横島MAX(よこしまっくす)な魔法科生   作:ローファイト

163 / 192
感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


修羅場回から一転した急展開となっております。






163話 横島 リーナ・真由美・達也に知られる!!

リーナと真由美は横島の身の回りの世話を行う事に付いて口論を始めてしまう。真由美がやはり優勢に立っていた。

その間、渦中の横島はあたふたとしているが、達也は冷静にその内容を聞き何か考えをまとめている様だ。

 

そんな中、マリアはすくっと立ちあがり、なにやら綺麗に包装された箱を横島の前に二つテーブルの上にスッと置く。

 

 

「横島さん・ミス雫の・バレンタインチョコレート・これはマリアからのバレンタインチョコレート」

マリアは二人の口論など目に映ら無いかのように、横島に話しかける。

 

流石のリーナと真由美もこのマリアの行動に口論を止めざるを得なかった。

 

「マリア?」

 

「横島さん・開けて・ミス雫からは・了解を貰ってます」

マリアは雫から預かっていたチョコを再度手に持って横島に渡す。

 

「今?」

 

「今です」

 

横島は包装を解き、厚さ3㎝程のB5サイズの箱を上に開く。

するとそこには16個程の小さなチョコが並べられていた。形はハートやら六角形のものやら、アーモンドが乗っていたりと一つとして同じ形状のものがなく、どこか素人っぽい作りではあったが手作りであることがわかる。

立体メッセージ映像が箱の中央から飛び出す。

 

(大好きな横島さん、バレンタインチョコレート作りました。食べてください)

キッチンだろう所で、この完成したチョコを手前のまな板の上に置いて、可愛らしいエプロン姿の雫が映っていた。相変わらずの眠たそうな目をした雫の顔にはところどころ茶色い物が飛び跳ねてくっ付いていた。

 

(お嬢様、他には?)

どうやら、撮影者の声が入っている。多分、黒沢さんだろう。

 

(私もこっちの、学校に慣れてきました。大丈夫です。横島さんも大変だと思いますが頑張ってください)

言葉数は少ないが、実に雫らしいメッセージであった。

ここで立体映像が切れる。

 

「雫ちゃん……」

横島はこの愛らしいメッセージをみて心温まる思いがする。

 

真由美もリーナもこの映像を見て、毒気が抜かれる思いがした。

本来、雫もこの二人のライバルのハズなのだが、そうは見えなかった様だ。

まあ、傍から見ると、大好きなお兄ちゃんのためにチョコレートを作っている風にしか見えないだろう。雫はこの二人とは別のベクトルの恋愛観を持って横島に接しているため、これはこれで有りなのだろうが……

 

マリアは次に雫のバレンタインチョコの箱と同じサイズの箱を横島に渡す。

「マリア・からです・開けて下さい」

 

横島はマリアに言われるまま、チョコの箱を開けると……

横島は一瞬息が詰まる。

 

茶色一色ではあるが、厚さに2㎝ほどだが立体写真のような造形で作られたチョコであった。そこに描かれていたのは……

横島の思い出の中の……美神事務所の面々であった。中央には美神令子、右に大きなバックを背負った横島、左には袴姿の絹、その後ろには小さく背景と共に、マリアやカオス、かつての仲間だろう姿と、背景には、もちろん美神事務所が描かれている。

額縁の四隅には蛍が写真を照らすような構図で作られていた。

他の人間が見ても、それが誰なのか、どの場所を描いたものなのかは分からないだろう。しかし、横島にははっきりわかる。間違いなく、17歳頃の横島……魔神アシュタロスと戦う前の様に見える。まだ、がむしゃらだったころの横島と、その仲間たちは、この頃の横島以降に出会った人物たちも描かれ、一様に皆笑顔を振りまいているように見える。

 

「……これは…」

横島は苦しそうな顔をする。

 

「皆は・ずっと笑顔です・横島さんも・笑ってください」

 

「マリア……」

横島はマリアを見上げるが、やはり苦渋に満ちた顔をしている。

横島は過去に見捨ててしまった大切な女性二人と、切り捨ててしまったかつての仲間たちが描かれているチョコは横島の心に重くのしかかる。

しかし、誰もそんな事を思っていない。

大切な女性二人は……

ルシオラは横島にはただ生きてほしかった。

絹は横島に笑顔のままでいてほしかった。

かつての仲間たちも、横島に感謝や称賛の声をこそ上げるだろうが、切り捨てられたとは思わなかっただろう。実際にマリアやカオスがそうだったのだから……

 

「誰も・そんな顔を・望んでません・だから・笑ってください」

マリアは再度横島に諭す様に言う。

本来このチョコは、リーナ達に見せるつもりは無かった。

横島がこのチョコを見て、少しでも元気になってほしいと思っていたのだが……横島の精神状態が予想以上に悪い。

横島が記憶回復してから1ヶ月以上共に過ごしたが、横島は決して、カオスやマリアの前では弱いところを見せようとしなかった。

しかし、マリアはこの日本での、ありとあらゆる情報を検索し日本での横島の行動状況を把握し、自分なりに分析した結果、この答えに至ったのだ。

今も尚深刻なトラウマを抱えたままだと………

 

横島の師匠、斉天大聖老師も小竜姫もこの事には十分気が付いている。斉天大聖老師は、時間と共に解決するしかないと考えており、今は横島の好きにさせようと考えていた。

小竜姫も大まかにはそれと同じなのだが、なまじ恋愛感情があるのと、若い神であるため、人間の細かい機微には疎いのか、失敗が多い。

 

そして、マリアは二人の女性の口論を見ながらも……やはり、横島の事を知ってもらうべきだと判断したのだ。

 

 

 

リーナも真由美もマリアのチョコを見て、それが何かの集合写真を象ったチョコだという事は分かったが、誰を何処を描いたものなのかは分からなかった。

 

しかし、横島の苦渋に満ち、今にも泣き崩れそうな顔に直ぐに目が行く。

 

「タダオ……どうしたの?」

「横島くん……」

「………」

リーナも真由美も達也もこんなに苦しそうな顔をする横島を見たことが無かった。

 

 

そんな中マリアは意外な行動にでる。

「横島さん・飲み物と・デザートが・切れました・ここで・買ってきてください」

 

「え?マリア?ちょっ…え?」

 

マリアはそんな横島を強引に引っ張り、コートと買い物する場所を書いたメモを渡し、玄関から押し出したのだ。

 

玄関のカギを閉め、また元の場所に座る。

 

横島は苦しそうな顔から、狐につままれたような顔になり、何が何だかわからないうちに家から放り出されたのだ。

 

 

 

 

「マリア、タダオはどうしたの?なんであんなに辛そうなの?」

「マリアさん、あのチョコに描かれていた物は一体……」

 

「横島さんは・普段・元気に・見えますが・本当は・あのような状態です」

マリアは横島がマンションから遠ざかって行くのを確認し話し出す。

マリアはあのタイミングでチョコを出したのは、横島の心の状態を皆に知ってもらうためだったようだ。

 

「マリアさん、どういうことですか?」

達也がマリアに改めて聞き直す。

 

「横島さんは・昔からバカな・事をやっています・しかし・今の横島さんは・マリアには・から元気にしか・みえません」

 

「…………タダオ」

リーナはどうやら思い当たる節があるようだ。

記憶喪失の横島を見ているリーナは、今の横島にほんのわずかだが違和感を感じていた。

確かに、バカなことをやっているのは一緒なのだが……何かが引っかかっていた。

 

「あのチョコは・マリアも含め・横島さん・昔の友人達を描いた物です」

 

「なんで、タダオはそれを見て苦しむの?」

 

「横島さんは・心に大きな傷を・負ってます・それが元で・本来の力も・発揮出来てません」

 

「な!!あれでも本来の力ではないとでもいうのか!!」

達也は驚きのあまり、思わず立ち上がってしまう。

あれ以上の強大な力があっていい物だろうかと……

 

「……あれ以上があるの」

真由美も驚き口を両手で押さえている。

 

「やっぱり……」

リーナは横島が記憶喪失時に、力を使おうとするたびに、苦しんでいる姿を見ていたため、驚きはそこまでは無かった。

しかし達也と真由美は横浜の時の横島の姿を見ている。それはリーナが想像するよりも遥かに上の力を振るった横島の姿だった。

 

「ミスター・司波が言っている意味は推測ですが違います・横島さんの・力は・本来・攻撃手段で使う・ものでは・ありません。それと・問題は・そこでは・ありません」

 

「心に大きな傷……横島くんに何があったんですか?マリアさん」

 

「……タダオ」

 

 

 

「過去……いいえ・第一高校に入る前に……横島さんは・大切な女性・二人を次々に亡くしています」

マリアは具体的な内容は言わず。端的にその事だけを伝える。

内容はとても言えるものではない。

また、ここで言う二人とは勿論、ルシオラと氷室絹の事だ。

 

 

 

「え?……横島くんが……でも……そう、そうなのね」

真由美はその事に驚き先ほど同様に口を両手で押さえていた。いつも楽しそうに笑っているイメージしかないからだ。……しかし、時折見せる寂しそうな目をしている横島を思い出し、それがこの事なのだという答えに至った。

 

「タダオ……いつもはあんなに明るいのに、女性の好意に恐怖しているってそう言う事だったの……」

リーナは今日マリアに言われたこの事の原因がそれだったのだと思い知る。

 

「………」

達也も3年前に母の死に直面したが、感情の薄い達也にとってはそこまでではなかった。しかし、もし深雪が死んだらと思うと、それは自分にも当てはまるのではないかと思い至る。

しかしながら、普段の横島はそれを一切感じさせない程、陽気で明るかった。

 

「それを自分の所為だと…彼女らは・決して・そんな事を思っていないのに・事実・横島さんの所為ではありませんでした。しかし・横島さんは・今も自分を責め・続けています」

 

「マリアさん。あれ程強い横島が守れなかったというのは……合点がいきません。それ程の抗争は最近の日本では佐渡島と沖縄の侵攻しか思い当たりませんが……横島があの力を振るえば、抗争自体終息してもおかしくありません」

 

「それは・いえません」

 

「タダオは……自分が辛いのに何時も、優しくしてくれる。自分が酷い目に遭っても、そんな事をおくびにも出さずに……」

リーナは自分のせいで、横島が陰険な仕打ちにあっていた事を今日まで知らなかった。横島はリーナの前ではそんな事をおくびにも出さなかったからだ。

 

「横島さんは・昔から・優しく・精神力が・非常に・強い人でした。皆の心を・かるく受け止められるぐらい。それでも・心には・限界があります」

 

「……それでも、人のために、私達のために助けに」

真由美は横島がピンチになると必ず助けに来てくれる事に、そして、時折見せる悲しそうな顔を思い出し、複雑な気分になる。

 

「横島さんは・二度と・仲間を・友達を・好きな人を・失いたくない・というある意味・呪縛のような強烈な思いが・心の中を支配しています。だから・無茶を・する・自分の事を・顧みずに」

 

「マリアさん。なぜこんな事を俺たちに打ち明けたのですか?」

 

「横島さんは・あなた方の事を・信用しています。あなた方も・横島さんに・好意を持っており・横島さんの・力になってくれると・判断したからです」

 

「横島くんの力に……でも私達の力ではとても横島くんの様には……」

 

「いいえ・そう言う意味では・ありません。横島さんは・いつか・自分の身を・犠牲に・しかねません・その時・誰かが・止めなければ・取り返しがつかない事になります。その役を・そばに居るあなた方に・担ってほしい。……今横島さんは・自分の命を・一番軽く・見ています」

 

「そんな……自分の命が軽いなんて……」

「タダオは間違っている。タダオの命が軽いなんてことは無いのに……」

「くっ」

達也には思い当たる節があった。横島がマテリアル・バースト受け止めた時の話だ。

一歩間違えれば横島は木っ端微塵になっていたのだ。それを平然と、『助かったらいいじゃん』と言い切ったのだ。その一因は達也にもあった。達也に多量虐殺者になってほしくないからだとも語っていたのだ。

達也は当時、たったそれだけの事で命を懸けてしまう横島が全く分からなかった。しかしここに来て、その精神性は理解できないが、横島がなぜ、その様な事をしてしまうのかが分かった気がした。

 

「横島さんは・本来・戦いや・争いごとを・好みません。しかし・それは周りが・彼の力が・許してくれません」

 

…………

そのマリアの発言で、今の自分たちがまさに横島の力を利用している様なものだと、改めて思い知らされる。

 

「でも、横島さんは・周りが・困っていたら・見過ごさない・だから、ある意味・仕方がない事・だから・横島さんの・疲れた心を・癒してあげる必要が・あります」

 

「それを私達に?」

 

「イエス・特に・ミス・アンジェリーナ・ミス・七草の横島さんに向ける・好意は・好ましく思います。しかし・今の横島さんは・女性の好意に対し・恐れを持っています。だから・性急に・事を・進めては・いけません」

 

「マリア……でも、私はどうしたらいいのか分からない」

リーナは自分の気持ちを素直に伝える事は出来る。でも横島を癒すにはどうしたらいいのか分からなかった。

 

「マリアも・分かりません。ただ、横島さんが・心の内を・話してくれる・様になれば・と思います」

 

「横島くんの心をトラウマを癒してあげるか……」

真由美は何やら思いふけるように言う。

 

「具体的な対策が無いという事か……しかし、あの時のレオの指摘は的確ではあったな……」

達也は誰と無しにそんな事を言う。

あの時のレオとは1月中旬に横島との通信で再会した時の事である。横島が皆を巻き込まない様に黙って一人でUSNAで吸血鬼退治を行おうとしていた事に対し、レオが横島にちゃんと話せと叱りつけた時の事だ。まさにマリアの指摘通りなのだ。

 

「私は横島くんに助けてもらってばかり何も返せていない。だから、横島くんには、色々とお返ししなくっちゃ」

真由美は何やら決意した様にそう言った。

 

「私は……軍人で……戦う事しかできない。どうやってタダオを助けてあげれば」

 

「ミス・アンジェリーナは・自然で・いいです。過剰な・スキンシップを・しなければですが・USNAに・居た頃の・記憶喪失の横島さんは・ミス・アンジェリーナ・と一緒の時は・実に楽しそうでした」

 

「ほんとうマリア!!」

リーナは先ほど間で思い悩んでいたのがウソの様に心が晴れ晴れとする。

 

「イエス」

 

「む……私だって、横島くんを楽しませてあげられるわ」

 

「真由美には無理ね。私はマリアのお墨付きだからいいの」

リーナは相変わらず直ぐに調子に乗る。

 

「……リーナと七草先輩、そういうのが良くないと言ってるんですよ。マリアさんは……」

達也は呆れた様に二人に注意をする。

 

「イエス」

マリアも呆れたように達也に同意する。

 

 

 

 

 

一方、家を放り出された横島は、マリアのメモを見ながら……

「マリア……どういうつもりでって……やっぱりダメだな俺。マリアにまで心配までかけさせてる…………なかなか吹っ切れるものじゃないな…………って、どこまで買い出しさせるつもりだマリアは、これもう八王子の外だ。うーん府中当たりの国道だな……はぁ」

府中の24時間スーパーへ買い出しに向かっていた。

 

 

 

そして、七草家では、姉の帰りを待っていた双子姉妹は、車の運転手から、真由美を置いて先に帰るように言われた事を伝え聞く。

「えええーーーー!!お姉ちゃん帰ってないの!!なんで!?」

 

「その、横島さんのお家に、お泊りなのでしょうか?」

 

「がーーーー!!お姉ちゃんの一大事だ!!」

 

「ど、どうしましょう……」

 

「あのスケベ・変態横島!!お姉ちゃんに変な事したらただじゃ置かないんだから!!行くよ泉美!!」

 

「待ってください香澄ちゃん。お父様達に伝えないと」

 

「泉美ダメだって!!お父さんはあの変態横島とお姉ちゃんをくっ付けるつもりなんだよ!!」

 

「でも……」

 

「ボク達だけで、何とかしないと!!」

 

双子姉妹、七草香澄と泉美は姉、真由美を横島の魔の手から救うべく、勝手に家を出て、八王子にある横島のマンションに向かったのであった。

 

 

 




いきなりシリアス回になりまして……
この話をどのタイミングで入れようか迷ってました。
最終回近くがいいのか、一度ジャブ程度に入れた方が良いのかと……
今の段階では横島のここまでの情報開示が限界ですかね。

香澄ちゃん泉美ちゃん遂に行動に……
修羅場回に逆戻り??

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。