ようやく横島と絡めることが出来ました。
今回は超短いです。
「ふーーー今日もいい仕事したな……俺って昔と同じことやってないか?」
横島は独り言ちる。校舎の壁タイルの剥がれを直していたのだ。
横島は風紀委員見習いになって1週間たっていた。
ようやく騒がしかった新入生部活動勧誘週間が終わる日でもあるのだが、ラストスパートなのだろう。
何時にも増して、勧誘が激しいのだ。
横島には関係ない話ではある。
風紀委員といっても、横島がやっている事は、ほぼ雑用だ。
本来、庶務課などが担当するような仕事なのだが、横島としては庶務課の美人受付と話せるとあって、結構ノリノリでやっている節があるのだが。
横島が、ひと仕事を終え構内のベンチで新入生争奪合戦を何気なしに見ていると、不意に横島の袖を引っ張る生徒がいた。
その女生徒は挨拶もなしに不意に横島にこう言ってきた。
「横島さん、前から聞きたいことがあった」
「へ?なに?雫ちゃん今日は一人?」
そう深雪と同じクラスの1科生、北山雫が話しかけてきたのだ。
普段は幼馴染の光井ほのかと一緒なのだが今日は一人らしい。
雫は横島の横に座り、眠たそうに見える目で聞く。
「あの時、ほのかの魔法をどうやって止めたの?」
「へ?何のこと」
雫は1科生と2科生で騒動を起こした時、ほのかが魔法を放つ瞬間に横島がほのかの手を取ってナンパした時の話をしているのだ。
雫はジトッとした目で横島を見て続きを言う。
「わたしは近くにいたから、よく見えた。ほのかの魔法は術式起動直前まで行っていた、それなのに発動しなかった。術式が壊されるのではなく、消えたように見えた」
「そうなの?」
横島は首を傾げて言う。
「普通じゃ有り得ない。ほのかも術式を解除したつもりは無かった。あそこまで展開したものを破棄するのも難しいと思う。だとすれば、横島さんがほのかの手を握った時に何かしたとしか思えない」
この北山雫という少女は冷静に観察する能力が備わっている様だ。
横島は珍しく困ったような顔をして、真面目な話をしだした。
「どう説明したらいいのかわからない。ただ、俺が使っているのは霊能力……じゃなくて古式魔法って分類される魔法らしいんだ。後あんまり大ぴらにしたくないんだけど、俺の保護者は氷室なんだ。こんなんで許してくれないかな?」
真剣に聞いてきた雫に対して、横島は無下にはできなかった。
実際には横島の霊力そのものを流し込んで術式その物を修正液の様に上書きして消したのだ。
お分かりの人は居るだろうが、横島の必殺技の代名詞、ハンズ・オブ・グローリーの応用だ。
物質そのものだけでなく、霊力や霊装、結界、さらに神や魔神などの高次元体まで切れる万能な霊波刀なのだ。しかも自分の意志でどのような形状にも変化させることが出来るのだ。
雫は最初はその眠そうな目を大きく見開いていたが……納得してくれたようだ。
「わかった。やっぱり、横島さんはスゴイ人だったんだ。教えてくれてありがとう」
雫はどうやら、あの事件の時から横島がただものではないのではないかとずっと思っていたらしい。
普通なら、横島のバカであほで、スケベなところしか見ないのだが、冷静に物事が見れる雫ならではだろう。
「横島さん、話、また聞きにきていい?」
「たはははは」
乾いた笑いで返事をする横島
雫はその笑いを聞いたあと了承を得たと思ったようで、校舎の方へ戻っていった。
「うーん、霊力そのまま使うとやばいか、やっぱCAD使わないとダメそうだな。誰に習えばいいんだ?」
横島は独り言ちる。
横島は分かっていた。突出した能力や特殊に過ぎる能力は、争いの種になる事を……そして悪意の渦に巻き込まれることも……
自分の霊力は随分と抑えているつもりだが、この時代では特殊に過ぎる能力らしいのだ。先日の神通棍を起動したときの摩利や達也の様子からもわかる。
横島は元来争いを好まない性格だ。しかし、過去では、周りの状況がそれを許してくれなかったのだ。
横島は空を見ながら、ため息を付き、ベンチから立ち、風紀委員会本部に戻って行った。
入学編の最終場面にじょじょに近づいてきたかな?