GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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「アラガミの本能」については原作(GEB)内の仮説に準拠しています。


#031 テキサス(?)

「この後どうするんだったっけ?」

 

 (ヴァジュラ)が本能の衝動に突き動かされて戦意を充満させていた頃、シンの意識はまったく別のことを考えていた。

 

 拳銃片手にあのボルテクス界を走り回っていたモミアゲ黒帽子(ライドウ)の真似をして、左手一本で拳銃型神機を乱射していたのだが、この後にどうするかは考えていなか(ノープランだ)った。

 この神機のトリガーを引きながら、既に眠らせ(上書きし)てしまったはずの、ここに無いはずのマガタマの権能(スキル)――【ファイアブレス】や【放電】など幾つかの魔法――を思い浮かべると、魔法属性の乗った散弾が撃ち出せることに気付いてからは、そりゃあもう調子に乗って撃ちまくっていた。

 

 それによってある程度はダメージを与えているように見えるが、シンは急所を狙って撃っているわけでもないし、ヴァジュラ(わんこ)も極力装甲の硬そうな部分で受けていた。

 流石に相手も人類の天敵たるアラガミである。これだけで倒せるほどヤワではないだろう。

 

 だが、だからといってバラ撒いている弾幕を止めると、逃げられてしまうかもしれない。それは業腹だ。シンはアラガミの性質をまだよく理解していない。より狡猾で生き意地汚い悪魔たちのご同輩だと思っていれば、なおさらだ。彼女(レイチェル)の奮闘を自分の選択で台無しにするなど、拳銃をぶっ放して上向いた気分が沈みねない悪手である。

 なによりそれは()()()()()

 

 だからこの先にどのような手を打とうかと、シンは記憶を探っていた。

 

 

 シンの手持ちの権能のうち、直接攻撃は【至高の魔弾】と【地母の晩餐】の二つのみ。

 この内、前者はリンドウとアナグラに向かう道すがら、一度だけ試しに使ってみたのだが、マガツヒを直接撃ち砕く因果逆転攻撃はアラガミのコアを一撃で破壊してしまった。ゴッドイーターの任務はアラガミの討伐およびコアの摘出である。故に「すまんがそれは使わないでくれ」とリンドウに念を押されていた。

 そして後者は発動すらしなかった。【地母の晩餐】はその土地の地母神に対して供物を捧げる一種の召喚儀式だ。どういった理由かは分からないが、召喚能力が使えない今のシンには同じ理由で行使できないのだろう。たぶん。

 

 故にシンは、この戦法を使っていた黒マント男の戦いぶりを思い出そうとしていた。

 

 

「確か、ええと、ガーヂアンとか……」

 

 

 【凶鳥ガーヂアン】。凶鳥モーショボーという悪魔を使役して魔法を放つ技である。

 なぜか召喚魔法が使えない今のシンには使えない。

 

 

「乱舞系の……なんとか乱舞」

 

 

 【ジライヤ乱舞】。地霊ツチグモを召喚してタッグ攻撃をする技。

 なぜか召喚魔法が(以下省略)

 

 

「ヨシツネ……」

 

 

 【ヨシツネ見参】。英雄ヨシツネを召喚(以下略)

 

 

「使えん!」

 

 

 そりゃもう召喚できないのに召喚タッグ技なんて使えるはずがない。

 いや、そもそもモーショボーもツチグモもヨシツネも、シンは仲魔にしていなかったのでどうしようもなかったりするのだが。

 

 ちなみにこれらの(スキル)名は、学ラン黒マントが連れていた大層な名前の猫から聞いたものだった。一時共闘した際、彼独特の技にどう指示を出せばよいのかと相談したら、そう呼べば良いといちいち解説を混じえて教えてくれた。たまに間違いや嘘も混じっていたが、そのあたりはもう関係ないことだ。

 

 

「他にもあったはず……」

 

 

 そんな独り言をぼやきながら、シンは一人ぶつくさ言いながら記憶の海をさ迷っていた。

 

 

*   *   *

 

 

 鼻歌を歌いながらご機嫌で強化バレットをばら撒くシンに、ヴァジュラはあっという間に防戦一方となってしまった。

 

 最初はどうにか避けながら隙を窺って一撃を繰り出そうとしていたのだが、ばら撒かれる(バレット)は硬いものだけでなく熱かったり冷たかったり痺れたり、尖っていて刺さったり自分の爪のように切り裂いたり触れた瞬間に弾けたりと様々で、次第にヴァジュラは自分の置かれている状況が理解できなくなってゆく。

 

 アラガミも人間(エサ)もお構いなしに攻撃しまくる、あの阿呆なひょろ長い柱(コクーンメイデン)亜種(色ちがい)だってここまで多彩な攻撃はしないだろう。少なくともこの巨獣は見たことがない。

 

 

 そもそもこの時代、まだアラガミは単純な物理攻撃と、電撃、爆発くらいしか攻撃手段を学習していない。アラガミの攻撃手段は元々、野生動物や人間との戦いの中で学び、必要と思われたものを、喰った()()の情報に基づいて肉体の組成を改変して身につけるものだ。

 その最新型とも言えるヴァジュラですら見たことのない攻撃が、デタラメに撃ち出され荒れ狂う大波のように押し寄せて来るのだから堪らない。

 

 だが、それが自分に着実にダメージを与えているということを、また攻撃ごとの特性を、ヴァジュラは学習していく。無駄と切り捨ててきた()()()という能力が、ここで急に開花した形だ。

 この力があれば、そしてこのエサを喰らえば自分はもっと強くなれるだろう。その予感と確信にアラガミは身震いがする思いだった。それはアラガミの本能、()()()()()()()()()()()()()()()()とも合致する。自分が最後まで生き残るモノになれるかも知れない。いや、きっと成れるだろう。この巨獣の脳裏には、そんな確信すら生まれていた。

 故にヴァジュラは、逃げ出すことなど微塵も考えてはいなかった。

 

 そして確信を得、覚悟を決めたその瞬間、何故かこの強敵(エサ)の攻め手が緩んだ。

 好機だ。

 ヴァジュラは硬い角を盾にして猛然と突撃し、弾幕を総身に受けながらも会心の一撃を繰り出した。

 

 

*   *   *

 

 

「ヂャッ!!」

 

 

 低く枯れた奇態な音が、彼女(レイチェル)の細い喉から漏れた。

 

 シンがこの肉体の支配権を得て、初めてまともに攻撃を受けた瞬間であった。

 と同時に、この恐ろしげな巨獣(ヴァジュラ)に効果的な一撃が加えられた瞬間でも有った。

 

 

 思考に意識を割かれ、わずかに気の逸れたシンに繰り出されたヴァジュラの突進に、仮初の肉体は貫かれ、そのままの勢いで大きく跳ね飛ばされた。

 だがヴァジュラの硬い角のようなものがシン(レイチェルの肉体)にぶち当たろうというその直前、シンは無意識に右拳を繰り出し、これまで幾度となく銃撃を弾いてきた堅固な()()を一撃で割り砕いたのだった。もっとも、そのせいで割れた角が鋭利な槍になって肉体を貫かれてしまったのだが。

 

 

 自身(ヒトシュラ)のものとは比べ物にならないほど柔らかな身体を貫かれ、勢い余って跳ね飛ばされた瞬間、シンの脳裏でその感覚と一つの記憶とが結びついた。

 

 

 ――そうだ。あの黒マント男にも同じように殺されかかったではないか。

 

 

 即座に立ち上がったシンは、再び左手の拳銃型神機を構えて弾幕を展開すると、自身の傷を【メディアラハン】で癒やした。角槍に刺された貫通痕も、大穴と言うほどではない。この程度の傷なら数え切れないほど受けてきたし、直してきた。どうということもない。

 

 

 シンは記憶を手繰ってあの黒マントに受けた痛恨の一撃を思い出す。

 銃撃による弾幕で身動きを封じ、たまらず相手の意識が無謀に傾いたその瞬間を狙い、全身を使った刺突の一撃を加える。弓矢のように引き絞られた肉体から繰り出されたその一撃は、もしも【食いしばり】が残っていなければ耐えきれないほどだったのだ。

 

 残念ながら――あるいは当然ながら、(ヴァジュラ)は【食いしばり】の権能は持ち合わせていなかった。

 生憎と日本刀の持ち合わせはなかったため、自身の抜き手で代用した物真似の一撃は、真紅の閃光を放ちながら砕かれた角の跡から脳髄、そして頚椎までを貫き、彼の生命活動を刈り取ってしまった。

 

 

「テキサス……だっけ?」

 

 

 技名までは思い出せなかったようだが。

 




本家は「的殺(てきさつ)」です。

ツッコミ役不在のため無意識に舐めプする人修羅さん。


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(20181119)修正 : "との【地母の晩餐】" → "と【地母の晩餐】の"

(20180817)修正 : "攻撃魔法" → "魔法" (凶鳥ガーヂアンの解説)
 伊科礼悟様、ご指摘ありがとうございました。

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