GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

14 / 48
シックザールとサカキ博士って、ゲームでは声質の違いでハッキリ分かるんだけど、口調はわりと似通っている部分があるので文字にすると書き分けが難しいです。



#013 疑惑

「それよりも()だ」

「本人にその気があれば、能力的にはまったく問題ない。このパラメータなら新型機すら使いこなせるはずだ。人格面は、まあ君が納得いくまで面接でも何でもしてくれ」

「ああ、もちろん」

 

 サカキのどことなく投げやりな言葉に、シックザールはただ鷹揚に頷き応えた。

 最終責任を負う都合上、シックザールは有望なゴッドイーター適格者との面談を希望する。その際には研究者としての性分なのか、やたら細かい疑問点について質問攻めにすることがあり、アナグラでは「支部長との面談」はその理由を問わず面倒の一つと目されている。

 怒らせなければ良いが。サカキは立場が変わってもなお変わることのない親友の愛すべき欠点と、それによって巻き起こされた過去の騒動について思いを馳せた。

 

 

 そんな親友の胸中など知る由もないシックザールは、そのままモニタに映るシンの姿に視線を移し、眉間に皺して小首を傾げる。

 

「それよりも今の様子、少々気になることがあるんだが」

「というと?」

「見た目の年齢はまだ十五、六歳といったところだろう。仮に驚くほど若作りだったとしても、三十歳以上ということはあるまい? それなのに、あれはどういうことだ」

 

 シンはタブレットを早くも使いこなしている。それはこちらの人間にとって、少々以上に特異なことであった。

 

 前にも触れたとおり、彼の外見年齢は実年齢よりも随分と若く見られてしまう。仮にシンが十五歳とするなら、産まれたのは西暦2053年。既に国家がアラガミに対抗する力を失っており、彼が物心つく頃には民衆の手からコンピュータ技術のほとんどが失われてしまっていた。

 フェンリルが国家に成り代わったちょうどその頃に産まれたと思われる少年が、情報端末に触れる機会があるとすれば、それはフェンリルのハイヴで生まれ育った者だけだ。だが――

 

「ハイヴの市民データに該当する個人(カード)は存在しない」

「過去のP53因子適性検査の方にもデータは無いね」

 

――フェンリルの管理するデータベース内に、間薙シンに該当するデータが一切存在しないのだ。

 

 フェンリルではハイヴに住まう全住民の基礎データを管理している。これは都市機能を最適化するために必要なものとされ、ハイヴ内からゴッドイーター候補者を探し出し、人員補充する際にも使用されていた。

 極東支部は対アラガミの最前線ということもあり、データベースへの閲覧(アクセス)権は最上のものが与えられているのだ。世界の現状を考えれば、このデータベースに今なお未登録の人間など九分九厘、存在しえない。

 

 それはつまり、彼が外部で生まれ育った人間であること、そしてこれまでフェンリルの支援を受けずに生きてきたことを意味している。

 だが階層構造や用語検索といった概念は一つの技術であって、その日暮らしに汲々とした市民が身につけられるものではないのだ。

 そうした意味で、シンの行動に対して疑義を抱くことは、彼らにとっては当然のことだったと言える。

 

 

「他の支部の人間という可能性は、無いのかい?」

「もちろん可能性はゼロでは無いさ。何らかの理由で秘匿されていた可能性は否定できない。産まれてから今までの十数年間、負傷も疾病もなく健やかに過ごしたとすれば、だがね。そうでなければ必ず基礎データは作成される」

「そうだね」

「どちらにせよ現状では連絡も取れないんだ。定期的に人員を往来させる提案はされているが、その第一便が――」

「リンドウ君の報告にあった、アレかい?」

「そうだ」

 

 リンドウはアナグラ帰投後すぐに、現場写真のデータを提出していた。

 人為的なものである可能性を考慮し、既に調査隊の編成が始まっている。

 

 現場が多少遠いため、そう長い時間ではないが、このハイヴの防衛力が低下することになるだろう。

 それでも精密な調査を必要とするのは、極東支部(アナグラ)が孤立することを防ぐためだ。

 

 

 極東支部は何かと特別(イレギュラー)な場所である。アラガミの発生数、危険度、ともに世界最高を記録する。またその数のせいか、あるいはアナグラとの生存競争がそうさせるのか、新型アラガミの発見数も極東支部が最多である。そしてそれは、極東支部に最も刺激的なデータが集まっているということだ。

 特に人類の救世主たるゴッドイーター開発、その中核たる偏食細胞研究を拓いたペイラー・榊、またその技術からアラガミ装甲、対アラガミ防壁を設計したヨハネス・フォン・シックザールという二人の天才が常駐しているのがこの極東支部だ。いかなる新技術が開発されるのか、世界中のフェンリル関係者が注目している。その技術と開発力を独占できたハイヴは、他のハイヴに対する影響力を強め、より優位に立つことが出来るだろう。

 

 極東支部から他支部への連絡が取れなくなったことは、もしかしたらそうした策謀によるものかもしれないのだ。

 

 

「彼がその定期便で密航してきた可能性は?」

「無いとはいえない。だがウラジオストクから墜落現場まで、直線距離でも約1000キロはある。巡航速度で少なくとも4時間はかかったはずだ。どこに隠れていたのかという疑問が生じる。同意の上で搭乗していたとするなら、彼らは何のために、どこから連れてきたのか」

「政治の話は分からないがね。オラクル細胞の移植が行われていない以上、新型ゴッドイーターのお披露目という可能性は低い」

「つまりは」

不明(わからない)、ということだね」

 

 辣腕で知られた極東支部支部長も、これほどの異常事態に対しては、流石にすぐには思考をまとめられなかった。

 

「ペイラー。君ならどうする?」

「しばらく監視するしか無いだろう? 能力的には、リンドウ君とソーマ君か」

「それは……」

「僕ならそうする、というだけさ」

 

 対するサカキ博士は、実にあっさりと答えを出してみせた。それは場当たり的な対策に過ぎないが、しかしそれ以外に無いという絶妙の一手であるようにも思える。

 他人事として突き放す無責任な親友(スターゲイザー)に、責任者(シックザール)は恨みがましい目を向けた。

 




(20171213)誤字訂正
 お稲荷寿司様、誤字報告ありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。