超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude 作:シモツキ
「ヴィオレ1から各機へ。まもなく戦闘空域へと到達しますが…我々にとってはこれが初の実戦。よってラステイション国防軍程の動きも機体のポテンシャル発揮も難しいと思います。白兵戦は私のみで行いますので皆さん、無理せず支援射撃に専念して下さい」
「ヴィオレ1、それってアタシもですか?一応アタシ、リヨンさんに追随出来る自信ありますよ?」
「わたしもねぷ子……ネプテューヌ様に良いとこ見せたいです」
「……了解、ヴィオレ2と3は私に着いてきて下さい。…そういうなら、ちゃんと実力発揮して下さいね?」
「了解!」
「はーい」
「では…皆さん、私達の初陣を華々しい勝利で飾るとしましょう!全機、オールウェポンズ・フリー!」
*
戦場の空を駆ける機動兵器群。グランディザストスライヌとその分体へと攻撃を仕掛けたその部隊は、高速で上空を通過し左右に分かれる。……が、それは全ての機体ではなく、中央の三機は機首を上げる事でハーフループを行い、その頂点…つまり、上下逆さになった瞬間--------航空機を思わせるフォルムから、人を模した姿へと姿を変える。
「な……ッ…変形した…!?」
「可変MGだと!?」
「それより、あれはどこの所属機よ!?」
戦闘中、敵の眼前でありながらそれ等を忘れてしまう私とMG部隊。けど、ただでさえ思ってもいなかった部隊の登場に驚いていたんだからそうなっても仕方がない。
変形。一つの機体に複数の形態を持たせるというのは機体の多機能化、汎用性の向上、特化と万能の両立等色んな利点があるけど…当然単一の形態を持つ機体より開発難度は上がってしまう。実際ラステイションでも試みたものの、今空を舞う機体の様な本格的変形は実現出来なかったんだから、それを為し得てる存在を目にして驚かない訳がない。……けど、それはそれ。それよりも所属不明機が集団で自国の軍の戦闘に介入してきた事の方がよっぽど問題で、私は一体どういう事なのかと司令部に通信をかけようとする。
けど、それよりも前に空から声が降ってきた。
「----ごめんなさいノワール、遅くなったわ」
「ネプテューヌ!?」
声に反応した私の目に映ったのは…プラネテューヌの守護女神、ネプテューヌだった。
と、同時に私は理解する。機動兵器群と時を同じくして現れたネプテューヌ、紫を基調とした機体、そしてラステイションでは為し得なかった技術。そうなれば、答えは一つしかない。
「……あの部隊は貴女の国のものだったのね」
「そうよ。先行量産機がロールアウトしたばかりだったから、展開に時間がかかっちゃったけど…間に合って良かったわ」
変形した三機を中心に再度攻撃を開始するプラネテューヌ国防軍。航空機形態の機体は機銃で、人型形態の機体は右腕部のビーム砲と左腕部の機関砲で分体へと空中から仕掛けていく。対する分体は突然の敵、しかも空からという事で対応が遅れ、次々と撃破されていた。
「……っ…前言撤回よ、MG部隊各機は継戦して頂戴。但しまずは補給を優先、細かい事は少佐二人に任せたわ」
「へっ、了解です!んじゃあ弾薬と推進剤が両方三割切ってる奴は即後退、どっちかだけの奴は両方の奴を援護しつつ気を見て後に続け!残りは陣形を再編するからちょっと待て!……っとちょっと待て。シュバルツ4、お前火器どころか近接武装すら無くなってるじゃねぇか、何があった」
「あ、はい。火器も重剣も投げつけてやったっすよ!ただでやられるのは癪っすからね!」
「はっ、そういうのは嫌いじゃないぜ?けどラァエルフはマルチプルガーディアンであってモビルファイターじゃねえんだ。さっさと補給してこい!」
プラネテューヌ国防軍の攻撃を見て戦闘中である事を思い出した私は、努めて冷静を装いながら部隊に指示を出す。…取り敢えず、MG部隊はクラフティとシュゼットに任せれば大丈夫よね…。
「じゃ、わたし達も行くわよノワール!」
「…待ちなさいよ」
手に大太刀を携え分体へと向かおうとするネプテューヌの腕を掴む私。……正直、ネプテューヌとプラネテューヌの国防軍が増援の形で来てくれたのは助かった。でも…きちんと、訊いておかなきゃいけない事がある。
「…何かしら?」
「これはうちの…ラステイション国防軍の戦闘よ。どういう意図で介入、参戦したのよ」
「友達と他国とはいえ人が大勢戦ってるのよ?それを無視するなんてわたしの柄じゃないわ」
「それで私が納得するとでも?」
「ま、そうよね…でも政治的な問題はないのよ?条約に従ってそっちの教会へ連絡と書面は送ったし、了承も得た。それに、奴はラステイション寄りとはいえまだうちとそっちの中立圏にいるんだから軍を動かす理由としては充分でしょう?」
「そうじゃなくて!……軍を動かすのは私や皆が数人でモンスターを討伐しに行くのとは違うのよ。それを分かってるの?」
軍は個人でも民間企業でもない。女神の、教会の命を受けて活動する国防軍は言うまでもなく国の機関であり、その活動には政治的意味がつきまとう。その活動の中で他国と関わるのであれば尚更であり、女神はそれを無視していい訳がない。
ネプテューヌの言う通り、正規の手順を踏んでいるなら問題は無いし、軍を動かす理由も『災いの種を早めに摘んでおく』と言って差し支えないものと言える。…でも、もし他意…例えば、ここで活躍する事で軍事における優位性を得ようとしているならば。いやそもそも、そういう腹芸以前に、ネプテューヌが前までの様に仲間と共に友達を助ける位の感覚で行っていたとしたら、それは……
「……大丈夫。わたしはノワールが心配してる様な事は企んでいないし、ちゃんと一個人じゃなくて『守護女神』として国防軍を連れてきたの。これは嘘じゃないわ」
「…言葉だけで信じろって言う訳?」
「それは…えぇ、そうね。わたしは、ノワールなら信じてくれると思って行動に出たわ。わたしが信じる貴女を信じてここに来たの。為政者としてわたしに不足があるのは自覚してるけど…その上でお願い。わたしを、信じて」
真っ直ぐな目で、真っ直ぐな瞳でネプテューヌは言う。初めて女神の姿で共闘した時も、ユニミテスとの決戦の時も、負のシェアの柱へ突入しようとした時もしていた、凛々しく力強い、宝石の様なその瞳で。……ズルい、瞳よね…。
「……そんな真っ直ぐだと、いつか悪い奴に謀られるわよ?」
「そんな事ないわよ。だって、わたしにはそういう事を気にかけてくれる、強くて頼もしい友達がいるんだもの。そうでしょう?」
「…分かったわよ、信じるわよ信じれば良いんでしょ?ったく、それでネプテューヌはなんだかんだ上手くやってるんだから、ごちゃごちゃ考えてる私が馬鹿みたいに思えてくるわ……」
ため息をついて、乱暴に頭を掻いて……大剣を振るう。たったそらだけの動作で私は意識を切り替え、敵を見据える。
日々の積み重ねと堅実実直さが私の売りならば、ネプテューヌの売りは真っ直ぐさと真摯な思い。女神の魅力は一人一人違うし、私が真面目にしてるのも自分から望んでしているんだから、ネプテューヌを羨むのは完全なる御門違い。だから、本気で羨む必要はないし……私は私の信じる私でいればいい。
「……お互い国民がこれだけ頑張ってくれてるんだから、私達は国民の頑張りに相応しい姿を見せなきゃよね」
「同感よ。さて、一応訊くけど…打ち合わせは必要かしら?」
「まさか。打ち合わせなんて…私達には不要でしょ?」
「ふふっ、わたしもそう思ってたわ」
私達は揃って飛ぶ。一気に分体へと肉薄し、同時に二体を斬り伏せて本体へと大見得を切る。さぁ…クライマックスはこれからよ!
*
可変MGにおいてエース級を名乗れるかどうかは、変形を使いこなせるかどうかにかかっている(勿論実戦における戦果云々は別問題)。変形の一番の目的は性質の異なる二つの形態を一機に集約するというものだが、変形によって変わるのは何も性質だけではない。機体形状、武装や推進器の向く方向、カメラ越しに見える視界、そして操縦方法。しかもそこには各形態を使いこなす為の知識も必要な上に、当然僅かな間でありながら変形には時間がかかるのだから、それら全てを理解しておかなければ可変MGの真価を発揮出来ないどころか機体を危険に晒す事となる。
故にプラネテューヌ国防軍の各機は無理に変形を多用したりはせずに航空機形態を移動用、人型形態を攻撃用と割り切ってヒットアンドアウェイを心がけていたが……MG部隊の中核である三人は違う。航空機形態で一気に肉薄しつつも機銃で正面の敵を倒し、人型形態に変形した際の空気抵抗でブレーキングしながら照準を定め、射角の広さを利用して両腕の火器を撃ち込み、一瞬の変形で敵の攻撃を回避すると同時に位置取りを行い、更に攻撃を仕掛け、気を見計らって航空機形態で一気に離脱する。二つの性質を…変形を駆使する彼女等の機体は、戦うというよりもまるで舞っている様であった。
「ヴィオレ2、攻撃を!私が陽動を行います!」
「あいあい任せて下さい!」
「じゃ、わたしは本体を……」
地表すれすれを航空機形態で飛ぶリヨン機。それまで空にいて攻撃するのもままならなかった相手が降りてきてくれたのを好機と見たのか、周囲の分体はこぞってリヨン機を追うが……それを狙って分体の背後へと回っていた人型形態のノーレ機の機関砲掃射によって次々蜂の巣とされる。一方ヴィオレ3…同僚から『副会長』と呼ばれる彼女はリヨンとノーレの働きによって分体の減ったエリアへと降り立ち、出力を上げておいた右腕部のビームライフルで本体を射撃する。
プラネテューヌ国防軍の参戦と実力者三人の奮戦は戦況に大きな変化を与え、再び殲滅速度が再生速度を大きく上回る形となった。
だが、何も良い事ばかりではない。
「…ぬぅ…らぁぁぁぁああああぁぁっ!!」
一般家庭の一室でテレビやラジオのボリュームを最大にしたかの様な大音量で唸りを上げるグランディザストスライヌ。それと同時にグランディザストスライヌの身体からはスライム状の触手らしきものが生え、空飛ぶ蛇が如く敵対者に襲いかかる。
「くっ…地味に厄介ねこれは…!」
「巨大なスライム状モンスターに多数の触手って…いい趣味してるわね…ッ!」
「……え、作者批判?」
「違うわよ!戦闘パートの雰囲気壊す様な事言わないでくれる!?」
MGよりもずっと小回りと俊敏性に長けるネプテューヌとノワールは、触手の展開と同時に動いてそれ等を斬り落としていく。
それまで見られなかった、グランディザストスライム本体の自発的攻撃。敵が増えて対応の必要性を感じたか、次第に小さくなり始めた自身の身体に不安を覚えたか、それともいい加減人の攻撃が鬱陶しくなったのか…とにかく本体とは裏腹に素早く動く触手はかなり厄介であり、これが展開している間は女神二人は勿論、両国のMG部隊も満足に動けないでいた。
それに、問題はプラネテューヌ国防軍自身にも一つある。
「え…嘘っ、こんな動きするなんて…!?」
「……!ヴィオレ10、立て直せ……なかった様ですね…」
「はい…自爆しちゃってすいません……」
機体が地面側を向いている状態で航空機形態へと変形してしまったばっかりに、地面へと突撃してしまったMG部隊の一人。言うまでもなく直進性能の高い航空機形態で地面に激突すれば機体が無事な訳がなく、ヴィオレ10は戦闘不能になってしまう。
しかし、それを見てヴィオレ10の生死を気にする者はいない。何故なら……プラネテューヌ製MG、ルエンクアージェは遠隔操作型の『無人』機だからである。
「……っ…こっちに手間取ってるとまた分体が数戻っちゃうわね…!」
「でも、こっちはこっちで油断すると捕まるわよ!?」
「分かってるわよ!ネプテューヌ、あんた満を持して登場したんだから秘密兵器とかないの!?」
「その秘密兵器が可変MGよ…くっ、せめて触手と再生のどっちかだけでも突破口が見えたら…!」
「……突破口、あるかもしれません」
『え……?』
軽く言い争いながら触手を斬り裂き無力化していくネプテューヌとノワール。そんな中ネプテューヌが口にした願望。それに答えたのは……プラネテューヌメンバーが登場した事で元の配置に戻ったユニだった。
「…ユニ、あるかもしれないって…それは……?」
「うん、あくまでアタシが見た限りだけど…ビームやミサイルでやられた分体は銃弾や重剣でやられた分体より再生が遅いの!これってもしかしたら…」
「光学兵器や爆発系兵器…高熱を発する攻撃なら再生をそれなりに阻害出来るって事ね。よく気付いてくれたわユニちゃん!」
「あ、は、はい!」
「だったら…皆!本体への攻撃はいいからとにかく分体を焼いて頂戴!実弾で倒した後焼いてもいいわ!」
「こっちもよ!今補給をしてる機体はミサイルかグレネードを装備する事、いいわね!?」
分体の再生は戦闘における奴の最も用心すべき点。そう認識していたネプテューヌとノワールは即座に指示を出す。
それに真っ先に反応したのはシュゼットとクラフティだった。
「なら……プラネテューヌのMG部隊、聞こえてる!?こちらアーテル1、分体の注意はこちらが引き付けるわ!そっちは上空から焼き払ってくれないかしら?」
「焼き払いに関しちゃ向こうの機体の方が向いてるからな…おいてめぇ等、美味しいところ譲る羽目になったからって気を落とすんじゃねぇぞ!むしろ、ノワール様とネプテューヌ様、それにプラネテューヌの国防軍にうちの勇猛さを見せつける絶好の機会だ!全員気張れよッ!」
国防軍同士での連携を図るクラフティと味方を鼓舞するシュゼット。二人は言うが早いか二機揃って突出し、それまで温存していた脚部ミサイルランチャーをオープン。
両機から一斉に吐き出された都合二十発のミサイルは分体ごと正面のスペースを喰い破り、餌食となった分体を吹き飛ばす。更に爆煙を突っ切る様にその空間へと飛び込む両機。シュゼット機は重剣で果敢にも二人同様爆煙を無視して突撃してきた分体を両断し、クラフティ機はラックライフルの砲と下部のグレネードによる同時射撃で戸惑う分体を撃ち抜いていく。
中隊長二人に続いで斬り込んで行くラステイション国防軍。プラネテューヌ国防軍はクラフティの言葉と各機の勇姿を受け取り…即座に全機分体の直上へと展開する。
分体を次々とビームで撃つヴィオレ隊。ユニの発見した再生の難点だけでなく、それまで別々に動いていた両軍が連携した事もあり瞬く間に分体は掃討され、MG部隊の散開と同時に後方から大出力ビームの束が放たれる。
「さっきより出力が高い…?…もう少しだと思って出し惜しみは止めたって訳ね、良い判断よ。…ネプテューヌ!」
何度も何度もそれを受け、遂には本来のサイズが見る影もない程の大きさ(それでも普通の大型モンスターよりはずっと巨大)にまでなったグランディザストスライヌ。しかしグランディザストスライヌもやられるものかと言わんばかりに分体を生み出し、触手を放って迎撃する。
そんな中、ノワールが声を上げる。
「何かしら?ノワール」
「決めるわよ、一気に……私達でね!」
「…いいわ、ノーレ、ふくかいちょー!わたし達の直掩に付いて頂戴!」
「うん、分かりましたね…ネプテューヌ様!」
「アタシも了解です!」
ネプテューヌは右手を、ノワールは左手を空へと掲げ、シェアエナジーを収束させた巨大な剣を精製し始める。グランディザストスライヌも二人が自身の敵対者の中でも特に危険だと分かってる為に、身体から生やした触手を二人へと走らせるが……上空から滑り込む様に割って入ったノーレと副会長が触手を撃ち払い、両腕の火器を構えながら護衛の様に女神二人の周囲に滞空する。
しかしグランディザストスライヌも負けてはいない。それまではMG部隊へ向けていたであろう物もネプテューヌ達に向ける事で攻撃の密度を上げ、撃墜しようとする。当然ながらその場で止まっての迎撃は無理があり、二人の援護がありながらもじわりじわりと触手が迫るが……その分地上が手薄になっている事を見逃すシュゼットではない。
「そっちが頭獲りにいくってんなら…こっちそうさせてもらおうじゃねぇかッ!」
分体の合間を突いて重剣とラックライフルを投擲し、本体へと投げ込むシュゼット機。それに気付いて二体の分体がシュゼット機へと襲いかかるが、腰部背面に装備された二本のナイフを抜き放つと同時に機体を回転させ、勢いに乗ったまま二本へと突き刺す。
深々とナイフを刺された事で呻く分体。その間に彼はナイフを離し、推力最大で本体の懐へと潜り込むや否や投げ込んでおいた武装を掴み、本体へと押し込む。
「こうすりゃ少しはダメージが通るだろうよ……ッ!」
「ぬらぁぁぁぁ……!!」
「うおっ……っと…?」
「突っ込むのはシュゼットの仕事、その背中を守るのがあたしの仕事…ってねッ!」
「…流石クラフティ、信頼してるぜ?」
シュゼットの目論見通り、触手の一部がシュゼット機へと向けられたが、シュゼット機と背中合わせになるが如く回り込んだクラフティ機の射撃に阻まれ彼の機体へと届く事は無かった。
「ネプテューヌのところの面子、中々良い動きじゃない」
「ノワールのところの面子も結構優秀だと思うわよ?」
「じゃ……大トリを務めるとしましょうか!」
女神二人の力で編まれたシェアの剣。それはネプテューヌが普段精製するそれの何倍もの大きさを誇り、更にノワールの力によって猛々しく力強い刃となっていた。
ちらりと目を合わせ、共に剣を携えてグランディザストスライヌへと迫る二人。ノーレと副会長の射撃支援もあって何物にも遮られる事なく眼前へと……
「ぬ……らぁぁぁぁああああああっ!!」
『なぁ……ッ!?』
瞬間、既に射出限界かと思われていた触手が更に数を増す。
それは、グランディザストスライヌの執念。何としてでも死を回避しようという、生物としては当然の反応。それは実際効果があり、一瞬ネプテューヌとノワールは攻撃を断念すべきか…と思考を巡らせる。
--------だが、一人だけそれを…いや、正確には具体的にでは無かったものの、まだ何か隠し球があるのかもと思い空中で待機している者が、いた。
「持っ…てけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
二人と二人へ迫る触手。その僅かな空間へと躍り出たのはヴィオレ1、リヨンだった。
彼女はその場へ現れると同時に反射神経と動体視力、それに機体の視線誘導式ロックオンシステムをフル活用する事で、恐るべき速度で触手をマルチロックオン。右腕部ビームライフル、左腕部機関砲、フレキシブルスラスター内蔵機銃、脚部マイクロミサイルポッド、友軍機の中で唯一残しておいた対空対地ミサイル…その全てを一斉に放つ事で、迫り来る触手を一本残らず撃ち落とす。
目を見開くグランディザストスライヌ。笑みを浮かべながら退避するリヨン。そして……
『『64式・トルネードブレイド』ッ!!』
振り下ろされる巨大な剣。剣はグランディザストスライヌを文字通り両断し、刀身表面に展開されたエネルギーが螺旋を描きながら爆発する事で内側から吹き飛ばし、一瞬でグランディザストスライヌに引導を渡す。
粉々のスライム片となったグランディザストスライヌ。それまで活発に動いていた分体はその瞬間に動きを止め、力尽きた様に溶け去ってしまう。
そうして訪れた静寂。その中で、ネプテューヌとノワールは……勝利を宣言する女神の様に、高く大太刀と大剣を掲げていた。
*
「ふぃー、疲れたぁ……」
戦闘終了から数分後。他の脅威がない事を確認したわたしは……取り敢えず女神化を解除した。ほら、帰投するまでが作戦とはいえわたし活躍したし少しは休んでもいいよね?
「ちょっと、まだ軍人が見てる前でしょ?」
「えー、いいじゃん別にー」
「あのねぇ…まぁいいわ、ネプテューヌのシェア率が落ちるのは私にとって好都合だし」
なんて言いながら降りてきたのはノワール。相変わらずお堅いなぁ…って思ってたら、ノワールも女神化解除した。
「……手のひら返し?」
「失礼ね、こっちの方が話しやすいかなって配慮してあげたのに…」
「え、ノワールが配慮…?」
「ぶっ飛ばすわよ?」
「わっ、シンプルな怒り表現きた…ごめんごめん、それとありがと」
普通にノワールの額に青筋が浮かんでたから謝るわたし。あ、わたしとイリゼ含めた姉女神組はこういう事を言った後はほんとに殴ってくるから気を付けようね?女神って結構鉄拳制裁に理解あるし。
「…それより、凄いわね可変機なんて」
「でしょー?ふふん、うちには某ジャガーさんにも追いつけるかもしれない技術者がいっぱいいるんだもんね!」
「でも、その人達の考えるものは大概コストも安定性も二の次思考だから実用性に欠けるんでしょ?」
「ねぷっ!?うちの欠点バレてる!?…で、でもいいもんね!ルエンクアージェは変形出来るし飛べるしビームも撃てる、ノワールのとこのとは違うんだよー!」
「う、うっさいわね…いいわ舐めてなさい!ラァエルフもまだ全容を見せた訳じゃないし、むしろ真価を発揮するのは今後なんだからね!後、バレてるも何も、それは技術提携した際に公開した様なものでしょ?」
ちょっとした言い争いをした後、あー、そういえば確かに…とわたしは思い出す。ゲイムギョウ界でも科学技術重視のうちとラステイションはちょいちょい技術提携とか技術交換とかしてるんだよね。うちがMG作れたのも、元はそれのおかげだしさ。
なんてわたしが思い出してたら、何やらノワールはもじもじし始めた。…あ、もしかして……
「……お花摘みに行きたいの?」
「ち、違うわよ!馬鹿じゃないの!?」
「そ、そこまで怒る…?」
「怒るわよ!……そうじゃなくて、その…」
もじもじ、もじもじ。何か言いたげにしながらも言わないノワール。そんかノワールはちょっと可愛かったけど……茶化すとまた怒りそうだからわたしはだんまり。
そうして数十秒後。やっと意を決してくれたっぽいノワールは顔を赤くしながら、
「え、援軍に…助けに来てくれてありが…「ねぷ子様ー、わたし今日頑張ったよ。褒めて〜」「ヴィオレ3、まだ作戦中なのですが……あら?」「よ、プラネテューヌの皆さん。中々やるじゃねぇかお前等」「この声、やっぱり…ねぇ!そっちのパイロットはシュゼット兄でしょ!?で、その隣の機体のパイロットはクラフティ姉じゃない!?」「あたし達を知ってるの?…って、まさかノーレちゃん!?」「ノーレ?…こんな所で会うとは、久しぶりだな」「…あの、ノーレさん。そちらのお二人と貴女はどういう…?」「あ、二人はアタシの兄と義姉です」「義姉?じゃあそっちの二人は…」『夫婦(だ・よ?)』…………」
「……おおぅ…」
びっくりする位間の悪い事に、両軍のエース級が近くに集まってしまう(機体でね)。で、わたしもノワールもイヤホンマイクは付けっ放しだからそれが聞こえてくる訳で、それによってノワールの言いかけた事が遮られてしまって……
「……うぅ、もういいわよ…」
「の、ノワール…今回に関しては全面的にノワールに同情するよ…」
何故か、勝利の余韻に浸るつもりがしょぼんとするノワールを慰める事になってしまった。そんなわたしの様子も知らずにエース級さん達は仲良く談笑を開始。プラネテューヌMG部隊の初陣でありラステイションMG部隊初の大規模戦闘であり、再編した国防軍の初共闘という歴史の教科書に少しは残りそうな戦いの最後は……こんなんになってしまった。……ま、まぁ信次元っぽいといえば信次元っぽいけどね!
今回のパロディ解説
・共闘 ディフェンスフォース
マクロスシリーズ(特にマクロスΔ)の各話タイトルのパターンの一つのパロディ。これ、どの国の組み合わせでも普通に使えるタイトルですね、便利だなぁ。
・「〜〜わたしが信じる貴女を信じて〜」「私が信じる私〜〜」
天元突破グレンラガンシリーズの代名詞と言える口上の一つのパロディ。ノワールはともかく、ネプテューヌはこの系統の台詞言っても違和感ないと思うのです。
・「持っ…てけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
台詞…というかこの周囲がマクロスFの「ファースト・アタック」回のワンシーンのパロディ。可変MGが出てきたのも一斉掃射が出てきたのも、私の趣味だったりします。
・某ジャガーさん
コンクリート・レボルティオのメインキャラの一人、芳村兵馬の事。彼本人がいたなら、プラネテューヌもラステイションももっと凄いMGを開発してたかもですね。