誤字脱字報告ありがとうございます。
今回も横浜騒乱編にあまり関係ないです。
10月1日次期生徒会会長信任投票により、中条あずさが無事?信任を得ることが出来た。
信任投票のはずが何故か、深雪や達也にも票が上がっていた事は内密である。
新体制の生徒会執行部は
会長 中条あずさ
副会長 司波深雪
書記 光井ほのか
会計 五十里啓
と言うメンバーで運営される。
前副会長の服部刑部も会長候補ではあったが、部活連の会頭に就任する事になった。
現在、生徒会室の会議室で新旧の生徒会会長及び風紀委員会委員長、部活連会頭が集まっている。
会議室の重厚なテーブルに七草真由美、渡辺摩利、十文字克人と旧メンバー並び対面に中条あずさ、千代田花音、服部刑部の新メンバーが並んで座っている。
各トップのみに引継がれるある重要事項についての会議が開かれる。
新たなトップのメンバーは緊張した面持ちで座っている。最重要事項の引継ぎだと聞かされていたからである。
そして真由美が畏まって話を切り出した。
「今日みんなに集まってもらったのは、ほかでもないの。とある事項について引き継ぎを行なわなければなりません。校長やその上の意向で、学内でも一部の教職員と私達だけにしか、知らされていません。口外無用に願います」
続けて摩利は緊張した面持ちの新メンバーにそう言った。
「落ち着いて、冷静に聞いてくれ」
新メンバーは真剣な表情で次の言葉を待つ。
「これは国家の政治的な取引が行われた可能性が非常に高い案件でかつ非常にデリケートな問題です。……実は今年の一年生の中に氷室家の家人である生徒が在学しています」
新トップメンバーは驚きの表情をあらわにする。
あずさは驚きながらも聞き直す。
「氷室家……と言うのは、救済の女神の氷室家ですか?」
「そうよ」
真由美は一言返事をする。
服部も驚きながらも質問をした。
「……それは、司波兄妹でしょうか?」
あずさも、花音も服部の質問に頷く。両名も司波兄妹が氷室であると思った様だ。
実力からすればそう思われても仕方がない話である。
服部の質問に真由美も摩利も首を横に振り否定した。
今までどっしりと構え話さなかった十文字が腕を組みゆっくりと口を開く。
「……1年E組…横島忠夫だ」
あずさは口をポカンとあけたまま固まる。
服部は目を大きく見開いたままになっている。
そして、
「えーーーーーーーーーー!!」
花音は立ち上がり驚愕の声を上げた。
「花音落ち着け、座れ」
摩利が花音に注意をする。
「だって、摩利さん、あれですよ!!覗き、変態、ナンパ野郎の横島ですよ!!」
「花音!!」
摩利は花音を叱りつける。
「だって……」
花音は叱られしょんぼりするも納得がいっていない様だ。
「摩利、そのくらいで許してあげて、誰だって驚くわ。普段の彼だけにね」
真由美は摩利と花音を見やって仲裁をした。
服部は驚愕した顔から普段のきりっとした顔に戻り質問をする。
「氷室と言っても、彼は末端で氷室の技術や魔法を引き継いでいないのではないでしょうか、聞くところによると、入学当初は魔法もろくに使えなかったと伝わってます」
真由美はその質問に答える。
「最初は半信半疑だったのだけど、今は横島くんは間違いなく氷室の人間だと私たちは確信しているわ。4月末に当校がテロリストに襲撃された際、生徒に重傷者が出なかったと報告したのだけど、それは表向き。実は8名ほど瀕死の状態だったの。大やけどを負ったり、四肢が千切れていたり、内臓破裂など悲惨な状況だった。救急隊の到着も遅れてもうダメかと思いながらも、最後の頼みの綱として横島くんに、救急隊が来るまで持たせてほしいとお願いしたの。そしたら彼、20分もかからずに、どうやったのかはわからないけど、千切れた四肢を元通りに、焼けただれた皮膚を再生させ、内臓も治したの。しかもその後断続的な魔法の行使もせず、一回の治癒で完璧に治してみせた。氷室の秘術に当たるとして私たちは治療に立ち会わなかったけど、摩利と一緒に術後を確認したわ。あの治癒スピードに治癒状況。彼は間違いなく学内一……いえ、私の知る限りでは世界でも稀にみる最高峰の治癒魔法師よ」
新メンバーは驚きで声が上がらなかった。
通常、治癒魔法と言うのは、断続的に魔法を行使しないと、元の状態に戻ってしまうからだ。
「………そんな凄い治癒魔法聞いたことがないのですが」
あずさがやっとそれだけを声にした。
摩利が真由美の補足として自分の体験を話す。
「私は直に体験した。九校戦バトル・ボード決勝の事故の時だ。本来は数か所骨折して、内臓にも骨が刺さり重体だったようだ。私自身もそれを感じていた。その時も横島は5分もかからずに治癒してくれたらしい。私が目を覚ました時には、体は怠かったが、傷も骨折も無くなっていた。あれは多分氷室家に伝わる秘術なのだろう」
「………」
新メンバーは沈黙し顔を青くしていた。
さらに摩利は先の服部の質問の一部に答える。
「確かに横島は、入学当初は魔法が全く使えなかった様だ。CADの起動の仕方も知らなかった様だしな。しかし……奴は現代魔法が使えないだけであって、古来からの古式魔法いや、法術、陰陽道とでも言うのだろうか、奴は扱えたはずだ」
その話に、新メンバーだけでなく、十文字も真由美も驚いていた。
「摩利、それはどういう事?」
真由美はその話を摩利から聞いていなかった様だ。
摩利は続きを話す。
「私が、無理やり奴を風紀委員に入れ込んだのは、奴が突拍子もない事をしでかすのを監視するためでもあったのだが、決定づけたのは、丁度入学して1週間ぐらいの時だ、奴にペナルティーで風紀委員本部の掃除をさせていたのだが……卒業生の誰かが置いていった霊具……神通棍と言うものらしいのだが、今まで誰も動かせなかったのものを、奴はCADも使わず、起動式も展開せずに当然の事の様に発現させた。これは達也くんも見ていた事だ。あの時はただただ驚き、他の目につかない様にという思いだったのだがな……」
「……起動式を展開せずとはどういうことですか!!」
服部は体を震わせまくしたてる様に摩利に聞き直す。
「それは……私にもわからん」
十文字は服部に話しかける様に言う。
「服部、その様な物は奴の一要素に過ぎん。九校戦モノリス・コードの映像をお前たちと一緒に確認しただろう。奴は魔法が無くとも強い。決勝戦で見せたあの戦闘がすべて物語っている。何よりも精神力と頭の回転は凄まじい。
七草と渡辺には言っていなかったが、あの後俺は何度も映像を繰り返し見た。奴の戦略眼と戦術も凄まじい事が改めて分かった。奴が動き出したら、既に全員が奴のペースに陥っていたのだ。
更に後で、横島と横島のCADを調整した司波に聞いたのだが、奴のCADにはたった三つしか魔法式が入っていなかった。それも、とても戦闘に向いているように思えないものが三つだ。
基礎固定魔法一つに、魔法を行使したように見せる魔法、それと、触れると術者に知らせるだけの条件起動遅延型術式だけだ」
その話に驚いたのは摩利と真由美だった。
「なんだと!それは本当か!?」
「たったそれだけで……本当なの?」
「ああ、奴はどんな状況だろうが、手札が少なかろうが、不利だろうが、勝つためのシナリオを瞬時に作っていたのだろう。
七草の指摘していた奴のあのスピードと反射神経は魔法で強化したものではない。それと映像を繰り返し見てわかったのだが、オールレンジ攻撃を受ける際、奴は攻撃魔法を目で確認していない。全て後ろに目が付いているかのように攻撃を避けていた。
渡辺の話を聞いて確信した。奴は古式魔法いや、古来あったとされる体術や秘術を行使した可能性もある。そういう修練をしたうえでの基礎能力なのかもしれん。何れにしろ氷室にはそれが体系として残っているのだと、そして、渡辺が言うその神通棍なるものなどの攻撃手段もあったはずだが、奴は、現代魔法のルールにのっとり敢えて使わなかったのだろう。
奴は氷室の末端ではない。上位、いや最高峰に属する古式魔法師だと……逆にそうであってほしい。奴が末端なのであれば、十師族総出でもかなわないかもしれん。」
十文字はそう言って締めくくる。
「そんなとんでもない奴がなんで二科生なんかに……」
服部はそう言ったが途中で気が付いたようだ。
「今の審査の方法が合っていないってことなのだろ?」
摩利は服部が深雪に言われた事を言った。
「そうなのね…やはり彼は最初っからかなりの実力者だったのね」
真由美はしみじみと言う。
「摩利さん……私どうしたら……ただでさえ司波くんが居るだけでも大変なのに、横島くんまでそんなだったら……」
花音は涙目で摩利に訴えかけた。
「頼りがいがあっていいじゃないか。まあ、普段はアレだがな」
摩利は花音をそう諫める。
「……あの、横島くんの事を秘密にするのはいいのですが、彼をどのように扱ったらいいのでしょうか」
あずさは質問する。
「普段はいつも通りでいい。何かあったら、頼れとしか言いようが無いな。達也くんもそうだが、横島も頼りになる。普段はあんなとんでもない奴だがな」
摩利はあずさにそう言った。
「ううううっ、啓に言ったらダメですか?私だけで秘密にするのは無理です。グスッ」
花音は涙目で訴えかける。
「横島くんに聞いたのだけど、深雪さんとほのかさんは知っているらしいの。仲いいじゃない彼女ら、あと生徒会では知らないのは五十里くんだけだから、横島くんに聞いてみたら、別にいいですよって、軽く言ってたし……」
真由美は事前に横島に引き継ぎの話をしていた様だ。
「うううっ、良かった。七草先輩ありがとうございます」
「はぁ、奴は事の重大さに気付いていないのか?」
摩利は呆れている様だ。
「そこが、奴の底が知れんところだ」
十文字が頷きながら言う。
「そうか?あいつは普段は本能の赴くまま行動しているように見えるが……」
摩利は普段の横島を思い起こしながら言う。
「フェイクかもしれん」
十文字は語気を強くして言う。
どうやら、十文字の横島を評価は少し過剰なようである。
まあ、実力的には間違ってはいないのだが、普段は摩利の言う通り本能で動いている。
「取り合えず横島くんについて、これで引き継ぎ完了ね」
真由美はそう言って肩の荷が下りた様に言った。
「…………」
新トップメンバーはそれぞれ思う。今後どうやって横島と接すればいいのだろうと……聞きたくなかった事実だと。
次位からようやくちょっとは本編にはいれると思います。