超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude   作:シモツキ

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第三話 新たな日常

「う〜、憩いのイリゼタイムが終わってしまった…」

 

イリゼが出ていった後の扉へと手を伸ばすわたし。勿論そんな事をしたってイリゼは帰って来ないけど、何となくこうやりたくなっちゃったから仕方ない。

 

「…憩いのイリゼタイム……?」

「うん、憩いのイリゼタイム。イリゼが来てくれればお仕事の手を休めて駄弁る大義名分が出来るからね」

 

わたしは腕を組んでネプギアに説明する。…あ、これは前話でイリゼがわたしの執務室に来た後の話だよ〜。

 

「お、お姉ちゃん…そんな雑な状況説明で良いの…?」

「む、地の文を読んでくるとは…ネプギアも着実に成長してるね」

「あ、うん…いやでもこれ成長なのかな……」

 

漫画的表現の汗を浮かべるネプギア。こういう面白表現出来る点も成長の成果だよね。普通の人間としての生活は逆に難しくなる気もするけど、わたし含めて周辺に普通の人間なんか存在しないから問題無し!

 

「…えとさ、憩いのイリゼタイムについてはよく分かったから、改めてお仕事しようよお姉ちゃん」

「えー、やだー」

「そんな事言わずに頑張ろうよ、ね?」

「頑張ったら負けだって思ってるもん」

「そ、それは駄目人間の思考だよ…」

「駄目じゃないもん、ねぷだもん」

「わたしもねぷだよ、お姉ちゃん……」

 

ネプギアは終始低めのテンションで突っ込んでくる。んー、流石に呆れられちゃったかな。

 

「……仕方無い、これ以上姉としての威厳が失墜するのも不味いしお仕事再開しよう」

「国の長としてあるまじき動機な気がするけど…やる気になってくれたなら良いかな」

 

と、いう訳でお仕事を再開するわたし。やっぱりやる気は出ないけど、今までの経験で発見した楽にこなす術を駆使して何とか片付けていく。

五分、十分、三十分……そして、約一時間過ぎた辺りでわたしの集中力は切れた。

 

「----力尽きました。報酬金がちょこっと減りました…」

「お、お姉ちゃん?いつの間にお姉ちゃんはモンスターをハントしに行ったの…?」

「さぁ?それよりもう集中力切れだよ、ヤラレチャッタよ」

「うん、ふざけたくてしょうがないのは凄く伝わってきてるよ…」

 

ぐでーっ、と机に突っ伏すわたし。我ながら仕事に対する集中力低いなぁとは思うけど、駄目だと思っても切れちゃうものは切れちゃうのだから仕方無い。やる時はやる分、やる時以外はやらないのがわたしだしさ。

と、そう自分で自分に言い訳をしていると、ネプギアがわたしのこなした書類に興味を持ちだした。

 

「…どったの?もしかしてわたし何かミスしてた?」

「ううん、そうじゃなくてお姉ちゃん結構な量終わらせてるなぁ…って思って」

「そう?ま、そりゃネプギアよりはお仕事にも慣れてるからね」

「いや、わたしと比較しなくてもかなりハイペースだと思うよ?もしかしてお姉ちゃん、要領良いタイプ?」

「ふふん、実はそのとーり…なのかな?」

 

堂々と胸を張ろう…と思ったけど正直要領良いのかそうじゃないのか自分でもよく分からなかったから胸を張る代わりに疑問形にするわたし。

要領が良いのかどうかは自分では分かり辛い。けど、言われてみるとそんな気もする。前にノワールにお仕事手伝わされた時は、記憶喪失で殆ど事務仕事は初めてな状況だった筈なのに何とかなったからね。……精神はHP0どころかオーバーキル状態になったけど。

 

「…お姉ちゃんは凄いなぁ、お仕事は要領良いみたいだし、戦いの時はすっごく格好良いし、普段は優しくて面白いし……」

「ね、ネプギア?褒めてくれるのは嬉しいけど、そんな面と向かって次々言われるとちょっと恥ずいよ…」

「……それに比べてわたしはまだまだだよ…」

「……?ネプギア?」

 

わたしが恥ずいなぁと思っている間にもネプギアは言葉を紡ぐ。最初は恥ずいし半分位聞き流そうかと思ったけど…段々と雲行きが怪しくなってきた事を感じたわたしはちゃんと聞く事にする。

 

「仕事のペースは遅いし、ちょくちょく間違えちゃうし、戦いもピンチになる事多いし、いつもあたふたしちゃってるし…」

「おーいネプギアー?考え過ぎじゃないかなー?」

「…わたしもしかしてお姉ちゃんの妹じゃないのかな……」

「……ネプギアっ!」

「ふぇっ!?」

 

少し大きめな声でネプギアを呼ぶわたし。ネプギアは自分の世界に入り込んでいた事と突然だった事が重なって意表を突かれたかの様な声を上げる。

 

「ネプギア、違うよそれは」

「違う…?」

「うん、違う。確かにネプギアはまだまだだけどさ、そんなの当たり前じゃん。最初からレベルカンストしてるRPGとか、一ページ目から犯人が分かってる推理小説とかってある?」

「それは…無い、と思う…」

「でしょ?第一さっきも言った通りネプギアは成長してるんだよ?わたしじゃなくて少し前のネプギア自身と比較すればそれは分かる筈、だって誰が見てもネプギアは成長してるんだもん」

 

そこで一度言葉を区切る。それはネプギアに過去の自分を振り返ってもらう為。ネプギアはわたしよりしっかりしてるし、ちゃんと事実を事実として認識出来る筈だから、少し時間を取ってあげれば自分が成長しているって分からない訳がない。……ほら、やっぱりちょっとはっとした様な顔したじゃん。

だからそれを確認したわたしは続ける。だって、ネプギアは大事な妹だから。

 

「…ネプギアはわたしの妹だよ。能力とか、性格とかは関係無い。わたしがネプギアを妹だって思ってるんだから、ネプギアはわたしの妹なんだよ」

「お姉ちゃん……」

「だから自信持ってよネプギア。誰がなんと言おうとネプギアはわたしの妹、わたしはネプギアの為ならシスコン認定されようと構わないよ」

 

わたしは席を立ち、ネプギアの隣にまで行って頭を撫でる。ネプギアはわたしより背が高いけど、こうしてネプギアが座っていれば普通に頭を撫でる事も出来る。こうして、お姉ちゃんらしい事をちゃんとしてあげられる。

 

「……ありがとね、お姉ちゃん」

「これ位どうって事ないよ、可愛い妹の為だもん」

「…うん、じゃあわたしは…わたしももっと頑張るね、お姉ちゃんの自慢の妹になりたいから」

「そっか、じゃあわたしもネプギアに憧れられるお姉ちゃんにならなきゃだね」

「お互い頑張ろうね、お姉ちゃん」

「うん。お互い頑張ろ、ネプギア」

 

こうして、お互い約束をしたわたし達は、もう少しだけお仕事を頑張るのだった。

 

 

 

 

女神の仕事は事務仕事だけじゃない。むしろ事務仕事は重要度としては低い方(なのに、やらないといーすんに怒られるんだよね)で、それよりも重要なお仕事が幾つかある。例えば……

 

「…あ、お姉ちゃん今日のクエストは良いの?」

「そういえばそうだった…」

 

ネプギアに言われてごそごそと机の引き出しの中から受注用紙を取り出すわたし。

クエストは基本的にギルドに行って受注するものだけど、一部の高難度なクエストや何らかの事情で一般の人には任せられないクエストはギルドから教会に送られる事がある。わたしの手元にあるこれも、その一つだった。

 

「よし、じゃあ行くかな。これはこれで面倒だけど、そろそろ身体動かしたかったし」

「気を付けてねお姉ちゃん、お姉ちゃんなら大丈夫だと思うけど」

「分かってるって。…ネプギアは来ないの?」

「うん、出来れば行きたいけど…せめて任された分位はしっかりやりたいんだ」

 

任された、というのはわたしといーすんで相談してネプギアに渡した仕事の事。急を要するものじゃないし、どうしても無理ならわたしがやってあげようかな…と思ったけど、思った以上にネプギアはやる気いっぱいみたいだったから、わたしはその言葉を飲み込む。…ほんと、ネプギアはちゃんとしてるよね。

 

「OK、ならわたしはクエスト行ってくるね。戦闘訓練はまた今度かな」

「ごめんね、戦闘訓練までしてもらっちゃって…」

「いーのいーの、ネプギアに教えてあげられる時間はたっぷりあるし」

「ほんとに?」

「ほんとほんと、少なくともOIが終わってRe;Berth2編が始まるまでは教えられない事態に陥ったりはしないから」

「そ、それは色々と反応に困るよお姉ちゃん!?」

 

ネプギアのハイテンションな突っ込みを背中に受けながらわたしは執務室を出る。さーって、今日は……あ、そうだ。

 

「こんぱー、あいちゃーん、いるー?」

 

 

 

 

「これで、最後っ!」

 

跳躍しながら突っ込んでくるモンスターに対し、太刀はそのままに前進しながらしゃがみ込む事で真下に入るわたし。するとモンスターは太刀に飛び込む形となり、ちゃんと握っているだけでモンスターは両断される。そしてその両断されたモンスターこそが、今回の目標の最後の一体だった。

 

「お疲れ様です、ねぷねぷ」

「腕は落ちてない様ね」

「まーね、二人も援護ありがと」

 

わたしの元へとモンスターを誘導してくれたこんぱとあいちゃんにお礼を言いつつ、軽く太刀を振ってしまうわたし。今日は、久しぶりにこの三人でクエストに来ていた。

 

「しかし、どうして今日は私達を誘ったのよ?これなら女神化すればねぷ子一人でも何とかなったでしょ?」

「…そう、その通り。なのに二人を呼んだという事は…何とかならない事情があるって事だよ」

「え、何よそれ……まさかねぷ子、貴女もイリゼみたいに…」

「まぁ単に久しぶりに二人と一緒に行きたい気分になっただけだけどね」

「は、はぁ!?…ったく、なら最初からそう言いなさいよ…」

 

頭をかきながら肩を落とすあいちゃん。その反応も見たかったんだよねー、と言うと怒られそうな気がするので、それは心の中だけに留めておくわたし。

 

「でも、ほんとに久しぶりな気がするです」

「そうね、普段はもっとメンバー多かったし…三人なのは、ねぷ子の偽者を探した時以来じゃないかしら?」

「だね、そう考えると…意外とわたし達って三人組ではないよね、Re;Berth1ではわたし達三人がパッケージ飾ってるのに」

「いやそれ前作の『原作』だから…」

「二人共メタ発言し過ぎですぅ…」

 

今度はこんぱに窘められるわたしとあいちゃん。「それは確かに…」と軽く反省するわたし達。普段わたしに乗るこんぱが突っ込んで、普段突っ込むあいちゃんがわたしに乗ったというちょっと不思議な展開にわたし達は苦笑し合う。

 

「…なんか良いよね、こういうの」

「こういうの、ですか?」

「うん。戦いも終わって、世界も平和になって…それで、わたし達が一緒にいる事って減ったじゃん?なんだかんだよく会ってるけど、前みたいに一日中一緒って事は凄く減っちゃったし…だから、こういうの良いなぁってさ」

「…そうね、今の生活が嫌な訳じゃないけど…時にはこういうのも、ね」

「ふふっ、わたしもそう思うです」

 

微笑み合うわたし達三人。……そっか、皆も同じ気持ちだったんだ…それは、嬉しいな。

 

「よーし、それじゃクエストも終わったし帰ろっか皆!」

「えぇ、遅くならないうちに帰りましょ」

「その前にギルドによって報告しなきゃですね」

「…クルルゥ……」

「あ、そうだねこんぱ。じゃあ、皆ギルドまで競そ……ん?」

 

右手を空は突き上げ…ようとした所で振り返るわたし。こんぱとあいちゃんも同時に振り返る。するとそこにいたのは……まぁ、分かるよね。この展開で現れるとしたらそれしかないよね…。

 

「…声的にカレー好きな曹長さんかもとか思ったのに……」

「それは無理があるですぅ…」

 

はい、やっぱりモンスターでした。カラフルでおっきなイルカみたいなモンスターがいました。ちぇっ、このままバトル描写無しで終われると思ったのに……。

なんて思いつつも太刀を再度抜刀するわたし。討伐対象ではないし逃げる手もあったけど、見た所雑魚ではなさそうだし逃げるより倒す方が安全な様に思える。そしてその判断はこんぱとあいちゃんもしていた為、即座にわたし達は臨戦態勢に入る。

 

「結構タフそうね…ねぷ子、二人で仕掛けるわよ」

「わたしはいつも通り二人の隙を埋めるです」

「了解、それじゃ…いくよ皆!」

 

そう言った瞬間、地を蹴るわたしとあいちゃん。モンスターが迎撃の動きに入る前に距離を詰め、太刀とカタールでの同時攻撃を仕掛ける。けど、モンスターは浮遊する事でそれを回避、更に急降下する事でわたし達を潰しにかかる。

 

『……っと…!』

 

左右に跳んでのしかかりを回避するわたしとあいちゃん。それと同時にこんぱが接近し、第二波の様に注射器での刺突をかける。…が、今度はモンスターの迎撃が早く、こんぱは慌てて防御をする事を余儀なくされる。

弾かれるこんぱ。幸い防御には成功したみたいだけど、今のこんぱの攻撃を軸に追撃をかけようとしたわたしは出鼻を挫かれてしまう形となる。

その後もヒットアンドアウェイを主軸にした連携攻撃をかけるわたし達。だけどそのどれもが致命打にはならず、浅い傷を何度かつけるだけに留まってしまった。

 

「うぅ、ちょっと可愛い見た目なのに強いです…」

「あの浮遊能力が厄介ね…安定した回避能力があるんじゃ揺さぶりも難しいわ」

「このままだと倒すのにはかなり時間がかかりそうだよね…仕方無い。二人は待機してて、いつでも動ける様に」

「……そういう事ね、分かったわ」

「それも久しぶりですっ」

 

わたしの短い言葉で意図を理解し、武器を構えたまま下がる二人。そんな二人の様子にわたしはにっ、と笑った後…わたしの力を、真の力を解放する。

 

「女神の力…見せてあげるわッ!」

 

跳躍し空中で女神化、そのまま飛翔を始める。モンスターもわたしの能力の変化を感じ取ったのか、素早く下がって口から高圧水流を放つ。……けど、

 

「遅いッ!」

 

鋭いロールで回避と同時に接近をするわたし。そのままスピードを落とさずに駆け抜け、胴体へと大太刀での一撃を叩き込む。

大太刀が物へとぶつかる衝撃が走り、わたしの手へと肉を斬る感覚が伝わってくる。確かに入った一撃。だけど、わたしは油断しない。

 

「ク……ゥゥ…!」

 

キッ、とわたしを睨み付け、尾びれでわたしを跳ね飛ばそうとするモンスター。やはりあいちゃんの見立て通り、一撃で沈む様な柔なモンスターではなかった。……勿論、モンスターの放った攻撃が捉えたのはわたしじゃなくて、わたしが一瞬前までいた場所だけど。

 

「悪いけど、倒させてもらうわよ!」

 

攻撃の後に生まれる僅かな隙を突き、わたしは再度斬りつける。モンスターの反応も悪くはないけど、元々の機動力が違うし、何よりサイズが違い過ぎる。サイズの差がそのまま動きの差へと繋がる、それを見事なまでに表していた瞬間だった。

だけど、わたしは深くは踏み込まない。何度も何度も無視出来ない程度の攻撃を仕掛け、ギリギリでモンスターの攻撃を回避する。その結果、一方的にダメージを受け続ける形となったモンスターが業を煮やしたかの様にわたしに正対し、真っ直ぐに突進を仕掛けてくる。--------わたしの、作戦通りに。

 

「二人共!今よッ!」

 

真上へ飛んで退避するわたし。だからモンスターの突進は空を切り……わたしの代わりに注射器とカタールへと突っ込むのだった。

 

「ーーっ!?」

「二人を忘れていたのが貴方のミスよ。そして…これがトドメの一撃よッ!」

 

勢いよく針と刃にぶつかった事で声にならない悲鳴をあげるモンスター。その首元へと襲いかかるわたしの大太刀。モンスターの突進にも劣らない勢いの大太刀はモンスターの首を正確に捉え…文字通り一刀両断するのだった。

消滅していくモンスター。それを確認しながらわたしは女神化を解く。

 

「ふぅ…今度こそクエスト終了です」

「だね。ちょっと驚いたけど…こういうのも前はよくあったよね」

「あら、じゃあこれも刺激的で嬉しかったの?」

「ま、まさか…こういうハプニングは御免だよ…」

 

若干引き攣った笑いを浮かべるわたし。そしてわたし達は周囲を見回す。周囲に敵影は…無し。

 

「…じゃ、今度こそ帰ろっか」

 

今度はモンスターが現れる事も無く、無事に街へと帰る事の出来たわたし達。その頃には、日はかなり沈んでいた。

嫌々仕事をして、イリゼと駄弁って、ネプギアを励まして、こんぱとあいちゃんとクエストをした今日。面倒な事もあったし、疲れもしたけど…昨日と同じ様に、きっと明日とも同じ様に、わたしは一つの感想を抱きながら帰るのだった。

--------今日も楽しい一日だったな。




今回のパロディ解説

・「----力尽きました。報酬金がちょこっと減りました…」
モンスターハンターシリーズにおける、ハンターのHPが0になった時の表記。こんな事を言える辺り余裕ある気もする?まさか、これを言ったのはネプテューヌですよ?

・ヤラレチャッタ
パルテナシリーズにおいてピットがやられた際に発せられる台詞の事。仕事にやられてゲームオーバー(?)になる主人公、それがネプテューヌです。

・カレー好きな曹長
ケロロ軍曹に登場する、クルル曹長の事。さて、もし本当に作中で出てきたのがクルルだったらどうなるでしょう?きっとモンスターよりもずっと厄介でしょうね。

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