超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude   作:シモツキ

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第二話 イリゼVSディール

--------気付いたら、わたしはそこに…迷宮の中に居た。何故ここにいるのか、どうやってここへ来たのか、わたし一人でここに来たのか…何も分からないまま、迷宮の一角に佇んでいた。

わたしは不安になった。ロムちゃんとラムちゃんも同じ目に遭っているんじゃないかって。ブランさん達に心配をかけているんじゃないかって。

だから、わたしは迷宮を歩き回った。状況を確かめる為に、なんだかよく分からないこの事態を少しでも好転させる為に……わたしの中の不安な気持ちを、誤魔化す為に。

その結果、大広間の様な部屋へと出た。そこを調べてる最中に扉が勢いよく開かれた様な音が聞こえて…そして、姿を現したのは…黄色がかった白の髪を持つ、一人の女の人だった。

 

 

 

 

「え……ロムちゃ…いや、ラムちゃん…いや…どっち…?」

 

私よりも一回りも二回りも幼そうな少女を目にした時、私の口から発せられたのはそんな情けない台詞だった。でも、これは仕方のない事。髪型こそ違うものの、少女(というか幼女)の容姿はどう見てもルウィーの女神候補生、ロムちゃんとラムちゃんのそれだったのだから。

形式こそ疑問形なものの、その言葉はつい口から発せられただけのもの。だから質問に対する答えが来るとは限らない…とは思っていたけれど、返ってきたのは……

 

「…………」

 

鋭い視線と無言だった。……え、あれ?もしかして私不審者だと思われてる?…いやいや、そんな事はない筈。だって私がしたのはいきなり勢いよく扉を開けた後、妙な質問をしただけ…って、

 

「これは不審者扱いされても仕方ないでしょうが……」

 

がっくりと項垂れる私。何となくだけど、少女の鋭い視線に込められる感情が若干変わった気がする。……一層悪い方向に。

 

「…え、えと…ロムちゃんでもラムちゃんでも無い…んですか……?」

「……さぁ、そうかもしれませんしそうではないかもしれません。少なくとも、貴女に正直に答える義理は無い事だけは確かです」

 

改めて投げかけた質問。見た目に反して達者且つ冷たい返答。でも、どうやら彼女はロムちゃんラムちゃんでは無い様だった。私の記憶にある二人はこんな性格じゃないし、纏う雰囲気も何やら違う。つい最近二人と会って遊んだのだから、記憶違いという事もあり得ない。

そしてもう一つ。彼女は私に対して警戒心…もっと言えば軽い敵意すら持っている様だった。

だからこそ、そこで私はある存在を思い出す。

 

(まさか…ロムちゃんかラムちゃんの偽者…!?)

 

私はプラネテューヌで、ネプテューヌ達はそれぞれの大陸で合間見え、戦った女神の偽者。その時現れた偽者は守護女神四人のだけ(候補生の皆はそもそも生まれてないし当然だけど)だったけど、もし私の目の前にいるのがその偽者と同種であるのならば二人にそっくりでありながら別人、しかも少なからず敵意を向けてくる存在だという事にも合点がいく。何故ここに偽者が居るのかは謎だけど、そもそも偽者が生まれた経緯が不明な以上あり得ない事ではない。

 

「…もう一度訊きます。貴女は何者で、ここで何をしているんですか?」

「…もう一度言います。貴女に正直に答える義理はありません」

 

やはり、質問に肯定的な返答は帰ってこない。だからそれを私は私の推測の裏付けとし、白い本を落とすと同時に手元へバスタードソードを顕現させた。それに反応する様に少女は杖を構え、手に持つ本を胸元に抱き抱える。

互いに相手へと向けられる、バスタードソードと杖。数瞬の静寂が私達を包む。

--------もしこの時、私達が互いに相手からどう見られているのかを深く考えていたのなら…或いは、もう少し相手に友好的な態度を取っていたのなら、この戦闘は避けられたのかもしれない。だけど、私も少女も精神に余裕など無く、それ故に互いを『味方ではない存在』として認識してしまったからこそ、少女の杖の先端から魔力光が発せられた瞬間私は地を蹴り、少女は魔法を放ち…私達は、仲良く出来るかもしれない相手と、傷付け合う事となった。

 

 

 

 

空中から私へと襲いかかる、鋼の刃と氷の魔弾。刃を弾き、魔弾を斬り裂いて接近しようとするも、進路上…つまり私と少女の間のラインに火力を集中されるせいで距離を詰める事が出来ず、逆に後方に跳ばざるを得なくなる。

戦闘が始まってから数分。私は、劣勢に立たされていた。

 

(この子…強い……ッ!)

 

着地と同時に今度は左へ跳び、少女の射線から逃れようとする私。しかしそれだけで射線から出られる筈がなく、少女は少し向きを変えるだけで再度魔法による攻撃を仕掛けてくる。少女の攻撃は精密、しかも攻撃速度や攻撃方法を偏らせない事で私が攻撃に慣れたりしない様にしている。今の所は回避・迎撃出来ない程の攻撃は来ていないし、動きに影響が出る様なダメージも受けていないけど…このままだとジリ貧なのは明らかだった。

 

「さて、どうしたものかな……」

 

少女には聞こえない位小さな声でそう呟いた後、私は思考を巡らせる。端的に言って、今の私に打つ手は無かった。もし女神化出来れば機動力と行動可能範囲が大幅に向上するから回避しつつ接近する事も出来るし、こちらもシェアエナジーを圧縮させて作った武器を射出する事で、ある程度の撃ち合いをする事も出来る。けど、それは論外。だって今の私は女神化出来ないのだから。

私の取れる行動の中で、選択肢として浮かぶのは三つ。無理に攻め込むか、現状維持か、撤退か。でも、無理に攻め込めば致命傷を受けるのは間違いないし、戦闘中に立ち位置が変わったせいで出入り口にまで辿り着くのもやはり難しい。だから、実質選ぶ事が出来る選択肢は現状維持一択だった。

そう考えている間にも攻撃は続き、破壊した氷弾の欠片が私の頬を軽く切る。

 

「…貴女の勝ち目はありません。抵抗するのは勝手ですが、潔くやられた方が怪我を増やさずに済むと思いますよ」

「それはどうかな…私はまだ勝ち目あると思いますけどね…」

「強がりを…!」

 

一瞬攻撃が止んだ…と思いきや、鋼と氷の二種類の刃を多数自身の周囲に展開した少女はそれ等を私へと一斉に撃ち込んでくる。迎撃は諦め、思い切り横に跳ぶ事でそれを辛うじて回避する私。

確かに、勝ち目云々は強がりの一面もある。けど、勝ち目が全く無いという訳でも、無い。

どんな勝負事においても、優勢に立つ(か、優勢だと思ってる)側には『少ない消費で勝ちたい』だとか『必要以上に痛い目に遭わせたくはない』の様な『欲』が生まれる。現に私が劣勢に立っているのも『相手は偽者とはいえ小さい子だから出来るだけ手加減してあげたい』という欲が私の行動を甘くさせ、少女に付け入る隙を与えてしまったから。ピンチはチャンスと言うけれど、チャンスがピンチに変わる事だって往々にしてあり得るのだ。

だからこそ、私はその瞬間を待っていた。優勢に立ち、僅かではあるものの一方的且つ安全にダメージを与えられている少女がその『欲』を出すのを。

そして、私の予想通り…人の性通り、その瞬間はやってくる。

 

「……っ…わたしは貴女なんかに構ってる余裕は……」

「--------甘いッ!」

「ーーッ!?」

 

業を煮やしたかの様に杖に氷の刃を纏わせ、鋼の刃の後を追う様に接近を仕掛けてくる少女。私はそれを視認した後微かに笑みを浮かべ……最小限の動きで鋼の刃を回避し、少女の目の前へと躍り出た。

目を見開く少女。バスタードソードを両手持ちで振るう私。形勢は……逆転した。

 

 

 

 

上段からの一撃を、氷を纏わせた杖で防御する。わたしはそこから氷の竜巻を放つ事で相手の剣を弾こうとしたけど…それよりも速く剣を引っ込めた女性はその場で回転し、今度は片手で剣を振るってくる。そちらは反応するのが手一杯で防御もままならず、体勢を崩されるわたし。

一気に勝負を決めようと接近した瞬間、わたしは優勢から劣勢へと落とされていた。

 

(この人…強い……ッ!)

 

魔法による身体能力強化を姿勢制御に集中させ、何とか身体を捻って更なる追撃を回避するわたし。でも、女性は攻撃を止めてくれたりはしない。

わたしは、女性の攻撃を上手く読めずにいた。重い両手の一撃だと思ったら素早い片手の一撃が来て、武器を弾こうとした瞬間片手持ちから両手持ちに変わった事で逆にわたしが弾かれる。何これ…あの武器、片手でも両手でも振れるの…!?

 

「やっぱり…貴女、接近戦は『出来る』ってだけですね?」

「…なら、何だって言うんですか…!」

 

優勢だったからって、力を温存しようとしたのが不味かった。他にも敵がいるかもしれないと考えるのは大切だけど、だからって一方的に攻撃出来る距離を自分から捨てたのは間違いなくミスだった。

 

「何だも何も…ここは、私の距離だよッ!」

 

横薙ぎをしゃがむ事で避け、何とか距離を取ろうと後ろへ跳ぶわたし。だけど女性はわたしがそこから更に下がるよりも速く近付いて来て、わたしの後退を阻止する。

腕も、足も、武器も、全てのリーチが劣ってるせいでワンアクションではどうしても逃げ切れない。くっ…これがルウィーの女神の宿命なの…!?……いやもしかすると発育のいいルウィーの女神もいるのかもしれないけど…。

そして……

 

「きゃっ……!」

 

剣撃に気を取られていたわたしは女性が大上段に構えた瞬間、杖を横にして防御を図った…けど、そのせいで下半身への注意が甘くなり、女性の足払いをもろに受けてしまう。

床に尻餅を付くわたし。急いで立とうとしたけど…立つより先に、わたしの鼻先に剣の切っ先が向けられる。

 

「…杖、手放してもらいましょうか」

 

見上げると、そこには女性の顔がある。ちょっとだけ済まなそうな…でも、確かに覚悟の決まっている顔。きっとこの人は、必要とあらばわたしをほんとに斬り殺すんだと思う。……認めるしかない。わたしが逆転されたのは、偶然でも不運でもなく実力と駆け引きの結果だって。

でも、わたしは諦めない。諦める訳には、いかない。

 

「…………」

「ありがとうございます。では、次は私の質問に答えてもらいます」

 

わたしが手放した杖を女性は蹴って遠ざける。そう、それでいい。杖がわたしの武器だって思ってくれてるのなら、それでいい。

 

「……わたしは今の戦いで一つ、今後に活かせる事を学びました。だから、お礼にわたしも一つ教えてあげます」

「急に何を……」

「魔法は本来、ちゃんと行程を踏まないと発動しません。でも…ちゃんとじゃなくても、こういう事なら出来るんですよ…!」

「な……ッ!?」

 

そう言いながら、わたしはグリモワールへと魔力を思い切り流し込む。わたしが何かしようとしてる事に女性は勘付いたみたいだけど、もう遅い。魔力の奔流によってグリモワールから放たれた強い光は女性の視界を奪う。

魔法発動において、外に漏れ出る魔力は光となる。それは光魔法じゃなくてただの光だし、普通に魔法を使おうとすると良くて照明位の光しか出てこないけど、ちゃんとした行程を踏まず、ただ大量の魔力を魔法道具に注入すれば魔力は行き場を失って多くが外へ出て、今の様に閃光と化す。

閃光が生まれるのはほんの僅かな時間で、しかもグリモワールを痛めちゃうかもしれないから普段は使わないし、使えても有効に働くとは限らない。相手が優勢に立っていて、杖を武器だと思っていて(これは別に勘違いじゃないけど)、何よりわたしがこの戦いに全力を尽くす決心をして、やっと作れた一瞬の隙。だから……

 

「…恨むなら恨んでくれて構いません。わたしは全力で…貴女を倒します」

 

わたしは女神の力を、解放する。

 

 

 

 

視力が回復した時、既に少女の姿は無く…代わりに居たのは、私の見た事のない女神だった。

 

「ロムちゃんかラムちゃんの偽者じゃ…無い……!?」

 

容姿もプロセッサもやはり双子の候補生を彷彿とさせるものだったけど、女神化前と違って明らかに二人とは差異がある。という事はつまり、少なくとも少女は偽女神ではなかったという事だった。この状況となっては、それが分かったところでどうしようもないのだけど。

 

「はぁぁぁぁっ!」

「……ッ!」

 

大きく後ろへ跳躍する少女。距離を開けられるのは不味い私はすぐ追おうとしたけれど、今の少女の身体能力は私よりも高くて追いつけない。しかも、距離が開くと同時に少女は再び魔法による遠隔攻撃を開始する。

先程より数段性能の向上した遠隔攻撃。それを何とか迎撃する私。続いて私へ迫るのは大きな氷塊。

 

「……っ…やられる…もんかッ!」

 

バスタードソードを両手で持って後ろへ引き、前方へ跳躍すると同時に思い切り突き出す。例え破壊する事が出来なくても、私に当たりさえしなければそれでいい。

私の狙いは成功し、起動を逸らされた氷塊は私の横をすり抜けていく。氷塊とすれ違う様に再度前進し、少女を攻撃範囲内に捉えようとする私。その瞬間聞こえる、背後からの声。

 

「やれるとは思ってませんよ、本命はこちらですからね…!」

 

声が私の耳へと届くと同時に、私の左腕に激痛が走る。そこで私は理解した。氷塊は攻撃ではなく、少女が私の背後に回る為のブラフ兼目くらましだったのだと。

私の左腕を斬り裂いていった鋼の刃を視認しつつ振り向く私。その時少女は空中にいた。

 

(…あ、不味い…これほんとに勝ち目ないわ……)

 

痛みと焦りで冷や汗が背中に垂れる。比較的天井が高く、遮蔽物がほぼ無いここで飛ばれてしまっては私の攻撃は届かない。それこそバスタードソードを投げれば届くけど…一度きり、しかも人間の域を超えていない力で投げたところで当たる訳がない。当たったら私は今度から幸運の女神を名乗ってしまう。

そして、先程とは違いもう少女が欲を出す事に期待なんて持てない。欲を出してきたら、私は少女を強欲の女神と呼んでしまう。

だとすれば、もう取れる選択肢は一つしかない。これもやはり上手くいく可能性は低いけれど、前者二つよりはまだ希望がある。後は、タイミングを計るのみ。

 

「く…こ、の……っ!」

「情け容赦は期待しないで下さい」

「ず…ズルいですよ一方的に飛んで!それが女神の戦い方ですかッ!?」

「それだけ貴女が油断ならない敵だという事です。もうわたしは不用意な突撃も過信もしませんから」

 

私へ向けてだけでなく、私の前方へも刃や魔弾は飛来する。飛んでいながらも、僅かな肉薄の可能性を潰そうという魂胆なのだろうと私は推測し…同時に、少女の放つ刃は着弾の瞬間に消滅する訳では無い事に気付く。……これは、いけるかもしれない。

跳躍する私。その先は少女ではなく……

 

「剣を踏み台にした……ッ!?」

「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

「そんな程度…でぇッ!」

 

床に刺さる刃の柄に足をかけ、二段ジャンプの様に舞い上がる私。バスタードソードを腰に構えながら接近する私に対し、少女は咄嗟に障壁を作り出す。

咄嗟とはいえ、障壁を展開したのは女神。たった一撃でその障壁を突破し、そのまま少女へ一太刀浴びせるのは限りなく難しい。故に、私はバスタードソードを構えたまま……少女の隣を、すり抜ける。

 

「……え?」

「三十六計、逃げるに如かずッ!」

「逃走した…ッ!?」

 

地面に着地した私はその勢いのまま、私が入ってきた出入り口へと走る。過信しているからこそ出来る事もあれば、逆に用心しているからこそ出来る事もある。

でも、これだけで安全に逃げ切れる訳が無い。だから、私はもう一つ手を打つ。

 

「逃がしません……!」

「--------だと、思ったよッ!」

「……ッ!」

「……なんて、ね」

「…………へ?」

 

少女が攻撃動作に移るのを感じた私は片足を軸にその場で反転、少女へと向き直る。そして少女に『この人はまだ戦意がある』、と思わせる事に成功したと確認し……軸ではない足を床に着けない事で更に反転する。

形としてはその場で一回転した私は、今度こそ本当に出入り口へと突っ走る。端から見れば奇妙でしかないその行動は、しかし狙い違わず少女を唖然と…具体的に言えば目を丸くさせる事に成功する。

 

「……ぐっ、何なんですか貴女は…ッ!」

 

大広間を脱した私は左へ思い切りダイブ。次の瞬間私のいた場所へ衝撃波が駆け抜け、壁へと直撃する。その音で私は『もし跳んでいなかったら壁に思い切り叩きつけられてたんだろうなぁ…』と思いつつ、とにかく何度も角を曲がる。最悪同じ場所を回ったとしても、直進しなければ一時的にも少女を撒く事が出来る。反撃の機会を待つか、このまま逃げ切る事を目指すかはまだ決まっていないけれど…それも、一先ず逃げれば冷静に考えられる。

私よりも二回り程小さい相手、しかも勘違いから始まった戦闘で尻尾を巻いて逃げ出すのは正直気が乗らないけど、それでも斬られた左の二の腕を押さえながら逃げる。私は、戦場で今自分が何をすべきか分からない程愚かではないから。

 

 

そうして、私と少女との邂逅は終わり……戦いは、私の劣勢という形で続く事となった。




今回のパロディ解説

・「〜〜ここは、私の距離だよッ!」
機動戦士ガンダムOO主人公、刹那・F・セイエイの名台詞の一つのパロディ。イリゼは幼女相手にこの台詞を言っている訳です。うぅむ、端から見たら情けないですね…。

・「剣を踏み台にした……ッ!?」
機動戦士ガンダムに登場する敵エース部隊、黒い三連星の一人ミゲル・ガイアの名台詞のパロディ。台にあくまで武器ですが…それでも驚きとしては十分だったのでしょう。

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