GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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やっとアナグラに到着。
現時点では原作主人公やコウタたちはゴッドイーターになっていないので、登場はしばらく後になる予定です。



#011 アナグラ

 リンドウとシンを載せた装甲車は、砂埃の舞うアスファルトの道路を走る。

 メンテナンスの行われていないアスファルトは、ところどころ欠けたまま放置されていた。「もうゴッドイーターがアラガミ狩りに使うくらいだからな」とはリンドウの言。ハイヴの周縁集落(サテライト)に食料配給の輸送車が走っていた頃には、まだいくらかは整備されていたらしい。

 

 そうしてようやく前方に見えてくる。あの時に万里の遠眼鏡で見た、蓮の花びらのような外壁を持った都市。

 今や数えるほどになってしまった()()()()()()()()()()()を標榜する、フェンリルの直轄都市(ハイヴ)だ。

 

 

「随分とデカい壁だな」

「ああ。ありゃ()()()()()()()だ」

「あれでアラガミの侵入を防ぐのか。にしちゃあ隙間だらけだが?」

「あー……素材が足りなかったり、手抜き工事で倒壊したり、あと大型種に破壊(こわ)されたり。色々だな」

 

 対アラガミ防壁はアラガミのコアが素材になるらしい。だからゴッドイーターは常にアラガミを狩り続けている。アラガミの数を減らし、防壁も増やせれば一石二鳥というわけだ。

 

「とはいっても減ってる実感は無いけどなアラガミ」

「やらないよりかはマシ、程度か」

「だから俺ら(ゴッドイーター)の仕事は無くならんわけだ」

「ブラックだなあ」

「ぶらっく?」

 

 過剰労働(ブラック)という概念は無くなってしまったようだ。

 そんなことを言っていられないレベルまで追い込まれている、ということなのだろう。無論、元よりただの俗語にすぎないのだ。別の言葉に置き換わっているだけかもしれないが。

 

「そら、そろそろゲートだ。挨拶ぐらいで、あとは黙っといてくれ」

「分かった」

 

 

 車はそれまで正面に見えていた大きなゲートを避けるように右折し、そこから大分離れた場所にある小さなゲート前へ到着する。傍らにある小さな見張所の中から、職員らしき若者が手を振っていた。

 

「ここは?」

「俺らの職場直通のゲート。正面ゲートから入ると手続きが面倒だからな」

 

 特に咎められることもなく、装甲車が一台どうにか通れる程度の小さなゲートを通過する。シンはそこで、なんらかのセンサーが照射されていることに気付いた。空港で金属探知機のゲートを通らされるようなものだろうか?

 

 リンドウはそのまま半地下の駐車場へと車を滑り込ませ、適当な場所へ停車させる。

 駐車場にはだいぶ空きがあった。多くが出撃中なのか、そもそも車両が少ないのかは分からない。

 

 

*   *   *

 

 

 長距離を走って熱のこもっていた装甲車から降りた二人は、涼しい外気を吸い込んで腰を伸ばす。シンも、必要もないのにそうしていた。なんとなくそうした方が、体のキレが良くなる()()()()。ただそれだけのことだ。

 

 リンドウに従って駐車場を出ると、すぐに小ぶりの剣らしき武装を担いだ男に呼び止められた。シンがどうしたものかと黙っている間に、リンドウは「情報提供者だよ」と笑って答える。

 男が気だるさを感じさせる声でボヤいた。

 

「またですか?」

「今度は本物だって」

「じゃあ前の人はやっぱり嘘だったんですね」

「どうだったかな」

 

 シンはなにか面倒でもあるかと身構えそうになったが、思いの外、二人のやり取りは軽妙で緊張感がない。お互いの言葉が気の利いた冗談であるかのように、楽しげに笑い合っている。

 どことなく所在無げな心地になったシンに、男が笑顔で語りかけてきた。

 

「ようこそアナグラへ。もう大丈夫ですよ」

 

 シンはどう答えたものか分からず、ただ「ああ」と小さく頷く。

 態度には表さなかったものの、シンは密かに今の状況を楽しんでいた。

 安心しろと促されるなど、どれくらいぶりのことだろうか。あの世界に落ちてからというもの、もうずっと、自分が安心させる側となるか、さもなくば二度と相手がそういうことを考える必要が無いようにしてやるか、そのどちらかしかなかったのだ。

 

 何故か動きを止めたシンの様子に、男とリンドウは顔を見合わせ、今度は小声でやり取りを始めた。

 

「緊張してるってわけじゃなさそうだし、随分おとなしい人ですね」

「そりゃ外で生きてりゃあなあ」

「すいません。失言でした」

 

 男がリンドウに頭を下げると、リンドウはアゴをしゃくってシンを示す。下げる相手が間違っているということか。

 まったくお節介なヤツだ。シンは思わず苦笑いを浮かべた。

 

 その表情に気付いたようで、男も小さく頭を下げる。目が笑っているのは苦笑いに対してか。この男も苦労しているのだろう。何かが通じ合った気がする。

 シンは「気にしないでくれ」と手を振り、同じようにして応えた。

 

「すまない。人と話すのは久しぶりで」

「そうでしたか。私はここ極東支部の第二部隊、防衛班班長の大森(おおもり)タツミです。よくぞご無事で」

 

 タツミが差し出した右手を握って「ありがとう」と応じると、シンの目をじっと見つめながら、「大丈夫だ」と言わんばかりに力強く握り返された。無論、その程度の力でどうにかなるシンではない。微動だにしないシンに、むしろタツミの方が驚いている。

 快活で熱のある男。同僚となればさぞ頼り甲斐のあることだろう。

 

 こういうタイプは居なかったなと、シンはひとりごちた。

 




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(20181028)修正
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