GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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#024 「あ――」

間薙(かんなぎ)シンだな?」

 

 アナグラのエントランス。

 フェンリルの職員共用ターミナル、ゴッドイーターに任務を発行するカウンター、簡易ブリーフィング用のソファとテーブル、居住フロアをはじめとする各施設への直通エレベーター、職員食堂への扉、そして出撃用ゲートのあるそこに、三人のゴッドイーターの姿があった。

 

 一人は間薙シン。新人ゴッドイーターとなった彼は、支給されたアナグラ職員の制服を身にまとい、肉厚で長大な刀身を持つ白兵式神機――バスターブレードという規格らしい――を担いでいる。

 

 一人は雨宮(あまみや)リンドウ。若くして既にベテランの域にある青年は、火のついていないタバコを咥え、シンの様子をじっと伺っている。

 

 そして最後の一人は――

 

「ふん。面構えだけは一人前だな」

「こいつはそれだけじゃねえですよ、姉上」

「任務中は隊長と呼べと何度言ったら……」

 

 ――そう言ってリンドウを小突いたのは、ひどく扇情的な服を身にまとった女だった。

 彼女もまたゴッドイーターであるらしい。名工の手になる彫像の如き整った顔立ち。大きくウェーブする豊かな黒髪は腰のあたりまで伸びている。左手にはバズーカ砲より太くゴツい銃身の遠距離型神機を担ぎ、空いた右手でリンドウの頭を押さえつけている。

 

 だが何より目を引くのはその装束だ。

 ライダースーツのようにピッチリと身体にフィットした白い革の着衣は、シンの寂しい語彙を漁れば、まるでそういうプレイ(SM)()()()のようである。胸元は大きな双丘を見せつけるかのように開き、ジャケットの背面とパンツの膝から上側面は深いスリットから肌を露出し、かろうじて編み上げで留めているような有様。いかに遠距離戦メインとはいえ、それで戦うつもりなのかと、シンは脳内で常識人ぶったツッコミを入れる。

 リャナンシーあたりと気が合うかもしれない。

 

「私は雨宮(あまみや)ツバキ。第一部隊の隊長だ」

 

 

*   *   *

 

 

「で、昨日の今日で、早速お仕事ってわけだ」

 

 アナグラから出て悪路をゆくこと約四十分。かつては多くの人間の生活の場であった都市、今ではゴッドイーターたちの狩場を見下ろす高台に、三人の人影はあった。

 

 

 「贖罪の街」と呼ばれるその狩場の中心には、大きな教会が建っている。かつては美しい姿で人々の目を楽しませていただろうその白亜の建物には、アラガミの侵攻から逃れた近隣の人々が、救いを求めて集ったらしい。そして人間は、この地上にはもはや、慈悲ある(カミ)の恩寵などありえないということを思い知らされたのだ。

 

 その周囲は不自然なほど何もない。

 それは群れ集ったアラガミたちが、隠れ潜む人間を残らず喰らうために周囲の建物を潰しまわり、また逆撃を食らわせようとした自衛軍の兵器によって焼き払われ、瓦礫も残らず吹き飛ばされた結果らしい。

 無論、教会に隠れていた人々は焼夷弾の熱で全滅している。

 

 そうして吹き飛ばされた瓦礫がこのエリアに通じる道路のほとんどを封鎖し、今では時折小型のアラガミが侵入するだけの、()()()安全なエリアとなっているらしい。

 あくまで比較的、というだけなので人が住めるほどではないが。

 

 だがフェンリルにとってはアラガミ素材やコアの回収に手頃な狩場となっていて、新人ゴッドイーターの研修や、小物狩りのトレーニング場として利用されているという。

 転んでもただでは起きないとはこのことか。

 

 

「気負う必要はない。()()の言葉が確かなら、このあたりのアラガミなどお前の敵ではあるまい。だが油断はするな。その神機も、腕輪も、それなりに手間のかかったものだ。忘れるなよ」

 

 ツバキは厳しい表情で警告する。

 だが実際のところ、彼女もシンがこのあたりのアラガミに負けるとは思っていない。(シン)の戦いぶりを語った愚弟(リンドウ)をどこまで信用してよいものかは分からないが、少なくとも身体能力の高さは折り紙付きだ。

 

「我々は手出しはしない。あくまで緊急事態に備えて同行しただけだ」

「神機の使い方を教えてやらにゃならんでしょうが」

「それはお前の仕事だ」

「へいへい。承りましたよ、人使いの荒い姉上サマ」

 

 軽口を叩くリンドウの頭に、無言の拳が振り下ろされた。

 

 

 神機の使い方として【装甲(シールド)】と【捕食形態(プレデター)】という二つの変形について簡単に説明したリンドウは、

 

「あー。ヤバそうだったら割り込むから、とりあえず一体()ってみてくれ」

 

 と気軽に提案し、シンはそれに黙って頷いた。

 

 

*   *   *

 

 

「作戦目標は贖罪の街に発生したアラガミ、コクーンメイデンの除去とする。私からの命令は三つだ。死ぬな。死にそうなら退け。退いて隠れてオペレータの指示を待て。以上だ。分かったら返事をしろ」

 

 シンが装甲車(キャリアー)を待機させた崖の上から飛び降りるなり、耳につけた通信機からツバキの声がした。多少ノイズ混じりだが、特に問題は無さそうだ。

 

「了解」

「では行け」

「間薙シン、出撃する」

 

 この時、シンの心はちょっとばかり浮かれていた。映画やアニメでしか見たことがないような、軍隊めいたやり取りに。そして作戦に従事するという自分の立場に。

 

 特にそうしたやり取りに思い入れがあったわけではない。ただ薄れかけている過去の記憶が刺激され、失いかけていた人間性が反応したのだろう。

 三日間という非常に短い時間ではあったが、いくつもの新たな出会いと遭遇した。ボルテクス界にあって未だ人間性を保っている彼らとのコミュニケーションは、興味深くも有ったし、刺激的でも有った。それは彼の()()にも沿ったものだった。

 だが、それを得るために抑圧していたものも有ったのだ。

 

 たったの四日ぶりというアナグラの外は、その時のシンにとっては非常に開放感に溢れたものだった。

 

 だから()()()()()()()()()()()()()()()のも、仕方のないことなのだ。

 

 後にこの時のことを尋ねられた彼は、そう自己弁護(いいわけ)したという。

 

 

 そして浮かれ気分のシンは、およそ自制というものを忘れた速度で贖罪の街を駆け抜け、あっという間に目的のアラガミ、生きた鋼鉄の処女(コクーンメイデン)の眼前に到着する。

 そしてコクーンメイデンがその四方八方に鋭いトゲを放射するより前に、手にした神機を振り下ろした。

 

 次の瞬間――

 

 

 パンッッ

 

 

 と、音速の壁を超えた音が響いたかと思えば、砂煙が贖罪の街一面に舞い上がって視界を塞がれてしまう。

 だがそれ自体は、大型のアラガミとやりあえば発生する状況だ。リンドウにせよツバキにせよ慣れたもので、リンドウがすばやく神機のシールドを展開すると、その影からツバキがスコープを覗き込んで状況確認を急ぐ。状況によってはそのままアラガミを狙撃し、あの規格外の新米を救助しなければならない。

 

「あ――」

 

 だがスコープ越しにツバキの視界に飛び込んできたものは、柄の部分を残して原型を留めていない、シンの神機だった。

 




予想されていた方も居たようですが、そりゃ混沌王が全力で振ったらそうなるよねって(笑)

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