fate/kaleid liner ~転生の士郎~   作:kimito19

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第二話 決意

俺たちは話しが終わると、この世界の衛宮家に向かうことにした。話しを聞くと、どうやらこの世界の衛宮家は前の世界の様な武家屋敷ではないらしい。

 

「ところで士郎、改めて思ったんだけど何で僕の事を「爺さん」って呼ぶのかな?別にいやって訳じゃあないんだけどさ…」

 

まあ、爺さんの疑問はもっとも言えばもっともだ。実際、俺も逆の立場だったら疑問に思うもんな~…

 

「俺の居た世界で、衛宮切継は若くして確か三十代で死んじまったんだが、俺はもうその頃から爺さんの事は爺さんって呼んでたんだ。その理由はズバリ、爺さんの目に余る自堕落な生活だ!俺に魔術をある程度教えて、俺があの時の事を夢に見なくなった、爺さんは家をよく空けるようになったけど、それまではほとんど縁側で茶を啜ってるか、散歩してるか近所の俺の面倒みてくれる女性に剣道の稽古相手になってたぐらいだし、食生活だって俺がちょっと目を離すと、すぐにハンバーガーやらコンビニ弁当とか身体に善くないものを食べてるし、どうせこっちの爺さんも家空けてるときは、そんな食生活なんじゃあないのか?いや、アイリスフィールさんがいるからそんな事はないのか?」

「ふふ、ありがとう士郎。僕の事を心配してくれて」

「べ、別に、あっちの世界の爺さんもこっちの世界の爺さんもそんなに大差ないし、両方とも俺の父親だよ。まあ、爺さん呼ばわりじゃあ可哀想だしこっちの爺さんは親父って呼んでやるよ」

 

切継は「ありがとう」と言うと俺の頭をくしゃくしゃの撫でた。そういえばあっちではこういうのはなかったような気がする…別に家族みたいなやり取りが無かったわけじゃあない、だけど今より爺さんとの間に何かしらの溝の様なものを俺は感じていた。それはきっと俺の一方的なものなんだろう…その溝というのは、血縁だとか絆だとかそういうのじゃあない。そう、俺にとって衛宮切継は憧れで目標だった、いつか爺さんみたいに爺さん以上な正義の味方になりたい、そういう思いからきっと彼の事を、雲の上の人物と勝手に思い込んでいたんだ。まあ、だから辛いだけの魔術の修行にも耐えられたのだろう……

俺と親父が男同士の話みたいな空気を出していると、後ろからギュッと誰かが両肩を掴んだ。その誰かとは確認するまでもなく、アイリスフィールさんだった。

 

「士郎、何で切継は"親父"なのに私は"アイリスフィール""さん"なのかしら?」

 

その顔は満面の笑みだった。もしかしたら、俺を助けたときの笑みより、こっちのほうが笑顔なのかもしれないと思ったほどだ。けれど、その笑顔に感じたのは憧れでもましてや楽しそうとか、思うようなタイプの笑顔ではなく、恐怖を感じるような瞳が全く笑っていないどころか、瞳から光が消えたかのような笑顔だった…怖いと言うのが今の率直な感想だ…

親父の方を向き、何とか助け船を求めようとするが、一向に目を合わせないどころか、小さく両手を真上に挙げるのだった。

 

「さあ士郎、私のことはアイリいいえお母さんいいえママと呼んで♪」

 

アイリスフィールさんの顔が俺にじりじりと近寄ってきた。その時のアイリスフィールさんの迫力は、黒くなったセイバーや桜、ギルガメッシュとの戦闘での迫力より何倍もの圧力を感じた。俺の生存本能が警鐘を鳴らした、こいつはやばい!このままではやばいと…俺も数多くの修羅場を潜ってきている自信はある、だがこれは今まで潜ったことのない修羅場だ、女性関係は良くも悪くもというか良くはないんだろうが問題になっていた(別世界の俺が…)けれどこれは…大人いいや母親という圧力なのだろうか?俺には母親がいなかった。いや、厳密には血縁の両親は居た。あの、災害で二人共死んでしまったらしい。俺には切嗣に出会うより前の記憶が無い、だから俺には切嗣(親父)以外の親を知らない覚えていない。特に母親を知らない、俺には姉の様な大人と妹の様な後輩が居た。そして、別の世界では義理の姉と俺は仲が良かった(と思われる)だが俺の家族には母親がいない。俺は母親を知らないのだ…この凄まじい圧力を知らないのだ……

俺は後退りをし切嗣の後ろに逃げてしまった。初めてだった、昔まだ切嗣から魔術を教わる前の事だいじめっ子の同級生や上級生に虐められていたこともあった。だが俺は逃げたことは無かった、そんな俺が逃げてしまったこれから一緒に家族として暮らしていこうと、言ってくれている人から逃げ出してしまった。後悔しかなかった、どうして逃げてしまったのだろう?少し笑顔が怖いと酷いことを思い、体が勝手に動いてしまった。そんなことは言い訳にもなりはしない、逃げた事実には変わりはないのだから…

だが、これで一つ思ったことがある。俺の身体()中身()の事だ。俺の魂、人格や性格は自分で言うのもなんだがすでに出来ている、完成していると思っている。だからいくら笑顔が怖いからと言って、逃げたい気持ちにはなったとしても、逃げることはなかっただろう。まあアーチャーの奴が遠坂を裏切ってキャスターと手を組んだ時は流石に撤退したが、要はよほどの状況(戦況)でない限り俺は逃げるという選択肢は取らない。ここで俺が獲た結論だが、俺の魂は幼児化とも言っていいこの身体に引っ張られているのではないかという事だ。そんな事はないと一瞬思いもしたが、だがそう考えると先ほどの自分でも説明のつかない行動にも説明がつく。

いや、それでも説明はついても言い訳には理由にはならないし、現実は変わりはしないのだ。俺がアイリスフィールさんから逃げてしまった現実は……

 

「まあまあアイリ、士郎は別の世界の僕と五年間親子として過ごしていたんだ。そして今この世界の僕と五年ぶりの再開を果たしたんだ。僕に懐いているのは仕方のないところはあるさ、そして士郎にとってアイリは残念ながら初対面だ。そんな風に顔を近づけるたら誰だって怖がるさ」

「……ハァ~、そうよねごめんね士郎私も焦っていたわ、私もこれ以上何も言わない私のことは士郎の呼びやすい様に呼んでくれたんでいいわ。でも、いつか私のことをお母さんって呼んでね」

 

アイリスフィールさんは、いいや母さん。ああ、まだ言葉を口にする勇気がない甲斐性ない(主に周りからは甲斐はないと良く言われるが…)だから今は…

 

「今はアイリさんで良いですか?」

「……!ええ、これからよろしくね士郎!」

 

俺たちはその後、家路を急いだ。親父と母さんの話によると、セラとリズそしてイリヤには今日中に家に帰ると伝えてあるらしい。今の時間は午後もう六時を過ぎている、母さんの話によるとイリヤは約束を守ると癇癪を起こすらしいイリヤの歳ははまだ一歳、もう立派な感情があるらしい。イリヤが怒らないうちに俺たちは家路を急ぐのだった。

 

~~~☆~~~☆~~~☆~~~

 

俺たちはとある家の前で足を止めた。そこの家の標札にはきちんと"衛宮"と書かれていた。そこは本当に普通だった、微塵も魔術や聖杯や裏社会だとかそんな非現実的なものが介入する余地の無い様な、唯々普通の一般家庭の家だ。俺たちは顔を見合わせて家の扉を開けた。するとそこには…

 

「あ、セラ奥さまが帰ってきたよ~」

「リーゼリット!またそうやってせんべいを食べて、いつもいつも言っていますが貴女にはアインツベルンに仕えるメイドとしての自覚が…」

 

セラとリズが母さんたちが帰ってくると、いきなり口喧嘩をしだした。格好もいつもの白を基調にしたあのメイド服を着ず、一般的な普通の服を着ていることに正直驚いている。そしてセラの腕の中には母さんを幼児かしたような赤ん坊、イリヤが抱かれていた。

イリヤは母さんと親父を見るとセラの腕から逃れるように降りると、母さんに近づく為にゆっくりと歩いてきた。母さんたちと触れ合っている時は笑っていたが、俺の存在に気付くと泣きそうな顔をし母さんの陰に隠れた。

 

「イリヤ、彼はね今日から私たちの家族になるの。彼は貴女のお兄ちゃんよ」

「お、にい、ちゃ、ん?」

 

イリヤが言葉を発した事に驚きはしたが、意味は分かっていなかったようだ。それはそうだまだ彼女は一歳児だ、喋れるだけで充分すごい時期だ。俺は満面の笑みで彼女に向き合うことにした。

 

「初めましてイリヤ、俺は士郎。これから君のお兄ちゃんになるんだよろしくな」

 

守らなくては、俺は正義の味方になるんだ。だったら何があっても家族を守れるくらい強くならなければ!

 

sid切嗣

 

僕らは士郎を我が家に連れていき、イリヤに士郎のことを紹介した。少し不安なところはあったけど士郎は別世界でイリヤとはそこまで接点が無さそう、というか聖杯戦争のせいで殺されかかったのか…だというのにとても明るく、初日からお兄ちゃんとしてイリヤの相手をしてくれているようだ。説明はしたけどもちろんイリヤにはまだ士郎の存在が居る理由とかをまだ分かってはいない様だ、いつかイリヤが大きくなったら改めて説明することにしよう…士郎について一つ気になることがあった、それはとてもそわそわしているという事だ。何処か手持ち無沙汰で落ち着かないと言った様子だ。けれど、イリヤの相手もするから何かをやりたくても出来ないといった感じだろうか?だが、セラはとても楽になっているようだ。僕たちはイリヤを産んでからも世界を渡り歩いてきた、だがイリヤと一緒に行動していては僕たちの行動範囲も縮小されイリヤにも被害が出てしまう。その為に僕たちはこの冬木市に家を買いセラやリーゼリットにイリヤを任せたのだ、どうしてかアイリには良く懐いているのだが僕には懐いてくれない、というより怖がって近寄ってもらえない…こんな仕事をしているからかなとイリヤに怖がられるたびに思う僕なのだった…

その後、士郎とイリヤを寝かしつけた僕たちはセラ、リーゼリットを含めて晩酌と言うには少々重い空気の報告会を開いた。僕は日本酒、アイリとセラはワイン、リーゼリットはウイスキーを飲むことにした。今回の久しぶりの晩酌のお題はもちろん士郎の事についてだ。僕たちはセラとリーゼリットに士郎から聞いたことを二人に話した。

 

「と、まあこんな感じなんだ」

「別の世界の転生…の様な事象でこの世界にやって来て、前の世界では旦那様の息子さんで聖杯戦争の勝利者で聖杯の力で様々な記憶まであるですか?」

「士郎、すごい子?」

「そうね、聖杯戦争を勝ち残るだけでもすごいのに、サーヴァントと肉弾戦をしていたっていうのだから信じられないわよね」

「それで、私たちは、どうすればいい?」

「ああ、君たちにはいつも通りに士郎とイリヤに接してもらいたい。僕たちも一週間はこっちにいられるだろうけど、それ以上はどうしても…」

「かしこまりました」

「分かった」

「リーゼリット、何ですかその返事と態度は!いつもいつも言っていますが、貴女にはアインツベルンに仕えるメイドとしての自覚が無いのですか!クドクドクドクド

「また、セラの説教が始まった。セラは、そんなに説教が、好きなの?」

「なっ、貴女がそれを言いますか!貴女はいつもいつも…」

 

これが僕の平和な日常だ。守ろう、世界から戦争や争いをなくすことが出来ないのなら、せめてこの平和な家庭だけは守っていこう。そして士郎、彼にはもう僕と同じ道をたどってほしくない。なぜ彼はこんな僕に憧れたのだろうか、僕は決して善人ではないただの人殺しだ。医者なんかは助けてもらいそれに感謝し憧れる、警察官はその正義感に憧れその道を目指すなんて話を聞いたことがある。だが、僕は違うそんな御大層な正義感はないし感謝されるいわれもない。なぜなら今までも何万人を救うために何百人には犠牲になってもらった、そう僕が助けたかったのは犠牲になった何百人のほうだ。僕にはその人たちを救う力が無かった、士郎も未来の守護者となった士郎も同じことで苦しんだらしい。きっと今の士郎も僕と同じ道を歩めば悩み苦しむことだろう。だが、士郎はあの時後悔だけはしていないとはっきりと言った。驚いた、士郎はもうそこまでたどり着けたのか僕にはきっと無理だ僕はそこまで強くない、士郎はもうとっくに僕を超えているのだろう本当にすごいよ。僕は誰も救うことは出来ないだからせめて家族と日常を守ろう、それが僕にできる精一杯の正義なのだから……




やあやあ、読者諸君お久しぶり♪え?僕が誰かだって?そんなの決まっているじゃないか、僕だよ聖杯くんだよ。以前に僕を書いてほしいとお願いがあってね、作者がこの後書きと次回予告を任せてくれたわけさ♪
それじゃあ今回の話では士郎君がイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと出会った話と決意、そして今回初の衛宮切嗣君の心情を書いた物語だったね。
まあ、僕に言わせればどんな事を言っても愚かとしか言いようがないけどね、クスクス♪
それじゃあ次回「開始」題名は変わるから気をつけてね♪

お気に入り登録、感想、評価等々よろしくね。
次回も読んでくれないと君の街を焼き尽くしちゃうかもよ、フゥフゥフ!

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