GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

47 / 48
大変お待たせしました。


#046 新型

 シンの予想に反し、サカキはしばらく動きを見せなかった。

 

 (シン)が持ち込んだ場違いな小道具(アイテム)から採取できたデータについて語ったときだけは、以前のようなハイテンションを見せたものの、普段はシンに対して何のモーションも起こすことは無かった。

 新型神機開発の際も、ただ粛々とデータを取って一人ブツクサ呟きながら何かを模索するばかりで、シンは正直なところ、少し拍子抜けに感じていた。

 ただ、その沈黙ぶりには仇敵・氷川総司令を思い出させられ、嫌な予感を拭うこともできなかったのだが。

 

 

 その間もシンは第一部隊の随員として、神機(ぶき)も持たず現場に同行していた。

 シンの持ち込んだ品々とシン自身の能力(まほう)、そして新型偏食因子に関する報告を受けたシックザールは、実戦データを取るべくシンの第一部隊所属を正式に決定。そして彼に第一部隊の作戦行動中に限定された、都市圏外での自由行動権を与えたためだ。

 

 第一部隊の隊長である雨宮ツバキは決して(シン)を戦闘に参加させようとはしなかったし、シンも積極的に戦線参加を希望することはなかった。

 ただし戦闘中、ゴッドイーターが重症を負い行動不能に陥る都度、駆けつけてはアラガミの攻撃を弾き、負傷者に応急処置(【ディア】)を施す突撃衛生兵の真似事をすることを、敢えて禁止することもなかった。

 

 結果として、第一部隊の作戦遂行能力は目に見えて向上した。

 なにしろヴァジュラやボルグ・カムランといった大型種を相手にしても、常に自分の足で帰還するのは彼らだけなのだ。他の部隊であれば、出動したゴッドイーターの約半数は荷物扱いで装甲車に積まれ、ストレッチャーに乗せられアナグラに搬送される。それも場合によっては他部隊の救援を受けて、だ。

 第二部隊以下ほぼすべての実働部隊がシンの転属を希望し、シックザールに毎日届けられる陳情書が「定期便」と呼ばれるようになったのも仕方がないことだろう。

 

 更には新型偏食因子の移植を希望するゴッドイーターまで現れるようになった。

 

 シンという個人を取り合いになれば、たとえばアナグラの防衛を主要任務とする防衛班などは不利になる。

 防衛班はひっきりなしに出動しているものの、その大半は安全確認のための都市内パトロールであって、攻撃班のように負傷する危険は少ない。

 無論、シンを防衛班へ転属させてほしい旨の陳情書は出しているものの、その希望が通ることはまず無いだろう。だから次善の手段として()()()()()()()()()()()()()()()()()()を隊内に抱える手段を講じたわけだ。

 

 

「もはや手段を選んでいられる状況ではない、か……」

 

 

 主導したのはシックザールだった。

 アナグラの所長として、人類防衛の最前線にある者として、彼は戦力の更なる強化の一手を打った。

 

 科学者としての慎重さと、指揮官としての果断さを持って行われたのは、まず都市に暮らす一般市民への新型偏食因子パッチテスト。

 旧型には不適合だった人間でも、もしかしたら新型には適合するかもしれないという希望。そして既にゴッドイーターとなった者が、新型の移植によって使い物にならなくなっては困るという現実的な事情。

 

 だがこれは、あまりうまくはいかなかった。

 新型とされる偏食因子も、元は旧型の変異したものだ。アナグラ地上部のネストで行った検査でどうにか合格判定が出たのは、わずかに三名。それも旧型のパッチテストで適合率が規定以下ギリギリだった者ばかりだ。彼らは家族の生活保障と引き換えに、ゴッドイーターになることを承知した。

 

 適合者三名という成果は、数字としては大きなものではない。だが今後を考えれば、決して悪いものでもなかった。それは逆説的に、既にゴッドイーターとなった者たちならば、適合する可能性が高いということでもあるのだから。

 

 

*   *   *

 

 

「この四名に君の代役が務まるよう、訓練してほしい」

 

 

 フェンリル極東支部──通称アナグラ──支部長室。

 正面の壁には大きな世界地図。書類仕事が紙で行われていた頃の名残である、巨大なデスク。観葉植物に、間接照明。サイドデッキには様々な文物、あるいは芸術品と言える陶磁器など。華美というほどでもなく、さりとて物寂しい風情でもない。この荒れ果てた世界において文明の香りを残した、数少ない空間の一つであろう。

 

 作戦からの帰還後、その部屋へと呼び出したシンに、支部長ヨハネス・フォン・シックザールはそう切り出した。

 手渡された書類にあるのは、四名の新米ゴッドイーターの個人情報(プロファイル)。うち一名は、時折話に上がっていたエリック・デア=フォーゲルヴァイデ。暴走した研究員に騙されるように新型偏食因子を移植された少年であった。

 

 

「代わり……?」

 

 

 人修羅(シン)代役(かわり)が務まるようにとは、とんでもない注文である。その希望を十全に満たすには、ボルテクス界の地獄を徹頭徹尾、体験させるしかあるまい。

 とはいえ、彼はシンの身体能力については分かっていても、人修羅というものを理解してはいない。シンも全力を出しているわけもなく、今更あれこれ説明するつもりもなかった。

 

 ただ、確認は必要だった。

 求めている内容や程度によって、その難易度は大きく変わる。単騎で大型アラガミを瞬殺する戦闘力を求められれば、地獄の特訓をしてなお成功率は限りなく少ないが、たまに試作中の神機のテスターを務めるくらいならば、一日二日で終わることだ。

 さて、とシンが身構えたところで、シックザールは小さく苦笑いを浮かべて首を振った。

 

 

「もちろん君の戦闘力を求めてのことじゃない。第一部隊でやっている、君の立ち回りだ──ああ、君が戦闘に直接参加していないことは承知している。ツバキ君からの報告では、確か……突撃(アサルト)衛生兵(メディック)、だったか」

「回復魔法を教えるだけなら、おそらく可能だ。だがアラガミ相手の立ち回りは、他の熟練者(ベテラン)に任せた方が確実だろう。彼らの肉体(からだ)()()は、他のゴッドイーターと変わらないはずだ」

「分かった。ならひとまずは負傷回復だけでいい」

「それなら」

 

 

 シンが承諾したことで、シックザールのゴッドイーター強化計画が始動する。

 

 それがこの滅びかけた世界にどのような意味を持つのか。

 その行く末は、はたして……

 




7日に公開されるよう予約投稿したつもりが、途中保存で放ったらかしになっていました。
スミマセン。


まずはシックザールが動き出しました。
次回から数話は、彼ら「新型」のエピソードになる予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。