GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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大変お待たせしました。

持病が悪化してこの方、生活環境が激変してアレコレしている間に時間が過ぎてしまいました。
調子の良いときに少しずつ書いていければと思っていますが、正直どこまでやれるかは分かりません。

忘れた頃に更新されるようなことになるかもしれませんが、気長にお付き合い頂ければ幸いです。



#037 人というアラガミ

 あの後すぐ、リッカの端末に連絡が入り、シンと共に二人はサカキ博士の研究室へと呼び出された。

 

 何事かと尋ねれば「君たちが興味深い話をしていたからさ」と、盗み聞きしていたことを悪びれもしない。

 もっとも、今やシンの挙動はアナグラ上層部の焦眉の元であることは、リッカも重々理解するところだった。加えてこの宝重・万里の遠眼鏡だ。傍観者(スターゲイザー)を自称するペイラー・榊の興味を惹かないはずがない。

 

 サカキは二人を散らかり放題の研究室に招くやいなや、机の上のコンソールを操作してドアをロックし、各種防諜システムをフル稼働させる。廊下側はドアにシャッターまで降りていたが、これはサカキ博士が研究室内で実験を行う際のことなので、誰かが通りかかっても「またか」と思うだけだった。

 なお、シャッターの昇降は無駄に静音にこだわっているため、室内にいる人間には分からない。

 

 シャッターが降りるまでの僅かな時間、サカキは内心ワクワクしているさまを全身で表すように、落ち着き無くうろうろと歩き回っていた。放っておかれたシンは何事かと首をひねったが、リッカに「いつものこと」と言われてそういうものかと状況を受け入れた。

 そうしてシャッターの完全閉鎖を告げるランプが点灯すると、サカキは早速シンに質問を投げかけた。焦らされすぎたのか、その言葉はしばらく「あー」だの「あれ」だのと意味にならないものだったが。

 

 「落ち着いたらどうだ」とシンに促され、「座っていい?」とリッカに尋ねられて、ようやくサカキは来客を立たせっぱなしにしていたこと、自分の思考がめちゃくちゃになっていたことを自覚した。おほん、と芝居じみた咳払いを一つして二人をソファに座らせると、自分もその対面に座って身を乗り出す。

 そうしてようやっと、まともな(?)会話が始まった。

 

 

「それで、つまり君は『ゴッドイーターは悪魔だ』と考えているわけだね?」

「完全な悪魔じゃない。人間と悪魔のあいの子(ハーフ)、悪魔人間くらいじゃないか?」

「そう思うのは、君がそうだからかい?」

「ああ……いや、今の俺は完全に悪魔のはずだ」

 

 

 アクマニンゲン。

 口にしてみると間抜けた雰囲気すらある響きだが、内実は結構えげつない存在だ。

 悪魔(アクマ)はマガツヒを操るが、そのマガツヒは意志ある生命――即ち人間(ヒト)――の存在なくして生み出されることはない。マガツヒの供給源となる人間がいなければ、悪魔はいずれ干からびてしまう脆弱さを持つ。

 

 だが、それらが一つになったらどんなことになるのか。

 誰よりも知っているのはそれを体現した人修羅である間薙シン、その人だ。

 

 この世界がアラガミという驚異に(さら)されているからこそ存在を許容されるが、もしも平穏な世界であったなら、きっと人間の驚異として敵視され、迫害され騒乱の種になるか、良くても兵器(どうぐ)のように扱われるに違いない。

 その時、数が質を圧殺するのか、質が数を蹂躙するのかは……やってみなければ分からないが。

 

 

「つまり、かつては違ったわけだ。それがその、悪魔人間(アクマニンゲン)になって、今は完全に悪魔になったと」

「俺がそう思っているだけで、本当がどうかは分からんが」

「いや。おそらくそれは、君がそう思っている、ということが重要なんだろう。悪魔というものが君の言う通り、役割を与えられた存在であるなら」

 

 本人にも分からないことを、まるで確信しているかのように断言してみせたのは、はたして人類最高の科学者サカキ博士の知性によるものか、それとも傍観者(スターゲイザー)ペイラー・榊の無責任か。

 だが不思議とその言葉には、同席した者たちを信じさせる力があった。

 

「どういうことだ?」

「つまり君は“悪魔になる人間”という役割を果たしている最中なんだ。あるいは、それを僕らに伝える役割を果たしている、と考えることもできるね」

「……よく分からん」

 

 シンのあまりに率直な物言いは、しかし狂的科学者(マッドサイエンティスト)の想定から漏れることはなかったらしい。サカキ博士は「そうだろうね」と呟くと、その感情を見せない表情のまま席を立ち、デスクの引き出しから紙束を取り出した。

 

 リッカは気が付かなかったが、シンはそのとき、サカキが小さくため息を吐き、その手を僅かに戦慄(わなな)かせていたことを見ていた。どうやらこの黒い傍観者でも緊張することはあるらしい。

 だがそれ以上、シンが興味を向けることはなかった。

 彼はコトワリに至る者ではない。

 

 シンの思惑になど囚われず、サカキは元の椅子に腰掛け、紙束を差し出す。

 

 

「僕は以前から、こんな事を考えている」

 

 

 そう言ってサカキ博士が差し出した紙束の、最初の一枚に書かれたタイトルは。

 

 

* アラガミの行動原理と進化傾向 *

*  ~人間というアラガミ~   *

 

 

「博士、これは──!」

「落ち着いてくれないかな」

「でもこれは……いくらなんでも──!」

 

 それを目にしたリッカが、色めきたって前のめりに勢いよく席を蹴ると、サカキの前の机を強く叩きつける。そのまま机を押さえつけるようにして自制しながらも、彼女の目は、口は、今にも吠え掛かり噛みつかんばかりの形相だ。

 だが睨みつけられたサカキはそれを両手で制すると、リッカにもう一度、席に戻るよう促す。

 

「いろいろ言いたいことはあるかもしれないが、質問は後にさせてくれないか」

「……はい」

 

 リッカは不承不承といった様子で席に戻った。

 

「何か問題のあるものなのか?」

「だって……」

「君にとってはそうではないのかも知れないが、リッカ君にとって……いや、今この地球(ほし)に生きている人類にとって、アラガミというのは許すべからざる天敵だ。そんなものと同類扱いしようとしたら、感情的になっても仕方がないことだと思うよ」

 

 説明されたシンには、やはりあまり理解できない感情の働きだった。彼には既に、天敵と言える存在などどこにも居ないのだから。

 ただ一つ、()()()()()()()というあたりで、忘れかけた記憶に引っかかるものがあったらしい。もはや名前すらロクに思い出せやしないが、ボルテクス界の戦いの中には、やたら勝手に他人のことを決めつけ断罪したがる敵がいたような気がした。そして倒すべき仇敵、アマラ宇宙の中心に座する無尽光(ハゲ)の存在を思い出し、ああ、と納得したようだった。

 

(ハゲ)と同類扱いか……それは確かに、腹立たしいな」

「それにリッカ君は無闇矢鱈に暴力を振るうような人間じゃあないからね」

「……要はあんたの性格が悪かったと」

「興味深い飛躍だけど、今は置いておこう。それより今はこの話だ」

 

 シンの罵倒(?)に笑顔を浮かべたマッドサイエンティストは、紙束を手にしてそう言った。

 


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