博麗少年、魔法科高校に落つ 作:エキシャ
上のタイトルは仮題です
誤字脱字はどうしてもなくならないなぁ
これは高校生活三日目の話だ。
夢路は昨日と同じく開門と同時に学校へと入っていた。しかし、昨日と同じなのはここまでで、ここからは少し異なる。
夢路はポケットから新品ぴかぴかの携帯端末形態のCADを取り出す。これは昨日、八雲紫という不審人物(?)から入学祝いとして贈られたものだ。そして新品ぴかぴかというのはそのままの意味で、中身はまだ空っぽ。起動式は一つとして入っていない。
そんなCADとして機能するはずがないものを、夢路は
(確か事務室は……)
記憶と直感を頼りに足を動かせば、最短距離でもって事務室にたどり着いた。そして夢路はそこで簡単な手続きをして、預ける必要性を感じないCADを預けた。下校時に返却されることになっているが、それをすっかり忘れていたのは余談だ。
そのあとの夢路は校内をうろうろと歩き回っていた。教室に直行しなかったのは、昨日のうちに、この時間帯に一年生は基本的に登校しないという情報を得ていたからだ。別に夢路は学習しないというわけではない。
校舎の窓から校庭を眺めれば、朝練だろうか、動きやすい格好をした生徒が走ったり、準備運動をする姿が見える。
(アレは上級生……かな?)
確証はないがそう思った。別に何かを推理してその結論に至ったわけではないが、感覚的にそう思っただけだ。
そして彼らが上級生だと仮定した夢路は興味をなくしたようにまた歩みを進めた。
階段をいくつか上り下りし、様々な場所をめぐるが一年生には依然として出会うことはない。出会うのは教職員や何かしらの用事がある上級生だけだ。夢路が求める同学年の生徒は見当たらない。
……実際、夢路はあまり真面目に探す気はない。今も景色のどこにも焦点を定めない瞳で、ただ歩き回っていただけだった。
どうせあと少し時間が経てば、夢路が求める人たちは教室に集まる。つまり、夢路が早起きする必要も開門前に学校に到着する必要もそれほどない。それでもそんな行動をしているのは、家の中だと本当に何もやることがなくて消えてしまいそうだったからだ。
そして周囲に注意を払っていない夢路は同じ一年生とすれ違いながらも、当然のように何もアクションは起こさなかった。
そして早起きの弊害か、頭の片隅にあった眠気がぼうっとしていたせいで大きくなっていた。ここまでくると、ここで同じ一年生を見つけたとしても、友達になるために話しかける、なんて行動は面倒くさくなって起こさなかっただろう。
だから、声をかけてきたのは向こうからだった。
夢路がある曲がり角を曲がろうとしたところで、進行方向から何かが飛び出してきた。赤い影が突っ込んでくる。それを無意識下で気づいていた夢路だったが、それに対して行動を起こすことはなかった。それは反射的な行動も例外ではない。
この程度の害は、夢路の意識領域に達する前に、
夢路は目の前に障害物が発生したのにもかかわらず、そのまま歩き続けた。
そして曲がり角から飛び出した赤い影は──夢路に触れることなく横にそれた。
そいつは強制的にそらされた進行方向に身体がついていかず、足をもつれさせて転んだ。
「〜〜ッたーい!」
声をあげて痛みをこらえるのは鮮やかな赤い髪をした少女だ。夢路が求めていた同じ一年生だ。
しかし、思考を眠気に明け渡した夢路がそれに気づくことはなかった。いや、無意識のうちには気づいているかもしれないが、実際にアクションに移すことはなかった。
そのまま歩き去る夢路。
そして少女はそれを許さなかった。
「待て、待て、待てーい!」
立ち上がり、大きな声で制止を促す少女。しかし、夢路はそれを無視した。
そしてそれを納得しない少女は夢路の進行方向に回り込んだ。
「待っちなさい!」
その言葉に夢路はようやく目の前の少女に焦点を合わせた。少女は腰に手を当て、頬を膨らませている。いかにも私怒ってますなポーズだが、そこまでの怒気は見られない。
「あなたには言いたいことがあります!」
ビシッと夢路を人差し指で指差す少女。その様子に首を傾げる。
そして彼女が何を言いたいのだろうかと考える前に、彼女が誰なのかを考えていた。
(同じ一年生……だよね。でも、ボクのクラスに彼女のような人はいなかったから、他のクラスだろうか)
そんなことを思いながら、同じ一年生なら友達にならなきゃいけないなぁと呑気な結論に行き着いた。
そして夢路は少女の名前を聞こうとして、その前に少女が口を開いた。
「あそこは優しく受け止めるところでしょうが!」
出鼻をくじかれた夢路だが、さて彼女はいったい何を言っているのか、そんな疑問が浮かんだ。彼女が何についてのことを言っているのか、いつのことについて言っているのか、それが夢路にはわからなかった。
そしてそれはある意味では仕方がないことだった。先ほどの一連のことは夢路の無意識で全て処理されたことなので、夢路の意識に上ってきていないのだ。
しかし、それは確かに『見た』ことではあるのだ。記憶は確実に存在する。ただその記憶は一切の感情が伴わない、無機質な記憶だが。
そして夢路は感情という色のない先ほどの光景を
そもそも夢路の主観では『彼女の方が夢路をかわした』ことになっている。だから言いがかりにしか聞こえないわけだが、別に夢路は気にしなかった。ゆえに反論もしない。
というか、受け止める云々は彼女の願望だろうが。
そんなことを知るよしもない夢路は軽い口を開いた。
「次からそうするよ」
まあ、次も同じようになるだろうが。
夢路の言葉を聞いた少女は満足したのか、にこっとした笑みを浮かべた。
「私は明智英美。エイミィって呼んでね。そっちは?」
少女改めエイミィからの言葉に夢路はどういう流れでそうなったかはわからなかったが、図らずも自己紹介の機会が訪れた。
夢路はこのチャンスを逃さなかった。
「ボクは博麗夢路。どうぞよろしく、エイミィ」
「うん! 博麗くんね。こっちこそよろしく!」
元気に返答してくれたエイミィは夢路に手を差し伸べた。さすがの夢路でもこれが握手を求めているものだと理解した。
夢路は笑顔を作って、エイミィと握手をした。
(おや? これはもしかして友達になった、ということなのかな?)
そこは夢路がどのラインを友達とするかに影響するが、見ず知らずの他人よりは親しくなったのは確かだろう。しかし、まだ友達特有のしがらみを感じていないのも確かだ。まだ夢路はこの関係を壊したくないとは思っていない。
握手を解いた夢路とエイミィ。先に口を開いたのはエイミィだった。
「そうだ博麗くん。明日から新入部員勧誘週間でしょ。もう入る部活とか決まってるの?」
「新入部員勧誘週間……?」
夢路はエイミィの問いには答えず、知らない単語に反応した。エイミィはそれに嫌な顔はせずに、快く説明する。
「新入部員勧誘週間っていうのは、上級生が私たち新入生に部活動を紹介して勧誘する一週間のことだよ」
「へぇ、そんなものがあるんだ」
「そうそう! それで博麗くんは入りたい部活とかあるの? 私は狩猟部に入るつもり」
部活動……と、そう聞かれて夢路は考える。
(中学のときは部活入らなかったんだっけ)
あの時期というか、入学以前の夢路は他者と積極的に関わってこなかった。正確には関わる必要性を感じていなかった。だから、部活動なんて、頭の中に面倒だなという気持ちがよぎった時点で関わるのをやめていた。
そして高校に入学した今。消えた祖父と消えかけている叔母を見て、潜在的な恐怖が生まれた夢路は積極的(?)に他人と関わろうとしている。
なら、今は部活に入るべきなのか。
そうして夢路の口からこぼれた言葉はひどく曖昧なものだった。
「わからない」
本当にわからなかったゆえの言葉。エイミィに所属したい部活を誤魔化すために放った言葉ではなく、隠そうとする意図をもって放った言葉でもない。ただ純粋に曖昧な自分の気持ちを吐露した言葉だ。
それに気づいたからこそ、エイミィは茶化すような真似はしなかった。
「そっかぁ。じゃあ狩猟部はどう? 私もいるし!」
エイミィがいることが何を意味するんだ? そんな疑問が浮かんだが、それは口から出ることはなかった。
「そうだね。その勧誘週間のときに見て決めることにするよ」
「うーん、そう? でも、だったら狩猟部にも来てよね!」
明るい笑顔に、夢路は軽く頷いた。
その日の邂逅はたわいもない会話のあと、授業前のチャイムにより終わりを告げた。
今回はただ出会っただけ。
まだまだ友達というには薄い関係。
これがどう変わるかは、これからの出来事による。
九校戦の点数調整とスケジュール調整に手間取る
原作読み返しながら書いているので遅くなるかも?