超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude   作:シモツキ

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第二十話 プラネテューヌ、家族会話編

決して長くは無かったけど、皆と旅をしていた時に負けず劣らずの濃さだった監査の旅。楽しい事も、大変だった事も、特務監査官として気になる事もあった、仕事の旅。それも、今終わりを迎えようとしていた。

 

「--------以上が私、特務監査官イリゼの報告となります。つきましては、こちらのレポートも提出させて頂きます」

「はい、ご苦労様でしたイリゼさん」

 

着衣を正し、出来る限りの丁寧さでもって私は報告を行った。この場には私とイストワールさんしかいないから、別に普段の態度でも問題ないのだけど…今回の監査の締め、という事で私はきっちりした態度を取りたいと思った。……特務監査官は教祖の部下、という訳ではないからこれはちょっとやり過ぎなのかもだけどね。

 

「レポートは後程読ませてもらいます。…それで、どうでしたか?(・・?)」

「…それは、旅をしてみてどうだったか…という意味ですか?」

「えぇ、特務監査官ではなく、イリゼさんという一個人への質問です( ̄∇ ̄)」

「それでしたら……皆に会えた、とっても楽しい旅でしたよ」

 

態度も気持ちも緩ませて…いつも通りに戻った私は、顔をほころばせてそう言う。ちょっと上の方で『大変だった事も、特務監査官として気になる事も』なんてあるけど、私が抱いている一番の気持ちは『楽しかった』以外になんてない。…ほんと我ながら、私は皆大好きだよね。

 

「それは良かったです。監査の方も不備なくやってくれた様ですし、やはりイリゼさんに頼んで正解でした(⌒▽⌒)」

「私でなくとも出来た様な気もしますけどね、不測の事態なんて殆どなかったですし」

「前も言った通り、イリゼさんが一番適任なんですよ。それに、不測の事態があった場合はイリゼさんでなければ仕事を完遂出来なかったかもしれませんよ?( ˘ω˘ )」

「…不測の事態なんて、無いのが一番ですけどね」

「それはその通りです、ね(´・∀・`)」

 

軽い笑いを漏らす私とイストワールさん。不測の事態が殆ど無かったからこそ笑えるけど…もしあったとしたら、笑ってなんていられない。だって監査における不測の事態なんて…女神や教会の、政治屋の黒い部分に直面する事に決まってるんだから。…まぁ、私達には想像もつかない様な世界の歪みによる不思議な出来事とか、モンスターの群れ同士による縄張り争いに巻き込まれたとかのそれとは全く系統の違うイレギュラーな事態はあったけど…それはまた別の問題。

 

「…そう言えば、私がいない間教会…というかプラネテューヌにはどんな事がありました?」

「え、それは色々ありましたが…ネプテューヌさんやネプギアさんからは聞いていないんですか?(・ω・)」

「聞きましたよ?でも、何があったかという『出来事そのもの』に対してはイストワールさんが一番正確に語ってくれると思いまして…」

「まぁ、わたしは世界の記録者でもありますからね。…さて、話すとすればまずプラネタワーの事ですが……( ・∇・)」

 

プラネタワーの事を皮切りに、イストワールさんは大小様々な事を話してくれた。真実は一つでも、それを見る人には価値観や知識…所謂『主観』というフィルターがかかってしまうけど、真実を真実のまま、真実のみを記録する役目を持つイストワールさんは他の誰よりもそのフィルターが弱く薄い。勿論記録自体はフィルターがかかってなくてもそれを人に伝えようとした所で別のフィルターがかかってしまう事はあるし、故意に嘘を混ぜたりして真実を隠す事も出来るけど…前者は気にしていたらキリがないし、後者はイストワールさんがするとは思えない。……それに、イストワールさんなら話が脱線する様なボケを入れてきたりもしないしね。

 

「……とまぁ、こんなところです。後はネプテューヌさんの奇行やネプギアさんの若さ故の過ち…という程ではなく、単なるミスですが…位ですね(。-_-。)」

「それは聞かなくとも大体予想付きそうだなぁ…ありがとうございます、まぁまぁ色々あったんですね」

「プラネテューヌ…というかゲイムギョウ界では平穏で普通な日々なんてむしろ珍しいですからね。それでもイリゼさんの体験談よりは落ち着いてると思いますよ( ̄▽ ̄;)」

「それはまぁ…時にイストワールさん、一つお願いいいですか?」

「と、いいますと?(・ω・`)」

「調べてほしい事があるんです、とある次元ととある女の子の事…それに、この本の事を」

 

私は一冊の本を見せる。あの場所へ…創滅の迷宮へと私を誘った本を。ブランにもざっくりとしか分からなかったこの本だけど、イストワールさんになら何か分かるかもしれない。それに、例え殆ど何も分からなくても訊いてみる価値はある。だって…約束だけして、その約束を叶える為の行動を何もしないなんて友達らしくないもんね。

 

「ふむ……それはまた随分と難しい要望ですね(-_-)」

「やっぱりですか…」

「わたしはこの世界…というかこの次元の記録者。某仮面ライダーの片割れの様な方法で調べているので、対象によって検索にかかる時間の差はありますが、基本わたしに分からないという事はありません。ですが……」

「この次元の外の事となると、その限りじゃない…って事ですね」

「この次元外の事は一切分からない、という訳でもないですが…判明するまでにどれだけ時間がかかるか分かったものではありません。少なくとも数日数週間では難しいでしょう…」

「ですよね…ごめんなさい、無理言って」

 

この時私は、やっぱり調べるのを取り下げようかなと思った。それはどれだけ時間がかかるか分からない、そもそも調べれは対象の事が分かるかどうかすら怪しい事を人に頼むのは些か以上に気が引けるから。

でも、私がそう言う前にイストワールさんは首を横に振った。

 

「いいんですよ、イリゼさん。どんな小さな事でも絶対に判明させてみますから、わたしに任せて下さい」

「…いいんですか…?」

「いいからそう言ってるんです。調べるのはわたしの十八番ですし…他でもない、妹のお願いですからね(*^^*)」

「イストワールさん…………そんなキャラでしたっけ…?」

 

こんな時、普通ならイストワールさんの心意気にじーんとしながら笑顔を浮かべたりイストワールさんの手を握ったりするんだろうけど…私が口にしたのは感銘も何もない質問だった。…いや、妹と呼ばれた事は別にいいよ?実際私とイストワールさんは姉妹みたいなものだし、前にもそんな話したし。でも、これはちょっと…いや大分イストワールさんらしくない…。

 

「あ、あー……その、聞いても笑いませんか…?(¬_¬)」

「えと、ギャグとかじゃなきゃ笑いませんよ…?」

「……実は…ちょっと、ネプテューヌさんとネプギアさんが仲良く姉妹してるのを見ていたら羨ましくなってしまって…(//∇//)」

「…ちょっとベールさんっぽい感情抱いちゃったんですね」

「うっ……(><)」

 

イストワールさん自身そう思う部分があったのか、「言われてしまった!」みたいな顔をしていた。

…それはともかく、私は今かなり驚いている。イストワールさんは記録者と言っても感情がない訳じゃなく、私達同様に喜怒哀楽が激しい人だとは思ってたけど…姉妹関係に憧れを持ったりするなんて……まぁ、私も憧れ持たない事もないし、当然か。

 

「…一回お姉ちゃんって呼んでみます?後敬語も止めてみます?」

「い、いいです!絶対恥ずかしくなるから遠慮しておきます!(>_<)」

 

ぶんぶんと首を振って拒否するイストワールさんの様子は中々に珍しいものだった。…ちゃんとこの段階で踏み留まってる辺り、ベールよりは拗らせてないみたいだね。

 

「…では、話を戻すとして…改めて、お願いしてもいいですか?」

「あ…はい。それに真面目な話、この件は出来る限り判明させておいた方が、危険な『もしも』を回避出来そうですからね。このイストワール、きっちりと頼まれましたよ( ̄^ ̄)ゞ」

 

びしっ、と表情も絵文字も決めてくれたイストワールさんに私は頭を下げ、口頭でだとまたさっきの流れみたいになりそうだから心の中で感謝を伝える。これで話しておく事はもう無いかな……っと、そうだ…。

 

「もうネプテューヌやマジェコンヌさんには伝えましたけど…犯罪組織についてはご存知ですか?」

「…という事は、イリゼさんもどこかでそれを耳にしたんですね。犯罪組織マジェコンヌ…よりにもよって彼女の名前を語るとは……(¬_¬)」

 

そう言った時のイストワールさんは、心なしか不愉快そうだった。…でも、そうだよね。イストワールさんは私達よりも前から、マジェコンヌさんが負のシェアに汚染される前からマジェコンヌさんの事を知っていたんだから、彼女に対する思いは私達以上に強い筈。…許せないんだよね、マジェコンヌさんの名前を使われる事が、私達以上に。

 

「…過去に偉業を成し遂げた人物や世界に大きな影響を与えた人物の名前を冠するというのは、強力な後ろ盾のない組織が名を売る上で悪くない手段です。でも…」

「…同感です、イストワールさん。名前は、そんな軽いものじゃない筈ですよ」

「はい…でも、軽率な行動は厳禁ですよ?ネプテューヌさんにも言いましたが、信仰するかしないか、誰を信仰するか、信仰をどの様な形で表すか…それ等は全て個人の自由であり、女神の統治する今の国においてそれは守られるべき大切な法なんですから」

「分かってます、他の法や他者の権利に反しない限りはそれこそ、世界を破壊しようとしていた頃のマジェコンヌさんを信仰しても良い…統治側にとっては多少不都合ですけど、この法は間違ってないと思います」

 

信仰を強要したり制限したりするというのは、思考や精神を縛ろうとするのに他ならない。そんな事国民の事を思う国家であればするべきじゃないし、そもそもそんな事をしたところで考え方や思いを縛れる筈がない。むしろ縛ろうとする統治側への不満が増えるだけで、メリットよりデメリットの方が明らかに多いんだから、何か悪さをしている訳でもない(と思われる)犯罪組織を責めようとするのは建設的じゃない。それに……

 

「…名前は気分の良いものではないですけど、悪い組織ではないのかもしれませんしね」

「……だと、良いのですが…(ーー;)」

「……?」

 

開くと決めつけるのはよくない。そう思って言った私だけど…イストワールさんは浮かない様子だった。

 

「名前が名前なので少し調べてみたんです。…が、犯罪組織はいまいち全貌が見えてきていません」

「…それはやはり、不味い事なんですよね…?」

「勿論です。全貌が分からない事自体良くありませんが…それ以上に、わたしがこの次元の事でありながら容易に調べられないという事が問題です。わたしが容易に調べられない事なんて…大概碌なものじゃありませんから」

 

碌なものじゃない。それはしょうもないとかくだらないとかネプテューヌみたい(これは流石に失礼かな?…妥当な気もするけど)的な意味じゃなくて、平穏な生活とは程遠い…或いはそんな生活を害する存在だという事を意味している。名前だけならまだやろうと思えば擁護も出来るけど…そうなると、擁護とか言ってられなくなる。

 

「…どれ位不味いと思いますか?」

「どれ位、と言われると回答に苦しみますが……最悪、今の日々を後に『あれは仮初めの平和だった』と言わざるを得なくなるかもしれません…」

「……探りを入れてみましょうか?調べるだけなら信仰の制限にはなりませんし、私には特務監査官の肩書きもありますから」

「それは助かります。…でも、深追いはしないで下さいね?特務監査官の肩書きも一つ間違えば職権乱用になりますし…特務監査官に任命しても大丈夫だと思える位には今のイリゼさんも強いですが、それでも前のイリゼさんよりは弱いんですから」

「…それは、重々承知です」

 

女神化出来ない私の力の限度は、旅の中で…特に迷宮の中で、十分に思い知った。女神の力を知っているが故に、元から女神化なんて出来ない普通の人に比べて判断能力にズレがある事も分かってる。だから、イストワールさんの心配する様な事にはならないと意思を込めた視線をイストワールさんに送ると、彼女は理解したと言う様に頷いてくれた。

 

「…特務監査官の範疇を超える様な調査はしちゃ駄目ですからね?( ̄^ ̄)」

「はい」

 

そうして、私の報告は終わった。途中から報告関係なかったけど…報告目的で来たんだから、そう言ってもいいよね。

 

「それじゃ、失礼しますね」

「お疲れ様でした。それと、ブラウニー美味しかったですよ(^o^)」

「それは良かったです。…あ、私少し出かけてきますね」

「お出かけ、ですか?(´・ω・`)」

 

扉に手をかけた私は、一応…と思ってイストワールさんに伝える。監査の旅の、本当の最後に出向こうと思っていた場所の事を。

 

「えぇ、ちょっともう一人のイリゼ()に会いに、ですよ」

 

 

 

 

「…でね、私がここに来る事伝えたら、自分もゆっくり出来る時に来る、ってイストワールさん言ってたよ」

 

後ろで手を組んで、自然と溢れた笑みと共に監査の事を話す私。ここは魔窟、ここに『物理的に』いるのは私だけ。……いや、

 

「…それと、あそこにいるのがさっき言ったライヌちゃんだよ」

 

厳密に言えば、ここにいるのは一人と一体。私がライヌちゃんを連れ出したんだから、いなかったら大慌て確実だよ。

でも、ライヌちゃんはこの部屋の外から私と部屋の中を覗いていた。元々はここに連れてこようとしてたけど…ライヌちゃん自身がそれを嫌がって、あの位置から先には入ろうとしなかった。これは多分、この部屋にはもう一人の私のシェアが充満してるからだと思う。

 

「ね、私。私はモンスターと仲良くする事どう思う?ずっと一人でゲイムギョウ界と人々を守ってきた私にとっては、やっぱりモンスターは敵、って認識が強いのかな?」

 

今の発言にも、その前の発言にも…もっと言えば、ずっと返答はない。ここに来たのは久し振りだけど、マジェコンヌさんとユニミテスの足止め前に来た時ぶり…とかじゃなくて、私はその時以降も何度かここに来ていた。だけど、もう一人の私からの返答があって会話が出来たのは、あの一回だけ。強いて言えば夢?の中でも会話したけど…あれは例外、だよね。

 

「…もしそうだとしたら、あそこで興味深そうに見えるライヌちゃんを見てほしいな。ライヌちゃん私以外にはまだ割と警戒心あるけど…同じイリゼ()ならすぐ仲良くなれる気がするからさ」

 

返事も反応もない、完全な一方通行の会話。実質的な独り言。でも私は虚しくも何ともなかった。だって……もう一人の私にはちゃんと聞こえてるって分かるから。あの時私に話しかけてくれたイリゼ()が、ここにいるって感じられているから。

 

「…私、楽しいよ。友達がいて、仲間がいて、面白い事があって、頑張りたい事があって、希望があって……それに、家族がいる」

 

私は昔、自分に過去が無いって絶望した。過去が無いから、何もないって思っていた。その時は過去が無くても今が、未来があるって分かったけど…今思えば、それは少し間違ってる。だって、ちゃんと私には過去もあったんだから。

イストワールさん。私と同じ様に、もう一人の私によって生み出された存在。だから私にとっては姉の様なものだし、イストワールさんも私も妹の様なものだと思っていてくれる。

真の原初の女神、オリジンハートことイリゼ。私にとっては母親の様なもので、イストワールさんとは少し違う形で姉の様なものでもあって、そして何よりももう一人のイリゼ()。もう一人の私も、私の事を生み出して良かったと言ってくれたし、私の未来に期待してるとも言ってくれた。

そんな二人がいるんだから、私は過去が無いなんてもう言わない。確かにイストワールさんとももう一人の私とも私がここで目覚める以前の交流はないからそういう意味での過去はないけど…少なくとも、何もないなんて事はない。こんなに素敵な二人が、家族がいてくれてたんだから何もなくなんて、無い。

 

「ありがとね、私を生み出してくれて。私は今、幸せだよ……って、こんな感じの事来る度に言ってるね、私」

 

最初はにっこりと満面の笑みを、その後肩を竦めながら苦笑いを浮かべる。せっかく家族に会いに来たんだから、種類はどうあれ笑顔を浮かべたいよね。

 

「さてと…それじゃあ、私はそろそろ帰るね。あんまり遅くなると心配かけちゃうし、ライヌちゃんもお腹空いちゃっただろうからね」

 

そう言って私は中央の柱に触れる。私が眠り続けていた場所であり、もう一人の私の声も何となくここから聞こえてきた様な気がしたから、この部屋の中でもこの柱が特に思い入れが強かった。だから…これに触れてると、もう一人の私とも触れ合えてる気がするんだよね。

 

「…じゃあ…また来るね、イリゼ()

 

手を離し、背を向けて部屋の出入り口へと歩き出す。私が自分の方へ来てくれた事を嬉しそうにしているライヌちゃんに微笑んで……

 

 

 

 

 

 

 

----------------またね、イリゼ()

 

 

実際に声に出して、それが耳に聞こえていたのか。頭や心の中に、直接響いたのか。そのどちらかは分からないけれど…聞き違いだとか、気のせいとかじゃない。確かに、その声が…もう一人の私の声が、聞こえた。

だから、私は胸の中でもう一度言って、その後ライヌちゃんを抱えて帰るのだった。

 

 

 

----------------うん、また会おうね。

 

 

 

 

こうして、私の監査の旅は終わった。勿論特務監査官はこの一回の為だけの仕事じゃないから、今後も監査をする事はあるだろうけど…それでもこれは大きな区切りだと思う。色んな事があった、大変だったけどやってよかった旅としてね。だから、もしまたこういう事があるとすれば…迷わず私はこういうと思う。--------頑張ろう、って。




今回のパロディ解説

・「〜〜若さ故の過ち〜〜」
機動戦士ガンダムに登場するメインキャラ、シャア・アズナブルの名台詞の一つのパロディ。若さ故の過ちって言うとちょっとエロ方面っぽく感じるのは私だけでしょうか?

・某仮面ライダーの片割れ
仮面ライダーWの主人公の一人、フィリップの事。フィリップの情報検索のあれっぽい事をしている…というイメージを、私は作中のイストワールに持っています。

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