GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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#005 遭遇

「この辺りだと思うんだが……」

 

 フェンリル極東支部ゴッドイーター第一部隊隊員・雨宮リンドウは、到着するはずだった輸送機の航路をたどっていた。墜落直前の交信波を、運よく受信できていたためだ。

 

 平原を進むリンドウ。この辺りにはグボロ・グボロが出現するという報告があった。だがグボロ・グボロの高圧水砲に、輸送機を撃墜できるほどの射程はない。ハズレか?

 

 ブシュ、とビール缶を開けた時のような音が聞こえる。缶ビール飲みてぇなあと、自室の冷蔵庫と、それからもう一つ別の冷蔵庫を思い出すリンドウ。自室の方にはもう残っていないが、あいつの分はまだ有ったはず。よし、帰ったら上手いことねだろう、などと益体もないことを考える。文明崩壊前ならそこらの自販機にワンコインで買えた缶ビールも、今では月イチの配給品をやりくりしなければならない高級品なのだ。

 

 ところでさっきの物音は何か。缶ビールであるわけがない。第一それならもっと手近なところでなければ聞こえやしない。無意識の願望が作り出した幻聴か? それも違う。

 

 答えは最初から分かっていた。これは圧搾空気砲の音。両肩にバズーカ砲のような砲身を備えた、ゴリラのような中型アラガミ・コンゴウ種の攻撃手段の一つだ。

 

「退屈ってのはいかんなァ」

 

 下らないことをしている自覚はあるのか、頭をボリボリと乱暴に掻いてから神経を集中する。どんなに小さな異音も決して聞き逃さない。それは彼が単独での作戦行動から生存するために磨き上げた能力(スキル)の一つだ。

 

 遠くでバシャンと水音がした。何かが落ちたか、飛び跳ねたか。グボロ・グボロだろうか? 続いて巨体が飛び跳ね、ドスンドスンと大地を揺らす音。これはコンゴウのものだろう。

 

 なんにせよリンドウには手頃なアラガミだった。二体同時でも手間取るようなことはない。だが輸送機の墜落現場は、ここからさほど離れてはいないと思う。もしも生存者がいるなら、周辺のアラガミは減らしておいたほうが良いだろう。捜索にかかる時間よりも、中型二匹を片付けるほうが早い。

 

 よし、そうしよう。

 

 

*   *   *

 

 

 だが、そこには湖を覗き込むコンゴウが一体いるだけだった。グボロ・グボロが湖へ逃げたのだろうか?

 

 どちらにせよ、単騎でいる今が狙いどきだろう。さっさと片付けることにする。

 

 フッと息を吐いて大地を蹴ると、リンドウは三段跳びの要領で、一歩、二歩と飛びかかるようにコンゴウの背後に移動する。そして肩担ぎに構えた鉄塊のような神機を、勢いそのままにコンゴウの尾に振り下ろした。硬い表皮を深く切り裂いた一撃に、瞬間、真紅の光が弾ける。痛みに気付いたコンゴウが振り返るよりも早く、跳ね上がった尾に横薙ぎの一撃。振り向くコンゴウの背に遠ざかる尾を追うように、跳躍して三撃目。再び真紅の光を弾けさせたその斬撃は、コンゴウの房毛に覆われた尾の先端を切り落とした。大きな怒声を上げるコンゴウ。

 

 巨猿(コンゴウ)は体をこわばらせて憤りを露わにすると、飛び跳ねざまに体を大きくひねって振り返る。まるで新体操のようだ。

 

 コンゴウは素早くリンドウに照準を合わせ、肩の砲塔から圧搾空気弾を射出する。

 

 強烈な空気砲は、しかし瓦礫の山を弾き飛ばしただけであった。

 

 

*   *   *

 

 

「よっと」

 

 ガシャンと金属のこすれ合う音を立てて、神機は再びリンドウの肩へと担がれた。

 

 その大ぶりな様からは想像もできないほど、ゴッドイーターにとって神機は軽いものだ。それは自分の血肉に、言うなればちょっと腕が伸びている程度の感覚にすぎない。もちろんよほど酷使すれば重く感じることはあるが、少なくともリンドウという男にとって、それほどの敵と相まみえたことは数えるほどしかなかった。

 ただ長いから歩くときに邪魔になるのが玉に瑕だよな、とひとりごちる。

 

 

 ――あの後、コンゴウはあっけなく顔面をかち割られ、コアを抜き取られて崩壊した。

 

 

 中型以上のアラガミは、コアが抜き取られた後も体組織の崩壊までそれなりの時間を要する。リンドウは一休みとばかりにコンゴウの遺骸に腰掛け、胸ポケットから取り出したタバコで一服していた。

 

 コンゴウが何を見ていたのか、気になったからだ。

 

 大きな池のような水たまりに目を向ける。きらめく水面に、ぼうっとするリンドウ。アナグラに居たのでは決して見られない光景だ。ビールの代金にならんもんかな、などと益体のないことを考える。あいつはこういうの、意外と好きなんじゃないかね。

 

 ふと、きらめく水面に小さな異変を見つけた。気泡が弾けている。水中に揺れる影も見えた。サイゴードよりも小さい気がするが、アラガミだろうか。ちと気を抜きすぎたかもしれない。腰掛けていたコンゴウから降りると、捨てたタバコを踏み消した。

 

 ゆっくりと浮上してくる影。急に飛びかかってくる可能性を考え、距離をとって物陰に隠れる。その際、ホールドトラップを仕掛けていくのを忘れずに。さて、どんな野郎だか。

 

 だが次の瞬間、彼は唖然とすることとなる。水から上がってきた影は、人型のなりをしていたからだ。

 

 よっこいしょ。




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(20181028)修正
 隊長 → 隊員

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