超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude   作:シモツキ

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第二十七話 夏だ!海だ!ゲイムバカンスだ!(各々遊ぶ編)

プールと海。どちらも夏大賑わいになるスポットで、水着を必要とする場所だけど…お分かりの通り、結構違う。プールは泳ぐ事しか出来ない…なんて事はないけど、プールはあくまでプール(水槽と言うべきかな?)がメインなのに対して、海は海(広いし大きい方ね)がメインの一つでしかない。海で泳ぐ他にも、砂浜で遊んだり、ビーチベットで日光浴をしたっていい。プールはプールで魅力がある(安全性はずっと上だし、不確定要素が海より少ないから競技にも向いてる)けど……娯楽施設としては、海の方がバリエーション豊か、なんだよね。

 

「さ・て・と、まずは何しよっかな」

 

ビーチサンダルで軽快な足音を立てながら、私は夏の日光の中へと身を踊らせる。別に暑いのが好きという訳でもないから、普段は「あっついなぁ…早く日陰入りたいなぁ…」って思う私だけど、夏の海となると話が違う。水着による開放感と涼しさもあり、今だけはいい日差しだなぁと思えていた。

 

「んー…色々やりたいけど、まずは…」

 

一度立ち止まり、海の方を向く私。次の瞬間、私はサンダルを脱いで海へと走り飛び込む。

身体に感じる風。足の裏で猛威を振るう砂浜の熱。そして、海に飛び込んだ瞬間の爽快感。あぁっ、もう……

 

「海、たーのしっ♪」

 

更衣室から出て数分。もう既に、私は満足だった。

 

「〜〜♪」

 

じゃぽじゃぽ、ざばざば、ばしゃばしゃ。

暫く水を蹴ったりジャンプしたりして海を楽しむ私。今いる面子の中では背の高い方…つまりはぱっと見大人っぽい方の私だけど、多分今の私はトップレベルに子供っぽく遊んでいた。

そして数分後、皆で来てるにも関わらず一人で遊びまくっていた私は……

 

「…もう疲れた……」

 

ウォーミングアップもせずにフルスロットル出しちゃったものだから、もうバテていた。後ウォーミングアップで思い出したけど、私準備体操もしてなかった。少し休めばまた元気になると思うけど、一旦は精神をクールダウンさせないと…。

 

「…皆と合流しようかな」

 

砂浜に上がり、ビーチサンダルを履いて周りを見回す。一旦クールダウンする事で、やっと私は少々恥ずい事してたなぁと気付いたのだった。

 

「……さて、どこに合流しようかな」

 

砂遊びをしているロムちゃんラムちゃん。浮き輪でゆったりと海に漂ってるブランとアイエフ。ビーチパラソルの下に設置したビーチベットに寝転んで涼しげにしてるベールとコンパ。砂浜で何故かまごついているネプギアとユニ。

一体どういう事か、もの見事に同じ人数で四組出来ていた。…なんだろう、これ一周では一組としか関わる事が出来ず、コンプリートするには周回必須のイベントか何かかな?

 

「どうしよっかなぁ…ロムちゃんラムちゃんの所はお邪魔になっちゃいそうだし、ベールとコンパの所は『巨乳以外立ち入り禁止!』って気がするし…まずはブランとアイエフの所行ってみよっかな」

 

そうと決めた私はきょろきょろと周りを見回し、見付けた浮き輪に空気を入れ始める。だってほら、二人も浮き輪で漂ってるんだもん。一人だけ無いと浮いちゃうし(浮き輪だけに)、海上でゆったりするには浮き輪必須だもんね、うん。

 

「ふーっ、ふーっ…」

 

ぺたんと日陰に座って浮き輪を膨らませる事数分。やはり肺活量も常人のそれではなかった私は手早く浮き輪の用意を済ませ、再びサンダルを脱いで海へと入る。ざぶざぶざばざば、っと。

 

「お隣宜しいですか〜?」

「あらイリゼ、いらっしゃい」

「二人は何してるの?夏の風感じてる?」

「まぁ、そんなものよ。わたし達ははしゃぐタイプじゃないし、あっちで寝るのは…心折れそうだし…」

「あ、あー……」

 

二人で顔を見合わせ、軽く溜め息を吐く。そう、夏の海、夏の装いというものはボディラインを普段よりずっと露わにしてしまうもの。男受けという意味では受ける層が違うだけで、今のブランもアイエフもダース単位で男の人の目を惹きそうではあるけど…そんな事言ったって慰めにならないもんね。同性とはいえセクハラ紛いの発言だし。

 

「…それはさておき、こうして波に任せるのも中々粋なものよ。油断してると偶に波が顔…わぷっ……」

「あ……」

「……こうなるけど」

 

ブランは丁度沖側に頭が向いていた事もあり、説明の真っ最中に波を被ってしまった。本人としては災難だろうけど…あまりにもタイミングのいい展開で、見ている側としてはつい苦笑してしまう。

 

「…二人は楽なものね、わたしより座高高いから被り辛いもの」

「ひ、僻まないで下さい…後私とイリゼを同列に並べるのはちょっと無理が…」

「わたしからすれば同じものよ…」

「えぇー…イリゼ、貴女からも何か言ってあげてよ」

「私?うーん…砂浜に戻れば一発解決、とか…?」

 

取り敢えず思い付いた事を言ってみるも…反応はイマイチだった。…いやまぁそうだよね、場所移動しちゃったら本末転倒だもんね…。

 

「……まぁいいわ、海にまで不満持ってきても仕方ないもの。それより…よっと」

『おぉー…!』

 

現在身体を浮き輪の内側、頭を浮き輪の上、手足を浮き輪の外の所謂挟まってるスタイルだったブランは、ぐっと手足に力を込め、浮き輪の反動を利用して軽く跳躍。そのまま飛び込みの様に海へと潜る。

その一連の動作が結構綺麗だった為、感銘の声を上げる私とアイエフ。数秒後浮き上がってきたブランは、自分でも上手く出来た実感があったのか自慢げな顔だった。

 

「…海ならではの事をしないと、ね。二人は出来る?」

「身体能力的には多分出来るかな」

「私も出来ると思います。ほいっと」

 

ブランの真似をする形で跳んで飛び込むアイエフ。ブランより手足が適度に長い事が功を奏したのか、アイエフの飛び込みはブランよりも上手だった。

 

「…どうです?ブラン様」

「中々やるわね…なら次は……」

 

対抗心に火が付いたのか、今度は別の方法で飛び込むブラン。それを見てアイエフもまたブランと同じ技を実行、そこからブランとアイエフによる海上飛び込み合戦が始まった。

 

「ふっ……!」

「ほっ……!」

 

先程までのゆったり感は何処へやら、実に良い勝負を繰り広げる二人。言うまでもなくブランは女神化してしまえば圧勝確実だけど、彼女は女神化しようというそぶりは見せない。確実な勝ちよりも、対等な勝負をしたいという現れなんだろうなぁと思いながら私は見ていた。

 

「これは結構長期戦になりそうですね…イリゼ、貴女はやらないの?」

「あ、いいよ私は。これ見てるだけでも面白いし」

「そう?折角近くにいるのだし、見ているだけで参加しないのは勿体無い気がするけど…」

「いいんだって。というか、私は参戦しない方が良さげだよ?」

 

そう、私は観覧に徹している。だってほら、私まで参戦したら余計決着まで時間かかりそうじゃん?それに私は今休憩中だし?だから私が参戦しないのは冷静且つ妥当な判断の上のものであって、決して何かを隠そうとしている訳では……

 

『……泳げないの?』

「そ、そんな訳ないじゃん!この私が泳げないなんてある訳ないじゃん!原初の女神の複製体、もう一つの原初だよ!?誰だと思ってるの、イリゼさんだぞ!?」

『……泳げないのね…』

「……はい」

 

…告白します。私イリゼは今まで隠していましたが、実は泳げないのです。……わ、訳ありで泳げないんだからね!?泳ぎの才がない訳じゃないからね!?……多分。

 

「…あら?でもイリゼ、泳げないならどうやってここに来たのよ?」

「えと…浮力は浮き輪任せ、推力はバタ足で何とか…」

「バタ足は出来るのね…ならアイエフ、折角だから…」

「えぇ、二人で手ほどきとしましょうか」

「あ…お願いします…」

 

という訳で、私はブランとアイエフに指導を受ける事となった。別に頼んだ覚えはないけど、バレちゃった以上どうしようがバレた事は変わりないし…むしろ泳げる様になれば助かるから、降って湧いた幸運だと思って指南を受け入れた。

だが、この時ブランとアイエフは私を、『普通の泳げない人』だと思っていた。そしてそれは大間違いだったと、すぐに知る事となった……。

 

「……ふぅ、今いい感じな気がしたけど…どうだった?」

 

手足の動きを止め、立って二人の方を向く私。二人は何というか…まぁ、苦笑いをしていた。…それもそうだよね、だって……ものの十数分で、私はそこそこ泳げる様になっちゃったんだもん。

 

「…私達って、泳ぎを教える天才だったんでしょうか…?」

「まさか…そもそもわたし達は本格的な指導なんてしてないでしょ?」

「ですよね…というかそもそも、最初からイリゼは泳げない人の動きじゃなかった気が…」

「同感よ…。イリゼ、ちょっと」

 

今の感覚を忘れない様に…と思ってもう一度泳ごうとしたところで、私はブランに止められた。

 

「なにー?」

「訊きたい事があるんだけど…いいかしら?」

「…それは私の習得速度の速さについて?」

「そうよ」

 

一言二言では説明し辛いから…という事で砂浜まで戻る事を提案する私。勿論二人はそれに頷いてくれて、私達は砂浜まで戻って腰を下ろす。そして、「さて、どこから言うのがいいかな…」なんて考えながら、私は話し出す。

 

「えーっと…まず結論から言うと、私は泳げないけど泳ぎ方を知ってはいたんだよ」

「まぁ…そうよね。じゃなきゃ細かい説明もしてないのにしっかり出来る訳がないわ」

「でも…それだけじゃ納得出来ないわ。本を読んだり人から聞いただけじゃ分からない部分まで出来ていた気がするのだけど、それは?」

「それについても知ってるんだよ。手足の動かし方は勿論、どこに気を付けるべきかとか、上手くやる上でのコツとかもね」

 

私が説明を始めると、二人は納得どころかむしろ理解から離れてしまった様な表情を浮かべる。……ま、まぁそうだよね…でも、こうして説明するしかないし…うん、続けよう。

 

「…あのさ、私はある程度知識がある状態で産まれた…というか目が覚めたんだけどさ、そこはOK?」

「OKよ、私は目が覚めたばっかりの貴女を知ってる訳だし」

「わたしもよ。ロムとラムも産まれたばかりの状態でもきちんと会話が出来るだけの知識を持ち合わせてたもの。イリゼもそうなんだろうと思っていたわ」

「なら話が早いね。要はそういう事、泳ぎ方も持ち合わせてた知識の中にあったんだよ」

 

私はもう一人の私に直接それを聞いた訳でも私の記憶設定に携わった訳でもないからあくまでこれは推測だけど、最初から学んでない事柄も『知って』いたんだから、そうでなければ逆におかしくなってしまう。

 

「…因みに、多分だけど元々全部設定されてたんじゃなくて、ハード媒体や辞書宜しく時折アップデートや改定をされてたんじゃないかなって思ってるんだ。紀元前にはない筈の情報も記憶にあったし」

「その方が賢明ね。知識は勿論、常識だって時代によって変わる以上、それに対応出来ないと目覚めた時大変だもの」

「イリゼの知識については分かったわ。…でも、そうだとしたら、どうして私達に指導を…いやそれ以前に、どうして泳げなかったの?泳ぐのに十分な知識はあるんでしょ?」

「そうなんだけど…んー、頭と身体がリンクしなかったっていうか、頭でっかち状態だったっていうか…」

「…経験不足…というより、知識の割に経験が無いから身体が対応出来ず、頭からの指示に追い付けていない…って感じかしら?」

『…さ、流石ブラン(様)』

 

左を右肘に当て、右手の人差し指を頬に当てるポーズでそんな事言うブランに、私とアイエフは心の中で称賛を送る。

ブランは別に天才だとか頭脳明晰とかではないし、女神の中では怒りの沸点が低い方だけど…私達の中では知識量が頭一つ抜けている。知識・情報と言えばイストワールさんという共通認識があるせいで普段はあまり意識されないけど、こういうところはほんと知識があるから成せるんだろうなぁ…と心から思った。

 

「羨望には及ばないわ。で、話を戻すと…経験の足りてないイリゼは経験を持ち合わせてるわたしとアイエフの助言を受けて、その上で経験をした事で、知識を活用出来るだけの経験が貯まって泳げる様になった…ってところかしら」

「そうなるんじゃないかな。もしかして私の生みの親ってもう一人の私じゃなくてブランだったの?」

「娘と友達になる訳ないでしょ…しかしそうなると、他にも出来ない事はあるんじゃないの?」

「うーん、そうじゃないかな。話したり歩いたり跳んだりとかは知識だけでも何とかなるけど、泳ぎみたいに普段とは根本から動きが違うものは大概出来ないか下手だと思う」

「へぇ、じゃあ今のイリゼにスポーツ勝負を仕掛けたら、結構な割合で勝てるって訳ね…」

「そんな卑怯な手で勝っても楽しくないでしょ…」

 

なんて突っ込みを入れる私と、それを受けて悪どい顔から肩を竦めての苦笑いに表情を変えたアイエフ。そこでブランが勝負の再開を提案し、私も見学を再開しようかなぁ…と思ったけど、あるものが目に入って予定を変更する。

 

「二人共手助けありがとね。これで出来ない事が一つ減ったよ」

「手助け、って言う程の事はしてないけどね。でも助けになったのなら幸いよ」

「また何かあれば手伝うわ」

「うん。それじゃ私はちょっと別のところ行くね」

 

軽く手を振って私は二人から離れる。泳げる様になったとはいえまだまだ皆よりは経験足りないだろうし、後でもう少し練習しようかな。さて…それはともかく、あの二人は一体何をしているのやら……。

 

 

 

 

「…お、お姉ちゃん達ほんとにどこ行ったんだろうね…」

「そうね…」

 

水着に着替え、更衣室から出てから数十分。皆さん思い思いに遊んでいて、わたしもそうしようと思っていたけど……今は、お姉ちゃんを探す為にラステイションの女神候補生、ユニさんと浜辺をうろうろしていた。

 

「…………」

「…………」

「…ど、どこにいるのかな…?」

「さぁ…というか、さっきからそればっかり言ってない…?」

 

ノワールさんも姿が見当たらないからユニさんと一緒に探してる訳だけど……き、気まずい!正直知り合い以上の関係になれてないし、お互い自国の教会とその周辺しか交友がないせいで他人と仲良くなるスキルが低いままだから、全く話が弾まない!うぅ、どうしよう…。

 

「そ、そうだね……じゃあ、どこかに埋まってる…とか…?」

「そんなお宝じゃないんだから…」

「で、ですよね…」

 

さっきから若干わたしの言葉のチョイスも問題ある気がするけど、それを差し引いても上手く会話が出来ていない。こういう時、共通の話題を出すのがいいらしいけど…わたしユニさんの事殆ど知らないもん!何か銃が好きっぽいけどわたし銃の事詳しくないもん!…内部機構には興味あるけど…。

と、わたしが頭の中でごちゃごちゃ考えていたら、共通の話題ならぬ共通の知り合いがやってきてくれた。

 

「ネプギア、ユニ、何してるの?探し物?」

『あ、イリゼさん…』

 

イリゼさんの言葉はわたし達二人に向けてであった事もあり、声がハモるわたしとユニさん。でもだからって別にそれが何かのきっかけになったりする事はなくて、普通に自身等の姉を探してる事を伝えるわたし達。すると……

 

「あー…うん。二人の居場所なら知ってるよ?」

『ほ、本当ですか!?』

「本当本当。ちょっと二人には『お願い』をしててね、でもそろそろ頃合いだし、私が呼んでくるよ」

 

お姉ちゃん達は手がかりすらなく、ユニさんとの会話の糸口まで見つけられないという状況で来てくれたイリゼさんは、正にびっくりする程いいタイミング(渡りに船、って言うんだっけ?)だった。しかもそのイリゼさんがお姉ちゃん達の行方を知っているなんて…もしかしてこれは神の導き…いやわたしもお姉ちゃんも女神だから…お姉ちゃんの導きかな?更に言えばイリゼさんもユニさんも…はっきり言って神様より普通の人の方がレアな状況だから、神の導きも何もない気はするけど…。

 

「それじゃあ、お願いします」

「りょーかいだよ」

 

ひらひらと手を振って、イリゼさんはどこかへと向かっていった。最初わたしはタイミングの良さもあって、『頼りになるなぁ…』って思っていたけど……数秒後、イリゼの雰囲気がちょっとだけ変だった様な気がしてきた。

 

「……あの、ユニさん…さっきのイリゼさん、妙に曖昧な笑みしてなかった…?」

「え?…アタシはそんなしょっちゅうイリゼさんと会ってる訳じゃないから断言は出来ないけど…言われてみると、そうだったかも…」

 

何か変だった事を訊くか訊かないか。気になるには気になる事だけど…それを考えている内に、イリゼさんは大分遠くまで行ってしまっていた。……なんだったんだろう…。

 

 

 

 

無人島、その浜辺から少し離れた位置に存在する岩場。それなりのサイズの岩が乱立してるから風通しが悪く、しかも日を遮るものが殆どないから夏の日差しと熱を溜め込んでしまう、とても快適とは言えない区画。

その一角、大きな台の様な岩とその周りに立つ高い岩によってプチサウナ状態になっている場所で、あろう事か水着で正座している少女が二人いた。……というか、わたしとノワールだった。

 

「のわーるぅ…あっついよぉ……」

「もうそれ言うの何度目よ……」

 

暑い。凄く暑い。とんでもなく暑い。ノワールじゃなくてのわーると言ってしまう位暑い。しかも汗で全身べたべたするし、水着も身体に張り付く。もう控えめに言って苦痛、大袈裟に言って地獄だった。

 

「…何か段々足の感覚がなくなってきたわ…」

「あはは、わたしも…でも感覚なくなって暑さも感じ辛くなったし、むしろ好都合じゃない…?」

「ふっ…言われてみればそうね…」

 

いや良くないでしょ!中々不味いよ!?…と本来なら言うべきなんだろうけど、ノワールは普通に乗ってきちゃったし、わたしも指摘しなかった。……ちょっとこれはわたし達ヤバいかもしれない…。

見上げればそこには元気一杯に燃える太陽。もういっそ女神化しちゃった方が身体楽かなぁ…なんて思い出した頃、彼女はやってきた。

 

「うわ、あっつ…さっきより暑くなってるねここ…」

 

汗だくとわたし達と違い、海風を受けてきたのか涼しげな様子で姿を現した女性……否、イリゼ。

とまぁ、ここまでくれば分かるよね。はい、わたしとノワールは更衣室での件の罰としてここで正座していたのです。

 

「さて、数十分経った訳だけど…二人共大丈夫?」

「だ、大丈夫な訳ないでしょ…よくここで正座してる様言ったイリゼがそんな事言えるわね…」

「言うよ?というか真顔で水着ドロして全裸にした挙句、謝りもせず出ていこうとした二人の自業自得だよね?」

「それは……」

 

怒りがありありと見える笑顔の前に口籠るノワール。普段ずばずばいうノワールが言い返せなかったのは、まぁまぁ恐ろしい顔だったのもあるけど…一番は絶対『本当の事を言えないから』だろうね。だって、言っちゃったらわたし達の覚悟も行動も無駄になっちゃうもん。

でも、それを知らない(筈の)イリゼはその雰囲気のまま話を続ける。

 

「でもまぁ熱中症になっちゃうのは不味いよね?という事で、スポーツドリンク持ってきてあげたよ」

「イリゼ…優しいのか優しかないのか謎だけど、それは助かるよ…」

「でしょ?一本ずつで足りる?」

「足りる足りる。じゃあ早速頂きま「おっと」……え、い…イリゼ…?」

 

明らかに格下の扱いになってるけど…それより今は少しでも水分を口に入れるのが先!水滴が表面に浮いてるペットボトル見せられたら悠長な事言ってられないよ!さぁわたしの喉に潤いを!……そう思ってわたしは手を伸ばした。…でも、わたしの手は、イリゼが手を引いた(・・・・・・・・・)事により宙を切った。

 

「まさかネプテューヌ…ただで貰えると思ってたの?」

『……!?』

 

その意外過ぎる言葉に、わたしとノワールは目を見開く。う、嘘でしょイリゼ…イリゼは実はSだったの!?

 

「な、何かしろって言うの…?」

「そうなるね、んー…なんかその岩鉄板っぽいし、土下座とかしてみる?」

「や、焼き土下座!?イリゼ正気!?どんなに悪いと思ってても、思いだけじゃ無駄だよ!?思いと力の両方が必要なんだよ!?」

「そ、そうよ!確かに私達の自業自得だけど…幾ら何でもそんな事しなきゃならない程じゃないでしょ!」

 

自分も飲む為に土下座、は勘弁だったのか、ノワールが援護してくれる。けど、それを受けたイリゼは考えるどころか先程からの妙な笑みを深め、……二本のペットボトルの蓋を開けてしまった。…え…ま、まさか…違うよねイリゼ!?イリゼぇぇぇぇ……

 

「ふふっ、それはその通りだよね。はいどうぞ」

『って、くれるの!?』

 

ことり、とわたし達のすぐ近くに置かれるペットボトル。その思っていたのとは逆の行動に一瞬わたし達は驚くも…すぐにそれを引っ掴んで口に運ぶ。

口を、そして喉を通る冷えたスポーツドリンク。あぁ、生き返る……。

 

「あれ、私に飲んでほしかった?」

「んぐ、んぐ…ぷはっ……い、いやこれで良かったわ…」

「…はふぅ…わたしはちょっとそうかもって思ってたり…」

「そんな鬼畜な事私はしないよ…っていうか、もう終了でいいよ?ネプギアとユニも心配してるし」

 

そういうイリゼの雰囲気は、いつものイリゼのものだった。そこまできて、やっとわたしとノワールは気付く。イリゼはSに目覚めたんじゃなく、単にふざけてただけだったと。

 

「えと…それは、私達は釈放…って捉えていいのかしら…?」

「それでいいよ。……というか、悪いね。二人は私の為にあんな事したんでしょ?」

「……え、イリゼも気付いてたの!?」

「ううん、なんであんな事したのかはさっぱり。でも、私は知ってるから。…ネプテューヌとノワールが、私利私欲の為だけにあんな事をする人なんかじゃないって」

『イリゼ……』

 

そう言って微笑むイリゼに、わたし達は心がじんわりとしてくるのを感じる。きっと、イリゼが罰を与えてきたのもお互いわだかまりを残さない為の、言ってしまえば『お互い様』になる為のものなのかな…。

ノワールと二人、正座を解いて岩から降りる。そして、わたし達は思う。イリゼの為にあんな事をして、正解だったって。

 

「さ、戻ろっか二人共」

 

にこやかにわたし達の先を歩くイリゼ。わたし達もその微笑みに笑顔を返し、共に皆の下…………ではなく、海へと突撃したのだった。…だって、身体中熱いまんまなんだもん!




今回のパロディ解説

・「〜〜誰だと思ってるんだ、イリゼさんだぞ!?」
お笑い芸人コンビ、トレンディエンジェルの斎藤司さんの代名詞的台詞の一つのパロディ。水着であれをやったら…胸の露出度具合が増えますね!やったね!

・焼き土下座
賭博黙示録カイジに登場するキャラ、利根川幸雄の行った謝罪の事。ネプテューヌも否定してますが、(生物的な意味で)普通の人が誠意だけでやるのは無理がある気がします。

・思いと力の両方が必要
機動戦士ガンダムSEEDの主人公キラ・ヤマトとヒロインであるラクス・クラインの会話の一部のパロディ。信仰心が力となる女神は、中々この台詞が合うと思います。

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