GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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 久しぶりの更新になります。
 これまでが「別世界漂流編」とすると、ここから「新生ゴッドイーター編」といったところでしょうか。

 シンに割り当てられた部屋の内装は、GE版の主人公の部屋を参考に、各所がちょっとずつ安っぽいイメージです。(資料:『ゴッドイーター 5th Anniversary 公式設定資料集』)


第二章 新生ゴッドイーター編
#015 筆記試験


「話は終わったか。また妙な演説でも聞かされたんじゃないのか?」

 

 シックザールとの面談が終わると、隣室で待っていたリンドウが片眉をひそめて笑った。

 外にいた時とは違い、それは少し影のある笑顔だった。

 

「いいや」

 

 シンが軽く首を振って否定すると、「なら、いい」と安堵の表情を浮かべるリンドウ。シンには実務的な人間に思えたのだが、演説癖でもあるのだろうか?

 

(ま、こちらの話を聞かずに一方的に喋る手合には慣れているし)

 

 アレらに比べれば会話が成立しただけ何百倍も()()というものだ。シンはそう結論づけた。

 

 

「そうだ。ほれ」

 

 ポイッと無造作に投げられたものを、シンは右手でキャッチする。ホテルの鍵を彷彿とさせる、大振りな棒状のキーホルダーがついた鍵だった。

 

「取り敢えず、部屋の用意ができたってよ」

「部屋?」

「ここまで連れて来といて、ほっぽり出すわけにも行かんだろ」

「そういうものか」

 

 シンの経験上、そこまで面倒見の良い()()()()に遭遇したことはない。まあ高校生までの平凡な人生と、あとはボルテクス界で悪魔たちと戯れていたくらいの経験しかないのだから、当然といえば当然かもしれないが。

 シックザールに注目し、また他の人間たちの中にコトワリを啓くものが現れないかどうか観察するため、アナグラに居ようとは思っていた。だからその申し出が、渡りに船だったことには違いない。

 

 ただ、シンには睡眠を摂る必要がない。人修羅となった彼は、疲れることがなく、眠る必要も、食べる必要も無いのだ。そして(ヒト)であることを捨て、すべての悪魔(アクマ)の頂点――混沌王となった今では、「休む」という概念は、感覚を閉ざして目的の時間まで待機する、あるいは活発な活動を停止して思索に集中する。そのどちらかのために採られる()()となっていた。

 

 結果として、部屋を用意したという申し出を受け、ようやくシンは、人間の生活というものを思い出すこととなった。

 

 

 言われてはじめて、支部長の語った「資源」や「受け入れ」という文言の意味に思い当たる。自分の迂闊さに小さく苦笑いを浮かべると、リンドウが眉をひそめた。

 

「迷惑だったか?」

「いや。助かった」

「済まなかったな。言っておくべきだった」

 

 それでその話は終わった。

 そう思っていたのだが――

 

 

*   *   *

 

 

 シンに割り当てられたのは、家具一式の揃った個室であった。彼が人間だった頃の乏しい経験からすると、それは小洒落たホテルの一室のようだったが、何故か彼は、古い海賊映画の船室を思い浮かべていた。フローリングの床のせいかもしれない。

 入って左手には四角いテーブルと、それをL字に囲む安手のソファ。壁面のサイドデッキの隅には小型の冷蔵庫。右手にはセミダブルのベッドと、その奥には灰色の無骨な大型筐体。サイドデッキには音楽プレイヤーやコーヒーセット、何冊かの本、観葉植物、レトロな電気スタンドなどが配置されている。

 そこが本来、ゴッドイーターに割り当てられるフロアであることを、シンはまだ知らない。

 

 そしてその案内が終わってすぐにシンは館内放送で呼び出され、その十分後、彼は何故か、テスト用紙を前にしていた。

 

 

「制限時間六十分。始め」

 

 その言葉を聞くや否や、シンは鉛筆を手にして設問をざっと眺める。幾つかの問題にバツ印をつけると、目安のために置かれた時計を確認。それからようやく設問を解き始めた。全体を眺めて手の掛かりそうな設問に印をつけ、それ以外の問題をさっさと問いていく。高校生時代に身に付けた、彼なりのテスト攻略法である。

 人間だった頃の記憶はだいぶ薄れてしまったのに、こうしたことは忘れないのだなと、後になってシンは笑った。

 

 

 いわゆる理数系の設問には、それほど時間を掛けずに済む。

 元から得意だったということも有るし、なにより人文系に比べ、数学や自然科学の基礎はそうそう変化するものではない。シンの人間としての生が終わりを告げた二十一世紀初頭と、地上の殆どをアラガミに席巻されたこちらの世界の文明レベルは――幾つかの先進技術を除けば――、少なくとも基礎の面においてそれほど変化はなかったようだ。

 

 対する人文系の設問は、一部ほとんど手を付けられないものがあった。歴史だ。

 言語に関する設問ならば、まだ手の付けようも有る。混沌王は、あらゆる悪魔とのコンタクトが可能である。それ即ち、彼らの背景にあるあらゆる文明とのコンタクトが可能であるということだ。シンにとって、もはや言葉上の障壁は存在し得ない。故に漢字だろうが熟語だろうが慣用句だろうが、あるいは修辞学や論理学的な設問も、そう手間取ることはない。

 だが、その権能はコンタクトを()()()()()というだけで、成功させられるというわけではない。彼らの背景についてまで、いちいち教えてはくれないのだ。第一、他の悪魔に言うことを聞かせるだけなら、力さえ有れば良い。結論として彼は、それぞれの文明の全てについては過去の学習以上のことを、まったく知らない。

 あまつさえアラガミに抗するために繰り広げられた戦争の歴史など、知りようもない。

 

 

 結局シンは、解ける設問だけを全て解いた段階で、監督役の職員に終了を告げ、答案用紙を手渡してしまう。

 

「え? あ、お疲れ様でした。えっと、どうしよう……じゃあ隣の休憩室で、少し休んでて。次の準備ができたら呼ぶから」

 

 シンについて、ただ()()()()()()()()()()()()としか聞いていなかった職員は、どうせほとんど白紙かデタラメだろうと()()を括っていた。だが実際には、答案用紙の約半分がそれなりに読める日本語で埋まっていることに驚き、次に指示になかった制限時間内に途中終了した現状に戸惑い、とりあえず終了を受け入れて上役に相談しに行くことにした。

 

 休憩室に移動して、シンは呼ばれるまでのしばらくの間、活動を休止した。

 

 

*   *   *

 

 

「明らかに異常ですよ、これ」

「なんでこれだけの学力を持ちながらアラガミの知識が無いんだ」

「これ、鍛えれば研究班でもやっていけるんじゃないですか?」

「だがサカキ博士の話では【適合可能性86%以上(パッチテスト:オレンジ)】らしいじゃないか」

「となるとゴッドイーター行きか」

「簡易パッチって防疫室のあれだろ? 誤認の可能性もあるんじゃないのか」

「だからその辺をこのあと測るんだろ」

「適合率低くても基礎(ガタイ)が良ければ()()()()には(つか)えるんだし」

()()()()で潰すには惜しくないか」

「年齢的にはまだ高校くらいですよね?」

候補生(がくせい)だった可能性は」

「無い。適合パターンを持つカードは発見されなかった。だいたい候補生だったらアラガミの知識が無いのはおかしいだろう」

「ロシア支部の方も見たか?」

「ロシア?」

「あそこは支部長肝煎りだ。何か隠していてもおかしくない」

「そんなところに潜るのはリスクが大きすぎるだろ」

「仕方ないか」

 




 初めましての方には、どうぞ宜しくお願いします。
 待っていてくださった方には、ありがとうございます。
 長らくおまたせいたしました……といっても例によってストーリーはほとんど進んでいないわけですが。

 不覚にも体調不良で倒れてしまいまして、どうにか持ち直して退院したのが先週のこと。
 気がつけば随分と間も空いてしまいましたし、正直どうしたもんかと思ったりもしましたが、書きたい欲は残っていたので継続させていただくことにしました。
 思いつくままに書き散らしている迷子のような作品ですが、お付き合いいただければ幸いです。

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