タイトルの意味は、最後にわかります。
第X特異点 XXXXXX・XXXX
人類最後のマスター。
そう”彼”が呼ばれるようになって随分と長い時が過ぎた。
何の前触れもなく訪れた人類存続の危機。その未来を取り戻すべく「人理継続保障機関・カルデア」に数合わせで呼ばれた、魔術師ですらない一般人。
本来ならば、戦わなくとも済んだかもしれない素人のマスター。38人の優秀な魔術師と、才能ある9人の一般人の影で歴史の波に埋もれるはずだったマスター。
だが、運命は、ただただ残酷に、彼を漆黒の世界へと引きずり込む。
終わりの見えない戦いは、確かに彼の心と躰を蝕んだ。
失敗は許されない。皆の期待と人類を救わなければならないという重圧をその身に背負い、だがそれでも、内に強い意志を秘めた彼は、今日も大切な後輩の少女と共に、ただ前に進み続ける。
たとえ、その先にどんな結末が待っていたとしても―――。
そう、これは一つのIF。
「ようこそ、人類最後のマスター。ここは―――お前たちの未来の世界だ」
それは、未来を失った者の物語。
そして―――
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「………………………………あの。
朝でも夜でもありませんから、起きてください、先輩」
「いきなり難しい質問なので、返答に困ります。
名乗るほどのものではない―――とか?」
「おめでとうございます。
カルデアで二人目の、フォウのお世話係の誕生です」
「………あの………せん、ぱい」
「手を、握ってもらって、いいですか?」
「先輩。起きてください、先輩。
……起きません。ここは正式な敬称で呼びかけるべきでしょうか
───マスター。マスター、起きてください、起きないと殺しますよ」
「見ていてください、マスター」
「武装完了……行きますね、先輩」
「落ち着いて……落ち着いて……」
「戦闘終了……。あの、お役に立てましたか……?」
「もっと先輩のお役に立てるよう……頑張ります」
「好きなもの? 空の色とか、地面の匂いとか…好きです」
「嫌いなもの? …すみません。目下のところ、そこまで否定するべきものはありません」
「聖杯を探索し、回収することが私の使命です。頑張りましょう、マスター」
「外の世界はすごいですね。カルデアでは知りえなかった情報ばかりで……毎時間新しい発見の連続です。先輩は、どうですか?」
「先輩最低です」
「カッキ―ン。カッチーン。……あ、あぁ、大丈夫です。大切な資源で遊んだりはしていません。……していません」
「た────あっっっっっ!
お──こ──り――ま――し――た――っ!!!!」
「穀潰し!顔に似合わずやりますね、お父さん」
「いきます……!マスターわたしに力を……!」
「見ていてください所長───今こそ、人理の礎を証明します……!!!!」
「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷───顕現せよ、
『いまは遙か理想の城ロード・キャメロット』!」
「あと一つで、魔術王の企みは崩壊する……。先輩の旅も、サーヴァントとしての私の在り方も、もうじき終わるんですね」
「侵入者…っ!いきましょうっ!先輩っ!」
「大丈夫ですかっ!マスター!」
「マスター……いえ、先輩……生きてください」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夢を、見ていた気がした。今は遥か遠い世界の夢を。
薄闇に満たされた空間で、彼は一人、憂いた表情で机に突っ伏している。
その空間は、かつて幾人もの人間の命の息吹で賑わいを見せていた場所だった。
たった、二十数人の人間しか残っていなかったこの場所。だが、ここには多くの人種、性別、そして身分にとらわれない者たちの賑わいがあった。
そして、その全員が誇りと強い意志を持った大切な仲間だった。
彼らと過ごした日々は大切な宝物。彼らと一緒に戦うことこそが、心の支えであり、唯一の救いだった。
終わりの見えない戦いと、救わなければならないという重圧に、何度も押しつぶされそうになった。
それでも、立ち上がれたのは彼らがいたからに他ならない。
そうか、そうだった。自分は決して、一人で戦っていたわけじゃない。
あぁ、でも、どうしてだろう。頭が痛い。彼らの顔を、名前を思い出そうとすると、ひどくノイズが走る。
針の止まった時計の時間を指でなぞる。
それはまるで、かつてそこにあった幸せな時間を慈しむかのように。
「―――」
時間の感覚を失ってどれくらいになるのだろうか。もう何百年と、ずっとここにいる気さえする。
いや、あるいはその通りなのかもしれない。
もしかしたら、
もし。もしも、そうだったら、このまま自分の時間もずっと止めていてほしかった。
そしたら、もう何も忘れずに済んだのに。こんな苦しい思いをせずに済んだのに。
永い時の流れは、少しずつ、だが確実に彼の記憶をすり減らしていった。
あの短くも鮮烈な戦いの記憶も。
打たれ弱くへなちょこで、でも誰より責任感と優しさを持つドクターの名前も。
変わり者だが、いざというときには頼りになる自らを天才と称する英霊の顔も。
いつも支えてくれた、守ってくれた大切な大切な―――後輩との思い出も―――。
今はもう、ほとんど憶えていない。
失いたくない。無くしたくない。もう、忘れたくない。頼む、お願いだから―――これ以上、オレから大切なモノを奪わないでくれ。忘れるくらいなら、いっそ―――死んでしまいたい。
そう思ったことは、一度や二度ではない。
それでも、彼は死ぬわけにはいかなかった。だから今も、誰もいなくなった
自分たちの世界はもうない。彼と一緒に戦ってくれた大切な人たちも、もういない。
だけど、それでも彼は、偽りようのない―――人類最後のマスターだったから。
「……ようやく、だな」
だが、それもようやく終わる。
何もない世界に、僅かに感じる魔力の歪み。その瞬間、彼はようやく人間らしい表情を浮かべた。
イスに掛けていた白い制服を手に取り、袖を通す。
それは、人理継続保障機関・カルデア。ここに来た時からずっと着ている彼の誇り。長い年月を経て、すっかりくたびれたそれを、彼はおそらく死ぬまで着続ける。
その覚悟は―――できていた。
「―――マスター」
刹那、なにもなかった世界に、七騎の影が現れる。
全員が、頭を垂れ、マスターである彼に忠節の意思を示す。
永い、永い、本当に永い時、自分を支えてくれた最後のサーヴァントたち。
あの戦いで、二度と帰ってこなかったサーヴァントがいた。彼を逃がすために、犠牲となったサーヴァントもいた。そして、彼の思いに失望し、座に帰ったサーヴァントもいた。
それでも、自分の身勝手な我儘に最後まで付き合ってくれた彼らに、彼は心の底から感謝している。彼らのおかげで、人類最後のマスターはこの日を迎えることができたのだから。
「応、準備できたかマスター」
―――青いローブを纏ったアルスター伝説の勇士は、そう言って彼の肩を叩く。
気さくなその仕草に、いったい何度救われてきたことか。「導く者」としての役割を自らに課す彼は、自分の師として最高の存在であった。彼の手ほどきにより、人類最後のマスターはようやく三流魔術師の一員となれたのだ。
彼にはとても感謝している。力のなかった自分に僅かでも、戦える力を授けてくれたから。
「戦いは好きではありませんが………安珍様のためならば」
―――扇で顔を隠す竜の少女。
だが、彼は見逃さなかった。彼女の目元が赤く腫れていたのを。
また、泣かしてしまった。そのことを何度、後悔したかわからない。でも、彼は立ち止まるわけにはいかなかった。
だから、「ごめん」と彼は心の中で謝る。その気持ちに、応えてあげられないことを。
「大丈夫。何があっても、お姉さんが守ってあげるから」
―――その彼女を、優しく抱きしめてあげる勝利の女王。
慈愛に満ちた彼女は、いつでも彼を心配していた。けれど、諦めてもいいんだよ、もう休んでいいんだよと彼女が言うことは決してなかった。
それは、マスターのお姉さんとしての厳しさと、優しさ故に。
「僕のやることはこれまでと一緒さ。君と共に歩む、ただそれだけだよ」
―――元羊飼いのイスラエルの王は、そう言ってやれやれと肩を竦めた。
正直、彼が残ってくれたことはかなり意外だった。その理由を聞いても、彼はいつものらりくらりとかわすばかりで、応える気は一切なかった。
だが、時たまに見せる彼の表情は、まるで大切な何かを失ったかのように虚ろなもののように感じた。彼がなぜ残ったのかはわからない。だけど、その表情には強いシンパシーを感じた。
だから信じようと思った。大切な人を失ったのは、自分も同じだったから。
「―――わかった。君は、そう望むんだね」
―――狂心を宿した紳士。或いは良心に縛られた悪鬼は、そっと目を閉じる。彼のマスターが選んだ最も残酷な結論。そして、その結末を思い、湧き出す深い悲しみを隠すかのように。
最後に残ったサーヴァントの中で、表裏一体の彼らだけは彼の行いを「悪」と断じていた。だが、だからこそ、彼はマスターと共に在ることを選んだのだ。心のままに、復讐へと走るマスターをかつての自分と重ねた故に。
悪の想念の一端として召喚されている自分では正義のために戦うことなど出来ない。だからせめて、堕ちるマスターと共に堕ちよう。それが、この滅んだ世界での彼の「正義」の在り方だった。
「ならば、再び共に駆け抜けよう、
―――誇り高きアパッチ族の戦士は短くそう告げる。
奪われた世界。踏みにじられた誇り。彼は残ったサーヴァントの中で、勝利の女王とともに、おそらく最もマスターの深い悲しみを理解していた。だから、マスターが復讐を決意したとき、彼は真っ先に彼の武器となることを決意したのだ。
かつて、自身がメキシコ兵と戦った時、血まみれになりながらも最後に握りしめた一本のナイフ。マスターの最期のそのときに、彼が手に持つそのナイフとなることを。
「では、マスター。どうか最期のご命令を」
―――そして、最後に菫色の騎士がそう仰ぐ。
永い時、さまよい続けた忠節の騎士。彼がこの世界に留まった理由は、ひとえにマスターと、彼の後輩のためであった。あのエルサレムでのことは、彼はほとんど覚えていない。だが、彼の地で、騎士はマスターである彼と、彼の後輩に大きな恩義をつくった事はなんとなく理解していた。
ならば、今度は自分がその恩義に報いる番であった。「騎士の誓い」は破れない。今はもういない雪花の盾に代わり、マスターを守ること。それが、今の彼の「騎士の誓い」であった。
七騎のサーヴァントの思いはただ一つ。今度こそ、マスターと共に最後まで―――。
そして、もしも叶うならば、我らのマスターに最後の救いを―――。
明日がないこの世界で、それでもサーヴァントは、マスターの救済を望む。
だから、その思いに
許さない。認めない。認めてなるものか。たとえ、この戦いが俺の自己満足の賜物であったとしても―――こんな結末は絶対に。
「……ありがとう、みんな」
彼の名は「藤丸立香」。
人類最後のマスターにして、未来を救えなかった罪人。
そして、失ったあの頃を取り戻すべく足掻く―――
―――人理は守れなかった。―――未来も救えなかった。
―――だが、魔術王。お前に
―――後悔するがいい。人類最後のマスターを殺しきれなかったことを。
「―――じゃあ、行こうか」
最後の、聖杯探索(グランドオーダー)に。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
人理定礎値 --
第X特異点:“最後の守護者” AD.XXXX 人理崩壊世界・カルデア
こんな小説誰か書いてくれないかなー(チラッ
というわけで、ごめんなさい。これ以上書く予定はありません。
正確には、「幕中の物語」として書きたい部分だけ書いた話を投稿予定ですが、それ以上は基本ないです。ホントごめんなさい。
それではあらためて。
こんにちは。最近FGOの沼にどっぷりつかってる作者です。
この作品は、FGOの息抜きに思いついた設定に、少しだけ神座万象シリーズを混ぜた作品となってました。嘘です、ホントはけっこうパクりました。
詳しい方はお気づきだと思いますが、マスターとサーヴァントはまんまKKKの夜都賀波岐がモデルになってます。
ですから、それっぽいセリフを言ってた人もいます。ジェロニモとかジェロニモとか「だっておらは人間だから」さん、とか。
まぁ、皆さん聞き流してらっしゃると思うんですけど……。
さて、最後に。
登場サーヴァントの選出は、まぁ、FGOやってる人ならお気づきだと思います。
実際、書いてみたら結構バランスよかったのでおすすめですよ。え?一人足りない?
シリアスがシリアスじゃなくなるから外しました!
それでは!
「あれれー?第七章で大活躍だった冬木の美人教師のことを忘れてないかにゃー?」
SSF!