GOD EATER Reincarnation 作:人ちゅら
シンとリッカがサカキ博士からレクチャーを受けていた、ちょうどその時。シックザールは執務室で、ナビゲーターの
カトール・
エリック・デア=フォーゲルヴァイデ──偵察兵。
ヒバリは彼らが巡回偵察任務中、不意の襲撃を受けたのではないかと言う。
反応喪失とはゴッドイーターに付けられた腕輪から送られるバイタルデータが途絶えたことを意味する。これは腕輪または神機の破損、神機と腕輪をつなぐケーブルの切断、またはゴッドイーターの死亡によってのみ生じる現象だ。
腕輪が破損すれば、致命的だ。ゴッドイーターは腕輪を介して定期的に偏食因子を注入し、肉体がオラクル細胞に必要以上に侵食されることを防いでいる。腕輪が壊れてしまえば偏食因子を注入できなくなり、じきに腕輪のオラクル細胞に全身を侵食されてしまうことになる。それはつまり、アラガミ化してしまうということだ。この場合、急行したゴッドイーターはそのまま処刑人としての役割を負うこととなる。
神機が破損した場合については、なにしろこれまで記録がなかったので、よく分かっていない。つい先日、一件だけ確認されたケースについても、極東支部の上層部によって機密扱いとされ、知るものは当事者を除けばあと数名しかいない。
それまではおそらくは腕輪の破損と同じことになるだろうと思われていた。だがつい先日起こったその一件の当事者は、何事もなかったかのように未だにケロッとしている。
当事者とは言うまでもなく、
神機と腕輪をつなぐケーブルの切断事故は、確率的にそれほど高くはないものの、発生件数はそこそこ存在する。主に適合率の低いゴッドイーターに発生する現象なので、適合率70超のエリックに発生したとは考えにくいのだが、可能性はゼロではない。このケースであれば、ゴッドイーターは生存している可能性が高い。
最後の項目については、言うまでもないだろう。
ナビゲーターはあくまでインカムによる音声情報と、腕輪から発信されるバイタルデータの受信状況でしか、現場の状況はわからない。以前はこれにナビゲーション用のドローンカメラからの情報もあったのだが、資材不足の現在では重要任務を除いて使用されていない。
そして当然、ただの巡回偵察任務中だった二人には、配備されていなかった。
であるなら、ごくごくわずかながら生存の可能性は残っている。
シックザールは胃痛に顔を歪めながら、すぐさま現場に第三部隊を急行させた。わずかな救助の可能性に賭けて。もし無理だったとしても、せめて腕輪と神機を回収しなければならない。こんなことなら適合試験の時に
フェンリル極東支部──通称アナグラ──のエントランスは、沈鬱な空気に包まれていた。
* * *
「ところで話は変わるけど──」
その頃、シャッターが降ろされ外部との連絡が一切遮断されている室内で、サカキ博士はまだ話を終わらせる気がないようだった。
「さっき覗いてたアレ。あれは何なんだい?」
「あー」
説明が難しいなと、シンは先程リッカに通じなかったことを思い出して口ごもった。代わりにリッカが説明しようとする。
「スマートゴーグルみたいに、インフォメーションが視界にオーバーライトされるんですよ」
「
「……
「うん、神機の……は?」
「ですよね。
サカキの驚愕の表情に、リッカは大きく溜息を吐き出すと、シンに視線を送りつつ、これ見よがしに大きく頷いてみせた。目は口ほどに物を言う。うっすらと隈の浮かんだ彼女の両の眼は、「どれだけ価値のあるものか、これで分かったよね?」とシンに訴えかけていた。
当のシンはと言えば、リッカの無言の抗議をまるで理解せず、オウム返しに頷き返したり、リッカをじっと見つめたりしていたのだが。
「間薙君」
「?」
「見せてくれ」
「ああ」
そうなるだろうとは思っていたので、シンは軽く握った右拳の中にそれを思い浮かべる。ただそれだけのことで、果たして世界に二つと無い
見た目は金銀螺鈿、贅を凝らした彫金細工の施された円筒である。細工物としてはそれなりの価値がありそうではあるが、いかんせんシンの大きな手で握ればほとんど隠れてしまうほどの大きさしか無い。だがそのちっぽけな筒が、戦いの道行きでどれほど役立ってくれたことか。
あのボルテクス界のルールで、一体の悪魔は最大でも八つまでしか
他に【
閑話休題。
シンがそうして万里の遠眼鏡を取り出してみせると、サカキ博士は再び驚き、話はあっさり脱線する。
「……どういう原理なんだい?」
「ある男が言うには『粒子化している』……ということらしいが、俺にもよく分かってはいない。見えないポケットから取り出してる感覚だし」
「それが装備に応用できれば、作戦の幅は広がるよね」
それまでどうにか二人の話を咀嚼するだけで手一杯だったリッカも、こと道具の話となると目を輝かせて参戦してきた。
「そうだな。……実際、こういうことはできるようになる」
そういってシンは掌を上に向けて差し出せば、その掌からピンポン玉ほどの大きさのくすんだ煙結晶がボロボロと大量にこぼれ落ちてゆく。テーブルの上にこぼれたそれの上に更に降り積もり、やがて床にまで広がっていった。
一つ一つは小さくても、塵も積もれば山となる。ピンポン玉を九十九個も積み上げれば、それはもはや人体のどこかに隠しておける量ではない。
「うん。もうこれ、手品の線は完全に消えたね」
「これは何だい?」
その理不尽な光景を目の当たりにして、リッカは疑念を振り払い、サカキは新たな疑問を口にした。
「
「……………」
魔石とは、ボルテクス界で最もポピュラーな回復薬である。マガツヒの結晶であるそれを、悪魔たちは砕いて摂取する。飲み込むものもいれば傷口から取り込むものもいる。シンは仲魔たちの傷を癒やすため、その馬鹿げた握力で粉微塵に砕いてから、相手にふりかけて使っていた。
悪魔の体内に結晶することがあり、悪魔が消滅する際に
「他にもある。たとえば──」
今度は魔法石を、各種治療薬を、魔鏡を、宝玉を取り出してみる。アマラ深界での最後の戦いで散々に消費したため、
当然テーブルからこぼれ落ちたが、シンにとっては無価値なものばかりだった。
サカキ博士にもうしばらく喋っててもらうことにしました。