GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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#002 喰らう

「よう、兄弟(ブラザー)

 

 シンは恐竜もどき(オウガテイル)――最初のイメージに比べて随分と小柄であったが――に、陽気な声をかける。前の世界でごくまれに、こうしてコミュニケーションをとってくる悪魔がいたことを思い出して、真似してみたのだった。確かこの後くるくると横回転してみせれば完璧だ。スダマを嫌いになれる悪魔はいないだろう。だがどうやって回ればよいのか、シンは思わず動きを止めてしまった。

 

 もっとも、その悩みは全くの無駄でしかなかったのだが。

 

 恐竜もどきはやたらと(いかめ)しいその顔を突き出し、シンに向かって大きく吠えたててみせた。どうやら威嚇しているつもりらしい。ははは、()い奴め。

 

 もしやダーク系悪魔(イカレたやつら)なのだろうか? 彼らと話すための愉快な能力(ジャイブトーク)は、生憎あのハゲ頭を殴るために封印してしまったのだ。ハゲ頭はいつまでも祟る。

 

 仕方がないので、まずは落ち着かせることにした。こうしたとき、悪魔はまず力の差を分からせることが先決である。

 

 飛びかかってくるオウガテイルを右にステップして避けると、シンはその側頭部を軽くぶん殴ってみた。遠眼鏡越しに見たときも思ったが、なかなか硬そうだ。だからほんの少しだけ、力が入ってしまったのだろう。あるいは多少、高揚していたの(ハピネス)かもしれない。

 

 岩石の割れ砕ける音と生肉をこねたような音がほぼ同時に聞こえたと思った時には、オウガテイルは10メートルばかり吹っ飛んでいた。

 

 しまった。やり過ぎた。

 

 

*   *   *

 

 

 間薙シンの肉体は、まぎれもなく悪魔のそれである。それはただ力が強いことや魔法が使えることに限った話ではない。

 

 たとえばボルテクス界における悪魔にとって、食事は必須のものではない。ただ生きるだけであるなら、カグツチの無尽光を浴びてさえいれば、滅びることはない。

 

 だがそれでもボルテクス界の悪魔たちは、互いを喰らい合っていた。何故か。それは彼ら悪魔たちの力が、あるものを喰らうことによってより強くなるからである。その力の源をマガツヒという。

 

 オウガテイルの割れ砕けた側頭部から、見紛(みまご)うことなきマガツヒの光が漏れ出していた。その奥を覗き込めば、小さな球体が有る。そこから光がこぼれているようだった。

 

 マガツヒが固体化しているのか?

 

 シンは首を傾げながら無造作に手を突っ込むと、その球体をむしり取って()()――対象の生命力を奪い取る――能力で吸い込んでみた。するとそれまで電球のように辺りを遍く照らしていたマガツヒの光が、糸筋となって不自然にシンの口元へと集まり、瞬く間に吸い込まれて消えてしまう。

 

 球体はひび割れ、あっという間に砂となって風に飛ばされていった。

 

 見れば球体を抜き取られたオウガテイルもその活動を停止し、その体はゆっくりと溶け崩れて地面へと染みこんでいく。まるでマネカタのようではないか。アサクサの泥をこねて生み出された、あの哀れな()()()()()たち。そうか、オウガテイルが()()()()()だとすれば、ここは人間の代わりに恐竜たちが栄えた世界の成れの果てだったりするのだろうか? もっとよく観察しておくべきであったかもしれない。

 

 ……また次の機会で良いだろうと考える。こいつらがかつての支配種だったなら、そこら中にいるはずだ。ならば機会はいくらでもある。あれだけ巨大なカグツチがあるのだ。この世界のマガツヒが枯渇するようなこともそうそうないだろう。

 

 さて、どうするか。

 

 自分が独白していることにも気付かず、シンは歩き始めた。




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(20181028)修正
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