GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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本作は原作以前の時代であるため、原作ゲームほど神機開発は進んでいません。そのためゲームに登場する技術のうち、未だ存在しないものが幾つもあります。



#025 顛末

 シンが神機を一振りで破壊した。

 その記録映像がアナグラへ持ち帰られると、即座にシックザールによってその映像は没収され、同行したリンドウ、ツバキには箝口令が()かれることとなった。

 それが広く知られることになれば、問題となることが明らかだったからだ。

 

 

 一つは()()()()()()()()()ということ。

 神機の強度はゴッドイーターたちの拠り所である。なにしろ()()無くしてアラガミと対峙することなど不可能なのだから。

 

 強力な衝撃を受けることで装甲板(シールド)の展開機構が上手く動かなくなることは有る。そこが最も複雑な機構であり、そして最もダメージを受けやすい構造だからだ。だが神機そのものが完全に破壊されたことは、アナグラの記録に存在しない。ゴッドイーター自身が死亡した戦いの中ですら、神機は刀身や銃身部分がひしゃげようと、コアが剥き出しになるほど損壊したことはなかった。

 それほど丈夫な神機だからこそ、自分の命を預けるに値する。頑丈な神機が有ればこそ戦える。そうやって恐怖を押さえ込んで戦場に立つ戦士たちは、決して少なくは無いのだ。

 

 

 そしてもう一つは、アラガミが蒸発したという現象であった。

 

 これまでアラガミはいかなる武器によっても完全破壊することが出来ず、神機という他のアラガミに捕食され、その核を抜き取られることで初めて自壊することが確認されていた。ダメージを与え、行動不能に追い込むことは出来ても、オラクル細胞は接地面から大地に浸透して退避。別の安全な地点まで移動して再度結合するものと予測されていた。故にゴッドイーターという、神を喰らう者が重用されてきたのだ。

 だが今回、シンはただ超音速で神機を叩きつけたのみ。それによってアラガミは、地面に浸透することなく、まだその破片を撒き散らすことなく蒸発し、消滅した。コクーンメイデンを構成していたオラクル細胞がどうなったのかは確認が取れていないが、()()()超音速で神機を叩きつけることでアラガミを、ひいてはそのオラクル細胞を消滅させることが可能であるのならば、アラガミへの対処も様々な可能性が考えられる。

 

 

 そしてそれは、ゴッドイーターの価値を毀損しかねない大きな危険をはらんでいた。

 

 

*   *   *

 

 

「あーもーホントに! やってくれちゃって! もう!」

 

 柄と二つの核のみとなったシンの神機を前に、ロボットアームを操作しながらリッカはイライラをぶちまけた。

 

「ここまで完膚なきまでに壊し(やっ)てくれたのは君が初めてだよ! 防御は装甲でって教わらなかった!?」

 

 シンはふと、教わらなかったことにしてリンドウに責任をなすりつけることを考えた。またリッカとの掛け合い(コント)が見られるかと思ったからだ。だが今回は冗談では済まない事態のようだし、流石にそれは非道すぎるというものだろうと心を改め、黙って首肯する。

 

「ヴァジュラの口に突っ込むとか! 神機(パートナー)は大事にって言ったでしょ! ……まあ、それで君の身が護れたんだかし、この子も本望だとは思うけど。反省してよね!」

 

 そう。神機の全壊という一大事に、シックザールは即座にカバーストーリーをでっち上げていた。

 即ち「シンは突如現れたヴァジュラ――巨大なケルベロスのようなアラガミ――から身を護るため、その口に()()()()神機を突っ込み、神機を奪われた。ヴァジュラは同行していたツバキとリンドウに撃退されたものの、彼らの攻撃が偶然、ヴァジュラの咥えていたシンの神機に命中したことで、神機は破損してしまった」

 ……そういうことになっている。

 

 期待の新人では有ったものの、流石に研修初日の新人が大型アラガミを圧倒できる、などと考える人間はアナグラにはいなかった。むしろ彼の不運に同情する人間のほうが多かったことは、彼にとっても、また秘密を守らなければならないシックザールらにとっても幸運であった。

 

 ちなみに、ゴッドイーターは研修が終わるまで、研修用の()()神機を貸与されることとなっている。これはかつてゴッドイーター化した者の一部が、アナグラに反旗を翻した事件を教訓としたもので、対外的には機密事項とされているが、アナグラ内では概ね知られていることだ。それもまた、今回のカバーストーリーに真実味を付与していた。

 

 ともあれ、その後二時間ばかり続いたリッカのお小言を、シンは身じろぎもせずに聞いていた。人間の強い感情は、多くのマガツヒを生み出すものだ。その甘露を全身で味わいながら、彼はこの()()にしばらく付き合っていた。

 

 

*   *   *

 

 

 シックザールの執務室で、三人の研究者が声を潜めて話し合いを続けていた。

 話題は「間薙シンの神機の設計」である。

 

 アラガミを一体潰すために神機をいちいち壊されてしまうのでは、あまりに割に合わない。もちろん万が一、巨大なアラガミが現れてこのアナグラが襲撃された際には、最終兵器として使う分には十分以上のコストパフォーマンスと言えるだろうが。

 

 それに記録を見た限り、彼の一撃はアラガミの(コア)すら消し飛ばしてしまっていた。アラガミの核は貴重な研究材料であって、確保できるならばそれに越したことはない。ならば彼の出撃は最後の最後ということになる。

 もしも普通のゴッドイーターに対処できたなら? 核を手に入れることができたなら? と考えれば、いかにアナグラの危機と言えども、そう気軽に出撃させることは出来ない。人類の叡智の結晶たるフェンリルにとって、それがどれほど貴重なものかは計り知れないのだ。場合によっては極東支部と引き換えにしても手に入れたいと考えるかも知れない。

 そうした命令に、シックザール支部長やサカキ博士が従うかはまた別の話であるが。

 

 だが、シンの身体能力をこのまま捨て置くのもまた、あまりに勿体ない。

 故にこそ、彼の使用に耐えうる神機が――彼がその他のゴッドイーターと同じように戦い、アラガミを下し、その核を捕食できる。そんな神機の開発が求められていた。

 

 

「で。要は強度不足……ですよね」

「そうだ。従来の神機のようにパーツごとの強度が異なる場合、どうしても耐久性に限界が生じる。それでは一定以上の負荷、少なくとも彼の使用には耐えられない。と、考えられる」

 

 機械油で頬を汚し少女が問えば、白衣の男がコピー用紙に出力されたチャートを指差して答える。

 

「振り抜く方向が常に一定ならともかく、ゴッドイーターの蛮用に耐えうるものをと考えると一体構造にするしかない。だが」

「それは僕の仕事だね」

 

 白衣の男が次の問題を唱えれば、黒衣の男が眼鏡をクイ、と上げて笑ってみせた。

 

「実は既に実験中の素材があるんだが、こいつでテストしてみてくれないか?」

「どんな素材ですか?」

 

 

「アラガミさ」

 




次回から新章に入ります。

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