GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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『ゴエティア』では「ダンタリオン(Dantalion)」ですが、ここでは真・女神転生シリーズに準拠して「ダンタリアン(Dantalian)」としています。



#039 最終捕喰説

「ダンタリアンというと『ゴエティア(ゲーティア)』だね。この時代にはもうフェンリル本部にしか残ってないような趣味的(マニアック)なデータをよくもまあ。いや君は本人を知っているということか」

「ああ」

「僕にとって今の君は、まさにダンタリアンそのものと思えるんだけどね」

 

 

 ダンタリアンとは由来不明の魔導書『ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)』第一の書『ゴエティア』に登場する、ソロモン王に仕えた七十二の悪魔のうちの一柱とされる。あらゆる知識を司り、人の心を読み、それによって人を操る権能を持つという。

 よしてくれ、とシンは小さく否定を口にした。

 

 サカキも「ふむ」と一息つくと、再び背もたれにその身を預けて仕切り直しの姿勢を見せた。

 柔らかく微笑んだ顔には、元の糸目が戻っている。

 

 

「ところでアラガミは何故すべて捕喰し尽くしてしまうんだろう?」

「どういうこと?」

「アラガミが地球上の自然を捕喰し尽くしたスピードは異常だ。自然界にオラクル細胞を発見したのが2046年。49年に南米大陸での大氾濫。翌年には世界各地の大都市を中心に大量発生して、それから人類の撤退戦が始まった。たった五年のことだったんだ。それから十五年で地球の表面のほぼ半数が捕喰され、2065年──三年前だね──連合軍の作戦が失敗すると、組織的抵抗ができなくなった人類は、あっという間に各地のフェンリルの都市(ネスト)に押し込まれた。地球上で彼らのエネルギー源となるものは、もうほとんど残っていない」

「動物は摂取上限で脳から抑制が働くんだったか」

「いわゆる満腹感だね。アラガミにそもそも胃に相当する器官があるのかは分からないから、そのあたりはまだ答えは出ていない。アラガミにとっては消化器も選択的な機能の一つだろうから、たぶん、持つものも持たないものも居る、というあたりに落ち着くと思うけど。どちらにせよ、彼らは過剰に栄養を摂取し、爆発的に分裂増殖していった」

 

 

 サカキは手元の紙束を何枚かめくると、二人に一つの線グラフを指し示した。

 

 

「これは概算値だ。地域ごとの酸素量と植生をベースに、アラガミが得たエネルギー量を試算した。空が赤くなるまで、軌道衛星との連絡が途絶えるまでのデータだが、見ての通り、既にグラフは減少傾向に入っている」

 

 

 食べるものが無くなれば、生物が生きていくことはできなくなる。

 アラガミがオラクル細胞の集合体、群体であるからといって、オラクル細胞自体が単細胞()()なのだ。いかに異常な生物であったとしても、エネルギーを補給しなければならないことに代わりはない。

 

 

「人類もそうだったな。20世紀、石油が無くなれば現人類の文明は終わりと言われていた。原子力の開発で乗り越えたと思ったが、水資源が問題になった。こればかりはどうしようもなかった」

「人間にとって水は必須だったからね。海水の濾過による飲料用水化が可能になっても、そこに電力が必要だったら同じことだ。電力と海水、石油、ウラン、結局は奪い合いになった。地球上の人口は頭打ちになり、徐々に減少傾向になっていた。フェンリルも元は製薬会社だ。電力は命綱だった」

「同じ道を辿っているということか」

「ガイア教の、適正数への調整って考え方は、たぶんこの試算が元になっていたんだろうね」

 

 

 一人蚊帳の外に置かれる形になったリッカは、これまで辛抱強く黙って見つめていた。

 だがどこか楽しげに言葉を交わす二人に、段々と苛立ちが強まっていくのを抑えきれなくなっていく。

 それでも激発しなかっただけ、彼女は人間が出来ているといえる。

 

 

「つまり、どういうこと?」

「アラガミは自分で自分の首を絞めているってことだよ。地球上の生物すべてを捕喰してしまったら、アラガミ自身も滅びるしかないんだ。どうしてそんな生物が生まれたのか。十字教が終末説を唱えたり、メシア(神の子)の再来を祈ったのも、分からなくはないね」

「メシア?」

「ああ、いや……古い友人が信者だったのでね」

 

 

 気まずそうに目を背けるサカキに、シンは興味を惹かれた。この男はこれまでシンに、偏執的科学者(マッドサイエンティスト)らしい好奇心と、自身が希望する通り傍観者(スターゲイザー)の無責任な姿しか見せなかったからだ。

 

 メシア。

 神の子。

 それはシンがかつて人間だった頃に生きていた世界の残滓だ。およそ二千年前、かつての世界のコトワリを啓いたとされる人間。シンは本来、彼の後継者となるはずだった。

 そんな人間の再来を祈った誰かが居た。

 

 もしかしたら現在この世界がボルテクス界化しているのは、彼らが受胎の儀式を行ったからかも知れない──シンの時代の、あのM字ハゲのように。

 であるならば、コトワリを持つものがそこにいるはずであった。

 

 だが今はリッカが先だ。

 時間はいくらでもあるのだからと、シンは鷹揚に構えることにした。

 

 

「それで博士。もしこの計算が合っていて、アラガミの数が減っていたとしたら、この後この地球(ほし)はどうなるの? ボクたちは?」

「アラガミはエネルギーを補給するため、ネストを襲うようになるだろうね」

「そんな!」

「それしかエネルギーを補給する手段が無くなってしまった。そうしたのは彼ら自身だけど。あるいはオラクル細胞同士がエネルギーを融通し合うことはあるかも知れない。ほら、神機でも出来るだろう、オラクルパワーの譲渡。まあそれは共食いと同じことだけどね」

「共食いを繰り返したら、どうなる?」

「そうだね。そうなったら、これまで捕喰した全ての生物の情報を統合した、“超アラガミ”とでも言うべきものが生まれるのかもしれない。すべての生物の頂点だ。どんな存在になるのか、興味があるね」

 

 

 黒衣の男の無邪気な笑顔と、作業着の女の沈鬱そうに眉をひそめた表情に、見事な対比だとシンは一人、呆れ返った。

 そうしてシンが、結局この男は自らの好奇心が全てなのかと、評価をまた一段下げようかと思っていたその時、サカキは右手の人差し指を一本立てて、「もう一つ可能性がある」と言い出した。

 

 

「可能性って?」

「オラクル細胞のエネルギーとは、要するに熱のことだ。ならばもっと膨大なものがあるじゃないか」

「どこに?」

「このずっと下。マグマだよ。それに彼らが気付いたとしたら。彼らがそれを実行しようとしたら。つまり彼らがこの地球そのものを捕喰したとしたら、果たして彼らはどんな姿に変化するんだろう?」

 

 

 星がまるごと受胎したこの世界で、果たして地下にマグマが眠っているのかは、シンにも分からない。

 だがおそらくは、受胎し裏返ったこの世界の中心にある、あの輝くカグツチに熱はない。またアラガミのコアにもマガツヒがあったことから、オラクル細胞のエネルギー源は、現在、マガツヒに置き換わっているのではないだろうか。

 だとすると彼らの最終目的地もやはりあの無尽光なのかもしれない。

 どうにかしてあそこに再び赴き、またあの石頭を殴り飛ばさなければならないのだろうか。

 

 

「便宜上、僕はこれを最終捕喰と呼んでいる。理論上の地球の終焉(ほしのおわり)だ」

 

 

 シンの思索をよそに、星の観察者(スターゲイザー)は最後にそう締めくくった。

 




ああ、やっとペイラー・榊の独演会が終わった。半ば無理やり終わらせられた。
僕が設定マニアなせいか、放って置くと無限に喋るんで微妙に出しづらいのです。
キャラ的には好きなんですけどねサカキ博士。

メガテンってシリーズ作品が多いせいか、悪魔の名前の表記ブレがちらほらあって、二次創作で扱うにはちょっと大変なところもあります。細かな表記ブレがそのまま悪魔としての性質の違いを表してることもあるので、軽々に扱えないところがあったり。

さて、次回はガラッと場面が変わって伊達男、上田君(?)の登場回になる予定です。

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