GOD EATER Reincarnation 作:人ちゅら
シンのオラクル細胞から“変異”偏食因子が検出された数日後。
研究班では日夜――といっても太陽の代わりにカグツチの輝くこの世界に明確な「夜」は存在しないが――フル回転でデータの採取が進められていた。現状の最たる発見は、通常のP53偏食因子とは異なる生成エネルギー波形を示している点だ。
「あの後、なにか体の調子が良くなったり悪くなったり、変わったこととか無い?」
「特には」
その生成エネルギー波形がゴッドイーターの体にどのような影響を及ぼすのかは、未知数だ。シンというイレギュラーは、サンプルとしてはまったく役に立たなかった。
シンから抽出したオラクル細胞と、他のゴッドイーターのオラクル細胞とを、同じシャーレに入れて培養してみたところ、一時間ほどで「両者の細胞が共に死滅する」「シンの細胞に吸収される」「両者の細胞が住み分ける」などの結果を得ることが出来た。だがそれがどういった法則によるのか、データ上の共通点は発見できず、仮説すら立っていない。
焦る研究班の中には早くも「投与実験を」との声もあるが、それについては慎重派が多く、実行には至っていない。そもそも変異元であるP53偏食因子と同じ適性検査で良いのかどうかすら分かっていないのだ。
こうしたとき、最初に被検体となるはずのハツカネズミは、世界が変わってしまってから十日と保たずに全滅してしまった。その他の動物も壊滅状態だ。となれば被検体は人間しか無い。
だが人間という資源が限られていることは前にも語ったとおりだ。黒白の指導者たちも、決断できずにいる。
そんな中、蜘蛛の糸のようにか細い可能性にかけたリッカの問いは、しかしシンに一蹴されてしまった。
彼らを遠目に囲み、固唾を飲んで見守っていた面々からは落胆のため息が漏れる。
そんな中。
シンがふと、おかしなことを口にした。
「そういえば、ゴッドイーターは
* * *
シンがとんでもないことを言い出した翌日。シンとリッカ、および第一部隊の面々は贖罪の街を見下ろす崖の上に立っていた。
「
「大丈夫。ボクは
第一部隊隊長の
リンドウはくわえタバコに火をつけ、気怠げに紫煙をくゆらせてため息を吐く。その他の面々も、いかにも面倒ごとに付き合わされて億劫です、と言わんばかりの態度だ。
まあそれもそうだろう。いきなり「魔法」だのと言われても、どう答えて良いのやら分かったものではない。世界が変わってしまうより以前であれば、ゴッドイーターに憧れる子どもたちがそういった幻想を抱くことも、まま有った。だがまさか、成り立てとは言えゴッドイーターの口からそんな言葉が出るとは。
ゴッドイーターは過酷な職業だ。嫌なこと、受け入れがたいことなど呆れるほど体験してきた。そんな状況に出くわせば、魔法のような力があればと願ったことだって一度や二度ではないだろう。だが、そんなものは無いのだと、「この悲劇こそが現実だ」と歯を食いしばって生きてきた。それが彼らだ。
これまでシンに対して引け目を感じていた面々も、正直どう接して良いものか分からなくなってしまっていた。
そんな彼らを後目に、シンは急ごしらえの神機を手にすると、一瞬ぶるりと身を震わせる。身に帯びたマガタマの震えが表に出たためだ。そうして無造作に崖を飛び降りると、西側にある開けたスペースまで移動。
彼が動き出したのを見たその他の面々は、崖の上から降りずにそのまま観察に適した場所まで移動する。
あの
最初はそのことに気がついては居なかった。ただ“変異”偏食因子の調査の一環として、改良整備中のシンの神機――それは神機コアと認証用サブコアとを柄に固定しただけのフレームに過ぎなかったが――に触れるよう言われ、そうした時に、急にそのことを理解したのだ。
だからあんな質問をして、そして今、実験をすることになっている。
「メラ」
刀身の無い神機を
第一部隊の面々はこれといった反応を見せなかったが、計器を調整していたリッカだけは別だ。一挙手一投足に注目していた彼女に『今のは?』と尋ねられ、「なんでもない」と気まずげに答えるシンだった。
『こっちの準備はできたから、いつでも始めていいよ』
「
インカムから聞こえるリッカの声に応えたシンは、気持ちを入れ替えるように短く息を吐き出した。
そうして手にした神機と自身の肉体との感覚を
そのまま神機のコアを、マガタマの代わりに励起する。
25、いや今や26あるマガタマだが、一度にそれら全てを励起させ、その力を扱うことは、シンにはできなかった。「それはカグツチからアマラ宇宙すべてを奪い、唯一人で創世を成した者のみが到達しうる領域だ」と、
故に普段は
――名称:神機コア“SIN”
――属性:NEUTRAL
――特徴:身体を強化する/保有者と共に成長する
――相性:アラガミに強い
――能力:【変形/捕食形態】【
シンの脳裏に浮かぶマガタマの能力を、大雑把に表すとこんなところだろうか。
人修羅の身に秘められたマガタマと比べると貧相なものだが、あれらの権能がろくに機能しないことを考えると、使えるだけマシというものだ。
まずは分かりやすい権能から試してみることにした。
「ザン」
バンッ!!
大きなゴム風船が割れたような音が響いたかと思えば、シンの前にあったコンクリートブロックが勢いよく跳ね飛び、廃墟の外壁に当たって砕けた。
シンはただ一言つぶやいただけだ。
彼の全身に付けられた速度センサーは、彼がただ突っ立っていただけであることを示している。
だが確かに、彼の眼前のコンクリートブロックは吹き飛び、そして砕けた。
「一体、何が……?」
「コアと同調した。それからコアの能力を使った」
「コアと……同調……?」
シンの言葉に、リッカは戸惑いの表情を見せる。
現在生産されている神機のコアは、討伐したアラガミから摘出したものにP53偏食因子を注入、加工したものだ。つまり元はアラガミのものである。いかにゴッドイーターがその体内にアラガミのものと同じオラクル細胞を有するからといって、同調などということが可能なのかどうか。
ただ、歴代最高の適合率を誇る彼の言葉である。無視できるものでもない。
すぐにでも帰投して、類似する現象の記録が無いか調べるべきではないか。この実験は、なにか危険な、踏み越えてはいけない線を超えてしまうような……
そんな胸騒ぎを覚えたリッカに気付くこと無く、シンは説明を続ける。
「どう言ったらいいのか……。ゴッドイーターは神機を持って腕輪とつなぐことで、神機と肉体を一体化させているだろう?」
「ゴッドイーターの体内に混じったオラクル細胞と、神機のオラクル細胞は同じ遺伝情報を持っているからね。神機だって本当なら相当な重さなのに、君たちは軽々と持ち上げて、振り回せてしまうのは、それを体の一部だから。ちゃんと覚えていてくれたんだね」
「その、つながってる感覚をもう少し強くする。神機が手のひらに吸い付くように感じるんじゃなくて、神機と手が溶け合って一つになったように意識する。すると――」
「すると?」
リッカは自分が生唾を飲んだ音を、やけに大きく感じていた。
「マガタマ――いや、コアが目を覚ます」
「そうすると、どうなる?」
「コアの力を自分のものにできるようになる。体内に溶け込んだコアが、それまで忘れていたことを思い出すように、教えてくれる」
そう言ってシンが神機を――刀身のない柄ばかりのそれを――軽く振るうと、存在しないブレードの軌道に沿って一陣の突風が吹き、廃墟のコンクリート壁に太刀筋のような大きな亀裂を刻みつけた。
機材チェックをしていたリッカも、そしてシンの周囲に警戒し、必要に応じて狙撃手が牽制をしていた第一部隊の面々も、これにはただ驚くばかりだった。
「おい。それは我々の神機にもあるものなのか!?」
忘我の領域からいち早く立ち直ったのは雨宮ツバキ。全世界のゴッドイーターの中でもトップクラスの最精鋭、
「もちろん。そのはずだ」
ということで、前回のビジョンクエストで得たものは「神機コアとの同調=魔法スキル」でした。
ボルテクス界化した世界で【リンクエイド】や【インパルスエッジ】、【バーストスキル】等をメガテン風に置き換えたもの、となります。主戦力になるのにリンクエイドしまくってる誰かさんとか、個々のバーストスキルとかは、この辺のコア特性によるもの。という。
一度クロス要素がメガテン側に振れますが、シナリオ自体はゴッドイーターがメインの予定です。
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(20181202) : 修正 "MAG-OP変換" →"
(20181119) : 修正 "P73偏食因子" → "P53偏食因子"