ドルオタだけどトップアイドルになれますか?   作:凪紗わお

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しばらくこういう形式が続くかと思われます。ご了承ください

酸素ボンベですが、登山やスポーツ後に用いられる酸素缶をイメージしています


lesson.11 岩村彌生

「さて、玲奈がいない間の活動は神ファイブの研究に充てようと思うんだが、どうだろう?」

 

「さんせーっス」

 

「私も賛成です」

 

「玲奈が帰ってきたら神ファイブを内外から知ることが出来るわ」

 

「あたしも賛成。そもそも『玲奈に置いてかれないようにするための備え』をする期間だったはず」

 

「クク、そうだ、ボクがそう言ったんだったね。では始めよう。まずは――岩村彌生だ」

 

「京都生まれの大阪育ちで現在の実家は奈良…生粋の関西人ね。恵まれたルックスやファッションセンスのおかげでギャルだとよく言われるけれど、本人は至って清純派」

 

「そのギャップがまたニッチなファン層には堪らないということでも話題っスね」

 

「裏表が一切なく、フレンドリーな性格も特徴ですよね」

 

「明日香さんがスカウトしたんだよね」

 

「彌生姉さんが大学受験に失敗し、落ち込んでいるところをお姉ちゃんが強引に誘ったそうよ」

 

「氷室姉妹と彌生さんは幼馴染だからね」

 

「マジすか」

 

「大マジさ。さて、あえて彌生さんのウィークポイントを挙げるなら、それは――」

 

――――――――

 

「思ったことをそのまま口にしてまう癖があんねん。あと嘘つかれへん。だからたまに誤解招く発言してまうんよ」

 

神ファイブの一角、岩村彌生が突然そんなことを言い出した

 

神ファイブは全員成人済で私だけ現役高校生。体験入籍の間は公欠扱いしてもらえてるけど、その間の勉強をレッスンの合間や終了後に神ファイブに交代で見てもらうことに。なんて贅沢なんだろう

 

初日の今日は彌生さんなのだが……

 

「なぁれなちん。この企画ひどいと思わへん?」

 

「な、何がですか?」

 

「これな、れなちんの成長サクセスストーリーに見せかけて、『素人の一般人はどんだけ頑張っても神ファイブの足下にも及ばへんねんで』っていう見せしめやと思うねん」

 

「そんなこと――」

 

否定出来ない。今日の練習メニューは主に基礎トレーニングとダンスレッスン、発声練習だった。普段の私達の十倍の量をこなした気がするほどで、ついていくのに精一杯で、ボンちゃん……小型の酸素ボンベを四本は使った。しかしそれでも神ファイブには生温かったらしく、物足りないという声がちらほら聞こえた

 

カメラが回っていたから緊張していたのもあるけど、それを抜きにしてもやはりプロと素人の差は歴然というものだった

 

「続きの言葉が無いってことは、そう思うんやな?」

 

「……はい」

 

無言は肯定。そして思ったことは嘘を付けない彼女に対し、嘘や誤魔化しをするのは失礼極まりないということだ。ちゃんと本心で向き合って語り合おう

 

「ウチが神ファイブに入ってすぐは戸惑ったで。それなりの練習メニューこなしてたんが急にコレやもん」

 

今の私と似ている。でもそれを口にするのはおこがましいし、決定的に違うものがある

 

「でも他の神ファイブメンバーも最初はそうだった筈だから、泣き言は言ってられなかった……ですか?」

 

「鋭いやん。その通りや。……ってかれなちんも言葉選ばへんな!ウチら似たもの同士やん!あはははは!」

 

笑顔の奥底に、憂いを感じた。きっとこの人は嘘はつけないけれど隠し事を沢山してきたんだろうなと思った

 

「辛いこと多かったで。その努力を、『しんどい』ってのを表に出されへんもん」

 

「……猛省しました。タニンノソラニとのライブ対決で緊張が切れた時、諦めているのが顔に出ちゃってたんです」

 

皮肉にも、6ix waterの最初の曲の最後の歌詞と顔に出てしまった気持ちが重なったことが未だに後悔として胸にある

 

「よし、じゃあちょっとアイドルのお勉強しよか!」

 

参考書にペンを栞替わりに挟んで閉じる彌生さん。ギャル系の人ってどうしてこうも『お姉さん』って感じがするんだろうと私はつくづく思う

 

「れなちんはSTAR☆BLUEとは違うグループでトップアイドル目指してるんやったよね?」

 

「はい」

 

「突然やけど質問。れなちん――いや、6ix waterは誰のために歌ってるん?」

 

「目の前にいるお客さんのためです」

 

「ネットやテレビとかやったら?目の前におらんで?」

 

「液晶の前にいる人を想像するしかない……と思います」

 

「ふむ。じゃあその人達にどうなって欲しい?」

 

「笑顔になって欲しいです」

 

「ここからが問題やで。笑顔になってもらうために、アイドルが心掛けるべきことは何やと思う?」

 

「……わかりません」

 

「自分が一番楽しむことや。笑顔で取り繕うても本当の気持ちは隠しきれへんからな」

 

「だから楽しむ。そういうことですか?」

 

「そ!まぁ、頂点見たことないウチがそんなん語るのもアレな気がするけど」

 

「いえ……とても参考になります」

 

「…ホンマにええ子やなあ、れなちんは」

 

不意に頭を撫でられる。優しい手つきでいい匂い。私は一人っ子だけど、お姉ちゃんってこんな感じなのかな

 

「だいぶ蕩けた顔してるけど、そんなに気持ちよかった?」

 

!?

 

「あ、えっと、その、これは!」

 

「ええんよー。高校生とはいえまだ子供。甘えたい年頃やもんなー」

 

抱きしめられて、うまく思考ができなくなる。そんなとき、ふと彌生さんの言葉を、教えを思い出した

 

どれほど努力しても、自分の感情は隠しきれない。ならばその感情を表に出せばいいじゃないか

 

「……彌生さん」

 

「ん?」

 

「ちょっとだけ、甘えてもいいですか?」

 

「うん。勿論」

 

「うう……うわああああああああああああ!!」

 

自分でもなぜ泣いているのか分からない。それでも涙はまるで壊れた水道のように溢れ出して止まることを知らない

 

結局泣き止んだのは十分後、息が苦しくなってボンちゃんの出番が来た時だった

 

「大丈夫?」

 

「はい、なんとか――ごめんなさい、服汚しちゃって」

 

「ええんよ、れなちんがきちんと自分の気持ちをぶつけてくれたっていう証拠や」

 

「ふふ、なんですかソレ」

 

「よし、じゃあお勉強再開するで!がんばろー!」

 

「おー!」

 

アイドルが笑顔でいられる理由、それは心から楽しんでいるから。私もいつか、その境地に辿り着けるのかな


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