GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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#023 パートナー?

 フェンリル極東支部・整備班のエース、楠リッカ。

 シンとは同年代のようだが、可愛らしい顔立ちに反して、機械油で汚れた頬や年季の入ったオーバーオールは、確かに熟練の職人を思わせる風格がある。やや大きめの野暮ったいニッカポッカも、彼女の魅力を引き立てるばかりだ。

 

 シンがまじまじとその風体を眺めていると、お返しとばかりにリッカもシンの全身を舐め回すように見つめ、そして可愛らしく首を傾げた。

 

「……リンドウさん。もしかしてこの人、スゴイ人?」

「お、流石リッカちゃん。分かるか」

「だってこの人、どこにも無駄がなくない? ちょっと触らせてね」

 

 そう言うや否や、シンの腕から肩、首、胸、腹、背中、太もも、ふくらはぎと、リッカは全身をペタペタと触り始めた。ボディチェックというわけでもなく、ひたすら筋肉と関節を触ってくるのだが、頬は緩んでいるくせに目だけは真剣(マジ)で、ちょっと怖い。

 

 何事かと戸惑うシンに、リンドウは新しいタバコを取り出しながら「やらせておけ」とでも言うように頷いてみせる。セクハラにはならないんだろうかとシンは考えたが、人類が高度な文明社会を維持できているのはアナグラの中だけであるし、そのアナグラにしても人員は常に不足していて福利厚生にまで手が回らないのが現状だ。つまるところ、この世界ではセクハラなんて概念は摩滅していた。

 

 タバコを咥えてライターを取り出すなり、リンドウは通りがかった整備班員に「火気厳禁ですよ、整備局(ここ)は」と注意され、分かりやすくしょぼくれた表情をしてみせる。

 どうも彼は整備班と相性がよろしくないらしい。

 

()()()は有るのに無駄がほとんど無い。これ全部が()()()()()()なんだ。凄いなあ」

 

 ひとしきり触って満足したのか、リッカはうんうんと頷きながら何度も「凄いなあ」と呟き、もうちょっと触り足りないとばかりに手を伸ばしては関節や筋肉を撫で回し、を繰り返していた。それを眺めていた整備班の何人かが「何故自分にはゴッドイーター適性が無かったのか」と嘆き、また何人かは「次の休暇はトレーニングジムにチケットを使おう」と密かに誓ったという。

 

 

「……で、呼び出した用事は?」

 

 

 流石にしびれを切らしたシンが問うと、リッカは頬を、リンドウは頭をそれぞれポリポリと照れくさそうに掻いた。

 

「あ、そうそう。君の神機(じんき)のことで相談があったんだ。どんなタイプがいいのかなと思って」

「タイプ?」

「うん。ゴッドイーターが使う神機は、大きく分けると白兵式と射撃式の二つがあって、それぞれ更に三つに分かれるんだ。白兵式はブレードで、ショート、ロング、バスター。射撃式はスナイパー、アサルト、ブラストだね。まず君は、遠距離と近距離、どっちで戦いたい?」

「近距離だな」

「だな。こいつにガンナーやらせるのは勿体無い」

 

 シンは自分の拳を見つめつつ、リンドウはシンの射撃の成績を思い出しつつ、それぞれ同じ答えを出した。

 

「白兵式かあ。まあ君なら問題なくやれそうだね。でも、油断は禁物だよ」

「ああ」

「それじゃあ、こっち来て」

 

 

*   *   *

 

 

 リッカに案内され、シンたちは無骨な神機たちが柱石のように立ち並ぶ部屋、神機保管庫へと足を踏み入れていた。

 シンの腰ほどの高さがある台座に、一台に一機ずつの神機が立てられ、無骨な金属のアームで固定されている。空いている台座のほとんどは、現在出動中のゴッドイーターのものだそうだ。

 

 シンが何気なしに目に付いた神機に手を伸ばすと、リッカとリンドウが慌てた声で「ストップ!」「待った!」と制止した。

 

「神機は基本的に、登録された人にしか触れないんだ。それか専用のグローブをはめるか。それでも長時間は触れない」

「なら整備はゴッドイーターが自分で?」

「おいおい、勘弁してくれよ」

 

 リッカの説明にシンが疑問を口にすると、リンドウが心底嫌そうに悲鳴を上げた。

 実のところ、シンもそれほど器用というわけではない。できれば細かい作業は避けたいところだ。

 

「そうしてくれたら私たちも楽かも知れないけど、定期的にオーバーホールしないと、戦場では留め具が一つ緩んでただけで命に関わるから」

「そうそう」

「リンドウさんはもう少し神機を大切にしてくれてもいいと思うけどね! でね、整備局(私たち)は基本的にはマニピュレータを使ってるんだ。直接触らないで、ロボットアームを操作してね」

 

 それでも人間が近付きすぎると反応することが有るんだけどね。と笑ってリッカ。

 

 そのまま「君の神機はあっちだね。A-13」とシンを案内しながらも、彼女は神機の説明を楽しげに続ける。放っておけば何時まででも話し続けそうだ。だが不思議と嫌な感じはしない。同意を求めたり、様子を窺ったり、といった素振りが見られないからだろうか。ただ好きだから喋っているだけで、そこに押し付けがましさが無い。

 勝手にしゃべくり倒すあたりはシンの()()()()たちによく似ているが、そこに押し付けがましさが無い、というのは斬新だ。他人のことを勝手に決めつけたりもしない。嫌味がない、とはこういうことだろうかと、シンの思考は脱線してゆく。

 

 

 ふと右手首を軽く圧迫される感触を覚え、シンは我に返った。

 見ればリッカがシンの腕輪を、ポンポンと軽く叩いて示していた。

 

「神機のコアと、この腕輪とは一対一でリンクしてるんだ。使うときは、神機のサブコアからケーブルが腕輪に自動接続されて、神機とゴッドイーターの偏食因子の照合が行われる。適合試験の時に神機の柄を握らされたでしょ? あの時に君に静脈注射された因子とコア、腕輪をフォーマットして、リンクしてるんだ。人体に入った因子は、その人の影響を受けて()()()()()変化する。そのほんの少しの変化で、コアはそのゴッドイーターを仲間、というか自分自身かな? そう認識するんだよ」

「へえ」

 

 その辺もマガタマに良く似ているな、とシンは一人思う。

 

 シンがトウキョウにいた頃、力を求めた悪魔やマネカタに、スキルを絞り尽くした自身のマガタマを貸したことが有る。それで仲魔が強化されるのであればと思ったのだが、悪魔は自身のマガツヒを吸い尽くされて塵となり、マネカタは元の泥に戻ってしまった。

 

 理屈は未だによく分かっていないのだが、人修羅(シン)血肉(もの)となったマガタマは他の誰にも使えない、ということだけは確かだ。

 そしてその禁を犯せば存在の源(マガツヒ)を失い絶対の死が待っているということも。

 

 

「ああ、ごめんね。君の神機はこっち。A-13が君の()()()()()の住所になるから。覚えておいてね」

「パートナー?」

 

 思わず問い返すシンに、リッカはゆっくりと大きく頷き返した。

 

「うん。ゴッドイーターにとって神機はアラガミと一緒に戦ってくれる大切なパートナーなんだ。この子たちは言葉は喋れないけど、大切に、信じて、育ててあげれば、きっと君に応えてくれる」

 

 台座のロックを解除し、シンの手を導いてそこに置かれた神機を握らせたリッカの面貌には、まるで愛子を慈しむ母親のように柔らかな笑みが浮かんでいた。

 


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