GOD EATER Reincarnation 作:人ちゅら
シンが神機を一振りで破壊した。
その記録映像がアナグラへ持ち帰られると、即座にシックザールによってその映像は没収され、同行したリンドウ、ツバキには箝口令が
それが広く知られることになれば、問題となることが明らかだったからだ。
一つは
神機の強度はゴッドイーターたちの拠り所である。なにしろ
強力な衝撃を受けることで
それほど丈夫な神機だからこそ、自分の命を預けるに値する。頑丈な神機が有ればこそ戦える。そうやって恐怖を押さえ込んで戦場に立つ戦士たちは、決して少なくは無いのだ。
そしてもう一つは、アラガミが蒸発したという現象であった。
これまでアラガミはいかなる武器によっても完全破壊することが出来ず、神機という他のアラガミに捕食され、その核を抜き取られることで初めて自壊することが確認されていた。ダメージを与え、行動不能に追い込むことは出来ても、オラクル細胞は接地面から大地に浸透して退避。別の安全な地点まで移動して再度結合するものと予測されていた。故にゴッドイーターという、神を喰らう者が重用されてきたのだ。
だが今回、シンはただ超音速で神機を叩きつけたのみ。それによってアラガミは、地面に浸透することなく、まだその破片を撒き散らすことなく蒸発し、消滅した。コクーンメイデンを構成していたオラクル細胞がどうなったのかは確認が取れていないが、
そしてそれは、ゴッドイーターの価値を毀損しかねない大きな危険をはらんでいた。
* * *
「あーもーホントに! やってくれちゃって! もう!」
柄と二つの核のみとなったシンの神機を前に、ロボットアームを操作しながらリッカはイライラをぶちまけた。
「ここまで完膚なきまでに
シンはふと、教わらなかったことにしてリンドウに責任をなすりつけることを考えた。またリッカとの
「ヴァジュラの口に突っ込むとか!
そう。神機の全壊という一大事に、シックザールは即座にカバーストーリーをでっち上げていた。
即ち「シンは突如現れたヴァジュラ――巨大なケルベロスのようなアラガミ――から身を護るため、その口に
……そういうことになっている。
期待の新人では有ったものの、流石に研修初日の新人が大型アラガミを圧倒できる、などと考える人間はアナグラにはいなかった。むしろ彼の不運に同情する人間のほうが多かったことは、彼にとっても、また秘密を守らなければならないシックザールらにとっても幸運であった。
ちなみに、ゴッドイーターは研修が終わるまで、研修用の
ともあれ、その後二時間ばかり続いたリッカのお小言を、シンは身じろぎもせずに聞いていた。人間の強い感情は、多くのマガツヒを生み出すものだ。その甘露を全身で味わいながら、彼はこの
* * *
シックザールの執務室で、三人の研究者が声を潜めて話し合いを続けていた。
話題は「間薙シンの神機の設計」である。
アラガミを一体潰すために神機をいちいち壊されてしまうのでは、あまりに割に合わない。もちろん万が一、巨大なアラガミが現れてこのアナグラが襲撃された際には、最終兵器として使う分には十分以上のコストパフォーマンスと言えるだろうが。
それに記録を見た限り、彼の一撃はアラガミの
もしも普通のゴッドイーターに対処できたなら? 核を手に入れることができたなら? と考えれば、いかにアナグラの危機と言えども、そう気軽に出撃させることは出来ない。人類の叡智の結晶たるフェンリルにとって、それがどれほど貴重なものかは計り知れないのだ。場合によっては極東支部と引き換えにしても手に入れたいと考えるかも知れない。
そうした命令に、シックザール支部長やサカキ博士が従うかはまた別の話であるが。
だが、シンの身体能力をこのまま捨て置くのもまた、あまりに勿体ない。
故にこそ、彼の使用に耐えうる神機が――彼がその他のゴッドイーターと同じように戦い、アラガミを下し、その核を捕食できる。そんな神機の開発が求められていた。
「で。要は強度不足……ですよね」
「そうだ。従来の神機のようにパーツごとの強度が異なる場合、どうしても耐久性に限界が生じる。それでは一定以上の負荷、少なくとも彼の使用には耐えられない。と、考えられる」
機械油で頬を汚し少女が問えば、白衣の男がコピー用紙に出力されたチャートを指差して答える。
「振り抜く方向が常に一定ならともかく、ゴッドイーターの蛮用に耐えうるものをと考えると一体構造にするしかない。だが」
「それは僕の仕事だね」
白衣の男が次の問題を唱えれば、黒衣の男が眼鏡をクイ、と上げて笑ってみせた。
「実は既に実験中の素材があるんだが、こいつでテストしてみてくれないか?」
「どんな素材ですか?」
「アラガミさ」
次回から新章に入ります。