超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude   作:シモツキ

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第十四話(蒼の魔導書編最終話) いつか、また会う日まで

自分に戦闘意思はない。彼女…失われし女神、と名乗ったその人は一拍おいてそう言った。勿論言葉だけで真偽を判断するのは容易ではない事だけど…その人の声音は優しく、とても嘘を吐いている様には思えなかった。

ふと横を見ると、ディールちゃんも私と同意見だったらしく、緊張の解けた(と、言っても和やかな表情は浮かべていなかったけど)様子を見せていた。

 

「失われし、女神……その女神と言うのは…」

「そう、貴女達と同じ女神です。…お二人共、長話が出来るだけの余裕はありますか?」

「話位であれば、一応……イリゼさんはどうです?」

 

そう言って問いかけてくるディールちゃんと、それに首肯する私。……因みに、女神さんに対しては硬い表情だったディールちゃんが私に問いかけをする瞬間柔らかな表情に変わった事が、個人的に凄く嬉しかったりする。もっと言えば軽く萌えてたりする。

 

「…軽く萌えてますが、こちらも宜しい様です」

「よ、読まなくていいし言わなくていいよ…」

「私の想定よりも余裕のある様で良かった。……では、まず何故貴女達…貴女達だけがここへ誘われたのかから話し始めるとしましょうか」

 

その言葉を聞いた瞬間、私とディールちゃんに解けていた緊張が再び走る。私達が抱いてる疑問は幾つもあるけど、ここに来た理由と言えばその中でも特に重要な疑問。これを聞き流せる筈がなかった。

 

「…結論から言いましょう。貴女達がここに誘われた理由……それは、単なる偶然です。最も、ここへ誘われる可能性があるのは、特定の条件に合致する一部の人物だけですが」

「…………」

「…………」

 

 

『……えぇー…』

 

予想の斜め下をいく理由に、つい呆れた様な声を出してしまう私達。女神さんもある程度はこういう反応を想定していたらしく、私達の反応にただ肩を竦めている。…いや、だって…偶然だよ?前世からの因縁とか、敵を早めに潰しておこうという未来からの使者の仕業とか、死の未来へ辿り着かない様助けようとしてくれた精霊の影響とかなら分かるけど偶然って…拍子抜けもいいところだよ……。

とはいえ、『はいはいもうかいさーん』みたいなテンションにはならない私達。女神さんの言葉には、気になる点が幾つもあるのだから。

 

「…偶然、というのは分かりました。では、特定の条件というのはどういったものなのですか?」

 

先に質問を口にしたのはディールちゃん。別に質問の回数を制限されてる訳じゃないし、それについては私も訊こうと思っていたから私は何も言わずに返答を待つ。

 

「…貴女達は、既に予想が付いているのでは?」

「えぇ、付いています。……加えられし者、なのでしょう?ですが、わたしが訊きたいのはそれではなく…」

「何に対して、どういう意味で『加えられし』なのか…という事ですね。……それは、本来の世界に対して、文字通りの意味で『加えられし』なのです」

「……っ…」

 

女神さんの言葉を聞いた瞬間、苦々しげな表情を浮かべ俯きがちになるディールちゃん。……が、女神さんは知っていたのか察したのか、すぐにこう言葉を続ける。

 

「…安心して下さい、貴女の思ってる様な意味ではありませんよディールさん。…いえ、別の名で呼んだ方が宜しいですか?」

「そう、ですか……」

 

少しだけほっとした様な顔を見せ、首を横に振るうディールちゃん。……別の名…?

 

「…次元とは数多存在するもの。同じ様な環境、歴史を持っていても寸分違わず同じという次元はありません。例えば、イリゼさんの次元とディールさんの次元の様に。そして同時に、『ゲイムギョウ界』と呼ばれる次元は例外なく、ある程度の共通点を持っているものです」

「…共通点…女神の存在やシェアの存在ですか?」

「えぇ。…しかし、絶対などないというのが世の常。次元が数多存在するにも関わらず、一つの次元にのみしか存在しない、唯一無二の存在がいる事があるのです。……貴女達、二人の様に」

「それが…加えられし者……」

 

説明を受け、私の頭の中で思考が巡る。私とディールちゃんとで話した時にも、私達二人はネプテューヌ達双方に存在する人達とは違うんだと分かってはいたけど…まさか他のどの次元にも存在してないとは思ってもみなかった。…別にそれは嫌だとか悲しいとかの感情は抱かないけど…何というか、もやもやする……。

 

「……そして、その加えられし者が存在する次元の多くは、同時にもう一つの存在が生まれます。…と、言ってもこの表現は些か間違っていますが…それが何なのか、分かりますか?」

「この流れからすれば…『失われし者』しかないでしょう」

 

調子を取り戻したのか、ディールちゃんが会話に戻ってくる。確かに失われたものが生まれる、というのは表現として些か…というか完全に間違っている。ただでも、失われるという現象が生まれる、失われた事により失われし者に該当する存在が発生(=生まれた)と考えれば…間違ってもいない。こんなの言葉遊びの域だけどね。

 

「その通りです。お分かり頂けましたか?」

「えぇ、概ねですが…では、ここにいる失われし者は貴女と魔龍だけなんですか?」

「はい。もっと言えば、私はあの魔龍と関連のある存在だったからこそ現れる事が出来たのであり、元々は魔龍のみが一応(・・)この場に存在していたのです」

『一応……?』

 

何とも妙なタイミングで出た『一応』という単語に、つい同時に反応してしまう私とディールちゃん。

 

「一応、です。少々説明し辛いのですが…そうですね、ここにある物質があったとしましょう。それは見る事も触れる事も出来ません。その場合、お二人はその物質が存在していると言えますか?」

「言え…るのでは?見えないけど存在する物も、触れないけど存在する物も事実沢山ある訳ですし。だよねディールちゃん」

「それは…どうでしょうか?一つお聞きしますが、見る事も触れる事も出来ないが、嗅ぐ事は出来る…の様な、引っ掛け問題ではないのですよね?」

「えぇ、如何なる手段をもってしても確認出来ない物質、という事です」

「ならば、それは存在しているとは断言出来ません。最も、ある物質があるというのが文章問題における条件であるならば別ですが」

 

簡単に同意を得られるかな…と思って訊いてみた私だったけど、ディールちゃんから返ってきたのは意外な回答。でも、ディールちゃんの言った事が分からない訳でもない。…と、いうよりも私は何の気なしにある物質がある、というのを条件にしていた事に気付き、それも同時にむしろディールちゃんの解の方が適切な様に思えてくる。

そして、女神さんの求めていた解もディールちゃんの口にしたものの様で、彼女の解を聞いてからこくりと頷いた。

 

「確かに、イリゼさんの言う通り視覚や触覚で分かるもの以外は存在していない、という事はありません。しかし、それ等が存在するというのもまた何らかの方法で『認識』出来たが故に存在すると言えるのであり、如何なる手段をもってしても確認出来ない物質は、例え存在していたとしても認識出来ない側にとっては存在していないのと同義なのです」

「…魔龍はその確認出来ない物質の状態だったから、一応…という訳ですか」

「それをイリゼさんが望んだ事で認識可能な状態になった…と?」

「それは半分正解で半分誤りです。この迷宮に内包された存在の思いが迷宮自体へ影響を及ぼすというのも、イリゼさんが望んだ結果というのも正しいですが…魔龍が姿を現したのは…いえ、姿を得たのは『失われし者がいる』という認識をされた為です」

 

女神さんの話を聞き、私とディールちゃんは互いに顔を見合わせ……くいっ、と首を横に傾ける。認識される事で姿を得た…って、えぇと…ブータ的な……?

 

「私も全てを知り、説明出来る存在ではないのです。その上で言うのであれば…存在していると存在していない、そのどちらとも呼べない状態であった魔龍はイリゼさんの思いによって『失われし者』という認識可能な存在へと昇華され、実在出来る様になった…でしょうか…」

「…な、何となくは分かりました…でもまさか、認識しただけであれ程強い存在が出てきてしまうとは…」

「あれでも弱体化はしていたのですよ?本来の魔龍としてではなく、失われし者という曖昧な括りでの認識でしたから」

「あ、あれでも弱体化状態だったんですか…」

「本来ならば、貴女達の知る守護女神四人が命懸けで戦ってやっと倒せるレベルですから」

 

再び顔を見合わせる私とディールちゃん。今度は顔が軽く引き攣っていた。もし魔龍が本来の力を出せる状態だったのなら、コラボストーリーにおいて両作品の主人公が為す術なく殺される展開になり兼ねなかったとは……うん、全くもって洒落にならないね。

 

「……魔龍についても、わたし達についても分かりました。では…この場所は何なのですか?」

「この場所は…現象、とでも言いましょうか。加えられし者と失われし者とが邂逅する為だけの場所。この場所もまた偶然により生まれた物であり…両者のどちらかが消失する事により効力を失い、元通り失われるのです」

「両者のどちらか…と、いう事は……」

「はい。私が消えれば、その瞬間迷宮も消失を始め、完全消失と共に貴女達は元の場所へと帰還出来ます」

『……!』

 

三度顔を見合わせる私達。今の私達の顔に表れているのは驚きと興奮の感情。

実のところ、私達は僅かに不安を感じていたのだった。本の内容は概ね正しかったけど、本には『元の場所へと戻るは云々』と書いてあるだけで、勝てばそれで帰れるなんて保証はどこにもなかった。だから、女神さんのその言葉は、ある意味で最も私達にとって有難かった。

……でも…。

 

「…良いんですか?それで……」

「貴女はわたし達の為に自分が犠牲になる、というんですか…?」

「犠牲も何も、私は元々存在しなくなった身。今この瞬間が例外というだけです」

「でも……」

「…私はとても真っ当とは呼べないでしょうが……それでも、私も女神です」

 

女神さんは一度目線を落として…すぐに顔を上げる。そしてその時には、彼女の瞳は女神の……誰かを守る、決意の意思が灯っていた。

 

「…分かりました。貴女の事は忘れません」

「私もです。ありがとうございます、女神さん」

「……最後に一つ、あまり言いたくはないのですが…」

 

私達の言葉を聞いた女神さんは、少しだけ安心した様な表情を浮かべて…最後の忠告を、口にする。

 

「…また、貴女達が…貴女達のどちらかが創滅の迷宮へと誘われる可能性があります。ここと全く同じ場所である事はまずあり得ませんが…偶然に偶然が重なる事は、あり得ます」

「…心得ておきます」

「…これで、終わりですね…私を忘れないという言葉、嬉しかったです。--------さようなら、今を生きる女神達…貴女達が女神として進み続けられる事を、祈ります…」

 

そうして、女神さんは白の靄となって消えていった。二度目の消失という恐怖を背負ってまで、私達の為に現れてくれた女神さんは再び失われし者へと帰っていった。

そして、彼女の言葉通り創滅の迷宮は彼女の消失と共に、消え始める……。

 

 

 

 

「…ねぇディールちゃん。ディールちゃんはここでの出来事、長かったと思う?それとも短かったと思う?」

 

ゆっくりと、ゆっくりと光の粒子となって消えていく迷宮。その様子を眺めながら、イリゼさんはそう言った。

長いか、短いか…そんなものは分からない。でも、敢えて言うのなら……

 

「…濃密な時間ではあったと思います」

「それは間違いないね、濃密な時間なんて私達にとっては日常茶飯事だけど」

「それを否定出来ない辺り、わたし達の周りも末期ですね…ところでイリゼさん、女神化出来た事について、ちゃんとした理由分かりました?」

 

某アニメのOP宜しく非常事態が日常である事に苦笑を隠せないわたし達。その後わたしは、ずっと気になっていた事を口にした。

 

「うーん…分からないけど、奇跡…とかではないと思う。…それも、一回限りだったみたいだけどね」

「そうですか…惜しいと思いますか?」

「それは勿論。でも、一回限りの女神化をここで使えたのなら…後悔はないかな」

「…わたしも、ここで使ってくれて助かりました」

「友達の為だもん、お礼なんて必要ないよ。……で、さ…ディールちゃん。…ディールちゃんの名前は、ディールなの?」

 

ずっと口の端に浮かべていた笑みを消して、わたしに問うイリゼさん。やっぱり、女神さんの言った言葉が引っかかっていた様だった。

わたしは、嘘を吐いている。わたしの本当の名前はディールではない。けど、本当の名前を今言うべきなのか……やっと終わって、やっと安心出来たのに、わたしの過去を語る事は適切なのか。それに、女神候補生を…ホワイトシスター、ロムをまだよく知らないイリゼさんに語る事は、今後のイリゼさんとイリゼさんの次元のロムちゃんとの関係に悪い影響を与えるんじゃないか。そんな言わない理由ばかりが頭に浮かぶ。…でも、これは言い訳だった。真実を言う事で、わたしに対するイリゼさんの印象が変わってしまう事が怖いから作り出した、言い訳に過ぎなかった。

ふと、顔を上げる。そこにあったのはイリゼさんの真剣な…どんな言葉でも受け入れてくれそうな、真面目で優しい顔があった。それを見た瞬間、わたしは吹っ切れる。

 

「……ディールです。わたしの名前はディール。それに、間違いはありません」

「そっか…うん、分かったよディールちゃん」

 

この言葉は、嘘でも言い訳でもない。だって、それが例え偽りの名前だったとしても、イリゼさんと出会って、戦って、協力して、探索して…信頼し合ったのは、ディールだから。

きっとイリゼさんは、むこうのロムちゃんと接する中でいつかは気付くと思う。もし、そうなったら…その時はちゃんと謝って、ちゃあんと全部話そう。イリゼさんは、きっと全部聞いて、その上で今まで通りでいてくれる筈だから。

 

「……最期に何か、残したいですね」

「何か…うーん、写真とか?ディールちゃんも携帯持ってるよね?」

「えぇ、まぁ…」

 

じゃあ記念写真撮ろうよ、とイリゼさんは言う。これはわたしが言い出した事だし、記念写真というのも悪くないと思ったから、わたしは素直にこくんと頷く。

 

「ではイリゼさん、わたしに携帯貸してちょっと離れて下さい。撮ってあげますよ」

「はーい……ってそれじゃ私の携帯に私の写真が残るだけじゃん!私自分大好きさんじゃないよ!?」

「え……イリゼさんは巷でセカイリと呼ばれてたのでは…?」

「私ハンバーグ師匠とコンビ組んでたりしないんですけど!?」

 

全身傷だらけの人間とは思えないテンションと声量で突っ込んでくるイリゼさん。それを見てわたしは…つい笑ってしまった。今までは心の中だけに留めていたけど、やっと全部終わったからか、つい笑い声を上げてしまった。

それを見てむぅぅ…と唸るイリゼさん。でもその数秒後には私と同じ様に笑って、改めて二人で撮ろうよと言ってくる。勿論、わたしはそれに同意する。

 

「じゃ、まずはわたしから…って自撮りするの初めてかも…」

「ゆっくりし過ぎて撮る前に消滅、とかは嫌ですよ?」

「だ、大丈夫だよ…はいチーズ」

 

ぱしゃり、という軽快な音と共にレンズ横のライトが光る。掲げていた携帯を降ろし、二人で写真を確認するわたし達。わたし達の格好が呑気に写真撮ってる場合じゃないよね…と思う事以外には特に悪い点のない、割といい写真だった。

 

「…もうちょっとディールちゃんが笑ってくれてたらなぁ……」

「これでも笑ってる方ですって…次はわたしですね」

「あ、ディールちゃんの方も私が撮るよ。ディールちゃんの腕だと私ちょっと見切れる可能性あるし」

「し、失礼な……まぁ実際あり得るので任せますけど…」

 

という事で携帯をイリゼさんに渡し、もう一度撮る。途中フラッシュの瞬間にイリゼさんに悪戯してやろうかな…とも思ったけど、止めた。よく考えたら、悪戯写真が残るのはわたしの携帯だしね。

 

「これで記念写真撮影終了、っと…もう数パターン撮っておきたい?」

「いいですよ、記念写真ですしこれで十分です」

「だよね」

「…………」

「…………」

 

記念写真を撮り終え、撮った写真をちょっと眺めてから携帯をしまって……そこで、会話が途切れた。

別に話す内容が無くなった訳じゃない。色々あったんだから、話す内容には困らない。ただ…わたしの心にも、恐らくイリゼさんの心にもある気持ちが渦巻いていて、それで中々口を開けなかったのだった。--------これでもうお別れだ、という気持ちが。

数分位、わたし達は互いに無言で消えていく迷宮を眺めていた。そして、先に口を開いたのは、イリゼさんだった。

 

「……また、会えるかな…」

 

イリゼさんの顔は見ていない。でも、声だけで分かった。きっと今、イリゼさんは寂しそうな顔をしている。しっかりしてる様でしっかりしていない、どこか子供の様な心を持っているイリゼさんは、きっと寂しいという気持ちを抱いている。……そしてそれは、わたしも同じだった。

 

「…会えますよ、きっと。女神さんも言っていたじゃないですか。またこういう事が起こる可能性はあるって」

「偶然に偶然が重なれば、ね…」

 

普段は現実をちゃんと見つつも楽観的視点を失ったりしないイリゼさんが、この時ばかりは後ろ向きだった。…本当に、これじゃどっちが子供なのか分からないですよ、イリゼさん…。

 

「……分かりました。ちょっと本、貸してくれませんか?」

「え?…良いけど…どうするの?」

「おまじないですよ。きっとまた会える様に、っておまじないです」

 

イリゼさんから白い本を受け取ったわたしは、本へわたしの魔力とシェアエナジーとを混ぜ合わせた力を流し込む。この本は単なる魔導具とは一線を画す様だから改竄なんて出来ないけど、それでもちょっと力を入れておく位ならわたしにも出来る。

 

「…そんなおまじない、あるの?」

「あるんですよ。…と、言ってももしまたわたしとイリゼさんが出会える様な可能性が発生した場合、この本が目印になってくれるって程度ですが。…それでも、わたしはこれがわたし達をまた巡り会わせてくれるって信じてます」

「…最後までごめんね、世話ばっかりかけて……」

「それはお互い様ですよ。それに……わたしだって、イリゼさんとまた会いたいですから…折角出来た友達と、もう会えないなんて…そんなの嫌ですから…」

「ディールちゃん……」

 

気付けば、もう大分迷宮は消滅していた。わたし達がここに居られるのは、きっと後僅か。全部消えてしまえば、わたし達はそれぞれの次元に戻る。それぞれの居場所に、帰る事になる。

 

「…今度は、遊びましょうか。出来れば今回みたいな厄介事とは無縁な形で会いたいです」

「じゃあ…その時は一緒にお出かけもしようよ。あ、その時は他のメンバーと共に一緒に行きたいな」

「わたしもです。互いに行き来出来たら良いですね」

「うんうん。その時が楽しみだなぁ…」

 

もう、わたしもイリゼさんもこれきりだとは疑ってない。確証はないけど、確信もないけど、それでもまた会える気がしていた。また会えるって、信じていた。

そして、遂にその時が来る。迷宮が完全に消滅して、わたし達の身体も消えていく。だから、わたし達は二人同時に最後の挨拶を口にした。笑顔で、手を振って…日が暮れて家に帰る時の子供の様に、言った。

 

「ばいばい。またね、ディールちゃん」

「ばいばいです。…またね、イリゼさん」

 

示し合わせた訳でもないのに、同じ言葉だった。『さよなら』じゃなくて『またね』……それが、わたしとイリゼさんの交わした、最後の挨拶だった。……ううん、違う。最後なんかじゃない…だって、『またね』だもん。そのまたね、の日まで待ってますからね、イリゼさん。

 

 

 

 

「……ゼ……リゼ…」

 

肩が揺すられている。誰かに呼ばれている気がする…というか呼ばれている。上手く聞き取れなかったけど、多分これは私の名前だ。

ぽけーっとする頭を何とか働かせて目を開ける私。そこにはブランがいた。

 

「おはよう、イリゼ。こんな所で寝るなんて、そんなに本に熱中しちゃったの?」

「あ…えっと……」

 

本に熱中し過ぎてここで寝てしまった、なんて記憶はない。というか暫く本はまともに読んでいなかった気がする。そう、確か私は……

 

「……え、まさかの夢オチ!?嘘ぉ!?」

「夢オチ?」

「嘘でしょ!?十四話も使った夢オチとか前代未聞だよ!?誰得!?ねぇ誰得!?」

「よ、よく分からないけど一旦落ち着きなさいイリゼ…」

「落ち着いてなんていられないよ!だって……って、あ…」

 

慌てて立ち上がったところで…私がある物を持っている事に気付く。文も、挿絵も、タイトルも装飾もない白い白い本。そこでもう一つ思い出した私は急いで携帯を取り出し、写真ファイルを開く。ドキドキしながら見た写真ファイルには……あの時撮った、ディールちゃんとの写真が確かにあった。

 

「……良かった、夢オチじゃなかった…」

「…イリゼ、何かあったの?」

「ん、まぁちょっとね。…ちょっとと呼べるボリュームでは決してないけど…」

 

私の様子から察し、心配そうな表情を浮かべているブラン。そんなブランに余計な心配をかけないよう私は軽い口調で言葉を返す。…迷宮での出来事を秘密にするつもりはないけど…今はいいかな、皆が集まった時の方が一度に伝えられるし。

 

「…あ、ところでブラン。ブランはこの本知ってる?ここの本だと思うんだけど…」

 

そう言えばこの本は書庫の本棚にあったんだった、と思って本をブランに見せる私。するとブランは最初不思議そうな表情を浮かべた後受け取り、本を撫でたり開いたりした後…怪訝さと真剣さの混じった様な顔になった。

 

「……イリゼ、本当にこの本がここにあったの?」

「そうだけど…」

「…貴女を疑うつもりはないけど、信じられないわ。だって、わたしが表紙すら知らない本なんて、この書庫にはない筈だもの」

「そ、そうなの?」

「それに…この本は魔導書の様だけど、はっきり言って規格外よ。こんな本初めて見たわ」

 

ブランの判断は、ディールちゃんとほぼ同じだった。やはり、この本は何かとんでもないらしい。…じゃあ、まさか……

 

「……この本は何らかの力で、突然書庫に現れたとか…?」

「…正直、その可能性が高いわ」

「ほんと何なんだろうこの本…ブラン、これはブランに預けた方が良い?」

「預かってほしいというなら預かるけど…イリゼに任せるわ。この本を見つけたのがイリゼだったのは、偶然じゃないかもしれないもの」

 

私が加えられし者で、この本が私やディールちゃんの思った通りの物なら、確かにそれは偶然じゃない様に思える。

そう考えた私は、数瞬の思考の後、私が持っている事にした。ブランがこういうって事は私が持っていた方が良いんだろうし…それに、これは『目印』だからね。

 

「…そうだ、書庫見せてくれてありがとねブラン」

「お安い御用よ。本を好きになってくれるならわたしも嬉しいし…特務監査官さんに隠し事をするのは得策じゃないもの」

「あはは、それもそっか」

 

そんな雑談をしながら、私達は書庫を出る。すると……

 

「ゆきだるまつくりに行こー!」

「おー……!」

 

私達の前を、二人の少女が駆けて行った。ルウィーの女神候補生、ラムちゃんと……

 

「……あ、れ…?」

「あの二人はまた廊下を走って……イリゼ?」

「……ううん、何でもないよ」

 

走り去っていく二人の後ろ姿を見つめながら、私はそう返す。

……一瞬、ロムちゃんがディールちゃんと重なる様に見えた。確かにこの二人とディールちゃんはよく似てるけど…何でだろう?

 

「…じゃあイリゼ、わたしはやる事があるから執務室に戻るわ。貴女はどうする?」

「んー…少し散策しようかな。なんか散歩したい気分だし」

「そう。分かったわ」

 

ブランと別れ、私は外へ出る。

思いを馳せるのは、創滅の迷宮での出来事と二人(一人と一体?)の失われし者、そしてディールちゃんの事。一連の出来事は決して楽しい事ばかりじゃなかった…というか大変な事ばかりだったけど、これもこれで大事な思い出になると思う。そして、ディールちゃんは…紛れもなく、私の大切な友達だ。

 

 

(…またねがいつかになるかは分からないけど…その日を、私は待ってるからね、ディールちゃん)

 

見上げたルウィーの青空は、蒼く澄み渡っていた。

 




今回のパロディ解説

・死の未来〜〜精霊の影響
デート・ア・ライブのゲーム、凛祢ユートピアにおけるヒロインの一人、園神凛祢の行動及び力の事。別に創滅の迷宮はループ世界ではありませんからね?

・ブータ
天元突破グレンラガンシリーズに登場する、主人公のペット兼仲間の事。多次元宇宙の部分と掛け合わせてみたのですが…自分でもちょっと伝わり辛いかもなぁと思います。

・某アニメのOP
迷い猫オーバーランのOP、はっぴぃにゅうにゃあの事。非常事態と聞くとどうしてもこのフレーズが出てきてしまうのが、私の頭だったりします。

・セカイリ、ハンバーグ師匠
お笑いコンビ、スピードワゴンの二人の事。ハスキーボイスで独特な価値観を持つイリゼ…ちょっと気にはなりますが、やってみたりしません。えぇやりません。


タイトルの通り、コラボストーリーは今回で最終話となります。ご愛読ありがとうございました。そして橘雪華さん、ディールちゃんで破茶滅茶し過ぎてごめんなさい。でも楽しかったです!最後まで見守ってくれて本当にありがとうございました!
あとがきらしきものは後日近況報告で行うつもりなので、もし宜しければ読んで下さい。

……あ、勿論次回からはOI本編第四話から続けますよ。

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