GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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#003 回想

 荒野のような郊外を歩きながら、間薙シンは思い返す。

 

 あちらの世界では、どんな悪魔でも意思の疎通はできた。ダーク系悪魔(わからず屋)たちは時に意味不明なうめき声やら分かりそうで分からない電波を送受信したりしていたが、まずほとんどの状況でちゃんと言葉になっていた。言葉にならないのはカグツチの光がひときわ強くなる一時だけのこと。

 

 だが今はカグツチの輝きは強くない。少なくとも初めて見上げた時よりかは衰えている。カグツチの影響ではなさそうだ。

 

 言語の問題なのだろうか? とも考えたが、あちらの世界では言葉の壁は全く存在しなくなっていた。そもそもボルテクス界では過去の人類文明の影響が極めて小さくなっている。コトワリを拓く選ばれた人間たちを除けば、その影響は残された構造物――道路や橋、その他の建造物、あるいは街灯や信号機くらいしか無いのだ。新たな世界を産み落とすためには、それら遺物に価値など無いとばかりに。

 

 この世界にもコトワリを拓く人間は残っているのだろうか?

 

 ふたたび独りごちるシン。ふう、と溜息をつく。

 

 一人で歩き回るだけでは埒が明かない。少し手伝ってもらうとしよう。

 

 

――来い、ベルゼブブ。

 

 

 仲魔の召喚。協力の契約を交わした悪魔――仲魔(ナカマ)――であれば、シンは誰でも召喚することができる。シンの体表にある電子回路のような模様の上を、青緑の光が往来する。が、何も起こらない。

 

 む?

 

 これまで「召喚に失敗する」ということはありえなかった。かつては契約した仲魔が死亡していた場合、蘇生を行うまで召喚することはできなかったが、今のシンはルイ・サイファーから悪魔全書を受け取っている。生前の記録通りにマガツヒで依代を創る悪魔全書の召喚術ならば、その生死は問わなかったはずだ。

 

 どういうことだ?

 

 それぞれのボルテクス界は独立した世界とはいえ、同じアマラ宇宙に浮かぶもの。世界が違うからといって召喚門が開かないということは無い……と思っていたのだが、そういうわけでもないのかもしれない。シンはあまり魔術に詳しいわけではない。そのような知識は、すべて仲魔たちに任せて困ることがなかったから。

 

 それにしても、会えないとなると、途端に寂しさを感じてしまうものである。もちろん元のボルテクス界に帰るなり、このボルテクス界が創世をなしてアマラ宇宙につながるなりすれば、再び会えるには違いないが。悪魔にとって、時間はあまり意味を持たないのだ。コトワリの戦いも、どれだけ長くても一万年はかからないだろう。であるなら焦る必要もない……シンにとって彼らとの絆は、時間によって損なわれる類のものではなかった。

 

 とはいえ一抹の不安がないではない。せめて話し相手が欲しいところだ。

 

 話し相手といえば、やはりピクシーであろうか。旅の始まりから行動を共にし、何度も変異して妖魔の女王(クィーンメイブ)に成り果てても、やがてそれすら超えた力を得てもなお、態度を変えずに慕ってくれた心優しい悪魔。せめて彼女を呼ぶことはできないか。

 

 

――来い、ピクシー。

 

 

 だが応えるものは無い。

 

 ふう、とため息を吐いて、シンは再び歩き始めようとする。

 

 そういえば。シンはあることを思い出し、再び万里の遠眼鏡を覗き込む。

 

 カグツチ塔はどこにあるのだろうか?




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(20181028)修正
 望遠鏡 → 遠眼鏡

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