2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第12話 死に目負い目遠い目

 

 

「やっぱりほうきだと思う!」

 

「何がだ」

 

 そんな言葉で始まった1日。

 生憎の空模様だがノープロブレム。森の中を走り続けます。

 

 

 私はノープロブレムじゃないんですけど……。

 

 まぁいいさ。一番の問題はそこじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォオオオオオ!!!」

 

 後ろから追っかけてくる熊が一番の問題でした!こんな愛されは望んで無い!

 

「くそ!こうなったら!」

 

 丈夫そうな枝を拾って全身に力を巡らせる。魔法(仮)を使うみたいに枝に向かって力を込めて…──

 

「……」

 

 ───不発!!

 

 こんにゃろ!上手くいかない!うんともすんとも言ってくれない!なんて意地悪な!

 

「ガァァアアアア!!」

「うにょ!」

 

 ヘンテコリンな悲鳴を上げながら避けるが間に合わない。走馬灯さんこんにちは。何度目かのご挨拶。

 

「おりゃ!!!」

 

──ガインッ!

 

 エースが身を翻して熊に攻撃する。私がピンチになったからだろう。

 

 強くしてくれようという心意気は感謝してますけど私はそんな強くなりたいわけでもないんですが……。

 今更どうこう言ったって無駄だと思うから心の中で盛大にぶつくさ言わせてもらいますよー!!ちくしょう!

 

 

 ==========

 

 

「まだまだだなぁ…」

 

 サボはよしよしと言いながら息を切らしてヒューヒュー言ってる私の頭を撫でる。

 く、苦しい。全力疾走苦しい。ドッドッドッドッって心臓がうるさいくらいに動いてる。

 

 魔法(仮)使う時と似てるなぁ…。体力付けたら使える威力も上がるとか?

 いやいや、それは無意味だと思う。自分で考えておいてなんだけど集中するかしないかで出来る出来ないが分かれたんだ、きっと体力付けるよりも集中力付けた方が私の殺り方に合ってる。きっと、いや、絶対そうだ。

 

 と、まぁ理由付けてサボりたい私は今日も元気な模様です。

 

 

 病気になりたい…。

 

 こういう時こそ便利な道具に頼りたくなってくるよね、タケコプターとかどこでもドアとか。どこでもドアあれば遠くにすぐ逃げれるじゃん。タケコプターあればすぐ飛べるじゃん。

 

「今度は何を思い付いたんだ?」

「きゅうえんもとむー!!!ド〇えもーーん」

「誰だおい」

 

「みんなのせいぎのひーろー…はアンパ〇マンだった…。べんりや?えーっと、ぱひぃり?」

「俺はそのド〇えもんが可哀想に思えて来た」

「かれはそういううんめいらそ」

 

 頑張れ僕らの…って、また話が逸れてる。脱線事故脱線事故。きちんと本線に戻ってくれないと困るよ。

 

「じゃなくて、そらをぴゅーってとべるなれば、きっとにげるかのう!」

 

 熊に鰐に虎は私の中の常識では猛獣に入ります、やめてください。

 そんな猛獣相手に2歳児を単身で放り投げる君たちの常識は、おかしいとしか思えない。異世界怖い、どこの戦闘民族だ。やめてください。

 

 とにかく、それが常識であろうが無かろうが、私は『命を大事に』精神です。『ガンガン行こうぜ』は誰も命令してない。『呪文を使うな』もピンチだけどそれは訪れてないから良しとしよう……いや良くねーよ。

 

 良いか私は所詮モブキャラなんですよ!おてんば姫みたいにガンガン行かないんですぅ!馬車で待機したいんですぅ!更に望むのなら行ってらっしゃいとかって勇者達見送ったり頑張れーとかって応援してる下町の娘Cとかがいいんですぅ!

 

 

 

 ……閑話休題(それはさておき)

 

 

「出来るのか?」

「うたがうくらいならしでかせ!」

「仕出かすな、実行しろ」

「じっきょうする!」

「俺らがやるわけじゃないんだからお前が実況するんじゃねぇよ……」

「リーの言葉は面白いな」

「ぎぇせにゅ…」

 

 実行と実況が似てんだよ馬鹿野郎…。きっと言葉の違いのせいだ、絶対私は悪くない。

 

「れんしゅーあるにょみ」

「あるのみ」

「あるにょに」

 

 私は諦めない。

 へっぽこスキルを完璧にするのを…─

 

「なんでこいつは訂正する程おかしくなるんだ…」

 

 ──あ、諦めない!悔しそうに呟くエースの言葉なんか聞こえない!

 

 突如耳が遠くなるのは自己防衛だと信じてやまないリィンさんです。

 

 

 

「リー立てるか?」

「あい!」

 

 言われた通り立ち上がると首根っこ捕まえられ木の上に登らされる。

 ちなみに私が自主的に登るんじゃなくて下から登れって威圧感かけられてるのね。私の年上のプライドって…──あ、今は私が年下か。

 

「よっと」

 

 私が重い体を持ち上げてうんしょうんしょと登った後でストンと軽々サボが登ってきた。もう何も言うまい。

 

「………!」

 

 そして目の前に見える景色に驚きの表情を隠せないで目を見開かせた

 

「あれが───グレイ・ターミナルだ」

 

「俺たちが良く行ってる所だよ」

 

 

 やはり私はこの世界の常識が間違っていると思う。普通の子供がこんな場所に来ていい筈がない。

 確かに地球にもこんな場所があると思う。子供やお年寄りがこんな場所にいると思う。でも、それは外国の話で、日本には絶対こんな光景見れる訳がない。

 

 

 グレイ・ターミナルが都会?こんなのが都会だったら私は言葉を習い直さないとならないと思う。

 

 

「………」

 

 空いた口が閉まらない。まさかと思うけどこんな場所がうじゃうじゃあるの?それともここが別なだけ?どうしてこんな場所が存在するの?

 

 

 ───グレイ・ターミナルはただのゴミの塊だった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「エース…サボ…」

 

 グレイ・ターミナルで私達は散策していた。子供がこんな場所にいていいはずがないんだ。帰ろう。ねぇ帰ろう?

 

「……──…」

 

 ジロジロと辺りからの視線が痛い。ガヤガヤと耳障りな音だけが耳に残る。エースとサボの背中だけが見える。ヤダー!怖いんですけどー!……テンション上げても無理なものは無理。

 

 ここにいる人は確かに人間。何かしらの事があってこんな生活をしてるんだと思う。

 頭の中では理解しているのに心が同じ人間だと認めたくないみたいにブルブルと小刻みに震えていて、鼻につく腐った臭いが吐き気を誘う。

 

 私、最低だ。私よりずっと必死で生きてる人を軽蔑してる自分がいる。汚い臭い気持ち悪い怖い。そんな場所での生活なんて私には耐えられない。

 

 

 前世の知識だけどこういう所は有害物質があるからなるべく長い間空気を吸わない方がいいってテレビが言ってた気がする。

 危険以外なにものでもない。

 

「はぁ…早めに帰るか」

「そうだな」

 

 ふとエースが声をもらした。その声に便乗してサボも呟くと私を抱き上げ、不安そうに聞いた

 

 

「リーごめんな?怖かっただろ。森とは違う何かが学べるかと思って来たけど、怖いなら仕方ないよな」

「サボ……」

 

「リー、俺達は少し用があるんだけど…ここからダダンの所まで一人で帰れるか?」

「むぼう!」

「だよな」

 

 知ってた、と言うようにエースが頷く。

 

 無理に決まってるじゃないですか。

 

 

 過去に熊さんに追われて喰われそうになったの覚えてないんですか。虎に突進されて骨折れた経験覚えてないんですか。牛に踏まれたの覚えてないんですか。

 

 

 

 

 今、事実に気がついた。

 ……あれ、ひょっとして私ここの人より命の危機にあってない?必死に生きてない?ここよりずっと怖くない?

 数分前まで震えていたけど思い返すともっと震えた。

 

 なんだ、なんだ、そっか、なぁにビビってんだか。

 

「ここヘーキ!」

「強いなリー」

 

 私は強くなりたくない。どっちかと言うとヘタレでビビりで引きこもりたい私は弱い方がいい。無条件で守られやすくなるから。

 力はあって役に立たないことはないけど力を見せびらかして無駄な危険を引き寄せるのは大っ嫌いなんです。

 

 戦闘に参加させられる女勇者と城で守られるお姫様、どっちがいいですか?私は命の危機などないお姫様の方がずっといいです。心の平穏の為にも。

 

 

「なにようぞ?」 

「あぁ、ここに住んでる爺さんに用事があってな」

「俺たちは食料を、爺さんがここで拾った便利そうなものをお互い交換してるんだ。」

 

 サボはいつもエースの言葉に説明を付け足す。私でも理解出来るようにしてくれてるんだろう。ありがたや……。

 

「なんでリーは拝んでるんだ?」

「サボ、俺に聞くな。分かると思うか?」

「ごめん」

 

 ちょっとそこになおれ。

 

「あ、リー。ここだよ」

 

 家とは到底言えない住処に着くとサボはスグに声をかけて扉を開けた。

 

「おじゃまします」

「邪魔するぞ爺さん」

「おじゃしまましゅるぞ」

 

 言うまでもなく、妙ちくりんな言葉は私だ。




お気に入りが着々と増えてて何の差金か気になっています恋音ですどうもこんにちは。

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