GOD EATER Reincarnation 作:人ちゅら
タツミと別れてすぐ、リンドウは一つのドアの前で立ち止まる。
彼があの大きな赤い腕輪を壁から出っ張った何らかの装置の上に乗せれば、そっけなく『検疫室』と打刻されたプレートが張られた重そうなドアが横に開いた。
「外からおかしな病原菌やらを持ち込んでないかどうか、ここで検査せにゃならん。まあただ部屋の中でダラダラしてれば済む。お前さんは初めてだから、ちょいとばかり時間がかかるかも知れんが」
「そうか」
リンドウは部屋の隅のソファに寝転がると、退屈そうにあくびをかみ殺す。ああ、と何かを思い出したように声を出し、起き上がってソファの裏をまさぐりだした。
「退屈だったら、この辺でも見ててくれ」
差し出されたのはA4サイズの分厚い液晶端末。シンにしてみれば随分と懐かしい、文明の香りであった。
そう思ってさっそく受け取るが、その端末にはボタンらしきものが無かった。どこで電源を入れるのかも分からなければ、起動後にどう操作すれば良いのかも想像がつかない。あるいはキーボードが格納されているタイプかと想像し、金属製らしいフレームや裏面、縁をなぞるようにしてそれらしき凹凸を探すが見つからないではないか。
どうすれば良いのだろうか。
「あー、すまん。それはその透明の平らなところに手のひらを当てて。そう。ほらな」
言われたとおりにしてみると、しばらくトライバル柄の
シンはかつての世界のATMを思い出すが、あれと比べても動作が軽い。それもそのはず、彼の工業技術は西暦2003年の民生品レベルでしかない。実はこれも、大型のPDAや電子手帳のようなものだと思っていたのだ。
とはいえピンチやスワイプといった特殊なタッチ操作を除けば、インターフェースや用語についてはほとんど変化がない。OSもブラックボックス化されているため、感覚的にはほとんどウェブのブラウジングだ。すぐに慣れた。
「お、端末は知ってるか? お前さんチグハグだなあ。まあいいか。そいつで時間つぶしててくれ。俺はちょっくら寝てるから」
そう言うやいなや、再びソファに寝転がると、リンドウはすぐに寝息を立て始めた。
シンがやたら頑丈で重い端末を操作し、目についた「バガラリー」という動画のシリーズを眺めていると、たっぷり数時間ほどしてからドア上の検疫終了のランプがついた。
* * *
検疫室の様子をモニタからチェックしている二人の男。
一人は金色の長髪を無造作に束ね、きれいに整えられたスカーフ、糊の利いた純白のロングコートをまとった清潔感のある男。名をヨハネス・フォン・シックザール。フェンリル極東支部の支部長を務める。
もう一人はよれた黒のインバネスコートに大きく不似合いな丸眼鏡、そしてあちこちに飛び跳ねた頭髪と、およそだらしなさが全身に溢れている男。名をペイラー・
白と黒、およそ対象的な姿でありながら、その目は共に研究者のそれであった。
「ペイラー。どうかね、彼は」
検疫室の様子を写したモニタから視線を外さず、まずシックザールが口を開いた。
「病原体検査はオールグリーン、P53
サカキが手元のタブレットを確認しながら報告する。
チャートを表示したタブレットをシックザールへ手渡すと、そのデータを見た彼が喜色を露わにした。ひどく楽しげだ。
「ほう、これはまた! ……いや待て。この数値、ソーマよりも高くないか?」
「ヨハン。ソーマ君のデータは君の専有だったと思うのだが」
「……そうだったな」
実のところ、フェンリル極東支部、通称
だがサカキはそれを黙認していた。彼とソーマとの関係を考慮した結果である。
どうにも気まずげな表情になりながらも、シックザールはすぐに大きな声で方向転換を図る。
「ともあれだ! リンドウ君のわがままも、たまには役に立つということだな」
あからさまな話題逸らしに、しかし
「彼はただ善人なだけだよ、ヨハン」
「来年には第一部隊の隊長だよ、彼は。それでは困る」
「君の立場にすれば、そう言わなきゃならないことは、理解しているよ」
「相変わらず君は
「そうあることが僕の願いだからね、ヨハン」