「ねぇ泉野さん」
木曜日の朝、ホームルーム前に声をかけてきたのは安城羅(あきら)メルさん。『ふわり』って名前でネットアイドルをやってるらしい
「なに?安城羅さん」
「とても素敵なステージだったよ」
あまり喋ったことはないけど、安城羅さんって笑うとこんなに笑顔が素敵な人だったんだ
「ありがとう!」
「それでね、泉野さんさえよかったら……来ない?」
「え、どこへ?」
差し出されたのは安城羅さんの名刺。そこにはSTAR☆BLUEの文字が。なるほど傘下でしたか
そこから導き出される答えはひとつ、スカウトだ
「ごめん。それはできない」
「なんで?泉野さんのルックスと歌唱力なら神ファイブも夢じゃないよ?」
「だからこそ、できない」
思い出せ、私たちの原点を
「6ix waterはね。神ファイブに挑戦するために結成したの。具体的に言うとアイドルキングダムの両部門の順位で上回ろうとしてる。だから、STAR☆BLUEに与することは出来ない」
「……そか。じゃあ頑張ってね」
「うん。勝つよ、絶対」
――――――
「ということがあったんだよね」
「ふむ…似たようなことがあった者は?」
一年生だけかな。でもなぜだろう
「私や沙織、セイラはスカウトしても断られるのが分かってるのよね。特に沙織は花咲このはに挑戦すると公言しているし」
「すっげぇ度胸スよね」
「つまり、どう転がるかわからない私達がスカウト対象になったということですか?」
「先輩方とあたしがスカウトされてないことを鑑みるとそういうことだね」
「さて、そんなことより今日はライバルを知ることから着手しようか」
「ライバル……ですか?」
「神ファイブに勝つ。その前にボクらの上を行くアイドルを知ろうってことさ」
タブレット端末に表示されたアイドルキングダムのホームページ、ミュージックビデオ部門。昨日のライブの影響もあってか順位が急上昇している
「ボクの方で二組選んでおいた。『タニンノソラニ』と『アーカムハウス』だ。どちらもスタブル内のユニットだけれど、実質ほぼ独立しているよ」
「あ」
「どうしたんだい、玲奈?」
「タニンノソラニ、ふわりちゃんって安城羅さんだ」
「クラスメートッスか?」
「うん。安城羅メルって子がふわりって名前でネットアイドルやってるって言ってた」
「その相方のきらりちゃん、私のクラスメートの夢奏(ゆめかな)エルさんです」
「つまり、タニンノソラニは二人ともこの学校に在籍しているということだね」
「凄い偶然ッスね。アニメみたいッス」
「タニンノソラニ、オリジナル曲は1曲だけのようだね」
「ですね。他はアニソンやボーカロイド楽曲のカバーになります」
「そして、ボクらもオリジナル曲は一つだけ」
「沙織?」
いやーな予感がするんですがそれは
「1曲だけのライブバトルを、明日にでも姫野里学園でやろうじゃないか。格上の実力を知るにはいいとは思わないかい?」
『えええええ!?』
ボンちゃん、明日は頑張ってね