怖い。

 

「こうけつあつはからだにあくいでしゅよー」

「悪意じゃなくて悪いだろうが!っつーかお前がその高血圧にさせてんだろ!」

「まーまーおもちつきましょー?」

「よぉし、ぶん殴る。このガキぶん殴る」

 

「フェヒ爺!ストップ!リーまだ2歳!2歳だから!」

 

 拳を握ったフェヒ爺にサボが止めようと必死にしがみつく。

 あら〜、大変でございますわねー。

 

 呑気に構えてる私を睨みつけるフェヒ爺。不思議と恐怖は感じないからそのまんまでいることにした。

 

 人をおちょくったりする時の顔の歪みは誰であろうと面白いものだ。もっと見たい(ただし時と場合と人による。ある意味怖い)

 

「この程…殺気に反応…な……なら」

 

 ゾクリとした寒気、よく分からんが回避!!

 

「………チッ」

 

 横に飛び退いたら前に居たはずのフェヒ爺が後ろで刀を振り下ろして舌打ちしている。やだなに怖い。え、お爺さん何してくれちゃってんの?殺人未遂?やだ怖い。

 

「ほぉ…これを避けるか…───コイツは…─…───…」

 

 ブツブツと何か言ってる。どうやら頭がおかしくなった模様だ。病院行きますか?精神科。

 

「おい子娘。今すっげえ失礼な事考えたろ」

「エースぅサボぉ、ふぇふぃじーこわいぞりー」

「このガキ………っ」

 

 背を向けて逃げ出そうとすると首根っこを掴まれる。

 勘の鋭い奴め…まさかエスパーか!?

 

「エスパーじゃねぇよ」

「なにゆえこころよめりゅ!?」

「うっせぇ!!顔に出てんだよテメェは!」

 

「サボ、これ止めた方がいいのか?」

「俺面白そうだから見てる」

「……お前なぁ…」

 

 さり気なくサボが傍観の体勢に入った。エースは呆れ顔。どっちの反応が一体正しいんだ。

 

「はものはひとにむけちゃ、いけましぇん!」

「人を斬るために刀持ってんだよ!」

「さつじんじけんきんひ!」

「俺の自由を禁止すんじゃねぇ!」

「てをあげてとーこーしろ!さもなくばうちゅぞ!」

「拳銃でも持ってんのかテメェは!」

 

 あーいえばこーいう。なんと大人気の無い大人。こんな大人見たのは3人目だ、全く……

 よく分かった、この世界にろくな大人居やしない。

 もうそろそろ私の常識にピッタリ当てはまる人居ないですか?

 

「とりあえじゅ!これとこれはいただきてまいる!」

 

 箒と手頃なナイフを掴んでベッ、と舌を出すとフェヒ爺は私の頭…というか顔面を掴んで止めた。方向転換させてくれなかった……。

 

「子娘、お前時々ここに来い。修行くらいつけてやる雑魚」

 

 持っていくのダメなのかと心配したけどどうやら違ったみたいだ。

 なんのお誘いか分からないが断るに決まってる。

 

 ここまで来るのにどれだけの体力とメンタルを減らしたとおもってる!帰るの億劫になるくらいには減らしてるさ!

 

「あ、ていちょーにおことわりいたしゅ」

「なんでだ!」

「めんどーだから!」

 

「良いから来い!」

「きゃーっか!」

 

「ほぉ…ならお前の秘密をバラしてもいいんだな……?」

 

 ニヤリという効果音がこれ以上にないくらい似合う。あれ、ひょっとして効果音どっかで鳴ってませんかー?

 

「ひみきゅ、とは……」

 

 思わずその笑みに後ずさりして頬が引き攣る。悪党の笑み。悪党だ、悪党!本物だ!お爺さんがそんな笑顔しちゃいけませんよ、ってか秘密って何!?まさか転生の事!?魔法の事!?なんの事!?

 まさか堕天使の差し向けた刺客!?

 

 秘密の多い私は何の秘密を握られているのか皆目検討もつかない。

 

「へぇ、こんな所で言っても良いってことか…そ〜かそ〜か……───いいんだよ、なぁ?」

「ダメ!のう!きゃっか!」

「なら来るよな?」

「あい!」

 

 何を企んでいるのか知らないが、どす黒いオーラと嫌な雰囲気をかもしだしていらっしゃるので、下手に地雷を踏まない様に提案に乗った。乗らざるを得なかった。何これ胃が痛い。

 

 これが年の功ってやつか……。

 

 精神的に敵を追い詰めるそのやり方、嫌いじゃない。むしろ肉体的労働より頭脳的労働の方が楽だから推奨するが……。

 

 やられる側はたまったもんじゃない。

 私を捕らえてなんの特になる!

 

「じゃあ話まとまった事だし俺たちは帰るよ。遅くなったらきっとダダンに怒られちゃうや」

 

 サボの言葉に同意するよう頷く。

 

 あぁ見えて実は情に熱いんだよなダダンって。なんだかんだと私の世話してくれてる。

 ……精神年齢が肉体年齢より年上な場合余計なお世話だと言わざるを得ないけど。まぁ、感謝。

 

「それじゃぁね、ふぇふぃじー」

「バックレるなよ子娘」

「あっかんべー!」

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「なぁ、リィン」

「なーに、エース」

 

 帰り道。珍しい事に山道を走らずにエースが隣で歩いて、サボは辛うじて私達の声が聞こえる程度離れて周りを警戒してくれている。

 警戒するのは一応強いと言えども怪獣を相手するだけあるもんだね。個人的には会いたくないです!とても!

 

 

「お前は、さ。海賊王に息子がいたらどうする?」

 

 海賊王、ってのがよく分からない。海賊の頂点…だと予想はできるけれども。

 そもそもの話 海賊王ってのが人間なのか、それとも伝説なのか、すらも分からない。

 

 

「わかんにーぞ…」

 

 

「そっか………」

 

 

 ため息と一緒に言葉が漏れた。そのため息は安堵にも取れる

 

「さて、飯食って風呂入って寝るぞー!」

 

 これ以上話す事は無いのかいつもの調子で走り出したから〝海賊王〟が何か聞きそびれた。酷く耳に残るけど話題を切り上げたってことは触れない方が良いって事だろう。

 

 それにしても海賊王の息子、か。

 

 ──なんでそれをエースが話題に上げる?

 

 疑問が頭の隅に残る。

 聞いた理由としていくつか考えられる、が……。

 

 例えば『その子供とエースが友達』とか。ただエースはその友達というのが少ない。むしろサボしか居ない。

 私も居なかった。ごめんなさい。

 これで私達お友達居ない同盟作れるね!

 

 まぁ、他の理由として考えられる理由は『エース自身が海賊王の息子』か。

 私達3人は日々共に過ごしているものもお互いの出生は全然知らない。私だって言ってはいない。私自身も親が誰なのか知らないくらいなのだから。

 

 いや、まぁ、顔は覚えてるけど。

 

 とにかく考えても埒が明かない話題だって事はよく分かった。

 情報が欲しいなぁ……。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 リィン達が帰路についたその後フェヒ爺ことフェヒターは研ぎ終えた刀を椅子の横に置き人心地ついた。

 

「(心配ばっかりかけさせやがって………──)」

 

 考えるのは昔。

 

「(あの小娘、面影がある。それに名前が〝リィン〟か。──やっぱアレの娘だよな)」

 

 そして今。

 

「クソッタレ共…俺にばっかり尻拭いさせやがって…。分かったよ……どーせあの子娘巻き込まれる運命なんだろう?」

 

 自分達の冒険の歯車に巻き込まれる彼女の娘の姿。そしてエース、彼の息子の姿。

 

 

 

 再び遠い思い出に思考が染まる。

 仲間の笑顔は色褪せる事を知らない。

 

「(次の時代に託す、か────)」

 

 バラバラになってしまった仲間の笑顔は次々と浮かんでくる。

 

 フェヒターの紺碧の瞳には知らずに涙が光っていた。まだ終わりたくない、終えたくない、戻りたい、時を戻したい。そんな望みがグルグルと渦巻く。

 楽しかったあの日々はもう戻って来ない事は分かっている。分かっているが諦めきれずにはいられない。

 

 だが、彼が死んでしまった今ではもうどうしようもない。

 仲間に会ってしまうとその望みが大きくなってしまう。なのに彼らの面影を残す子供が近くにいる。

 

「恨むぞ…神よ───」

 

 不思議な騎士が記憶から飛び出すが〝お前じゃない〟と切り捨てる。

 

 

 

 

 

 

 過去の歯車は新たな歯車へと絡み合って行く。結構面倒臭い方向に。

 

 

 その歯車のせいでリィンが発狂しそうになるのは未来の話だ。

 


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