GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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アナグラ上層部の、ちょっと嫌な話。



#021 クソッタレな職場

 そうして四日目。今日はアナグラの施設を一通り巡るオリエンテーションである。

 ナビゲーターはこの世界で唯一の馴染みと言って良い――とシンは思っている――雨宮(あまみや)リンドウ。彼は各施設を順繰りに紹介していく……はずだった。

 だが実際はと言えば、リンドウはやる気なさげにダラダラと歩きながら、シンをエントランスホールに連れて来ると、カウンターに置かれていたリーフレットを一部取って手渡し、「だいたいそこに書いてある」と言って案内を終わらせようとした。

 

「先にちょっと話しておきたいことが有ってな」

 

 そうして、朝食時を過ぎて閑散としている食堂の席に、二人、向かい合って座る。

 

 

「たぶんお前さんが勘違いしていることを、先に説明しておく」

 

 そう前置きをしてから、リンドウは話を始めた。

 こうしてこの男を真正面からじっと見たのは初めてかもしれない。などと益体もないことを考えるシン。正面に座る男は、まだ二十歳(はたち)になるかどうかの若さに似合わず、どこか世慣れた中年サラリーマンのような雰囲気を漂わせている――もっとも、この時代にはシンの想像するようなサラリーマンなんて存在は、どこにも居ないかもしれないが。社会に出ることもなく学生のまま人生を終えたシンにしてみれば、とても同世代とは思えない成熟ぶりだ。

 自分が大人しくリンドウの言うことに従っているのも、そのあたりで多少、気後れしている部分があるのかもしれない……そんなシンの思索に気付いた様子もなく、喫煙所で立ち話と洒落込んだリンドウは、配給の紙巻き煙草を咥えたまま気怠げに話を続ける。

 

 

「アナグラってのは、防壁で囲まれたこの都市(ネスト)のことじゃない。あくまで俺らがねぐらにしている、ここ。この四角い建物のことだ。正式名称は()()()()()()()()()ってんだが……まあ、そう呼ぶ人間(ヤツ)はお偉いさんくらいだな。どこに行っても()()()()だけで話が通る」

「じゃあ周りに住んでる人間は、アナグラとは無関係なのか?」

「ああ。アナグラの職員は全員、アナグラの中で生活してる。だからまあアナグラなんて言われてるんだけどな。で、外にあるのは外部居住区っつって……あー。こう言っちゃあなんだが、勝手に住み着いた連中だ」

 

 なんとも言いにくそうに視線を彷徨わせ、頭をボリボリと掻きながら、リンドウ。

 

「まあ、最初はな。フェンリルも人類救済を看板(カンバン)にしてるし、食料の配給なんかも近くに居てくれた方がいろいろと都合が良いってんで黙認していたんだが、当時の予測以上にアラガミの増殖が早かったとかで、あっという間に対アラガミ防壁のこっち側が、いっぱいになった」

「そうなるだろうな」

「で、何度もアラガミに襲撃されてるうちに、()()()()()()()()()()()()()()()が気がついたわけだ。アラガミに壁を乗り越えられてから、アナグラまでの時間稼ぎに()()()()()んじゃねえかって」

「……ああ、なるほど」

「まあそんなクソッタレな職場だよ、ここは」

 

 咥えタバコを足元に吐き捨てると、必要以上に力を込めてその火を踏み消すリンドウ。

 シンはこの時代において、急激な減少傾向にある人間――もはや()()は稀少資源というべきだ――を、単なる肉の壁として消極的に浪費する行為に、如何なる正当性があるのか? それを肯定した()()()は如何なる未来を企図しているのだろうか? と、そんなことが妙に気になった。

 シンの冷めた――あるいは()()()と言うべきか――視線から逃れるように、リンドウは気に食わない誰か(ロクデナシのクソッタレ)の代わりに踏みにじった煙草の残骸を、じっと睨みつけていた。

 

 

 その気まずい空気も、そう長くは続かなかった。

 ぼつ、と何かが通電したくぐもった音が響くと、続いて「あーあーあー」と、わずかに幼気の残った女の声が、壁に添えつけられたスピーカーから聞こえてきた。人間世界の最先端の科学の砦であるはずのアナグラだが、シンにはその箱型スピーカーが、まるでかつての小学校の体育館にあったそれと同じに見えた。

 そんなノスタルジーなどお構いなしに、短い館内放送が始まる。先程の声でだ。

 

『雨宮リンドウ、間薙シン。両名は至急、整備局へ出頭してください。繰り返します。雨宮リンドウ、間薙シン。両名は至急――』

 

「……リンドウ?」

「あーそういやそんな話、してたっけ。スマン、忘れてた」

 

 シンの冷めた視線を避けつつ、リンドウは頭を掻いて謝罪した。

 




12時にもう一話、更新されます。

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