さて、向かうはいいけど、流星堂ってどっちにあるんだ………?
流星堂は昔、亡くなった2人の親と行ったことがある
たしか、質屋みたいなお店だったはずだ
あれを質屋って言うのかは知らんけども…
まだ小さかったから、当然、場所なんか覚えていない
「Go●gle先生に頼るか」
今どきのスマホの便利な機能を使って、なんとかたどり着けそうだ
"流星堂→"という看板が見え、曲がると……
金髪のツインテールの女の子、市ヶ谷有咲が立っていた
「待たせてごめんね、わざわざ連絡してくれてありがとう」
「い、いいんですよ!私の方こそ、なかなか読み終わらなくてお待たせしちゃいました」
ぎこちない感じで話す2人…
1度会ってるとはいえ、ほぼ初対面みたいなものだから許してほしい
「じゃ、じゃあこれお渡ししますね!」
そう言って紙袋を差し出す有咲
雑誌をそのまま渡すのではなく、ちゃんと紙袋に入れて渡すあたり、できる子だな…?
「ありがとう、読み終わったらまた連絡するよ」
「はい、ゆっくり読んでください」
「あー!!誰かと思えば、有咲の会う相手って拓弥だったの!?」
「香澄!?」
まさかの香澄の登場に驚いてしまう
「香澄!勝手に出てくんなー!」
「えぇー!いいじゃん!有咲が凄くニヤニヤして蔵から出ていったから、気になったんだよー」
「べ、べつにニヤニヤしてねー!」
「してた!」
有咲、いつもと口調が…こんな一面もあったのか…
ま、まぁギャップがあって良いと思うけどね?うん
「じゃぁ、俺は帰るね。有咲、ありがとう!!」
「い、いえ。私、庭で盆栽を育ててるので良ければ今度見に来てください」
「ぜひ見に来させてもらうよ。またね。香澄もバイバイ」
「またね拓弥ー!」
流星堂を背に向けて歩いていると、後ろから"香澄のバカーー!!!!"と聞こえたけど気にしないでおこう……
さて、これからどうしたもんかな…
帰って有咲から借りた月刊盆栽を読むか、それともスタジオに戻って蘭たちの練習に付き合うか
正直、雑誌は家で風呂上がりにゆっくりと読みたい…
てことでスタジオへ向かおう
雑誌が傷んだりすると嫌なので、遠回りだけど家を経由してスタジオへ向かう
スタジオのドアを開けると、演奏に合わせた蘭の歌声が聞こえる
まだ5人は練習中だ
「終わるまで中で待ってようかな」
それからしばらく練習が続き、
「ふぅ、今日はこんなもんだな。そろそろ時間だし、上がるか」
巴の掛け声にメンバーが頷き、片付けを始める
「おつかれさん」
「さんきゅ、今日は来てくれて良かったよ。拓弥」
片付けを終え、スタジオを出る
「なぁ、せっかく6人揃ってるわけだし、久しぶりに中学校行ってみないか?」
「いいね巴!私も行きたい!」
「みんな予定は大丈夫か?特に拓弥」
「あぁ、大丈夫」
みんなも大丈夫そうだ
「それなら、行くか!」
中学校へ向かい、6人で歩きだす
「中学校で思い出したんだけどさ、拓弥って1回だけ髪を真っ赤に染めてきたことあったよね」
「ひまり、てめぇ…」
「そうそう、確か、蘭が染めてちょっとしてからだったよな」
「あれは私もびっくりしたよ。朝、家の前で待ってたんだけど、ドアが開いて出てきたのが真っ赤な頭の拓弥だったから…」
こいつら、人の恥ずかしい過去をまた…!!
「その話は止め止め!」
「べつにいいだろ~?減るもんじゃないし」
「俺のメンタルがすり減るんだよ!」
「でもさ~、たっくんは何であの時染めたの~?」
「え?ま、まぁあの時はそういう気分だったから」
「ホントは~?」
ホントは蘭のために染めたんだよなぁ
蘭が髪の一部を染めたせいでクラスからより浮くようになった
俺はそれを何とかしようと思って、蘭よりも派手に染めた
今思うと、もっと他のやり方があったかもしれないけど……
でも、こいつらの前で"蘭のためにやった"とか言ったら面倒くさいイジリをされるのは間違いないし、ましてや蘭の前でそれを言うなんて恥ずかしすぎる!
だから事の真相はなんとしても墓場まで持っていくんだ…
「ホントだよ。あの時、丁度スラム●ンクにハマって主人公の頭カッコイイなって思ったから染めたんだ」
「バカみたい」
「バカとはなんだ!アホ蘭!」
「はぁ!?拓弥はバカなことばっかりするからバカじゃん!」
「まぁまぁ!2人とも落ち着いて!ね?蘭ちゃん、拓弥」
「「ご、ごめんつぐ」」
「やっぱり2人は1番仲良しだよね~」
「「良くない!」」
こうは言っても、蘭と俺は仲が良いと思う
蘭だけじゃなく、つぐみもモカもひまりも巴も、After glowのメンバーとはみんな仲がいい
言葉で言うなら"親友以上"だ
ついでに話しておくと、染めた日のSHRで担任に呼ばれ「放課後、職員室に来なさい」と言われた。
そして放課後に職員室に行くと、まず部活の顧問にめちゃくちゃ怒られ、そして強制的に校長室に連行され、その後担任の先生とみっちり面談をした………
さすがにヤバいと思って、次の日には黒に戻したんだけどね
懐かしい話に花を咲かせていると中学校に着いた
ピンポーン
さすがに黙って入るわけにはいかないのでインターフォンを押して許可を貰う
「卒業生の山崎拓弥と言います」
『はーい、どうぞ入ってー』
卒業生してまだあまり時間が経ってないので先生達も名前を覚えてくれていたらしい
すぐに通して貰えた
職員室に6人で挨拶を済ませ、校舎を適当にぶらぶらしてみる
「いや~、この間、卒業したばっかりなのになんか懐かしいな~」
「そうだよね。すっごく懐かしく感じるね」
「ね~ね~、屋上行ってみようよ~」
「だな!」
みんなも屋上に行きたかったらしく、モカの提案に賛成する
たしかに、屋上で作った思い出が学校の中では1番多いかもしれないなぁ
「わぁ~、やっぱりここから見る夕焼けは綺麗だね!」
つぐみの言う通り、相変わらず、ここからの夕焼けはとても綺麗だ
「ここでAfter glowってバンド名も決めたもんな」
「そうそう!みんなで電子辞書使って、それっぽいやつを片っ端から調べたよね」
「今思うと、"After glow"って名前でホント良かったよなー。拓弥なんて最初、『女の子のバンドだから、バンドガールズとかどうだ!?』なんて言ってたし」
「べ、べつにいいだろ!シンプルでカッコイイじゃん」
「シンプルすぎる!それにカッコよくないし…」
「うん、センス無さすぎ」
今になっても尚、容赦の無い言葉を浴びせられるなんて……
割とマジで考えた名前だったのに…
「でもさ、拓弥には凄く感謝してるよ。バンド名が決まった時に『じゃぁ、After glowのファン1号は俺な!未来のスター達のファン1号なんて超凄いよな!孫の代まで語り継ぐぜ!』ってすっごく嬉しそうに言ってくれて、なんか私それで凄く元気もらえたんだよね」
「つぐ、急にそんなこと言われたら照れるわ…」
「恥ずかしげも無くそういう事が言えるのは、つぐの凄いとこだよな」
つぐみはさらりと俺の恥ずかしい思い出を掘り返すから困る
しかも、ひまりや巴と違って本人に悪気が全く無いからタチが悪い
「私らがバンド結成してから、けっこう経つんだな」
「2年しかまだ経ってないけどな」
「その2年の間に、たっくんは2回も入院したよね」
「1回目の入院の時は包帯グルグルの状態で学校に来てたくせに、クラスの友達に入院した理由を聞かれたら『ちょっと転んだだけ』の一点張りで、私思わず笑っちゃったよ」
そんな、『蘭に殴られて病院送りになりました』なんて口が裂けても言えない…
男なのにぃ!?とか、蘭ちゃんって怖い~みたいなことになるのが目に見えてたし
「どんな転び方をしたらそんなに包帯グルグルになるんだよーって感じだったよな!」
「ほ、ホントに転んだんだから仕方ないだろー!?」
「はいはい、そういうことにしといてあげる~」
はぁ………
これ以上、過去を掘り返されたら俺のメンタルがもたないんだが…
ヤメテ! タクミノライフハモウゼロヨッ!
しばらくの間、いろいろ懐かしい思い出(主に俺の恥ずかしい思い出)にみんなで浸っていた
やっぱ、久しぶりに来る中学校ってのも良いもんだね
「そろそろ帰るか~」
日も沈みそうなので、解散することにした
「そんじゃ、私らはコッチだから!拓弥、つぐ、またなー!」
「おう、またな!」
「ばいばいみんなー!」
「「ばいばーい!」」
帰り道は俺とつぐみは最後まで一緒だ
お互いの家がめちゃくちゃ近いから当然なんだけどね?
「久しぶりに中学校行けて楽しかったね~」
「だな~。俺は恥ずかし過去を掘り返されまくったせいでメンタルボロボロなんだけどな…?」
「ご、ごめんごめん!」
「謝ることじゃないさ、俺も懐かしい思い出話ができて楽しかったよ」
「あのさ拓弥…」
「うん?」
「拓弥が髪を染めた時さ、拓弥は『カッコイイから染めた』って言ってたけど、あれはホントは蘭ちゃんのためだったんだよね?」
「どうしてそう思うんだ?」
「私さ、たまたま聞いちゃったんだよね。拓弥が担任の先生と話してる時、先生が『山崎、ありがとな。先生の力不足のせいで美竹をクラスから孤立させてしまってホントに申し訳ない』って言ってたの」
「聞かれてたのか……。恥ずかしいから誰にも知られたくなかったんだけどな」
「聞くつもりは無かったんだけど、たまたま聞こえちゃって……」
「まさかつぐみに聞かれてるなんてな…。
実はさ、蘭が染めた日にクラスでいろんなやつが『蘭は怖い』とか『染めるなんてありえない』みたいなことを言うようになったんだ。
あいつは人付き合いが下手だから友達は少ないけど、蘭がみんなからそんな風に見られるのは許せなかった。
最初のうちは『あいつは別に怖くないぞ』とか軽いフォローをしてたんだ。
日にちが経てば噂も無くなるかと思ったら、その逆だった。
蘭は授業をよくサボるようになり、噂の内容も次第に悪質になって、最終的には『美竹はビッチ』とか男子の間で噂されるようにもなった。
それを聞いた時は、ぶん殴ってやろうかと思ったよ。
でも、殴ったところできっと変わらない。
逆に殴られたやつらが復讐としてもっと悪質なことをするかもしれない。
他の方法を必死で考えたさ。
言葉で言うだけじゃ何も変わらない。そう気付いた。
だから、俺は蘭よりも派手に染めて、俺も孤立すれば、蘭よりも俺の方が怖いってみんな思って、蘭の悪い噂を少しでも無くせるかと思ったんだ。
でもさ、染めて行ったらみんな『カッコイイ』だの『拓弥、赤が似合うな!』とか言って俺のことを受け入れたんだ」
黙って相槌を打ってくれるつぐみに対し、話を続ける
「なんで蘭は怖がるくせに俺は大丈夫なんだよ、そんなのおかしい。俺はそう思った。だから言ったんだ。『染めるなんてありえないんじゃないのか?染めるやつは怖いんじゃないのか?』って。
そしたら、蘭の悪い噂を積極的に流してた女子のリーダーが『私さ、人は見た目じゃないって当たり前のことを思い出だしたんだよね。私らホントバカだった……。ごめん』そう言ってくれた。
そしたら、その日から蘭の悪い噂は全く聞かなくなった」
「そっか…………。実は私たちのクラスにも噂は届いてたんだ…。噂を聞いたら否定して、なんとかしようと思ってたんだけど、何もできなくて…」
「クラスが違うのはどうしようもないしな。もう少し上手いやり方があったんだろうけど、あの時の俺には自分が染める以外思いつかなかったんだ」
「…ふふっ、なんか、拓弥らしくて良いね」
「他人事だと思って…。顧問の先生にめちゃくちゃ怒られたんだからなー?まぁ、自業自得か」
『この大事な時期に何をやってるんだ馬鹿野郎!2年生とはいえ、お前はうちのエースなんだぞ!分かってるのか!?』めちゃくちゃ怒鳴られた挙句、ゲンコツをいただきました……
「私は蘭ちゃんたちが少し羨ましいな……」
「羨ましい?」
「拓弥にワガママを言ったり、拓弥に本気で怒られたり…
そういうのを何か羨ましく思っちゃうんだ…」
たしかに、つぐみに怒った記憶も無いしワガママを言われた経験もほとんど無い
「つぐみだって、たくさんワガママ言っていいんだぞ?
それに、例えつぐみでも間違ってると思えば俺は怒る」
「そう言ってくれると思ったよ。でも、私まで拓弥に迷惑をかけるなんて悪いよ……」
そんな風に思ってくれてたのか…
「バカだなつぐみは。俺が迷惑に思うわけないだろ?
そりゃ、ちょっとばかしは面倒くさく思う時もあるけど、蘭が絡むと特に……
でも、迷惑だなんて思ったことは1度も無い。
つぐは凄く優しい。優しすぎるくらいだ。
だからそういう風に考えるんだろうな。
それはつぐの良いとこだと思う。
でも、俺にくらいはワガママ言ってくれよ。
大切な幼馴染みに遠慮されたら寂しいぜ」
「わかった………………ありがとね拓弥」
つぐみは泣いていた
泣かせてしまうほど、我慢をさせてたなんてな…
ごめんなつぐ…
「じゃぁ、1つだけワガママ言ってもいい……?」
「あぁ、遠慮せず何でも言ってくれ」
「私と、私と………
つ、付き合ってください!」
いやぁ~、衝撃の告白が待ってましたね……。
17話でした!
つぐみの告白は賛否両論あるかもしれないですね……
新たに高評価いただきました
☆10 のんのん。さん
☆8 キリト(ソードアートオンライン最高)さん
ほんとにありがとうございます!!
これからも自分なりに頑張ります。
p.s 感想などいただけるととても嬉しいです!