GOD EATER Reincarnation 作:人ちゅら
泳ぐ、という経験も随分と久しぶりだ。シンは生前、友人らと連れ立って市民プールで泳いだ記憶を思い出す。彼は一人で黙々と泳ぎまくるのが好きだった。あの日一緒に行った幼なじみの少女は、やたらとフリルのついた、観賞用水着を着けていた。泳ぎにくくはないかと尋ねたらひどく機嫌を損ねたものだった。
ぺたり。水をかき分け、ようやく水たまりの
結局なんだったんだ、いったい?
何故自分が泳ぐことになったのか。そういえば自分を突き落としたはずの犯人はどこにいるのだろうか。
辺りを見回すと、ようよう体組織の崩壊が始まっていた、カラフルで巨大なゴリラが目についた。あれかな?
だとするとあれをあんな有様にした奴がいるはずだ。軽く首を振って周囲に意識を巡らせる。
瓦礫の影に、なにかが潜んでいる。敵対的ではないが、警戒しているようではある。オウガテイルあたりにはそんな知能も無かったようだが、もっと知的な存在だろうか?
誰か居るのか?
* * *
(……人間!? まさか……)
リンドウは目の前の光景を、信じられずにいた。
アナグラの壁の外も外、この辺りには、もはや集落すら残ってはいないはずだ。この辺りに人間がいるとすれば、それは自分のようなゴッドイーターの他にはありえない。だが水中から現れた人影には、神機らしきものは見当たらなかった。それどころかゴッドイーターの証である大きな腕輪すら見られない。
ならば彼は、ゴッドイーターではない。
ゴッドイーターではないが、しかし一見するとアラガミとも思えない。とはいえ人間とも言い切れない、それはなんとも判断に困る存在だった。体表面に見られる模様は、どこか鉄板のようなブレイド型神機を思わせる。
「誰か居るのか?」
その人型の生物は、頭部を巡らせて辺りを見回しているようだった。と思えば次の瞬間には言葉を発していた。ありえない。
リンドウは手元の神機を、それからベルトポーチの武装を確認する。スタングレネード、ホールドトラップ、回復錠・改、まだ十分な数が残っていた。
逃げられるかなと考える。意味のある言葉を発していたことから、知能は有ると考えたほうが良い。敵対的なニュアンスは感じられなかったが、それは擬態かもしれない。アラガミと考えるなら異常に細身の個体ということになるが、その分、素早そうでは有る。逃がしてくれるかどうかは分からない。だが擬態ではない可能性はどうだろうか。そもそも人間を罠にかけようとするようなアラガミがいるのか。彼らは非常に貪欲な捕食者ではあるが、意思らしきものといえば怒りくらいだ。それすらも実際には生存のための威嚇や、防衛本能に根ざした攻撃性に過ぎないだろう、というのがあの
アラガミとも
いくらか下がって距離を取ろう。その上で正面から極力友好的な態度で挨拶をする。少しでも動きがあったら先ほど仕掛けたホールドトラップへ誘導しながら建物の影に駆け込んでやり過ごす。その後は隙を見て長距離移動用のジープまで走って、一気に離脱しよう。
覚悟は決まった。
* * *
その頃、シンは興味深いものを見つけていた。
白く細長い紙と、茶色い木くずのようなもの。
それはタバコの吸殻だった。
……人間がいるのか?
ここは
これは気を引き締めなければならない。ここがボルテクス界であり、そこに人間が居るのであれば、それは高確率でコトワリを拓く者であるはずだ――シンにとって人間とはそういうものだった。
かつて出遭った彼らに思いを馳せ、これから出会う彼らを想像する。そして憂鬱になった。彼らはそのコトワリを信じる強い意思のためか、相手の話を聞こうとしないことが非常に多かったのだから。またあの
せめて必要な情報を得るまでは、友好的に話し合いをしなければなるまい。それには第一印象が大事だ。相手が何者かもわからないし、下手なテクニックは逆効果になるかもしれない。まずは相手の様子を見る必要がある、か。
「こちらに敵対の意思はない。だが危険は積極的に排除するつもりだ。おとなしく出てくれば良し、さもなくば攻撃する」
こんなところだろうか?
――短くも濃密な生存闘争の日々は、彼から「人との付き合い方」というものを消し去って余りあるものだったらしい。