GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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#007 第一神喰

「お前さん……ゴッドイーターか?」

 

 リンドウの声は、驚愕に満ちていた。

 人型の声を聞いてすぐさま、撤退しようとした。彼にはその声がヴァジュラの咆哮よりも恐ろしいものと感じられたがため。故に一目散に逃げようとした。並外れた脚力に加え、牽制も兼ねた神機のインパルスエッジを推進剤代わりに、一気に加速する。彼我の距離は十分にあったはずなのだ。だがリンドウが動き出した次の瞬間には、その人型は彼の目の前にいた。それほど機敏に動ける人型の生物など、ゴッドイーターの他にはいない……はずである。

 肩を掴まれ、瞬時に身動きがとれなくなる。なんだ。コレハナンダ。

 

 だが、その人型は首を傾げると、一言「ゴッドイーター?」と返す。

 まさかゴッドイーターを知らない? そんなことが、あるのだろうか。防壁外の集落で暮らしているとしても、フェンリルの支援を受けずにいることはほぼ不可能のはず。そしてフェンリルの支援を受けるためには、ゴッドイーター適性の簡易検査を受けなければならない。それを知らないということは、やはりこいつは……

 

 

*   *   *

 

 

 人間を相手にするのも久しぶりだと、シンは思考の海へと潜る。目の前にいるリンドウのことを、スッカリ忘れて。

 考えをまとめよう。考えなしに動いてトラブルが増えるのは、もう沢山だ。そもそもゴッドイーターってなんだ?

 

(ゴッドイーター……神を食う者? 種族か何かだろうか。俺がそうかと言われれば、まあ、そう言えなくもないが)

 

 シンの独り言が、流石にこの至近距離でリンドウに聞こえないということはない。彼は気になったことを尋ねる。

 

「そう言えなくもない、とは?」

 

(前のボルテクス界では、確かに喰っていたが。そうしなければ、あのハゲ頭を殴り倒せなかったし)

 

 前に居たボルテクス界で、シンはたくさんの神と呼ばれた悪魔たちを仲魔にした。だがそれ以上に屠ってきたのだ。悪魔(カミ)を屠り、悪魔(カミ)(マガツヒ)を喰って力を蓄え、そしてあの()()()を殴り倒したのである。人に生まれて人に非ず、悪魔に生まれて悪魔に非ず。人修羅(ヒトシュラ)などと呼ばれたりもしたが、ゴッドイーターという呼び方は初めてだった。

 

「その、()()()()()()()とかハゲ頭とかはよく分からんが、大変だったんだな」

 

 まったくだと、シンはひとりごちる。

 

(自分はただの学生だったのに、なんであの人は自分にこんな役割を割り振ったのか。いや、それを言うなら金髪の子供とあの婆さんの方かもしれない。おかしな虫を無理やり食わされ、こんな姿に改造されて)

 

「改造……まさか人体実験?」

 

(人体実験というか……あれ、結局なんだったんだろうな?)

 

 マガタマを呑み込ませた金髪の子供。いやまあ実際はそんな可愛らしいもんじゃあ無かったわけだが。なんにせよ、あいつらが興味半分だったことには違いない。なにしろ相手は生粋の悪魔である。元とはいえ人間であるシンが、その本心を理解することなどできやしまい。

 だが、あの時ああされていなければ死んでいたのは確かなのだ。マガタマが適合して力を得たのは偶然に過ぎなかったらしいのだが。

 

(ま、感謝することも無いだろうが、今さら恨んでもいない)

 

「そうか。まあ、お前さんが納得しているなら、それでいいんだ。ところでお前さん、名前は?」

 

(名前……)

 

 名前を尋ねられて、ようやくシンはリンドウの存在を思い出した。

 

 そうだ、初対面なのだから、自己紹介をしないといけない。

 本当に人間界のことを忘れているな、とシンは一人小さく笑った。

 

「シン。間薙シンだ。今後ともヨロシク」

「お、笑ったな。俺は雨宮リンドウ。よろしくな、シン」

 

 互いにどこかすれ違いを感じながら、和やかに会話が行われる。

 リンドウは単独行動に飽いていた。

 シンはこの世界の知識に飢えていた。

 結果、互いに理想的な話し相手を得たのであった。

 

 

*   *   *

 

 

「すまんが仕事が終わってない。話したいことも色々あるし、ちょいと付き合っちゃくれないか」

 

 そんな風にリンドウが誘えば、シンは特に躊躇することもなく承諾する。どうせ他にやることが有るわけでなし、リンドウには色々と聞きたいことも有る。渡りに船というやつだ。

 

「構わないが、色々と教えてもらえるか」

「教える?」

「ゴッドイーターとか、このあたりのこととか」

 

 シンは自分の事情をどう説明したものか、まったく思いつかなかった。だから人間だった頃に読んだ小説だか何だかの設定を借りようとしたのだが、その記憶も漠然としたものしか残ってはいない。結果、出たのが――

 

「まあ、あれだ。流れ着いたとか、記憶喪失とか、そういうやつだ」

 

――であった。

 これでは「なんだそりゃ」と返したリンドウの方が正常であろう。

 

「あの……ほら、あれだ。貴種流離譚(むかしばなし)とか。どこからともなく現れた英雄とかが、怪物退治して村を救ったり」

「英雄なのか?」

「自分で名乗るもんじゃないだろう、そういうのは」

「村を救ってくれるのか?」

「いや、わからん」

「お前ね」

 

 流石にリンドウも呆れてしまった。

 だがシンにも言い分はある。

 

「そもそも何を忘れているのか、何を覚えているのか、そういう判断材料自体が無くてな。だから話を聞いていれば、何か思い出せるかもしれんと思ったんだが」

「ああ」

 

 そういうものかと、どこか釈然としないものを感じながら、リンドウは納得することにした。

 後日、この時の判断について聞かれたリンドウは、得体のしれないところはあるが、悪党には見えなかったからだと笑って答えたという。

 




書き溜めた分が尽きたので、以降は不定期更新となります。

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