「よ、よう。つぐみ」
「お、おはよう拓弥。…………来ちゃった…」
来ちゃったって………。
「つぐみにまで風邪が感染したらどうするんだよ」
「ご、ごめん……」
そんな悲しげな顔をしないでくれ……
心が痛む!
いや、まぁ、お見舞いに来てくれたのは控えめに言って"超嬉しい"。
でも、せっかくテスト勉強を頑張ってるつぐが、風邪を引いてテストを受けれない そんなことになったら元も子もない。
「そ、そんな顔すんなって!怒ってるわけじゃないから。来てくれてありがとな」
「う、うん。……何かやってほしいこととかある?」
やってほしいことかぁ…
思い浮かばねぇ…
「んー、今のとこは無いかな」
「そっか……」
「その代わりにさ、少し話相手になってくれよ。寝てるだけってのも退屈だし」
俺の頼みを聞いて、つぐみは笑顔で頷いた。
「わかった!何の話をする?」
「……この間のこと……でもいいか?」
「こ、この間!?それってつまり…」
"この間のこと"それは、つぐみが俺に告白してくれたことだ。
つまり、今からその返事を言おうと思う。
「そう、告白のことだよ」
「い、今!?」
慌てるのも仕方ないよな、お見舞いにきて早々に告白の返事を聞かされるんだから。
「こんなタイミングでごめん。でも、聞いてほしい」
「……うん」
ひとつ、深呼吸をしてから話し始める。
「ふぅ……。つぐが俺のこと好きって言ってくれて、正直すっげぇ嬉しかった。真っ直ぐで頑張り屋で、だけどたまに頑張りすぎちゃうところもあって。そんなつぐみが俺も大好きだ。
でもさ、つぐ以上に俺は好きな人がいるんだ…。
だから、つぐの気持ちに応えることはできない」
「そ、そっか……。ちなみにその"好きな人"って蘭ちゃん?」
「あぁ。なんだかんだで、まだあいつのこと好きなんだ」
「それなら仕方ないね。
……ごめん、来たばっかりだけど帰るね。お大事にね」
「おう。来てくれてホントありがとな」
つぐみは部屋を出ていった。
部屋を出る時のつぐみの目には涙が溜まっていた……。
「女の子を泣かしちゃったよ……」
心が痛てぇ。
胸が締め付けられるような痛みがする。
でも、つぐみは俺以上に痛い思いをしてるんだよな…。
そう考えると、ますます心が痛む。
「……もう少し寝よう」
****
目が覚めると、右手に温もりを感じた。
この感触は、誰かの手っぽいな…
右手を見ると、沙綾の左手が繋いでいた。
「沙綾?」
「あ、起きた。具合はどう?」
「少し楽になったよ。ところでさ、なんで俺らは手を繋いでるんだ?」
「ん〜、拓弥が泣いてたから かな」
え、俺、泣いてたのか。
「なんか悪い夢でもみた?」
「たぶん、そんな感じかもな。久しぶりに“あの頃”を夢の中で思い出してさ……。
もう少しこのままでいてもいいか?」
沙綾と手を繋ぐのは割と久しぶりな気がする。
沙綾の手は、なぜか繋ぐととても安心する。
そういう包容力や面倒見の良さは母に似たんだと思う。
「はいはい。……………あの頃か…。おじさんとおばさんが亡くなってから6年も経つんだね」
沙綾が言う“おじさんとおばさん”、それは俺の実の両親のことだ。
「だな…………」
あんまりこの話は続けたくない。
話す俺もだけど、話を聞く側も沈んだ気分にさせちゃうし。
「そういえば、今日は香澄と出かけるんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけど、病人をほっとけなくてねー。来週行くことにしたの」
「申し訳ない……。香澄にも悪いことしちゃったな」
ごめん香澄、またギター教えるから許してくれ…。
「来週、よければ拓弥も一緒に行く?」
「は?」
「香澄からさっき『拓弥も誘って3人で行こうよ!』ってメッセージが送られてきたんだよね」
待ってくれ、どこからそんな話に……
「俺が混じっていいものなのか? 買い物とかは、女の子同士で行きたいものなんじゃないのか?」
「私は拓弥と買い物行き慣れてるし、香澄がこう言ってるんだからいいんじゃない?行こうよ!」
「ん~…いや、俺は純と紗南もいるし、家にいるよ」
「行って来なさいよ、拓弥」
声と同時に部屋のドアが開いた。
「「母さん!?」」
「ごめんね。拓弥の様子を見ようと思って来たら、たまたま聞こえちゃって…。
それより、純と紗南はお母さんに任せて、たまには一緒に出掛けたっていいのよ?」
「ほら、母さんもこう言ってるし。ね?」
「…わ、わかったよ。俺も一緒に行く」
「よし、後で香澄に伝えておくね」
「それにしても、あなた達、仲良しね?」
俺と沙綾が手を繋いでいることに気づいてニッコリと微笑む母さん。
「こ、これは……」
「いいのよ、恥ずかしいがらなくても。沙綾の結婚相手が拓弥だったら、母さん凄く安心よ」
そう言って部屋を出て行った……。
だいたい、沙綾には好きな人がいるってのに。
………ってあれ?
「なんでそんなに顔を赤くしてるんだ?」
「う、うるさい!!」
沙綾も部屋から出て行ってしまった。
久しぶりに沙綾があんなに真っ赤になったのを見た気がするな。
まぁ、母さんからイジられたら恥ずかしいよな。
****
夜になり、すっかり熱は下がった。
沙綾の看病のおかげだ。ちゃんとお礼言わなきゃな。
それはそうとして、一日中家の中にいたから少し外の空気を吸いたい。
さっそくジャージに着替え、部屋を出る。
「ちょっと、そこらへんを散歩してくる」
「熱下がったばっかりだから、すぐに帰ってくるのよ?」
「うん、行ってきます」
散歩と言っても、目的地は家のそばの公園。
そこのベンチに座って空を見上げると、とても落ち着く。
昔から、何かあった時はいつもそのベンチに座ってる気がする。
でも今日は先客がいるみたいだ。
「……」
何か落ち込んでるっぽいし、そっとしておくのが一番だよな。
2つほど隣のベンチに腰を下ろす。
「「はぁ……」」
不意にこぼれたため息が、偶然にもさっきの先客と重なってしまい、思わず先客の方を向く。
「……つ、つぐみ?」
暗くて、気づかなかったけど、先客の正体はつぐみだ。
「ふぇ!?拓弥!?」
「よ、よう。これは帰った方が良さそうだな。またな、つぐ」
「ま、待って拓弥!………少し、話さない?」
まじか……
でも、ここでしっかり向き合うのが、つぐみのためだよな。
「……分かった」
再びベンチに腰を下ろす。
「そっち行ってもいい?」
「うん」
俺の隣に移動するつぐ。
今朝のこともあるから、緊張するなぁ…。
「もう風邪は大丈夫なの?」
「おう、おかげさまで。熱も下がったしな」
「そっか。よかったね」
「「……」」
間がもたねぇ…!
「………私さ、拓弥のことすっごく好きなんだ」
それは反則だ……。
微笑みながらそう言うつぐみに、思わずドキドキしてしまう。
その顔で言われたら、フったことを後悔してしまうだろ……!
ますます胸が締め付けられる。
「私たちの
そんな風に言われるとめちゃくちゃ照れる…。
「拓弥にはフラれちゃったけど、私は拓弥のこと、諦めないよ!
いつか拓弥が……私のことを……1番好きになってくれるように頑張るから!」
大粒の涙を浮かべて想いを伝えてくれるつぐみを見て、俺は思わず彼女を抱きしめる。
「そんなに思ってくれてたなんて……。ありがとう、ホントにありがとうな…つぐ」
「うぅ…、こんなこと、フラれた本人に言うことじゃないよね…」
まぁ、言っちゃうところがつぐみらしい気もするけどね。
「落ち着いたか?」
「……うん。みっともないとこ見せちゃったね」
「そんなことないさ」
「ところでさ、拓弥は蘭ちゃんに告白はしないの?」
「あぁ、"バンドに集中したい"ってあいつは言ってたから。俺はその邪魔をしたくないんだ。蘭は、あぁ見えて神経質なところがあるから、些細なことでも調子を悪くしてしまうこともあるし、それが歌声に出る。
それはAfter glowにとっても良くない。
After glowの目指す先は"ガールズバンドの頂点"だろ?
そこへ行くには、蘭の歌声の状態もかなり重要になる。
だから
その代わり、1番近くで
「それは数年後とか、十数年後になるかもしれないよ?」
「あぁ、それでもさ。何年でも待つよ」
「そっか……」
「それじゃあ、そろそろ帰るね。お話聞いてくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとうな」
「いえいえ。またね、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
なんか、スッキリした……かな?たぶん。
つぐ、ほんとにありがとう。
「あ、今日も星が綺麗だ」
ふと空を見上げると、綺麗な星空が広がっていた。
「さ、帰るか」
お久しぶりです!
22話でした!
こんなに遅い更新ながら、見てくれる方がたくさんいて嬉しい限りです!
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ほんとにありがとうございます!!!
今後ともどうぞよろしくお願いします。
それではまた次話!