GOD EATER Reincarnation 作:人ちゅら
#001 荒野
――随分と砂埃の酷いところに落とされたようだ。
あたりを見回せば、亀裂だらけのアスファルト道路やら、壊れた機械やらが点在している。遠くには屋根に大穴の空いた家屋、倒壊したビル群もある。元は農地だったのだろうが、廃棄されて随分と経つのだろう。露地が乾けばこうなってしまうのも仕方がない。
遠くで爆発音がする。
大気が強く震えると、続いて爆発音が二回。何気なく視線をやれば、出来損ないの花火のように何かが燃え上がり飛び散っている。あれだけの規模となると、飛行悪魔としてはよほどの大型だったのだろうか? 自分の知る限りでは、まず
まあ何にせよ距離はあるし、巻き添えを食うことはないだろう。
そうして再び静寂が訪れた。
ここではない世界で繰り広げた、生き残るための闘争。その全ての決着がついた時、金髪の少年は「新たなボルテクス界へ送ろう」と言った。それはシンの生き様をして彼を楽しませた、その対価であるらしい。
間薙シンは、まず人間として生を受けた。そして一つの世界の滅びに立ち会い、新たな世界に
悪魔として生きた世界は、次なる世界を生み出すための、卵のようなものだったらしい。そこは無意識の
飽くなき闘争の中、人の心を残していたシンは葛藤し、やがて人でも悪魔でもないもの――
……はずである。
どうもその辺りの記憶があやふやで、ハッキリと思い出すことができない。
――どうあっても上着は返さないつもりか。
衣類らしきものは相変わらずデニムパンツのみ。素肌を砂混じりの風になぶられ、シンは一人、つまらないことを考えた。
* * *
望む対象の情報を容赦なく暴く
空を見上げれば赤々と、太陽の代わりにあの忌々しいカグツチが輝いている。あそこにもあのハゲ頭が居座っているのだろうか。だとすればここでの自分の役割もまた、再びこの鉄拳を数えきれないほど叩き込んでやることなのか。あのハゲ頭は石頭であった。精神的にも、物理的にも。
大きな溜息を一つ。
できれば休みが欲しい。ここがボルテクス界であるならば、いずれ戦わなければならないことは分かっている。その時は大いに暴れよう。そしてあのハゲ頭をバラバラのキューブに分解して創世を成す。今度こそコトワリを拓くのだ。そして今度こそヤクソクを……
ヤクソク……はて、それは誰と交わしたものだったか。幼馴染のツンケンした少女か、あらゆる希望を手放してしまった友人か、オールバックの若ハゲか、あるいは最後まで悔いていた、あの――
……少なくとも若ハゲではない。そうであるはずがないのだ。数多のハゲは自分の敵であったのだから。
それにしても静かなものだ。前のボルテクス界ではそこら中に悪魔が跋扈していて、ちょっと歩けば因縁をつけられては命の取り合いになったものだが。
「お?」
それはシンがこの世界に来てから、初めて発した一声であった。
遠くに二足歩行の恐竜のような動体を発見する。むき出しの筋肉質な脚と腹。背中はびっしりと獣毛で覆われている。そして頭部と大きな尾は生物にも金属にも見える、鬼面のような殻……あれがこの世界の悪魔なのだろうか? 万里の遠眼鏡で覗いてみると「オウガテイル」という名が分かる。なるほど、
だがいくら覗き込んでみても、その素性がさっぱり見えてこない。どの神話で、どの文明で、どのように生まれ語られてきたのか。そしてどのような力があるのか。それは悪魔ならば、どんなものでも持っているはずの生存証明。自分の知らない文明のものでも、近現代の都市伝説であっても暴くはずなのだが。
それともこの全知の宝重も、こちらの世界ではそこまでの力が無いのかもしれない。あるいはまだ馴染んでいない、なんてこともあり得るか。なにしろボルテクス界の間を移動したことなど、これまで一度もなかったのだ。可能性はいくらでも考えられる。
仕方がない。まずは情報収集だ。
----
(20181028)修正
万里の望遠鏡 → 万里の遠眼鏡
(20180524)誤字訂正
伊科礼悟様、ご指摘ありがとうございました。