誤字脱字報告ありがとうございます。
とうとうこの時が来てしまいました。
では……
学期が始まり、5日が経過し最初の休日。
達也は自宅のリビングでソファーに深く腰かけ、この1週間リーナの言動や行動について、頭の中で整理し考察していた。
「お兄様、リーナの事を考えていたのですか?」
「ああ」
「まあ、よくもまあ、堂々と他の女性の事を考えていたなんて、お兄様は悪い人です」
深雪は拗ねた様に言う。
「ふー、深雪」
達也は溜息をつく。
「冗談ですわ、……リーナがスターズのアンジー・シリウスではないかと考えておられるのですね」
「……深雪は何でもお見通しなのだな、そうだ」
「深雪はお兄様の事をずっと見ていますもの、お兄様の事は何でも知っていますわ」
「しかし、リーナは諜報員としてはレベルが低すぎる。まるでUSNAはリーナの正体がばれても構わないかのようだ」
達也はリーナをそう評した。
先日も、リーナは風紀委員会を見学したいと言い、わざわざ達也を指名し、構内を巡回している間に、いきなり攻撃をしてきたのだ。ちょっと実力を知りたかったという理由でだ。まあ、殺傷性のない攻撃ではあったが、こんなことを真正面から行う諜報員としては大失格だ。
逆に達也はカマを掛けリーナから情報を引き出していたのだが……
実はリーナはリーナで焦っていた。達也と深雪の白黒をはっきりさせ、任務を終了させたかったのだ。横島に会いに行くために………もはや猶予が無いと判断したのだ。このままだと横島が日本に、第一高校と達也と深雪にとられるのではないかという焦燥感がリーナを支配していた。
「でも、アンジー・シリウスと言えば、USNAきっての魔法師、しかも戦略級魔法師ですわ」
「そうだ。俺たちを探るにしてはおかしな差配だ。他に何かあるのではないかと疑いたくもなる」
達也も深雪もアンジー・シリウスという大物をこんな杜撰な形で使うとは到底思えなかったからだ。
「それとだ………」
「横島さんの事ですね」
「ああ、横島の写真を見たリーナは明らかに動揺していた。しかしそれ以降、横島についてカマを掛けるが、一向に尻尾を出さない」
達也は平然と話しているが、深雪には少しイラついているように見えた。
「やはり、スターズが監禁などをしている可能性があるという事ですね」
「ああ、その後、雫からは連絡は……」
「いえ………ちょっと待ってください。ほのかから電話です」
そう言って、深雪はソファーから立ち上がって、リビングの端で立って携帯端末を操作する。
「……ほのか?何言っているかわからないわ?え?……え!!……お…お兄様!!」
深雪は最初は淡々とほのかの容量のえない話を聞いていたのだが急に大きな声を出す。
「どうした深雪」
「雫が、雫が横島さんを見つけたそうです!!それでさっきまで一緒に居たそうです!!」
深雪は大きな声で、横島を見つけた事を達也に興奮気味に言い、そして携帯端末を達也の所まで持って行き、テーブルの上に置き、スピーカーモードにする。
「!!」
達也は目を大きくし立ち上がる。
『達也さん!こんにちわ!!』
「ほのか、雫が横島と接触したとは本当か!!」
達也は珍しく興奮気味だ。
『はい、横島さんは元気だそうです』
「そうか、記憶喪失の方はどうだ?」
『その辺の事を詳しく、横島さんから話したいそうなんです。皆を明日の午前中に集めて、欲しいって、皆と画像通話を希望しているみたいです』
「わかった、セキュリティーレベルでいえば、ここが一番いいな、俺と深雪で他の連中に連絡をしておく、明日の日曜日10:00でいいか?向こうのセキュリティーレベルを聞いてくれ」
『わかりました』
「お兄様が時間決めてしまいましたが、ほのかは大丈夫?」
『勿論大丈夫。明日よろしくね』
そう言ってほのかは通話を切る。
達也は額に手を当て、再度ソファーに深く座りなおす。
「横島と接触できたか……やはりあいつはあれで死ぬような奴ではなかった……」
そう言いながらも達也は口元が緩む。
「しかし、変ですね。横島さんが通話可能な状況は、USNAかドクター・カオスに拘束されていたのではなかったのでしょうか?」
「それは明日、奴本人に聞けばいいことだ」
無表情ならが達也はどこか嬉しそうであると深雪は感じる。
「でもお兄様……横島さんはお兄様の事を……」
深雪はそんな達也を心配そうに見る。
横島が達也の事を恨んでいるのではないかという事だ。
達也のマテリアル・バーストが原因で今の事態に陥っているのだ。さらに言うと死んでいてもおかしくなかったのだ。
「大丈夫だ。何を言われようが覚悟は出来ている」
達也は何かを決意したような言い方をしていた。
一方、リーナは、焦っていた。
勿論任務の事ではない。横島の事だ。
最初は自分一人で何とかしようとしたのだが……限界が早々に来る。
九島烈の弟である祖父に連絡をするが、良い情報は得られなかった。九島烈ならば何か知っているかもしれないとの事だが、今は疎遠らしいのだ。一応コンタクトは取ってもらえる事になっているのだが、時間がかかりそうなのだ。
スターズの総隊長としてではなく、リーナ一個人として補佐役のシルヴィに相談したところ、横島が第一高校の生徒だった事にシルヴィも驚きを隠せないでいた。
横島が第一高校の生徒であることを問題視したシルヴィは、早速、USNA本国で今もドクター・カオスや横島と接触しているだろうカノープス少佐に連絡し相談した。
横島のスパイの可能性について検討、考察したがその可能性は極めて低いと少佐も判断したようだ。
また、此方で動いている日本の使節団について、藤林響子を筆頭に、横島に接触を図ろうと動いているきらいがあるとの事、しかし、上手く行っていない様子である……カノープス少佐自身、藤林響子と接触をし、情報は引き出せなかったが、上手く行っていない雰囲気だけは掴んでいる様だ。
そして、先日、リーナを震えさせるほどの情報が本国から入って来たのだ。リーナと交換でUSNAに留学している北山雫がドクター・カオスと横島たちが宿泊しているホテルに住み込みだしたというのだ。
明らかに、横島と接触するために違いないからだ。
達也が数日前言っていた。横島の所在の情報を得ているような事を……そして、友人達のリラックスしていた事、多分前から当たりを付けていたのだ。
逆にこの事が、横島がスパイである可能性を否定し、記憶喪失であることを確定させた。
記憶の無い横島はマリアとカオスがガードするだろうが、雫と出くわした拍子に記憶が戻るかもしれない。リーナはますます焦燥感にかられる……
そんなリーナにさらに追い打ちをかける。
今しがた日本国内で政府関係筋を内偵を進めていた諜報員から、情報が上がってきたのだ。
重要度は低い情報と分類されていた物だったのだが、横島がスパイの可能性があるという情報を一度通達しているため、そのフィードバックとして送られてきたのだ。
横島忠夫が氷室家の家人である可能性が高いという情報だ。
リーナは絶望に似た何かを感じ、背中に冷たいものが流れる。
氷室家と言えば、13代当主氷室絹が世界的に有名だ。世界最強の戦略級防御魔法『救済の女神』その能力を知れば知るほど、戦場を一変するほどの凄まじいものなのだ。
確かに横島が使っていた魔法は、CADも必要とせず、USNAでは全く見たことが無い代物だった。
氷室家の古式魔法ならば納得できる。
リーナは横島が氷室家の一員だろうと判断せざるを得ないでいた。
そんな横島を氷室も日本も手放すわけが無いのだ。
藤林響子はやはり、横島を連れ戻すために、接触しに来た可能性が高い。
しかし、氷室家は国防軍や日本の魔法組織とも折り合いが悪いとも聞いている。
リーナはもう一度考察する。
横浜事変から横島は行方不明、ドクター・カオスに記憶喪失の状態で拾われ、USNAに来る。
日本政府は横島と接触しようとしている。
第一高校の達也達友人は横島を探している。
そして、横島は古式魔法の使い手で氷室家の一員。
横浜事変では、『救済の女神』の発動が確認されている。
……リーナが見てきた横島の魔法はどれも防御系の物ばかりだ。しかも、キャストジャミングが全く効果が無いという性能だ。
「タダオが『救済の女神』の発動者……であれば、その後何らかの形で追われ、記憶喪失に若しくは、その凄まじい力に耐えられずに記憶喪失に……そして、そのタダオを確保するために日本政府は裏取引までも使って、タダオと接触、日本へ連れ戻すために………」
リーナは考察しながら独り言を繰り返す。
「だとすれば、タダオがUSNAに亡命もあり得る。タダオが『救済の女神』発動者であれば、本国も喉から手が出るほど欲しい人材であることは間違いない。ネックはドクター・カオスとタダオの友人。ドクター・カオスとマリアが傍にいるため、強硬手段は取れない。それは日本政府も同じでしょう。……私も嫌、強硬手段でタダオに酷い扱いをしてほしくない。
その間にタダオの友人が、タダオと接触して、記憶が戻ったら……日本に戻ってしまう。
しかし、逆に言うとドクター・カオスがいれば、誰もタダオに手出しができない。そうなればタダオが日本に戻ることは無い。最悪その形でも十分、私もカオスと面識が出来ているし、マリアとも随分親密になれたと思う」
「ならば、私がすべきことは一刻も早く、日本での任務を達成し、本国に帰る事。そして、タダオと話してUSNAに……スターズに、いえ、私の所に来てもらう事」
リーナは新たに決意し、ますます任務達成に強い意欲を見せるのだった。
次回は、久々の横島ギャグがでるかも?