GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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本日は9時にも1話投稿していますので、ご覧になられていない場合は「前の話」からどうぞ。

リッカちゃん、登場。
神機の説明回……になるはずだったんですが、ちょっと長くなったんで二分割することに。



#022 楠リッカ

「遅いですよリンドウさん! また遅刻ですか」

「悪い、リッカちゃん。いやあ、あちこち案内して周ってたもんで」

 

 整備局でシンとリンドウを待ち構えていたのは、大きなゴーグルにツナギ姿の一人の少女だった。

 ホルダーに工具だらけ、油まみれのニッカポッカが妙に似合っている。

 年の頃はシンとそう変わらない――たぶん高校卒業くらいの――怒れる少女に対し、リンドウは両手を合わせて頭を下げていた。その頭を()()()()()()と呼ばれた少女が、手にしたスパナで優しくノックする。

 

「リンドウさん、今日はずっと食堂にいましたよね」

「え、いやぁ……」

「なんでいっつもすぐバレる嘘つくんですか。サクヤさんに言いますからねー」

「そりゃあ勘弁してくれ。な、このとおり!」

 

 くわえタバコによれたコート、くたびれた風体のリンドウが両手を合わせて頭を下げるさまは、妙な説得力がある。相手を呆れさせ、諦めさせる()()()()、あるいは()()()()といった風に。荒野でアラガミを軽々と処理してゆく、デキる男のニオイはこれっぽっちも感じられない。

 半ば(じゃ)れているようにも見えるのは、相手(リッカ)もそれほど怒ってはいないからだろう。

 

 

 一区切り付いたのか気が済んだのか、リッカが「もういいよ」と呆れた声でリンドウを許すと、彼女はようやくシンの方に顔を向けた。

 当の本人(シン)は「リンドウは()()()()()に弱い。覚えておこう」等とニヤついていたのだが、すぐに間抜けた顔を引き締め、さて何の用なのだろうかと心の内で身構える。この世界の常識も知らなければ、そもそも幼馴染を除いて同年代の少女との会話経験など数えるほどしか無い。

 

 真面目な顔をしていれば、少々強面(コワモテ)ではあるが、精悍な美男子と言って差し支えないシンだ。

 特にここは殺伐とした世界である。()()ということは、評価を上げることはあっても下げることはない。既にアナグラの女性職員の間では話題になっていて、隠し撮りされた写真が出回っていたり、肉食系女子たちが虎視眈々と機会を窺っていたり、それについてのトトカルチョが行われていたりもする――配給チケットが掛け金になったことも騒動を大きくした原因だろうが――のだが、その辺りのことを彼が知るはずもなし。

 

 

 閑話休題。

 

 

 急に真面目くさった顔になったシンに、リッカはちょっと驚いた顔をしてみせると、「なるほどね」と何かを悟ったように呟いた。

 

「で、君が新しいゴッドイーターくんだね。お名前は?」

「ああ。間薙(かんなぎ)シンという。君は」

「私は(くすのき)リッカ。ここで神機の整備士をしてるんだ。よろしく」

「ああ」

 

 リッカから差し出された右手をとり、シンは彼女と握手を交わす。

 とはいえリッカは厚手の作業用手袋をつけたまま、気にした様子もない。これまた職人らしい無頓着さだとシンは一人納得してその手を握り返す。だが、不思議とゴワゴワとしたはずの手袋は、シンの手に吸い付くように感じられた。

 

 リッカも同じように感じ、「あれ?」と首をひねる。

 神機整備のための作業手袋は、対アラガミ用のコーティングがされている。オラクル細胞を注入されたゴッドイーターなら反発するはずなのだが……

 これは新米ゴッドイーターへの研修の一環である。その反発がなぜ起こるかを説明し、それから神機の扱いについて、不用意に他人の神機に近付いたり、ましてや触れないように警告をする、そのための話題作りのプロセスだ。多少なりと他人に不快感を与えることに抵抗の有るリッカも、必要性から黙認していた。

 

 だが、いつまで待っても反発することはなかった。

 

 それどころか、妙にしっとりと馴染む感触が心地よい。

 シンは興味深げに、リッカは何が起こっているのかを理解するために、握りあった右手を見つめながら、相手の手を揉みしだくようにニギニギと蠢かせる。

 

 ……なんだこれ?

 

 二人の顔に、ハテナマークが浮かんだ。

 

 

 ここでちょっとだけカメラを引いてみることにしよう。

 

 整備局詰めの神機整備補・楠リッカ。

 男だらけの整備班に咲く一輪の花。紅一点のアイドルである。高校生になるや父の後を追うようにアナグラの整備局に出入りし、班員らに可愛がられながら高校卒業と同時にこの職に就いたのだ。誰もが娘や妹のように大事に思っていた。

 そんな彼女がちょっとばかり男前で背も高ければ体つきも悪くない、ついでに女性職員の間で噂になっている新米ゴッドイーターと、握手をしながら互いに見つめ合っている――ように見えたのだ。そりゃあツナギ姿のむさ苦しい男どもが、血涙流してシンを睨んだって仕方がないというものであろう。

 

 互いに握手をしたまま、その視線は互いの顔と手を何度も往復させる少年少女。

 その二人の傍らで火の付いていないタバコを咥えて「まだ?」とばかりに二人を見やる草臥れた男。

 そしてその三人を取り巻いて、歯を食いしばり目を充血させて少年を睨みつけている男ども。

 

 この日この時の整備局は、名状しがたき不思議空間と化していた。

 

 

「こう見えてリッカちゃんは整備班のエースだからな。怒らせるなよ」

 

 その場にいる全員がこの不思議空間から解放されたのは、周囲の様子に気がついたリンドウが混ぜっ返し、茶々を入れたお陰だった。

 いやリンドウにしてみれば、自分の立場がまるで立会人だか仲人だかのように見えてしまうのではないか? という危惧からの、保身に過ぎなかったりもするのだが。そのことを指摘したとしても、彼なら助かったんだからいいだろうと、うそぶくに違いない。

 

「もう! リンドウさん、そのリッカ()()()ってのやめてって言ってるでしょ」

「そう言われてもなあ」

 

 そうしてやっと気がそれたリッカが、手を離してリンドウに突っかかるのを、整備班の男どもは緩みきった表情で見やり、サムズアップしてリンドウを褒め称えたのだった。

 




前に感想ページの方で話題が出たのでちょっと触れましたが、シンの神機は最終的にオーダーメイドになる予定です。普通の神機じゃ一振りでバラバラになっちゃうからね。仕方ないね。

次回はリッカによる神機解説。
短くまとまればそのまま神機を抱えて、いざ実戦訓練へ。

人間の群れの中でおとなしくしていた人修羅さん、久々にはっちゃける……かも?


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(20180426)サブタイトル修正

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