GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

21 / 48
学校の設定については基本的に本作オリジナルです。(GEm未プレイなので制服データの存在くらいしか知りません)



#020 閑話:シンの三日間

 フェンリル極東支部――通称「アナグラ」。

 ここに来てからの三日間を思い返し、シンは久しぶりに忙しい生活を送っている気分になっていた。

 

 

 初日。ヨハネス・フォン・シックザールとの面談は、まるで大学入試の面接でも受けているようだった。

 シックザールについて、シンをここに連れてきた雨宮(あまみや)リンドウは()()()()()()()()と評していたが、面談の感触から、シンは彼を偽悪的な善人ではないかと想像している。もっとも、そうした人物が善意からとんでもない厄災を運んでくることは少なくない。人格の善悪とは往々にして、行動の善悪と乖離しがちだ。

 そんな訳知りのようなことを思うシンだが、自身の人物眼にそれほど自信を持ってはいない。人生経験の乏しさは、痛いほど自覚しているのだから。

 

 

 二日目は一日がかりで能力試験。

 興味本位で行われた筆記テストでは、この時代にしては異常なほどの高等教育を受けた形跡も確認され、後ほど別の問題が噴出するきっかけとなるのだが、今は置いておく。

 

 次に行われたのが身体能力のテスト。握力や跳躍、反復横跳び、遠投など、ほとんどが体育の授業で行われていたものを彷彿とさせる内容だった。もっとも、そこに露骨な戦闘能力のテストも含まれていたのだが。

 

 そのテストで、シンは超人的な身体能力――特に白兵戦の才能――を示した。ゴッドイーター用の測定機器を投入してなお、ほとんどの項目を「測定不能」で埋める高い能力を発揮し、立ち会った全ての人々の度肝を抜いた。

 ちなみに測定機器の多くは高級品であり、それらの幾つかが破壊されるに至り、室内には居並ぶ研究者たちの悲鳴が(こだま)したという。

 

 反面、射撃戦の能力はお粗末なもので、こちらは同席した研究員の「このまま遠距離式(神機)を持たせて戦場に出したら()()()より酷いことにならんか?」という評価(ボヤき)がすべてを物語っている。

 思えばシンのマガタマに秘められた攻撃能力は、大砲を釣瓶撃ちにするような面制圧に偏っている。狙撃と言えば対象のマガツヒに直接干渉する各種単体魔法か、あとは必中が約束されている因果逆転攻撃【至高の魔弾】くらいしかないのだ。狙撃場(シューティングレンジ)で射出されるソーサーを撃つ感覚など分からなくても仕方がないというものだろう。

 

 

 そして三日目。シンのゴッドイーター適合試験が行われた。

 ゴッドイーターとなった人間は、体内にオラクル細胞を、右手首にフェンリルへの服従の証である深紅の腕輪を、そしてその手にアラガミ狩りのパートナーたる神機を与えられる。

 シンに言わせると、それらは合わせて一つの()()()()()()()()()()だという。

 

 本来ならば体細胞を入れ替えられる激痛に耐えねばならない移植手術も、二十五個のマガタマそれぞれの活性、不活性を操作し、日常的に肉体の概念そのものを作り変えているシンにとっては、ごく慣れたものでしかない。

 かくして本来ならばその激痛に堪え、かつ半日から二日間はひどい倦怠感に悩まされるはずの適合試験を、シンは平然とクリアし、フェンリル極東支部所属のゴッドイーターとなったのである。

 

 

*   *   *

 

 

 かくして新人ゴッドイーターとなったシンだが、彼に対する期待と反発はじわじわとアナグラ内に広がっていた。

 彼の能力を目の当たりにした研究局員や、万年人手不足に悩まされている防衛班の多くは前者を。その他の職員、特にゴッドイーターと接する機会の多い整備班、ゴッドイーターのミッションをバックアップする作戦班、食堂や清掃局などゴッドイーターの荒っぽさに悩まされる職員は後者の反応を示している。

 

 

 そして同僚となるゴッドイーターの意見もまた、大きく三つに分かれていた。

 

 一つはリンドウや彼に近しく、シンがアナグラに来た経緯を知っている者。

 彼らの多くは()()()()()と呼ばれる周辺集落の出身者だ。彼らは彼らの家族や友人らがフェンリルの支援を受け続けるため、交換条件として適合試験を受け、ゴッドイーターとなって命がけの戦場に身を投じたのだ。ただ生を繋いできただけの者も多く、性根のネジ曲がったものもいるが、多くは互助の精神を持った者たちである。そうしなければ生き残れなかったから、という切実な事情もあってのことだが。

 だが、だからこそ全くの身一つ、フェンリルの支援を必要としないはずのシンが、業を背負うことになったことには深く同情し、後ろめたさを感じている者すらいた。

 

 一つは部外者として敬遠する者。

 彼らはフェンリル直轄の教育機関――通称「学校」――の出身者たちだ。フェンリルは幾つかの学校で、職員の候補生たちを育てている。国家がその形態を維持できなくなった時代に、義務教育など存在するはずがない。ましてや高等教育など夢のまた夢となっていた。だがフェンリルの力の源泉は、まさにその高等教育とその先にある科学の力である。

 彼らの中からゴッドイーターになった者たちは、自身をフェンリルの生え抜き(エリート)と自称し、数こそ少ないが独自に派閥を形成している。そんな彼らにとって、初歩とは言え科学的教養を持った部外者(シン)の存在は、ただただ不気味なものに映っている。

 

 そして最後の一つは単に商売敵と見る者たち。

 彼らにとって同僚は皆、自分たちの獲物を横取りしようとする邪魔者だ。強力なアラガミのコアと素材を得、自身の神機をより強く育てようとする者。あるいはアラガミを狩ることで得られる報奨や、ゴッドイーターとしての特権、そして民衆から寄せられる羨望を独占したい者。

 彼らにしてみれば、新人などはただ囮として、あるいは壁役として使えればそれで十分なのだ。自分よりも強いゴッドイーターなど余計な存在でしか無い。彼らにとってはシンはおろか、リンドウたち第一部隊すら疎ましい存在だ。それは彼らが優先的に高難度ミッションを任じられ、より良い素材、高い報酬を得る機会に恵まれているからだ。

 

 

 厄介ごとの渦の中心。それがフェンリル極東支部におけるシンの今の立場である。

 

 まるで腫れ物扱いではあるが、それだけ彼の存在が異質だということだ。

 

 

 そんなシンもゴッドイーターの一人――即ちフェンリル職員――となったからには、例外なく新人教育を受けなければならない。

 だが(シン)はフェンリル都市(ネスト)どころか周縁集落(サテライト)ですらない、既に人類文明から打ち()てられたはずの()()出身だという。その知性に高等教育の残滓は見えるものの、どのような環境で暮らしてきたかも分からないのだ。これまでの教育マニュアルなんて役に立たないかもしれない。

 実際にはそれほど大きな違いはないのだが、そんなことは誰にも分からない。

 

 かく言う当人は、精々がアルバイトの新人研修くらいにしか考えてはいないのだが。

 

 

 さて。

 ゴッドイーターとなったシンに、フェンリル職員の基礎教育が行われることになった。

 これには特に、シンの異常性に目をつけた研究班、万年人手不足に悩まされている防衛班、そしてこれから迷惑を被ることが確定している整備班の強い要望があってのことだ。それぞれ好奇心、即戦力、面倒事の最小化と、その内実には随分な違いがあるようだったが。

 

 この仕事を、シックザールは誰に任せるべきかで頭を悩ませることとなる。

 最初に案内役に立候補した研究員はシンを検体(モルモット)にしようと目論んでいるのがまる分かりだったし、次に立候補した防衛班のゴッドイーターは案内を口実にサボる気マンマンでアテにならない。任せてみようかと思っていたオペレーター見習いの竹田ヒバリは、座学と雑用で疲労困憊といった有様だ。今にも倒れそうだったので、二日間の休暇を与えた。(翌日、エントランスに暑苦しい男どもの悲鳴が上がった)

 

 結局、この仕事もリンドウに丸投げす(まかせ)ることにした。「間薙シンにアナグラの各施設の案内と、ゴッドイーターの仕事を説明するように」と、ただそれだけを任務として。

 年齢のわりにスレたところのあるリンドウは、それだけで概ね事情を察し、任務を拝命した。

 




リハビリ更新。
もう一つの方にひっぱられて、二人称で書きそうになっちゃうのが地味に大変だったりします。

次回、ちょっとイヤな話を挿んだ後、神機選び、初任務、の流れになる予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。